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灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
5/20

#05 灰田くんVS椿くん2

 体育準備室の奥。

 俺はマットの上から降りる。

 外を見ると、椿がゆっくりと体育館の中を歩いてくる。


「…………っ!」


 俺は大きく息を吸い込んだ。

 右腹の傷口からは今も血が流れてる。

 猛烈な痛みで意識がクラクラとする。

 が、それを抑え込む。


(俺は……妹を……助けるんだっ!)


 ハンマーを横に構える。


(椿っ! お前の願いなんて知ったこっちゃねえ! 俺は……俺の意思で……妹を助ける! その為にっ……)


 俺のハンマーの能力が打撃箇所を変形させるだけだと、そう思ってるなら……。

 大間違いだ……今までは椿が速すぎて使えなったが……今なら!


(邪魔する奴は……全部潰す! 叩き潰す!)


 俺はハンマーを振りぬく、何もない、体育準備室の奥で。


「くらえっ……!」


 次の瞬間――椿が吹き飛んだ。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




(――っ!?)


 椿恭平には何が起こったのか分からなかった。

 俺は灰田の奴を体育準備室に吹き飛ばし、とどめを刺すため近よろうと――。

 灰田が、なにもないところでハンマーを振るのが見えたが。

 数瞬遅れて、自分が吹き飛ばされたのだと気が付く。

 体が宙を舞っていた。


「くっ……」


 咄嗟に受け身を取ろうと右手を突き出――。

 ――突き出せない!? 右腕が――折れてる!?


「――ぐ!?」


 無様に床に激突した。

 右腕が折れたことを、ようやく痛みが教えてくれる。

 見れば、右腕はあり得ない方向に曲がっていた。

 

「こ、この……」


 慌てて体育準備室の方へ視線を向ける。

 灰田は体育準備室から出ている。

 ハンマーを横に振りかぶって――振り抜く。


「――っ!?」


 次の瞬間、巨大な壁が目の前に現れた。

 壁に押しつぶされるように後方に弾き飛ばされる。

 錯覚だ――壁なんかじゃねえ――これは!?


「――が!?」


 今度は背面、背中に鈍い痛みが走る。

 見ると剣山がすぐ後ろにあり、その針の一本が自分を貫いていた。


「……ぐ……くそ」


 俺は針から体を抜くようにして、起き上がった。


(灰田のやつは……!?)


 居た。まだ体育準備室の前に居る。

 灰田はハンマーを縦に振り下ろそうとしている。

 瞬間――嫌な予感が全身を駆け巡る。

 届くはずもない。何もないところでハンマーを振り下ろそうとしてる。

 そうとしか見えない――だが。


「……くそっ!」


 ほとんど本能的にその場から飛びのいた。

 直後、直前まで俺の居た場所を、まるで隕石でも落ちたかのような衝撃が襲う。

 激しい打撃音が体育館に鳴り響く。

 直撃を受けた床は大穴が開いている。


(これは……)


 灰田の方へ視線を向けると、ちょうど灰田はハンマーを振り下ろした姿勢だ。

 苦しそうな様子でハンマーを再び構える。


(ハンマーの……打撃箇所を……好きな場所に!?)


 それしか、考えられない。

 痛む右腕を抱えながら、俺は立ち上がる。


(なんつー能力……)


 初見で防ぐことは、ほぼ不可能に近い。

 俺は初めて寒気を感じた。

 灰田を見ると、その瞳から雄弁な意思が伝わる――負けてたまるか、と。


(上等だ……負けられない理由なら……こっちにもあんだよ!)


 俺は灰田に向けて高速で駆けていく。

 高速戦闘だ――それしかない!




