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灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
16/20

#16 灰田くんとハブ

 朝の明和中学校。

 住宅街に囲まれた丘の上にある中学校。

 まだ登校している生徒は少ない。

 俺、灰田健太は朝早くから登校して、職員室前のプリントを見ていた。


(俺の次の相手は……双葉か……)


 御堂は……枝野先輩とか。

 枝野先輩はこの間、御堂に不意打ちをしたらしいが、結果は御堂の勝ちだった。

 恐らく枝野先輩はもう勝てないだろう。

 俺との試合放棄から分かること……試合を諦めたのだ。

 次が双葉ということは、俺の最終試合は御堂か。


「もうすぐ終わりだね」


 急に聞こえてきた声の方を見る。

 赤毛に碧眼の瞳、白い肌、ヒラヒラしたお姫様のような恰好。ミオンがそこに居た。


「……あぁ、そうだな」


 俺はそう答える。


「御堂くんとの試合、勝ち目はありそうかい……灰田くん?」

「…………」


 俺は押し黙る。

 まだ御堂の力の秘密は解けていなかった。

 ミオンはそんな俺を見て、溜息をつく。


「そんなんじゃ遅いよ……もう御堂くんは――」

「……なんだよ?」


 ミオンは片手で頭をかく。


「……なんでもない」

「……?」


 俺はミオンを横目で見る。


「頑張ってね」


 ミオンはそう言うと去っていく。

 俺は何が何だか分からず、一人取り残された。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 クラスに戻った俺は自分の席につき、他の生徒が登校してくるのを待っていた。

 やがて、徐々に他の生徒が登校してくる。

 金本も登校してきたので、俺は金本に挨拶した。


「おはよう、金本」

「…………」


 金本は無言で席につく。


「……?」


 金本に聞こえなかったのかと思い、俺は席を立って金本の席の前まで来た。


「おはよう、金本」

「…………」


 金本は無言で前を見たままだ。

 俺はまだ聞こえていないのかと思い、両手を拡声器のように口にあて、大声で挨拶した。


「お、は、よ、う、金、本!」

「…………」


 周囲の生徒が何事かと俺の方を見て、声の主が俺だと分かると……そのままスルーした。金本も前方を見たまま俺の挨拶をスルーした。


「……ええと……金本?」

「…………」


 金本は徹底して俺を無視する構えのようだ。

 俺は金本が怒っているのだと思った。


「……もしかして、こないだの囲碁将棋部の部活、俺がお前と指した将棋の試合で『待った』をしたのを怒ってるのか?」

「…………」

「それも違うなら……この間、帰り道でお前がコンビニで買ったおやつをバカにしたことか? あれは俺も言い過ぎた」

「…………」

「ええと……それも違うなら――」

「話しかけんな」


 金本は俺の話を遮り、一言そう呟いた。

 その言葉は冷たく、どこにも取り付く島もないと感じさせた。

 俺はやむなく自分の席に戻った。


(今日の金本は機嫌が悪いらしい……しばらくそっとしておこう)


 だが、二時間目が終わっても、三時間目が終わっても、昼休みになっても、金本の態度が変わることはなかった。

 それどころか、金本だけではなくクラス中の態度が変だった。

 まるで俺が居ないかのように振る舞うのだ。

 端的に言うと……俺はハブにされていた。


(何なんだ急に……クラス中の奴らがおかしくなったのか……)


 昼休み、俺は自席で悩んでいた。

 クラスの奴らがおかしいなら……別のクラスのやつなら?

