#18 灰田くんVS御堂くん1
月曜日の朝。
僕、御堂誠二は学校に登校している最中だった。今日は日差しが強く、初夏を感じさせる。
(今日……)
僕は微かに笑う。
今日はいよいよミオンの試合だ。それも最後の試合。
試合について、事前にミオンから言われたことを思い出す。
(僕と灰田くんの二人で学校全体を使った決戦か……)
時刻は十時からだったな。
生徒たちの誘導は……まぁ、ミオンさんに任せておいて良いか。
それよりも学校に着いたら、貸し出していた心衣領域を回収しなくては。
(朝から忙しくなりそうだ……)
僕は朝から各教室を回るのかと思うと気が重くなってきた。けれども今日で最後と思えば、少し気が楽になってきた。
やがて、明和中学校が見えてくる。
僕は玄関に入ると、上履きに履き替える。
そこで気付く。
(……他の生徒はどこだ?)
僕は周囲を見渡す。
周囲にはひとっこ一人居ない。
(まぁ……たまたま……か……?)
僕は腑に落ちないものを感じつつ、階段を上がり自分のクラスへと入る。
自分のクラスにも誰も居ない。
流石に僕もおかしいと気付く。
「これは……」
まさかミオンさんの仕業か……?
僕はその考えをすぐに違うと振り切る。
(ミオンさんのこれまでの行いから、試合をやるなら観衆を遠ざけるような真似はしないだろう)
すると誰の仕業だ……?
僕が考えていると、教室のドアが開き男子生徒が登校してくる。
「おっす、御堂」
「ああ、おはよう」
僕は生徒が登校して来たのにホッとしていた。その後も生徒はポツポツと登校してきた。僕は自分の考えすぎかとも思ったが、朝のHRが始まる時刻になっても生徒は数人しか登校してこなかった。それどころか教師も来ない。
「……ちょっと、職員室に行ってくる。みんなは教室に居てくれ」
僕はそう言うと教室を出て職員室に向かう。職員室に行けば誰か教師が居るはずだと思ったのだ。だが……。
「誰も居ない……」
職員室はもぬけの殻だった。
(……やはり……攻撃を受けている……か)
教師陣も居なくなってるなら……他の教室も……。
僕は他の教室を見て回る。やはりどのクラスも誰も居ない。
僕は自分のクラスに戻ることにした。
「…………!」
教室のドアを開けると、そこには誰も居なかった。居なくなっていた。
僕は自分のクラスに入った。クラスメイトのカバンはある。
つい先ほどまでそこに居たのだ。
僕は廊下に出る。
すると……。
「……灰田くん」
灰田くんがそこに居た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺、灰田健太は廊下に立っていた。
御堂の目の前に。
「灰田くん……君の仕業ですか?」
御堂は不敵な笑みを浮かべながら俺に聞く。
俺はニンマリ笑顔で答える。
「御堂、お前の力、心衣領域を他の生徒に貸し出しているんだろう? 貸し出している生徒たちが居なくなったらどうなるんだろうな?」
「…………」
御堂は溜息をつく。
「どうやったのか知りませんが、やはり君ですか……僕の力の秘密を知ったのはどうしてですか?」
「それはたまたまだよ……自分の心衣領域が強化されていると気付いてから、もしかしてお前の心衣領域が他者の心に心衣領域を貸し出して、増えた心衣領域を回収するものじゃないかと予想したんだ……結果は当たってたみたいだけどな」
すると御堂は……拍手をした。
俺は狐につつまれるような気分になった。
「いや、お見事です。まさか気付かれるとは……灰田くんをハブにしたのは、やはりやりすぎでしたかね?」
「……お前が」
「ん?」
俺は熱くなっていた。
「お前のせいで……どんだけ酷い目にあったか!? 俺は、お前に何かしたか!? なんであんな……あんな酷いことが……!」
「それは見解の相違です」
御堂はまるで物分かりの悪い生徒に教える教師のように語る。
「良いですか、この戦いにおいて他の七人に試合で勝つのはあたり前、皆さんが目指すところです。ですが試合で勝つだけが戦いのあり方ではない。事前に不意打ちをするなりして他者を攻撃することをミオンさんは禁じていない」
「…………っ!」
俺は枝野先輩が御堂に不意打ちをしたのを思い出す。
御堂はそんな俺の様子を愉しそうに見ている。
「そう禁じられてはいないのです。となればその攻撃の手段も不意打ちに限らず様々です。最も今回の八人はそこに気付かれた方は枝野先輩だけみたいでしたが……ともかく、僕が言いたいことは、僕のとった行動は君に対する攻撃であり、そこに何ら私怨は存在しない。とは言っても君からすれば、僕が何らかの私怨で動いていたようにしか感じられなかったでしょうが……」
「…………」
俺は……御堂の言っていたことを理解していた。
だけど、一つはっきりしていることがある。
それは……。
「俺は……お前が嫌いだ」
御堂はそう言われて、肩をすくめる。
「僕が嫌いですか……また子供じみた言い分ですね……」
御堂はそう言った後に、ふと思い出したように告げる。