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 ミオンは笑顔で愉しそうに二人の戦いを見ていた。

 灰田くんと椿くん、二人の戦いを。

 椿くんは高速で動き回りながら接近戦をしかけている。

 的を絞らせないためだろう。


「くたばれ……!」


 椿くんの攻撃は右爪が使えず、背中の傷もあり、その速度はガックリと落ちていた。

 その合間をぬって灰田くんがカウンターをしかける。


「このっ……!」


 二人とも苦しそうな表情をしている。

 椿くんは右腕が折れているし、背中に剣山の針が刺さった傷がある。

 灰田くんは右腹の傷から今も血を流している。

 だけど、それを堪えて必死に互いを倒そうとしている。


「……んー」


 思わずにやりとしてしまう。

 必死になっている二人を見ていると、堪えきれないものが溢れてくる。

 やはり……いい。


「良いなぁ」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 俺が椿を吹き飛ばした能力は、ハンマーの最後の能力によるものだった。

 好きな場所に打撃箇所を変更する力。

 例えどれだけ離れた箇所でも、その場からハンマーで叩くことができる。


(序盤は椿が速すぎて使えなかったが……)


 ゆっくりと歩いている相手に当てるくらいならわけは無かった。

 追撃も綺麗入った。とどめの三撃目は躱されたが、それでも十分ダメージは与えた。

 椿の動きは目に見えて鈍くなっていた。

 

「――そこっ!」


 俺は椿の動きを捉えて、ハンマーの打撃箇所を好きな場所に変える力を使った。

 椿は打撃の瞬間、剣山の影に隠れて見えなくなった。

 直後、衝撃が剣山を襲い、剣山がへし折れる。

 俺のハンマーの力だ。剣山を叩いてしまった。


「くそっ……」


 右腹の傷から全身に激痛が走る。

 一発ハンマーを振る度に、どうしようもない痛みに襲われる。

 俺は歯を食いしばって痛みを無視する。


(このままじゃ駄目だ……椿を捉える前に俺が意識を失う)


 剣山も完全に裏目に出ていた。

 椿は剣山に隠れながら、うまくこちらの視線を切ってくる。

 速度で上回る椿の足を止める目的だったが、こうなってはむしろ邪魔だ。


(今の椿の鈍くなった速度なら、剣山は無い方が良かったか……)


 俺は意を決すると、その場でハンマーを構えて振りぬく。

 直後、衝撃音と共に、俺から離れたところにあった剣山がへし折れる。


(だったら……全部、叩き折る……!)


 右腹の痛みに耐え、俺はハンマーを振りまくる。

 次々に剣山を衝撃が襲い、根本から折れていく。


(俺が椿だったら、全部へし折る前に仕掛ける……)


 体育館の剣山を半分ほどへし折った所で、椿が剣山の影から飛び出してくる。


(そら来た!)


 俺はハンマーを振り上げる。

 椿は素早く左右に反復横跳びのように、ジグザグに俺に接近してきた。


「んな……くそっ!?」


 俺はハンマーを振りぬく。

 が、外した。椿の居ない方の床をハンマーの衝撃波が襲う。

 椿はその隙に一気に間合いを詰め、左手の爪で俺を襲う。

 俺はハンマーを引き戻し、柄で受ける。

 柄と左爪が打ち合う衝撃音が響く。


「ぐぬぬぬ……」


 俺と椿は近距離で押し合いをする格好になった。

 俺は柄を持つ手に力を込め、両手を使って押し込む。

 椿は左手一本だ。今なら身体強化で差があろうが、押し込める!


「こ、のおおお……」


 椿も負けじと左爪を押し込んでくる。

 折れた右腕はあり得ない方向に曲がって垂れている。

 剣山が刺さった箇所は、未だに血が流れている。

 ボロボロだったが、それでもその力は強力だった。


「お前……なんかに……負けて、たまるか……!」


 俺は力を振り絞りながら呟いた。

 それは椿に言ったというより、自分を奮起させるためのものだった。

 

「あぁ……!?」


 椿が反応する。


「こっちの……セリフだ! てめぇ、なんぞに……負けっかよ!」


 椿は言い返してくる。自分に言われたと思ったのだろう。

 俺は必死に柄を押しながら言い返す。


「ああ……!? 勝つのは……俺だ……妹の病気を……治すんだ!」

「妹の……病気だ……くっだらねえな!」


 椿も左爪を全力で押し込みながら、言い返してくる。


「く……だら、ない……だと!?」

「くだ……らねえ……よ……!」


 俺と椿は顔面が触れ合いそうな程、顔を近つけて睨み合う。


「下らないだと!?」


 俺は椿を押し返す。

 自分でも信じられない程の力で。

 右腹の傷口の痛みはどこかに吹き飛んでいた。

 それだけは――そこだけは――誰にも否定させねえ!