 俺はそう考えると教室を出て、二年一組に向かった。

 俺は二年一組の入口につくと、入口付近にいる生徒に声をかけた。


「あの……川原いたら呼んでほしいんだけど……」


 スルーされた。

 これは……まさか……。

 俺は自分の目で二年一組を探し回り、やがて目当ての人物、川原を見つけた。

 俺は大声で叫ぶ。


「川原ぁ!」


 俺の大声に談笑を止め、教室の視線が俺の方を向く。

 だが、声の主が俺だと分かると再び談笑を始める生徒たち。もちろん、その中に川原も含まれていた。

 俺はムキになって教室の中に入り、川原の席の前まで行った。


「川原、なんで無視するんだ!?」

「…………」


 川原は目の前でそう叫ぶ俺の声が届いていないように無視を続ける。

 俺はさらにムキになる。


「川原っ!」


 しっしっと片手を振る川原。


「あっちいってよ変態」

「…………」


 俺は何も言えなかった。

 激情が冷めて、冷静になったのだ。


「……分かった」


 俺はトボトボと自分の教室に戻る。

 翌日も俺はクラスの……いや学校中からハブにされ続けた。

 俺は何をするでもなく一人で居る時間が増えた。

 だが……今日は水曜日、囲碁将棋部の部活動がある。

 俺は放課後になると囲碁将棋部の部室の前に来た。

 ドアを開ける。


「……ん?」


 ドアが開かない。

 俺は何度かガチャガチャとドアを引く。

 やっぱり開かない。

 部室の中は電気もついていないし、誰もいないみたいだ。


「なんなんだよ……」


 俺は訳が分からないまま、一人、部室をあとにした。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 夕方の公園。

 俺は一人でブランコに座っていた。

 公園の中には、砂場で遊ぶ小学校の生徒がいる。


「……なんなんだよ……くそ」


 俺は一人、毒付く。

 すると、目の目に人影がある。

 俺は視線を上げる。

 そこに居たのは双葉だった。


「やあ」


 双葉はそう言うと、隣のブランコに座る。

 俺は……感激していた。


「お、おま……俺が……」

「……?」


 双葉はきょとんとしている。


「お……俺が……見えるのか?」

「いや……見えるけど……」


 俺は双葉に抱き着いた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は号泣し、双葉は悲鳴を上げる。

 砂場で遊んでいた小学生は何事かと俺たちを見る。

 落ち着いた俺は双葉から離れて、二人は再びブランコに座る。


「落ち着いた?」

「……はい」


 俺は赤面して縮こまって答える。

 双葉は呆れた様子で呟く。


「相当こたえてたみたいね」

「ああ……」


 俺はげっそりした表情で答える。


「ちょっと酷いと思ったから、様子を見に来たけど……本当に参ってたんだね」


 双葉はブランコをこぎ始める。

 俺はそれを見ながら口を開く。


「訳が分からないんだ……突然、皆で俺を無視し出して……まるで俺が居ないみたいに……」

「ふーん……」


 俺はふと疑問に思ったことを口にした。


「お前はなんで平気なんだ……?」

「ん? んー……多分、ミオンさんに選ばれた八人の一人だから……かな?」


 双葉はブランコを止めて、宙を見て考えながら答える。

 俺は双葉の答えを受けて……ある一つの思考が頭の中をよぎった。


「ミオンに選ばれた八人の一人……心衣領域が関係してるのか?」

「多分よ、多分……心当たりのある犯人でも居るの?」


 俺はそう言われて俺を除く七人の能力を考えた。

 椿は……違う。あいつは身体強化に一点張りだった。

 柳田先輩も……違うだろう。他者を気絶させる力、爆発させる力、姿を消す力、気体を固めて攻撃する力……これで他者の心にまで干渉できたら力を持ち過ぎだ。

 楓は……違うな。そもそもこういうことをするやつじゃない。

 黒崎先輩は……違う。身体強化に他者の心衣領域を斬る力に、姿の見えない相手を見る力、他に能力を持っていたとは思えない。

 枝野先輩は……分からないが、願いを叶えられなかった今、俺に対してどうこうしてくるとは思えない。

 残るは……双葉と御堂。


「お前と御堂……」

「じゃ、御堂くんなんじゃないの? 私はやってないし」


 双葉は軽い調子でそう答える。

 御堂……あいつの力だけは、正体が分からなかった。空中を飛ぶ力に、椿を超える身体強化に、自身を覆うオーラ、レーザー、他者の心衣領域に干渉する力……どう考えてもオーバースペックだった。

 そういえば、御堂は試合のある日に全クラスの掲示板を見ていたが、あれは何だったのだろうか……。

 …………。

 ……ん?

 全クラス?