「あぁ、実際に子供でしたね……どうも如何せん、中学二年ってことを忘れそうになる。僕の悪いクセです」
「…………?」
俺は何がなんだか分からず、御堂を見る。
「あぁ……こっちの話です。それで……君は僕が嫌いなんでしたね。であれば……」
御堂は愉しそうに笑う。
「どうしますか?」
俺は深呼吸する。
やることは決まっていた。
「お前の言い分だと試合前の攻撃もありなんだよな……」
「ええ、そう言いましたが?」
「だったら……」
俺は心衣領域を、『ビック・ハンマー』を展開した。
俺の手の中に巨大なハンマーが現れる。俺はハンマーを構え、御堂に向ける。
「俺がこうすることも、お前の言うミオンのルールに則った行動ってわけだ」
御堂は愉しそうに、両手を上げる。
「灰田くん……学校中の生徒、教師を遠ざけて、それで勝ったつもりですか? 甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い……」
御堂の全身をオーラが覆い、その体がふわりと宙に浮かぶ。
「僕がなんの用意もしてないと? そんなわけないじゃないですか……すでに僕の心衣領域は君の心衣領域を超えている。増えた心衣領域を全部貸すとでも思っていたんですか? 確かに貸している分の心衣領域を回収できなくては圧倒的な勝利とはいかないでしょうが……それでも、君一人くらい倒すには容易なだけの量がある」
俺は御堂の力を前にしても全く驚くことなく告げた。
「上等だ……これが……」
俺は『身体強化』を使って高速で動く。
「最後の戦いだ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー……疲れた……」
双葉涼子はそう言って、砂浜に倒れ伏す。
目の前には青い海と、青い空、それに白い雲が広がっている。
周囲には明和中学校の全校生徒、教師陣が居た。
「もう……全校生徒と教師を連れて、無人島まで飛ぶとか……安請け合いするんじゃなかった……」
枝野先輩の言う通りにしたは良いが、こんなに疲れるなら断れば良かった。
ふと、人影が頭にかかる。
枝野先輩だ。
「お疲れ~。これで全員よ」
枝野先輩は軽い調子でそう言う。
私は上体を起こして枝野先輩に質問する。
「枝野先輩もお疲れ様……学校の方はもう良いんですか?」
枝野先輩は軽い調子で答える。
「ええ、教師も生徒も全員、移動完了よ」
「そうですか……」
枝野先輩は明和中学校で全校生徒の誘導役をやっていた。
誘導役と言っても、やり方は枝野先輩に任せっきりだからどうやってるのか知らないけど。……大方、脅迫に近いものだろう。
「……はぁ」
この間、私は枝野先輩に誘われて帰り道を一緒に帰った。
そこで枝野先輩が言ったことは、御堂くんの力によって灰田がハブにされているということだった。それは言われなくても分かっているけど、その後が問題だった。
(今日の試合が最後の試合になる……残っているなかで最も勝率の高い灰田と御堂くんで学校全体を舞台に試合を行う……か……)
灰田と御堂くん、二人の勝負ってわけね……まぁ、ミオンさんが好きそうな展開だけど……。
そして、それに合わせて学校中の生徒を無人島に移すのに協力してくれ、というのが本題だった。私は何でそんな事をしなくちゃいけないのかと聞いた。すると、枝野先輩は灰田の為だと言う。
灰田は御堂くんの力で学校中からハブにされている。もし学校中を舞台に試合が行われるならば、学校中の生徒が見学することになる。そうなれば、学校中の生徒の罵声にさらされながら灰田は戦うことになる。それではあんまりだというのだ。
(まぁ、私も灰田にはちょっと悪いかなと思ってたし……ちょうど良い機会になるかなと思ったけど……学校中の生徒、教師を移動させるのが、こんなに大変だとは……)
私の能力は空間を移動するドアを出すものだが、同時に出せる数は一つではない。
全部で二十のドアを同時に出せる。
この間、灰田が入った空間を挟まずに直接、別の場所へ繋げることもできる。
あとはドアを学校の玄関、教室の入口、至る所に設置。入らない生徒は枝野先輩がお話して入れる、そういう手口だ。
「――ここ、どこ?」
「――なんで急に、俺さっきまで学校に居たよな?」
「――み、みんな、落ち着いて!」
周囲の生徒や教師がざわついている。
「さて、あっちの戦闘はどうなってるかねぇ……」
枝野先輩はそう言い、何もない青空を見る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明和中学校。
生徒たちも教師陣も居ない廊下。
その廊下を俺、灰田健太は『身体強化』を使って走っていた。俺が走った後は疾風が吹き荒れる。廊下の掲示板に貼られていたプリントが風に巻き上げられる。
そのすぐ後ろをついてくる生徒が一人。御堂だ。
御堂は宙を飛んで、俺の後にぴったりと張り付いていた。
その御堂の周りには淡く光る玉が四つ、御堂と同じ速度で飛んでいる。
その四つの光る玉のうち、一つが収縮する。
(……まずい!)
