#06 灰田くんと土下座
ピピピピピピピ。
目覚ましがけたましく鳴り響く。
ベットから伸びた手が、カチリと目覚まし時計を止める。
「眠い……」
俺、灰田健太は眠気を押して起き上がる。
瞼を擦りながら着替えを澄まして、机の上の写真立てを見る。
そこには家族四人で出かけたピクニックの写真があった。十年くらい昔の写真だ。
「よし、いくか」
俺は朝のジョギングに出かけた。
道端の草花から朝露が降りる。昨日の夜に雨でも降ったのだろうか。
俺はジョギングから帰ってくると、風呂に入って制服に着替える。エプロンをつけると朝食の準備を始める。
やがて父親が起きてくる。
「おはよう父さん」
「ああ、おはよう」
父親は黙ってテーブルにつく。俺は朝食をテーブルに運ぶ。
父親は俺が席に着く前にはもう食べ始めていた。
俺は席につくと両手を合わせた。
「いただきます」
そう言って食べ始める。
「なあ、父さん」
「ん……?」
「俺、超能力者になった」
「ふーん、そうかー、すごいな」
父さんは味噌汁をずずっとすする。
俺は食べる手を止める。
「信じてないな」
「当たり前だろ」
父親はさも当然といった様子でご飯を食べ続ける。
(この様子だと本当か……ミオンの力は父さんまでは及んでないのか?)
俺は考え込む。そうこうしている内に父親が朝食を食べ終わる。
父親は仕事に出かけるようだ。
「じゃ、行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい」
俺は朝食を食べながら手を振る。
父親は台所から出ていく。
「ふう……今日も帰りは遅いのかな」
父親の仕事は母が死んでから忙しくなった。
サラリーマンの父は、母の死の後、社内で出世した。当然、業務も忙しくなった。毎日、夜遅くまで帰ってこない。休日も仕事で居ない日が多い。
俺は食器を洗い、カバンを持つと、学校へと出かけた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日は快晴だった。
住宅街に囲まれて、丘の上にある明和中学校。俺は早めに登校した。職員室の前に貼ってあるという試合の情報を見るためだ。
昨日は妹の病院に突撃して、すっかり見るのを忘れていたが、大事な試合だ。今日は朝一で確認しなければ。
学校の前まで来たが、他の生徒たちはまだ登校していないようだ。
「……ん?」
校門を潜ったところに並木があるのだが、その一本の下でうずくまっている女子生徒が一人居た。うずくまっていて顔は見えない。身長が低い……恐らく一年生だろうか。
「…………」
声をかけるべきか考える。
一秒で結論は出た。
良いお兄ちゃんは、困っている後輩の女子を見捨てない。
「あの……大丈夫……?」
女子生徒が顔を上げる。その顔を見て、俺は驚いた。
ミオンに選ばれた八人のうちの一人、楓美香だった。
「……だ、大丈夫で……ふえ!?」
向こうも驚いた様子だ。
「………」
「………」
二人とも固まる。
「……こほん」
「……はっ!?」
俺が咳払いをする。楓ははっと我に返る。
「大丈夫? うずくまってたけど、気分悪いの?」
「わわわ、私、その、えっと、うわわ……だ……」
「だ?」
「大丈夫です!」
(大丈夫じゃないと……)
俺は目の前の楓を見る。
背の小ささも相まって、こうしていると何か小動物のようだ。
不調の原因は大方、試合のことだろう。本来なら楓も敵だ。構う理由はない。
だけど……良いお兄ちゃんなら見捨てない。
「緊張してるの? ミオンの試合のことで?」
「え!? ええと……」
しどろもどろになる楓。
(この反応は……あたりか)
俺はどうすべきか考えたが、やがて意を決して話始める。
「まあ……俺も緊張したよ、昨日の試合」
「え……」
「椿の奴はどんな能力だろうとか。勝てなかったらどうしようとか……色々考えてたらね」
嘘だった。正直、椿との試合のときは緊張よりやる気の方が勝っていた。
だが、楓を慰めるためなら嘘も仕方ない。
「…………」
「でも叶えたい願いがあったから……な」
「願い……」
「楓にもあるだろ? 叶えたい願い」
楓はうつむく。
「その願いのためなら、傷つけるのも傷つけられるのも仕方ないって割り切れる」
「わ、割り切れる……そ……そういうもの……ですか」
楓が顔を上げる。相手を傷つけることで葛藤していたようだ。
優しい子なのだろう。
「あぁ、そうだよ」
「そ……そうなんだ……」
楓は自分に言い聞かせるように、何度かうなずく。
「だから楓もあんま気にするなよ」