「…………」


 俺は恐ろしい考えが浮かんだ。

 もしも……御堂の目的が……掲示板じゃなくて……そう……教室の中にあったとしたら? 黒崎先輩の相手の姿を見る力のように、一定距離しか効果が無い力を……教室の中に対して使っていたとしたら……?


「…………」


 俺は深刻な顔になる。

 双葉はそんな俺を退屈そうに眺めている。

 もしも、御堂の力が……他人の心に干渉する力だとして……それだけじゃ、あの多彩な能力の説明ができない。

 そう……心衣領域を増やす方法が分からなければ結局一緒だ。

 他者の心に干渉する力……御堂の大きすぎる心衣領域……。

 俺は必死に悩んでいた。


「……御堂だとして……どうして俺にこんなことをするんだろう?」

「灰田が邪魔だからじゃないの?」

「邪魔?」

「一番戦績良いの灰田じゃなかったっけ?」

「…………」


 双葉のその言葉に俺は自分の戦績を思い出す。

 五戦五勝。

 対して御堂は五戦四勝一分。

 俺に対してそういう感情を持ってもおかしくは……ない……のか?


「あれだけの能力を持ってるクセに意外と小さい奴だな……」

「小さかったら生徒会の副会長なんてやってないよ」

「う……」

「色々あるんじゃないの。知らないけどさ」


 双葉は投げやり気味にそう言う。

 俺は双葉に質問を投げる。


「なあ……御堂の力のことだけど……恐らく双葉の言うとおり御堂が今回の件の犯人なんだと思う」

「うん」

「それで……御堂の力を――」

「ちょっと待って」


 双葉が片手を前に出し、ストップを合図する。


「その話、御堂くんの力に関係してる?」

「えと……うん……」


 俺はきょとんとしながら頷く。


「じゃあ答えられない。私、ミオンさんの試合には干渉しないって決めてるから」

「……え」


 俺は言葉の意味が一瞬分からず混乱する。

 双葉はそんな俺に続けて言葉を発する。


「干渉しないって決めてるのよ、ミオンさんの試合。だから能力も引き分け狙いにしたんだし」

「……それは」


 双葉が引き分け狙いをするのは、最初から決めていたことだった?

 でも……だとしたら。


「お前の……叶えたい願いって……」

「あぁ、アレ? テキトーに言っただけだよ。意味なんて無い無い」


 双葉はそう言って片手を振る。

 どういうことだ……それじゃ、双葉には叶えたい願いが無いってことか?