俺は御堂の光玉が収縮するの見て、廊下をジグザグに走る。
収縮していた光玉は強い光を放つ。
次の瞬間、強力な光の束が俺に向かって発射される。
(ちっくしょ……外れろー!)
光の束は俺の右側五十センチの位置を掠める。そのまま一直線に廊下の反対側まで突き抜けていく。校舎の外壁を貫通する光線が微かに見える。
(は、はずれてくれた……)
俺は階段を降りて、二階の廊下を駆けていく。
御堂も二階へと降りて来る。
俺はどうにかしなければいけないと考えていた。
御堂の使うレーザーは、黒崎先輩との試合と比べて明らかに弱くなっていた。倉田が見せてくれたDVDでは、黒崎先輩との試合では数十発を同時に撃っていたし、その威力も段違いだった。だが、今は同時に出せるのは四つまでで限界のようだ。また一発撃つ度に、次が発射されるまで時間が掛かるようだ。最もそのチャージ時間は、他の三つの光球が補っているが……。
身体強化も椿との試合で見せたものに比べて遥かに弱くなっていた。今の御堂なら黒崎先輩と同じくらいだろうか……?
結果から見れば、御堂は弱くなっていた。だが……まだ差は確かにあった。
(俺との差が……確かにある、だけど……)
俺は御堂の力の差を感じつつも、それほど絶望はしていなかった。
差はあるが……御堂の力は弱くなっていたから。
そう……俺が戦えるレベルまで。
(これなら……戦える!)
俺は突然、急停止する。
そのまま、今度は後ろに向かって、御堂に向かって走りだす。
(足りない部分は……根性で補え!)
御堂が笑う。
同時に御堂の周囲に浮いていた光球が二つ収縮する。
(来るぞ……根性みせろ……!)
御堂の傍で光球二つが眩い光を放つ。
俺は姿勢を低くした。
その俺の上部を光の束が一つ駆けていく。もう一つは……俺の脇腹を掠める。
「……ぐっ!?」
俺は歯を食いしばって、走るの止めなかった。
そんな俺の様子に御堂は軽い驚きを受けた様子だ。
俺と御堂が交差する。
俺は御堂の下を、御堂は俺の上を、それぞれ通過する。
(ここだ……!)
俺は『ビック・ハンマー』を振りぬく。御堂まで数メートルは離れた距離で。
「――!?」
御堂が吹き飛ぶ。
俺の『エアシュート』が御堂を叩いたのだ。
だが、御堂は宙で態勢を立て直すと、残りの一つの光球を収縮させた。
(やっぱ、ダメか……!)
俺は『身体強化』を使ってジグザグに走って、御堂から距離を取る。
(御堂の自身を覆うオーラ……やっぱり空を飛ぶ以外に、防御の役割も果たすのか!)
御堂は俺が離れたのを見ると、光球の収縮を止める。
そのまま俺の方へ向かって飛んでくる。
俺は廊下を走りながら壁をハンマーで叩く。
すると叩いた箇所が隆起していき大きな壁となる。壁は隆起を繰り返し、やがて廊下の端まで到達した。
俺と御堂を隔てるように出来た壁。
次の瞬間、壁の一部から光の束が溢れ出る。光は壁を突き破り廊下を駆けて、校舎の外壁を貫通する。
光の束が突き破った隙間から御堂が現れる。
「何をするかと思えば……僕と戦うんじゃないですか? 壁があっちゃ、戦えませんよ、灰田くん?」
俺は廊下の奥、教室の一つに隠れていた。
(うるせえ……今、作戦を考えているとこだよ……!)