楓の頭をぽんぽんと撫でる。
楓は不思議そうに俺を見る。
「……あの、どうして私に優しくしてくれるんですか?」
「後輩の面倒を見るのは先輩として当然だよ」
「そ、そう……ですか」
「学校、行ける?」
「あ、えっと……はい」
楓は力強く答える。
「ん、じゃあな」
「は、はい、ありがとうございます。炭田さん」
「灰田だよ! それ燃やす材料! 俺の名前は灰田、燃えた後の灰だから!」
俺は突っ込みを入れる。
「え? あぁと、す、すみません……は、灰田さん」
「あ、あぁ……」
俺は手を振り、校舎の中に入っていく。
何だかんだで元気は出たようで、何よりだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
職員室の前の掲示板。
確かにそこには試合予定が張り出されていた。
大きめのプリント一枚で、堂々と真ん中に貼ってある。
「これか……」
昨日の試合結果は……あった。目立つように下に大きく表で書いてある。八人の総当たり表で、勝った方に丸が、負けた方にバツが書いてある。
柳田先輩と楓は……柳田先輩の勝ち。
黒崎先輩と枝野先輩は……枝野先輩の勝ち。
双葉と御堂は……三角が書いてある。これは引き分けか?
いつかの双葉の『負けはしないと思うよ』というセリフを思い出す。
(ハッタリじゃなかったのか……どんな能力を使うんだ)
続いて今度の木曜の試合会場と対戦相手は上の方に四行で箇条書きにしてあった。
俺は……柳田先輩と……試合会場は校舎の四階か。他は……。
椿と御堂が格技場。
黒崎先輩と楓が体育館。
双葉と枝野先輩がプールか。
(柳田先輩が相手か……試合会場は校舎の四階か)
試合会場が昨日と違う。どうやらミオンは毎回、試合会場を変える気のようだ。
「ん……?」
プリントの最後に手書きで『破いちゃダメだよ』と書かれている。
「…………?」
このプリントを破いたやつがいるのか? どうなるんだろう? 俺は気になったが……どうせミオンが治すんだろうと思って、その場を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おはよう、灰田」
「あぁ、おはよう金本」
朝、二年三組の教室。
俺は登校してきた金本に挨拶する。
「金本、昨日の試合のことだけど……」
「あぁ、分かってるよ」
金本はそう言って、カバンを自席に置くと、俺の席の前に立つ。
「て言っても、俺が見たのは一試合で、他の試合のことは分からないけどさ。他の試合のことは今日の放課後で良いか? 囲碁将棋部のみんなに協力してもらったんだ」
「囲碁将棋部のみんなに? それは……分かった」
あとでお礼をしなきゃ、と考えていると金本が話し出す。
「俺が見たのは、柳田先輩と楓の試合なんだけど……うーん……結論から先に言っておくと柳田先輩の武器が何なのか分からなかったんだ」
「……分からなかった?」
俺は怪訝そうな顔をする。
「あぁ、試合が始まるときに楓は心衣領域を展開したよ。だけど柳田先輩は……何も出さなかったんだ」
「何も……出さなかった?」
「あぁ」
「試合が始まった後に出したとか?」
「いや……試合が始まった後も何も出していない」
俺は考えた。心衣領域を使っていない? いや、あり得ない。ミオンは心衣領域以外の武器の使用を禁じている。ということは……柳田先輩は使ったのだ。周囲の人間に気付かれない方法で。
「とりあえず、楓の心衣領域と試合の様子を聞かせてくれ」
「あぁ……まず楓の心衣領域は、正方形の板状だった。全部で六枚あった。それを自分の前後左右と上に展開して、立方体型の障壁にしてたよ。一枚は宙に浮いてたな」
「うん……」
楓は防御型か。一枚が宙に浮いてたのは攻撃用だろう。
「んで、さっきも言った通り柳田先輩は何も出さずに……試合が始まったんだ。最初の内は柳田先輩を警戒して楓も仕掛けるべきか悩んでいるみたいだった。だけど、いよいよ仕掛けようとしたところで……楓が倒れたんだ」
「……倒れた?」
「うん……俺たちも何が起きたのか分からなかった。突然、楓が倒れたんだ。その内に楓の心衣領域も消えて、ミオン様が勝者として柳田先輩の名前を告げて……試合は終わったんだ」
俺は信じられない心持ちだった。
「楓が倒れるまでは試合開始から二十秒も経ってなかったな……」
「……ちょっと良いか。楓が倒れるとき、何かに殴られた様子とかなかったか?」
「いいや……なんというか、自然に自分から倒れた感じかな」
俺は混乱していた。
(どういうことだ……??)