 俺は何が何だか分からず、双葉の方を見る。

 双葉はなんでもないことのように告げる。


「叶えたい願いなんて無いよ、私」

「……それじゃ……ミオンに選ばれる訳がない」

「ん、ミオンさんに選ばれた時点ではあったね」

「……??」


 俺はますます訳が分からず混乱した。


「ミオンさんが現れて三日間猶予があったでしょ。その間に考えが変わったの……それだけ」

「それは……」


 良いのか悪いのかと言おうとして……俺は口の中に言葉を引っ込めた。

 そもそもミオンの試合に参加は強制だが、その試合に勝とうとしなければならない決まりはない。


「……そうか」

「うん」


 双葉はブランコから立ち上がる


「御堂くんの力についての相談には乗れない。ただ今日はちょっとあんまりだな……と思って様子を見に来たの」

「……ん」


 俺はふと疑問に思った。

 俺がハブにされてから、まだ二日だ。双葉が気付くにしても早い。

 俺は双葉の背中を見る。


「話したらちょっとは元気出たでしょ。んじゃね」


 そう言うと双葉は自分の心衣領域を出した。

 それは巨大なドアだった。高さは二メートル以上ある。

 双葉はドアの扉を開く。


「ま、待ってくれ……まだ話したいことが……」

「私は無い」


 そう言って扉が閉まる……直前、俺は扉の中に飛び込んだ。


「へ?」


 扉が閉まる直前、双葉の驚く声が聞こえる。

 扉が閉まると、そこは不思議な空間の中だった。

 前後左右どこをみても紫色のモヤのような場所で、奥行きなど距離感が狂う。

 またあちらこちらに小さな四角い窓のようなものがある。


「ちょっと、何でついてくるのよ」


 双葉がそう言って、指を俺の胸に突き刺してくる。

 その表情から怒っていることが伺える。

 俺が何も言えずにいると、双葉は溜息をつく。


「もう良いわ……ほら、さっさと帰って……」


 双葉がそう言うと同時、双葉の目の前に先程と同じドアが現れる。

 ドアの扉を開く双葉。

 俺は扉の前に立って考えた。


「いや、ちょっと……いきなり帰ってと言われても……もう少しこう……世間話とかしない?」


 俺は人恋しくて、そんなことを言う。

 だって二日といえど、ハブにされるってきつかったんだもの……。

 双葉は俺を睨んでいたが、やがて大きく溜息をつく。

 ポケットからスマホを取り出して時間を確認する双葉。


「三十分……それでおしまいよ」

「ありがとうございます!」


 俺は双葉に最敬礼した。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 周囲を紫色で囲まれたこの空間は双葉の心衣領域で作られたものらしい。


「私の心衣領域『AnyWhere Door』で作られた空間よ」


 双葉はそう言いながら、手近なところにあった四角い窓の一つに手を入れる。何かを探す素振りをしていたが、やがて探し物が見つかったようで手を引き抜く。その手にはポテトチップスが握られていた。