「取り消せ! 妹の病気を、治すことは……下らなくねぇええええええええ!」


 俺は完全に椿を押し返した。

 椿は今にも後ろに倒れそうな程、押し込まれている。


「こ……いつ……」


 直後、椿は左手から力を抜く。俺は勢い余ってバランスを崩す。

 椿はその隙をついて俺に飛びつく。


「――がぁ!?」


 背中に激痛が走る。椿の左爪だ。俺の背中を刺しているんだ。

 椿は俺に抱き着いた恰好のまま、左爪を深く抉ってくる。

 激痛が俺を襲い、意識が飛びそうになる。

 ハンマーを持つ手に力が入らない。

 視界が――暗く――

 ――――

 ――


「あぁぁぁぁあああああああああああああ」


 俺は全力で叫んだ。

 意識を手放さないために。

 力強くハンマーを握り締める。

 そして――全力で振り下ろした。

 ハンマーの軌道の内側に居る椿には当然、当たらない。

 俺の狙いは――。


「――!?」


 次の瞬間、俺と椿は吹き飛ばされた。

 ハンマーの打撃箇所を任意の場所に変える力。

 それで俺たち二人を吹き飛ばしたのだった。

 心地よい浮遊感に包まれながら、俺は椿の方を見る。

 椿は瞳は閉じていた。意識は奪えたようだ。


(あぁ……やったんだな……)


 俺の意識は暗闇の中に落ちていく。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 ミオンが体育館の中を歩いていく。

 灰田くんと椿くん。二人の様子を確かめにいくのだ。


「ふむ……」


 二人が倒れている場所に着くと、ミオンは二人の顔を見た。

 二人とも気絶しているようだった。


「これは……引き分けかな?」


 その時、二人のうち、片方の体がピクリと動く。

 その人物はゆっくりと、しかし確実に、立ち上がる。

 息も絶え絶えで、立っていることが不思議なほどだった。


「おはよう」


 ミオンはその人物に優しく挨拶する。


「……君の勝ちだよ」


 勝負の結果を告げるミオン。


「――灰田くん」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 俺は立っていた。

 ただそれだけのことで意識が飛びそうになる。

 だがここで気を失うわけにはいかない。


「俺の……勝ちで……良いんだな?」


 ミオンはものすごい剣幕で答える。


「あぁ、君の勝ちだ。素晴らしい激闘だった! 私は感激している! 私のこの胸のときめきを君は分かるだろうか? いいや、分かるはずがない! あぁ、今にも心に羽が生えて飛んでいきそうな、この気分! 久しぶりに味わったよ! やはり良い! こうして心に刺激を受けると、やはり思う! 人間って素晴らしいものだと! あぁ、ありがとう、灰田くん!」

「……そ、そうか」


 俺はミオンの剣幕に押されて呟く。

 とにかく勝ったのだ。


「俺の……勝ち……」


 俺はポツリと呟く。

 言葉にして実感する。俺は……勝ったのだ。椿に。先ほどの試合で。

 俺はゆっくりと息を吸い込む。


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はバンザイして叫ぶ。傷の痛みもどこかに飛んで行ってしまった。

 体育館の人込みから歓声が飛ぶ。


「――おお、よくやったぞ!」

「――椿の野郎、ざまぁないぜ!」


 歓声が椿のことを罵倒し、俺は思い出す。

 そうだ、椿は?