俺は内心で毒付いた。
御堂の様子を隠れ見ると、十数メートル向こうに居た。
御堂が右手を前方に突き出すと、御堂の前に四角いパネルのようなものが現れる。
(あれは……なんだ……?)
俺は見たことの無い御堂の力に驚き、その性質を見極めようと注視した。
やがて御堂はパネルから目を離すと、パネルを消した。
(なにを……?)
俺は御堂の行動の意味が分からずにいると、御堂は……こちらへ、俺の居る場所へ向かって真っすぐに飛んできた。
「――いっ!?」
俺は慌てて入口から、教室の奥へと移動した。
御堂は教室の入口で止まる。
「……レーダーかよ」
俺は先程の御堂のパネルが、レーダーにあたると考えた。
正解かは……。
「正解」
笑う御堂の口から告げられた。
御堂は入口から教室の中に入ってくる。
俺は咄嗟に『ビック・ハンマー』の能力、『エアシュート』で御堂に攻撃を仕掛ける。だが、御堂は凄まじい速さで前方、俺のところへ飛んでくる。
御堂の背後で壁を衝撃が撃つ。俺の『エアシュート』だ。
御堂はそのまま俺に体当たりすると、そのまま窓ガラスを突き破る。
「外に出ましょうか」
「……このっ!?」
外はまずい。空を飛べる御堂の独壇場だ。
俺は窓を超えると同時に、御堂を振りほどき、校舎の外壁を下っていく。
その背後で御堂の笑い声が聞こえる。同時に光が瞬いた。
「――ぐっ!?」
左腕を光の束が貫通する。
俺は歯を食いしばって痛みをこらえる。
やがて一階までたどり着くと、俺は『ビック・ハンマー』で一階の窓を撃つ。窓が割れる激しい音が響く。同時に体を一階へと投げ打つ。
俺は休む間もなく、走り出す。
一階の廊下へ出ると、真っ直ぐ一直線に走る。
すぐに俺の後を追って御堂が飛んでくる。
(何かないか……御堂の弱点……探せ、探せ、探せ!)
俺は廊下を走りながら、必死に頭を働かせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明和中学校の外。
誰も居ない学校を眺める女性が一人。
赤毛に碧眼、ヒラヒラしたお姫様のような恰好の女性、ミオンは空の上から学校を眺めていた。大笑いしながら。
「あははははははははははは」
ミオンの笑いは止まらない。
灰田くんはついに答えに辿り着いたのだ。
そして御堂くんを倒すために全校生徒、教師を移動させるという無茶苦茶な方法をとった。その反動で御堂くんは弱体化している。灰田くんが戦えるレベルまで。
これが笑わずにいられようか。
「いや、本当に楽しませてくれる! いいよ、いいよ、いい感じだ!」
とはいえ、まだ御堂くんの力は灰田くんを上回っている。
まともにやっては灰田くんに勝ち目はない。
「ここからが正念場だよ、灰田くん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちょっといい?」
私、双葉涼子は声のした方を見る。
声を発したのは女子生徒だった。私の後ろに立っている。
浜辺に座っていた私は、その子の方を見る。
「なに?」
「私は川原。あなた双葉さんよね?」
「そうだけど……?」
よく見ると、川原さんの後ろには男子生徒が三人いる。
川原は後ろの三人に告げる。
「あんた達もこっち来なさいよ、双葉さんにお願いするんだから……」
そう言われて三人の男子生徒もこちらへ来る。
なんだか面倒くさいことになりそうだ……。
「それで、なに?」
私は再び聞いてみた。
どうか面倒ごとでありませんように。
「灰田のことよ。私達を灰田のところに運んで欲しいのよ」
面倒ごとだった。
私は溜息をつき、告げる。
「ダメ……それに、灰田の試合が終わったら全員、学校に返すよ。悪いけど、それまでココにいてください」
私を双葉と知っていて、私がここに運んだことも知っている。
なんでか知らないけど、ミオンさんに選ばれた八人のことに精通している……。
であれば、こう言えば十分だろう。
だが……。
「それじゃ……困るんだ……」
三人の男子生徒の一人。眼鏡をかけた細身の男子生徒が双葉に告げる。
「困る?」
「ああ……俺は灰田に……酷いことを言ったんだ……」
どうやら御堂くんの洗脳は解けているらしい。
(一定距離しか効かないのかな……?)