「見っけ……」


 そう言って、座りながら袋を破る。


「それ……どうやってるんだ……?」


 俺はその辺りに適当に座りながら、双葉に質問する。

 双葉はポテチを一枚ぱくつく。


「企業秘密」

「…………」

「食べる?」


 そう言って袋を差し出してくる。


「いただきます」


 俺は袋の中に手を入れ、ポテチを一枚取り出す。


「それで……なに話す?」

「…………」


 俺は考える。


「なぁ……お前の本当の願いって何だったんだ?」

「いきなりそういうこと聞く……?」

「いや、だってお前以外は皆、自己紹介の時に言ってることだろ?」


 双葉は俺がそう言うと、ふと考えて口を開く。


「それもそうね」


 双葉は座りなおす。


「私の願いは……妹を生き返らせてほしいよ」

「妹を……」

「そう。私の双子の妹」


 双葉はポテチを食べながら話す。


「病気で亡くなっちゃったんだけどね」

「それは……その……ごめん」


 俺は済まない気持ちになる。


「良いよ、別に」

「それでその妹を生き返らせるって願いを……なんで止めたんだ」

「…………」


 双葉は何か悲しそうな顔を見せる。


「妹の気持ちを無駄にするから……」

「妹の……気持ち……?」


 双葉は自身の体を指し示す。


「私の体、亡くなった妹の臓器を使ってるのよ。移植ってやつね」

「……!」

「お姉ちゃんは生きてって、妹の遺言だったわ……」

「…………」


 俺はそれ以上、聞けなかった。

 踏み込んで良い領分を超えていた。


「も……もう良い……」

「そう?」


 妹を生き返らせる。

 その願いでミオンに選ばれたということは、ミオンに選ばれるまでどれだけ双葉が苦悩していたかを示している。

 双葉は妹の気持ちというが……妹の臓器を使って生き延びたという罪悪感が……強く残っていたのだろう。

 そんな時にミオンが現れた。

 ミオンの八人の戦いに勝ち残れば妹を甦らせることができる。

 だけど……ミオンに出会って三日間で考えを改めたのだ。

 一体どうやって……。


「その……どうやって克服したんだ?」

「秘密」


 双葉はそう言って、ポテチを食べる。

 俺はそれ以上聞けず、話を変えた。


「俺と御堂が戦ったら、どっちが勝つと思う?」

「御堂くん」

「……ですよね」


 俺は肩を落とす。


「でも試合なんてやってみなきゃ分からないよ」

「……ありがとう」


 俺は俯いて片手を上げて双葉に礼を言う。


「その四角い窓はどこに繋がってるんだ?」


 俺は双葉が先程、ポテチを取り出した窓を指す。

 双葉はその窓を振り返り、


「家の台所」


 と言う。

 俺は予想外の返答に言葉に詰まる。


「……他の窓も見ていいか?」

「どーぞ」


 双葉はそう言って、投げやりな態度で俺の傍にあった窓を指す。

 俺は手近なところにあった窓を除いてみる。

 するとそこには学校の教室があった。

 この風景は……明和中学校か。


「学校の教室……」


 双葉は何も言わずにポテチを食べ続けている。

 俺はそんな双葉を横目で見て、どうして双葉が二日で俺の事態を察したのか理解した。この窓から見ていたのだ。


「しかし……本当、試合向きじゃないな……」


 俺は双葉の能力を凄いものだと感心していたが、同時に今回のミオンの試合では全く使い道が無いものだということも感じていた。

 まさに引き分け狙いにしか使い道が無い。

 その後も、俺と双葉は他愛のない話を続けた。

 双葉は退屈そうだったが、その時間は俺にとって二日ぶりに学校の生徒と話す貴重な時間だった。

 やがて時間が来たのか、双葉が立ち上がってスマホを取り出す。


「時間よ。出て行って」


 双葉がそう言うと、目の前にドアが現れる。

 俺は後ろ髪を引かれる思いで立ち上がり、ドアへと近つく。

 ドアを開けたところで、その手を止める。

 怪訝そうな顔をする双葉。


「どしたの?」


 俺は双葉の方へ振り返り告げる。


「……なぁ、今度の俺とお前の試合……まともに戦ってくれないか?」

「無理」


 双葉は俺の質問に即答する。

 俺は追いすがるように口を開こうとしたが、双葉の目つきを見て止める。

 双葉はきつい目つきをしていた訳ではない。哀れむ目つきでもない。ただ無表情に、無関心に俺を見ていた。

 俺は溜息をついて、ドアを潜る。


「……じゃあな」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 駅前の病院。

 とうに日没を迎えた院内は、廊下を歩くものも少なく、廊下の中央に設置されたTVの前にニ~三人が居るのみだ。

 俺はそんな五階の廊下を進んでいく。やがて廊下の突き当りにある病室の前につくと、重い気分でドアを開ける。


「あ、お兄ちゃん」


 病室の奥のベットに寝ていた妹が上体を起こす。

 俺はそれを見て笑顔で妹に挨拶を返す。


「よお、様子見に来たぞ」


 妹はそんな俺を見て、いや俺の後ろを見て疑問の声を上げる。


「今日は囲碁将棋部の人は来てないの?」


 その質問は俺の胸にチクりと刺さった。

 俺は内心の気持ちが顔に出ないように祈り、笑顔でいようと努めた。


「ああ、今日は囲碁将棋部が無かったんだ」

「ふーん……そっか」


 妹はそう言うと、見るからにガッカリとした様子を見せる。


「会いたかったのか?」

「うん……この間のお礼、ちゃんと言ってなかったから……」


 この間というのは、夜に病院を抜け出した時のことだろう。

 あの時は、妹は学校ではしゃぎすぎて、帰り道では大分衰弱していた。

 俺は妹の頭を撫でる。


「また会えるさ……それまでの我慢だ」


 妹は俺に撫でられるままに任せている。


「……うん」


 また会える……。

 それがいつになるのかは御堂しか分からない。

 もし俺との試合までのつもりなら、あと一週間もしないで御堂の力は解除される。だけど、もし御堂が解除しなかったら?

 御堂の願いは『心衣領域の継続使用』だ。

 もしも御堂が優勝して願いが叶えられたら……。俺への攻撃を半永久的に続けることも可能なのだ。


(そうなったら、もうみんなとも話せないのか………)


 俺は……今になって御堂が願いを『心衣領域の継続使用』にしたのか、分かった気がする。通常であれば武器としてしか使い道が無いはずの心衣領域だが、御堂の場合は違う。どういうカラクリかは分からないが、御堂の力は人の心に干渉できる。

 今回、俺が喰らったみたいに誰かをハブにするのはもちろん、気に入らない相手を好きにできる。

 俺は恐ろしい奴を相手にしなければいけないのに、突破口が見えない事実に気持ちが折れそうになる。

 根性だけでどうにかなる相手じゃない……御堂の力の秘密を解き明かさないと。

 俺は拳を握り締めた。

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