心衣領域で攻撃されたわけじゃないのか……いや、そんなはずはない。
椿は身体強化の一点張りだったが、話を聞く限り柳田先輩は何かの能力を付与している。それは間違いない。だが……どんな能力なのかが分からない。
(次の試合は二日後……木曜日……それまでに何か対策を考えないと……)
俺は思考を巡らせる。
「まぁ、こんなところだよ。参考になった?」
「……あ、ああ、参考になったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
金本は自席に戻っていく。
俺は話に聞いた柳田先輩と楓の戦いについて、あれこれ考えていた。
(どうにかして柳田先輩の能力の秘密を暴かないと、次は俺が……)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日の昼休み。
給食を食べ終えた俺は、前日の筋トレの痛みを押して、柳田先輩の心衣領域について、考えをまとめていた。
(目に見えない程、小さな心衣領域の可能性は? 透明な心衣領域なら? ……だとしたら楓が倒れたときの様子が説明できない……だったら透明で、かつ相手を気絶させる力とかは……?)
俺はノートに思いつく限りの可能性を書いてみた。
そんな時だった。教室の後ろの入口から俺を呼ぶ声が聞こえる。
「灰田ぁ!」
俺は何だこの忙しい時にと思い、入口の方を振り返る。すると、そこには予想外の人物が立っていた。
その人物は椿だった。
「顔かせ」
椿はぶっきらぼうにそう言うと、そのまま踵を返して入口から消える。
教室の中はシーンとしていた。中にはひそひそ話をしている者もいる。
「――椿が灰田を」
「――昨日の試合の借りを返そうと?」
「――じゃあリベンジマッチ?」
あり得る話だった。椿の性格上、やられっぱなしで終わるとは思えなかった。
俺は黙って入口から外に出た。
教室を出ると、椿は目の前に居た。
「こっちだ」
椿はそう言うと歩き出す。
俺は後をついていく。椿は一体何を考えているのか?
「なぁ、どい行くんだ?」
俺は聞いてみなければ分からないと思い、そう質問した。
椿は三白眼で振り返ると、不機嫌そうに呟く。
「妹の教室だ。てめぇが妹に謝れっつったんだろうが……」
これは……つまり、椿は俺の見てる前で謝ると?
意外だった。椿のことだから昨日の内に、家ででも謝ってると思っていた。
「あの時、ミオンの奴が何かしやがったせいで、てめぇの前で謝らないといけないっつー気分になるんだよ」
椿はそう毒付くと、すぐにまた前を向いて歩きだす。
俺は昨日の試合前にミオンが言っていたことを思い出す。
(そういうことか……)
ミオンが椿の心に何かしたのだろう。
椿がどういう心境かは分からないが、俺の前で妹に謝らなければいけないと、強迫観念にでも似た感情を抱かせているのだ。
やがて二階へと降りていくと、一つのクラスの前で止まる。
「ここだ」
椿は教室の入口から大声で叫ぶ。
「鈴!」
妹の名前なのだろう。そう叫ぶとクラスにざわめきが走る。
やがてクラスの視線が一人の少女に集まる。
鈴と呼ばれた生徒は、慌てて立ち上がると入口に走ってくる。
「お兄ちゃん……どうしたの?」
「…………」
俺は椿の方を見る。椿は感情の見えない顔をしていた。
大きく息を吸い込むと。
「こないだは殴って悪かった」
そう言って、深々と頭を下げる。
「え……?」
鈴は訳が分からないという顔をしていた。
俺はそれを見て補足する。
「先週の昼休み、椿が君を突き止ばした時のことだよ」
「……あ……あの時のこと」
鈴はそう言われて、やっと思い出したようだ。
「そんな……もう良いのに」
鈴はどうして良いか分からない様子で慌てる。
「お兄ちゃん、ほら頭上げて」
頭を下げる兄を抱き上げる妹。
「いいや、よくない」
俺はきっぱりとそう断言する。
「え……?」
鈴は疑問符を浮かべた。
兄貴が妹に手を上げたのに、アレだけで済むと思っているのか。
兄貴なら妹に……そう。
「土下座だ。妹に土下座しろ」
「ええええええええええええ?」