 俺は椿の方を見る。椿は目の前で横たわっていた。


「椿くんは気絶しているよ。先程の試合で、最後に灰田くんのハンマーで吹き飛ばされたからね。この調子じゃ、しばらく起きないんじゃないかな? あ、そうだ、ケガしてたんだった。これじゃ、起きないね。このままだと永眠することになっちゃう」


 ミオンはそう言うと、椿の体をツンツンと突く。

 永眠するって、椿のケガはそんなに重かったのか。

 俺は先程の試合で椿の見せた動きを思い出す。どう見ても死にかけの人間の動きじゃなかったぞ。

 と――そこで、俺の視界が突然ななめになる。


「――あれ?」


 足のふんばりがきかない。

 ややあって、俺は倒れたのだと気付く。

 右腹からは今も尚、大量の血液が流れていた。

 やばい。やばいやばい。やばいやばいやばいやばい。


(え!? 死ぬ!? 死んじゃう!? ちょっと待って!?)


 俺の方を振り返るミオン。


「あ、灰田くんもこのままじゃ永眠だね」


 気楽な様子で言ってくる。


「ま、待って……え……勝ったよね……俺、このままじゃ死んじゃう!? 勝ったのに死んじゃう!? ちょっと……血液が流れるのが止まらないですけど!?」

「ははははははは」

「笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 笑うミオンを俺は泣き顔で突っ込みを入れる。


「まぁ、冗談はこの辺にしておいて……よっと」


 ミオンが俺に右手をかざすと、俺の全身をミオンの心衣領域が包む。


「治すよー」


 ミオンがそう言うと同時。凄まじい速度で俺の傷が塞がっていく。椿に切り付けられた制服まで元通りの状態へ戻っていく。まるでビデオの巻き戻しを見ているようだ。


「はい、終わり」


 ミオンはそう言って手をどける。

 俺はむくりと起き上がり、自分の体をペタペタと触る。


(本当に元通りだ……)


 ミオンの治療には十秒もかかっていない。

 俺は改めてミオンの力に恐怖した。


「…………」

「……な、なんだよ」


 俺はにこやかに笑うミオンに見つめられていた。


「お礼は?」

「え? ……あ、あぁ……ありがとう」

「うん、良し!」


 そう言って笑う。

 俺は初めてミオンの笑顔をまともに見た気がした。何度も見ているはずなのに。

 端正な顔立ち。雪のように白い肌に紅い髪がなびく。

 俺はミオンを初めて綺麗だと思った。お暇様のような服を着ている様は……そう。


「西洋人形みたいだ」

「それは褒めているのかな」


 ミオンは椿にも同様に手をかざす。

 椿のケガが見る見る塞がっていく。


「よし、椿くんも治ったね」


 ミオンは立ち上がり、周囲を眺める。


「にしても君たち、随分派手にやり合ったもんだね」


 俺も釣られて周囲を見渡す。

 そこには燦々たる有様の体育館があった。

 床は俺の生やした剣山の残骸が所狭しと散らばり、壁は椿の走った爪痕だらけだった。

 

「まぁ治すから良いけどさ」


 そう言って、ミオンは両手を上げる。

 すると、あれだけ散らかっていた体育館が、みるみる元通りに修復されていく。

 あっという間に体育館は元通りになった。


「すごい……」


 ミオンは両手をおろして一息つく。


「さて、それじゃあこれで今日の試合は終わりだよ。灰田くんも、寝ているけど椿くんも、お疲れ様。今日の結果や次の試合会場、対戦相手については、職員室の前の掲示板に張り出しておいてあるから見ておいてね」

(職員室……教師も抱き込んでるのか)


 ミオンはそう言うと、体育館の入口に向かって歩いていく。

 最後に後ろ手に、手を振りながら。


「灰田くん、君の切なる願いに一歩近づいたね。おめでとう」


 ミオンはそう言いながら、体育館から出て行った。

 体育館の入口の生徒は、ミオンを避けるように人垣が割れていた。

 俺はそれを見ながら、妹のことを考えていた。


(そうだ……これで、一歩……目的に近づいたんだ)


 無性に妹に会いたくなった。

 俺は体育館を入口へと向かう。途中で入口付近に居た生徒たちから賞賛の声と共に頭を叩かれたが、今はそんなことどうでも良かった。

 玄関に向かい、下駄箱から外靴を取り出す。

 外靴に履き替えると、そのまま校舎を出て、駅前に向かって全力で走っていく。


(――佐代子!)