それにしても自宅でも同じ調子だったことを考えると、街一つ覆っていたことになる。改めて御堂くんの力は凄いな。
眼鏡をかけた細身の男子生徒は続ける。
「灰田に……俺は……灰田に謝らないといけない……。俺が、御堂の監視を頼まれていたのに、それなのに、いいように操られて……灰田を一人にした……。灰田は今も一人で戦っているんだろ? だったら……そばに行って、俺は、灰田に謝りたい……!」
今度は太った男子生徒が語り出す。
「俺も……謝りたいんだよ。灰田くんに……酷いことをしちゃったんだ……。先輩として灰田くんをこのまま放っておけないよ……」
背の小さな男子生徒も続く。
「……お願いします」
……ん? ……それだけ?
短いな。
川原さんも続ける。
「私達はみんな、灰田と同じ囲碁将棋部の部員よ。今まで灰田と一緒に戦ってきたのよ。それがこぞってみんな操られたの……誰の仕業かは分からないけど……灰田が憎くて仕方ないって、理由もなく思わされてたの……。今は……目が覚めてるわ。だけども……いいえ、だからこそ……操られてたことが許せないし、悲しいのよ」
「…………」
私は黙って川本さんの話を聞く。
「灰田を一人にしたことが、灰田に酷いことを言ったことが、何より悔しくて、悲しい。私達は……灰田に会って謝りたいのよ」
男子生徒三人も頷く。
私は溜息をつく。
「君たちを操っていた犯人は御堂くんだよ」
ざわつく囲碁将棋部の面々。
「その御堂くんと灰田は今、試合……試合って言って良いのかな? まぁ、戦っているところよ」
「だから、そこに私達を――」
「御堂くんにまた操られるのに?」
私の発言に何か言いかけていた川原さんは黙る。
「君たちの洗脳が解けたのは、御堂くんの力の有効範囲を、私のドアで出たからだと思う。君たちが灰田の元に行きたいって気持ちは分かったけど、それじゃ、また御堂くんの支配下に入るだけだと思うよ?」
何だか、私いっぱい話したな。
これで諦めてくれるといいんだけど……。
「だけど……それでも……」
川原さんはそう言って俯く。
まだ駄目みたい。
弱ったな……。
「あら? 何か面白そうな話をしてるわね」
私はその声の主の方を見る。
そこには枝野先輩が居た。
「詳しく聞かせてよ」
私は嫌な予感がした。
枝野先輩が関わるとロクな事にならない。
囲碁将棋部の面々は口々に、各々の状況を枝野先輩に話す。
私はそれを見ながら、どうか面倒なことになりませんようにとお祈りした。
「ふむ……分かったわ」
枝野先輩はそう言って笑う。
「あなた達は灰田の元に行きたい……だけど、御堂の支配下に入るから、それは叶わないと……」
枝野先輩はこちらを見て近寄ってくる。
あ……嫌だなー……すごく遠くへ逃げたい……。
枝野先輩は私の目の前で止まると、ニッコリと笑う。
「双葉~」
「……なんですか?」
私は嫌な予感がしながら枝野先輩に聞く。
「ちょ~っと相談があるんだけど?」
枝野先輩はそう言って、冷たく笑った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明和中学校。
俺、灰田健太は廊下を走りながら考えをまとめていた。
(今分かっている御堂の力……空を飛ぶ『飛行能力』、自身を覆うオーラによる『防御能力』、そばに浮かんでいる光球による『光線』、タッチパネルのようなものは『レーダー』、そして自身の肉体を強化する『身体強化』……か……。まだ見せていないだけで、他にも能力を使える可能性はある……)
実際、御堂はここまでの六戦で他者の心衣領域に干渉する力を使っている。あの力をまだ見せていないのは、力が弱まって使えなくなっているのか……?
俺は後ろを振り返る。
背後には御堂が宙を飛びながらこちらの後を追ってきている。
「どうしたんですか、灰田くん。逃げてばかりじゃ、嫌いな僕を倒せませんよ」
御堂はそう言って笑う。
俺は舌打ちする。
(こうなったら……奥の手に頼るか……でもタイミングが問題だ。どこで使うか……)
俺は制服の下にあるものの感触を確かめる。