鈴は取り乱す。
「いや、ちょっとそんな、そこまでしなくても良いですから」
椿は俺の方を人でも殺しそう目つきで睨んでくる。
「灰田……てめぇ……ぐう!?」
椿の意思とは関係なく、椿の膝が折れていく。
どうやらミオンの力が働いているようだ。
椿はそれは見事な土下座を慣行する。
「こ……こないだは……殴って悪かった」
椿は人でも殺しそうな怨念の満ちた声で謝った。
鈴は終始あわあわしていた。
「これで良し」
俺は満足そうな様子で呟いた。
やはり妹に手を出した兄貴としては、これぐらいするべきだろう。
兄貴がやるべきことやっている場面というのは……こう胸がすく思いだ。
椿はゆっくりと立ち上がると、自分の心衣領域を出した。
椿の両手両足が爪状へと変わる。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺に飛び掛かってくる椿。
俺も心衣領域を展開してハンマーを取り出すと迎撃した。
「上等だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺はボロボロになった制服で午後の授業を受けた。
上着は半分以上破けシャツが見ている。ズボンは膝から下が破けてなくなっていた。
周囲の生徒も引いているのが分かった。
(くそ……椿のやつ、何だってあんなにキレるんだよ!? ちょっと妹に土下座させただけじゃないか!)
俺は内心で毒付く。
やがて放課後になり、金本が俺のところにくる。
「や……やぁ、灰田」
「金本……」
「ええと、朝話したろ、放課後に囲碁将棋部の面子から話をしてもらうって」
「あぁ……」
俺はカバンを持って自席を立つ。
「行こうぜ」
「あ、あぁ……」
俺は金本を教室を出る。
金本は何か心配そうに俺に聞いてくる。
「そのケガ……なんとも無いのか?」
「あぁ、ほとんど浅い擦り傷みたいなもんだよ……制服は明日から替えのにするさ」
「そ、そうか……」
実際、ケガはほとんど擦り傷、軽い切り傷だけだった。
椿の速度に目が慣れたのもあるが、それだけではなく人込みもある廊下では椿も全力を出せなかったのだろう。
金本について行くと、理科準備室が見えてきた。
金本は理科準備室のドアを開ける。
「あ、おっす金本……それと灰――」
理科準備室の中に居たのは川原だった。
金本や俺と同じ二年生であり、囲碁将棋部唯一の女子生徒だ。
川原は金本に挨拶した後、俺の姿を見て噴き出した。
「あっはははははははは! なにそのかっこ! あんたその恰好で授業受けたの? 変態よ、変態が居るわ! ちょっと望月先輩も見てよ、アレ!! あははははははは!!」
「川原さん、そんなに言ったら悪いよ……」
望月先輩は川原をなだめようとしてくれていた。
望月先輩は三年生の男子生徒で、その体躯は肥満気味だ。
川原は腹を抱えて笑い転げていた。
「あはははははははは! ダメ、おなか痛い! あははははははは!!」
「…………」
俺は無言で川原に近づくと、その頭にチョップを食らわした。
「痛っ!? なにするのよ変態!」
「俺は変態じゃねえ!」
「はあ? あんたちょっと鏡見てきなさいよ! どこから見ても完璧な変態が映るから!」
「なんだと、この野郎!」
「なによ、やるっての!!」
俺は至近距離で川原と睨み合った。
金本が間に入って仲介する。
「はいはい、そこまで……」
俺と川原はいがみ合いながら、引き離される。
「「ふん!!」」
俺と川原が拗ねていると、それを無視するように声がする。
「用件は昨日の試合のことですよね? 早く終わらせて帰りたいのですけど」
一年生の男子生徒、倉田だ。
倉田に続くように金本が話を始める。
「そ、そう、昨日の試合のことだよ。昨日は倉田と川原にお願いして、他の二試合を見てきて貰ったんだよ。二人とも、話をして貰えるかな?」
「良いですよ」
「いや」
倉田は二つ返事で了承したが、川原は拒絶した。
「この変態のために話してやるとか、マジ無いわー……」
「こ、こいつ……」
川原はニヤリと笑うと、ふと思いついたような表情を浮かべる。