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「佐代子!」


 病室のドアが勢いよく開け、俺は佐代子の病室に駆け込んだ。

 妹は俺を見ると、笑顔で出迎えてくれた。


「あ、お兄ちゃん。どうしたのそんなに慌てて?」


 俺は勢いよく佐代子に抱き着いた。


「佐代子ぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁ!」

「わあっ!? なに!? どうしたの急に!? とうとう妹に発情したの!?」


 俺は妹の両肩を掴む。


「やったぞ、やったんだ! 勝ったんだ! これであと六つだ!」

「え? ああ? うん、そうだね?」


 俺は佐代子の両手を取って踊り出す。


「ははははははははははははははは」

「……あぁ、お兄ちゃん……とうとう狂ってしまったんだね」


 妹は何か察したように、ほろりと涙を落とす。


「ははははは……ははは……は」


 俺は踊るの止めて、佐代子の手を取るのもやめる。

 病室のイスをベットの横に持ってきて座る。

 こほんと咳をする。


「……ちょっと興奮した。気にしないでくれ」

「ちょっと?」


 妹は俺を疑うように目を細める。


「で、何があったの?」

「…………」


 俺は黙り込む。

 窓の外を見る。外は曇り空だった。


(しまったぁぁぁぁ!? 何も考えずに妹に突撃してしまったぁぁぁぁ!)


 俺は何か言い訳を考えようと、必死に頭をひねらせる。


「……い、妹が」

「私が?」

「……今日の……星座占いの」

「うん」

「……ラッキーアイテム……だったから」

「ふーん……」


 妹は全く信じていない様子で俺を見る。

 俺は慌てて話を変えた。


「いや、そんなことより、今日の学校の授業でな――」

「はいはい」


 俺の話を妹は溜息をつきながら、聞いてくれる。

 俺と妹はそれから一時間程、談笑を続けた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 椿恭平は体育館の隅で目を覚ます。

 体育館の時計を見ると、十七時半を回ったところだった。

 自分の体を確認する。どうやら傷は塞がっている。恐らくミオンだ。


(俺は……負けたのか)


 試合の最後の瞬間を思い出す。

 俺は灰田の背中に左爪を突き立てて勝利を確信し――次の瞬間、衝撃に襲われた。

 恐らく奴のハンマーの能力を喰らった。


「……くそ」


 体育館の様子を見る。

 バスケ部とバレー部が部活動に励んでいる。

 俺は部活動の邪魔にならないよう、体育館の端に寝かされていたようだ。


「目ぇ覚めたか?」


 声のする方を見ると、バスケ部の部員が居た。

 身長が高い。恐らく三年か。


「覚めたんなら、早く出てけよ。部活の邪魔になるからな」

「あぁ……」


 俺は立ち上がる。

 その場を後にしようとして、ふと思い出して振り返る。


「なぁ……さっきの試合、俺が負けたのか?」

「ん? あぁ、そうだよ」


 バスケ部の部員はそう答える。


(やっぱりか……くそ)


 俺は内心で毒付く。

 バスケ部の部員は、何か言おうとして悩んでいる様子だった。

 やがて口を開く。


「……なぁ……帰る前にトイレ行った方が良いぜ」

「あん?」

「トイレだよ……訳は聞かないでくれ」

「…………?」

「それと俺はやってない」

「……なにが?」

「ともかく伝えたぞ」


 バスケ部員は部活に戻る。

 俺は訳が分からなかったが、ともかく体育館をあとにした。

 放課後の廊下を歩いていく。


(俺の負け……か……)


 灰田の奴の顔を思い出す。

 妹の病気を治すために必死になっている。兄貴の意地か。


(今回は俺の根気負けだな)


 椿は皮肉そうに唇の端をつりあげる。

 ふと前方にトイレがあるのに気付く。俺は悩んだ末にトイレに入った。

 トイレに入ると入口のすぐ横に手洗い場があり、そこには鏡もある。

 俺は鏡に映った自分の顔を見て呆然とした。

 そこにはマジックで『バカ』『アホ』や、目の周りには丸が書かれていた。

 

「ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

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