「……そうねえ、どうしても教えてほしかったら……土・下・座、しなさいよ」
川原は胡坐をかいてイスに座る。その様はまるで女王様だ。
「ぐ……」
「なあに出来ないの? ミオン様に選ばれた八人の名が泣くわよ」
ぐぐぐぐぐ。
試合の内容は重要だった。現に今朝、金本から聞いた話を知らなければ、柳田先輩の能力についても、何も知らずに試合に挑むことになっていた。
それに妹の病気だ。少しでも勝率を上げるために今すべきは……。
「…………」
俺は……両膝をついた。
両手を床につき、土下座をした。
「昨日の試合について教えてください」
「んー、仕方ないなぁ。そこまでするなら教えてあげようかしらねえ」
俺と川原のやりとりを他の三人は、引いた視線を向けながら見ていた。
「私が見たのは、双葉さんと御堂くんの試合よ」
川原はそんなことには気を払わずに話始める。
「双葉さんの力は『ドア』よ」
「ドア?」
川原は得意気にそう言った。
「それもただのドアじゃないわ。瞬間移動できるドアよ。双葉さんはそれを使って移動できるのよ」
そういうことか……いつか交差点で双葉が突然消えた謎が解けた。
「なるほど……で、御堂の力は?」
「分からないわよ」
「……へ?」
川原は両手を上げて、やれやれと言った様子で語る。
「だって双葉さん、試合開始と同時にドアでどっか行っちゃったんだもん。御堂くんも何も出来ずに呆然としてたわ……結局、双葉さんが帰って来たのは三十分後。ミオン様が引き分けを宣言した後だったわ」
「そ、そうか……」
双葉は何がしたかったんだ。話を聞く限り、最初から引き分けを狙ってたとしか思えない。それに結局、御堂の力は分からず終いか。
「それじゃあ次は僕の番ですね」
倉田はノートパソコンを持って話始める。
(ノートパソコンって校則違反じゃないのか?)
俺は素朴な疑問を抱く。
「僕が見たのは、枝野先輩と黒崎先輩の試合です。映像を録画してあるので見た方が早いですね」
倉田はそう言うとノートパソコンで映像を再生し始める。
「枝野先輩の力は銃、黒崎先輩は刀です。見ればわかりますが、結局、物陰に隠れて隙を伺う黒崎先輩に枝野先輩の粘り勝ちしてます。映像はこれに入ってるのでどうぞ」
倉田はそう言ってDVDを差し出す。
俺はDVDを受け取る。
「ありがとう……」
まさかDVDまで用意してくれるとは……どうやって録画したのかは、また校則違反になりそうだったので今は気にしないことにした。
「そういえば……あんたの力って何なの? ちょっと見せてよ」
川原がそう言う。
他の三人も興味があるようだ。
俺はちょっと考えた後、別に減るものじゃないし、良いかという結論に至った。
俺は心衣領域を展開してハンマーを取り出す。
「おお!」
川原はもの珍しそうに、俺のハンマーの周りをぐるぐる回る。
他の三人も同様に俺のハンマーの周りに集まる。
俺は改めて見られるとなんだか少し照れ臭かった。
「で、このハンマー……名前はなんていうの?」
「……へ?」
「名前よ、名前。なんかつけてるんでしょ?」
俺は黙って首を振る。
「いや、つけてないけど……」
それを聞いて川原を含め、他の三人もやれやれといった様子をみせる。
「武器の名前か……何が良いかな?」
金本が眼鏡を上げなら言う。
「そうだなぁ……悩むところだね」
望月先輩が普段とは違う、鋭い目つきでそう言う。
「僕はミョルニルが良いと思います。ちなみに元ネタは北欧神話の神トールが――」
倉田も続く。
(え? なに、この空気……おれが変なの?)
俺は名前なんて無くて良いと思ってたが、囲碁将棋部のみんなは違うようだ。
結局、ハンマーの名前は俺の強い希望もあって『ビック・ハンマー』になった。
囲碁将棋部の面々からは、ダサいとブーイングを受けたが……分かりやすいという理由で押し切った。
能力も名前を決められた。
身体強化はそのまま『身体強化』と金本が決め、叩いた箇所を好きに形に変える力は『錬成』と望月先輩が決め、打撃箇所を任意の場所に変える力は『エアシュート』と倉田が決めた。




