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灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
13/20

#13 灰田くんと縦読先輩

 朝の明和中学校。

 俺、灰田健太は職員室前の掲示板に来ていた。

 次の試合の予定を見る為だ。

 

「うーん……」


 掲示板に張り出されているプリントには次の試合の予定が箇条書きされていた。

 俺は黒崎先輩とグラウンドで試合。

 椿は枝野先輩と校舎の四階で試合。

 双葉は楓とプールで試合。

 御堂は柳田先輩と体育館で試合。


「俺が三勝で……次いで御堂と枝野先輩が二勝一分けか……」


 俺は試合結果の総当り表を見て呟く。

 ここまでは順調に来ているが、俺は双葉とまだ当たっていない。双葉のあの能力を前にしては引き分け以外はあり得なかった。


「なにを見てるんだい?」

「試合の結果を――」


 俺は答える途中で気付く、俺は一人で見ていたのに誰が話しかけたのか?

 俺は周囲を見ると、すぐ隣にヒラヒラとしたお姫様のような服装を纏うミオンが立っていた。

 ミオンは俺が気付くと『やあ』と片手を上げてくる。


「おはよう、灰田くん」

「……おはよう」


 ミオンは笑顔で俺に挨拶してくる。

 俺は突然現れたミオンに驚き……はしなかった。

 ミオンが突然現れるのは、いつものことだった。日課の朝のジョギング中に度々突然現れるし、いい加減にこっちも慣れてくる。


「試合結果のプリントだよ……次の試合の予定を確認してたんだ」


 ミオンは嬉しそうな表情を見せる。


「おお、私の手作りのプリントだね!」

「え? このプリント、お前が作ってるの?」

「そうだよ~、私の手作り!」


 俺はてっきり教師の誰かに作らせているのかと思っていた。

 ん……? 待てよ、とすると……。


「なあ、この最後のコメントもお前が書いてるのか?」


 俺はプリントの最後に書かれている『プリントを破くな』という注意書きを指差す。

 するとミオンは不機嫌そうな目をする。


「そうだよ」


 ドスの聞いた声でそう呟く。


「随分、怒ってるみたいだな……誰が犯人なんて、お前なら一発で分かりそうなものだけど……」


 俺はそう呟く。

 ミオンの力なら、全校生徒の心の中を読むくらいわけは無いものだと思ったからだ。

 ミオンはそれを聞いて、片眉をつり上げて答える。


「それじゃ……つまらない」

「つまらない?」


 ミオンは腕組して続ける。


「そう! つまらない……確かに私の力を使えば誰が犯人かなんて一発で分かる! 分かるが……それじゃ、あまりに芸が無い! そうは思わないか、灰田くん!」

「ええと……そう……だな」


 俺はミオンの迫力に押されてそう答える。

 するとミオンは満足そうに頷く。


「だろう!? そうなんだよ! 私の力を使えば犯人は分かる! だけど、敢えて力を使わずに犯人捜しをしてみては? そうすることで私は過程を楽しむという、人間らしい行動原理に基づいた行いができると気付いたわけだ! 分かるか、灰田くん!」

「ええと……うん……そうだね」


 俺はミオンの勢いに押され頷く。


「そうだろう!」


 ミオンは満足そうに頷く。

 犯人捜し……ミオンはそう言ったが、力を使わないでどうやって探すつもりなのだろう? まさか、プリントの前で一日中、見張ってるわけにもいかないし……。

 犯人捜しに張り切るミオンをおいて、俺は職員室前から離れたい気持ちになってきた。と、そんな時、ふと思いつく。


「なあ?」

「ん? なんだい? 犯人に心当たりでも?」

「心当たりがあったら教えるよ……そうじゃなくて……双葉のことなんだけどさ」

「双葉くんかい?」


 ミオンは思わぬ質問にきょとんとした顔をする。


「あぁ……あいつって何で引き分けばっかり狙うんだ?」

「…………」


 これは俺がずっと気になっていたことだ。

 ミオンに選ばれた八人の一人であるならば、双葉にも叶えたい願いがあるはずだ。

 そして、その願いは『健康に寿命を全うできること』というもの。恐らく双葉は何らかの事情で、病気などで、余命いくばくもないのだろう。

 であるのに、引き分けを狙っているとしか思えない能力に試合運び……双葉はもはや最初から引き分けを狙いに行っているとしか思えなかった。


「それは……答えかねるね。直接、双葉くんに聞いてみたら良いんじゃないかい?」


 ミオンはそう答える。

 やっぱり教えてくれないか……。ミオンなら心の中を読めるから、きっと答えを知っていると思ったけど。


「……そうするよ」


 俺は肩を竦めて答える。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 昼休み。

 俺は自分のクラスで金本と話していた。


「それで……監視の方はどうなんだ、金本」


 金本は肩をすくめる。


「まだ仕掛け中だよ……今日一日いっぱい使って、あいつの行動範囲を調べる予定だ」

「そうか……悪いな、無理言って」


 俺はすまなそうに謝る。


「別に良いって……んじゃ、俺、この後も引き続き御堂のところに行ってくるわ」

「あぁ……頼む」

「へーい」


 金本はそう言うと、教室から出ていく。

 御堂の監視……上手くいくと良いのだけれど。

 と、教室の入口を見ていると、見慣れない二人組が見える。

 一人は女子生徒だ。上履きの色から見て三年生か。キョロキョロと教室の中を見ている。

 もう一人は男子生徒。こちらは多分、一年生か。キョロキョロと教室の中を見る女子生徒を無表情に見つめている。

 やがて女子生徒は俺と目が合う。

 すると女子生徒はニンマリと笑い、教室の中へと入ってくる。


「やーやー灰田くん、探したよ」


 女子生徒は俺の机の前まで来てそう言う。

 ショートの黒髪に、ぎらついた瞳が特徴的だ。


「私の名前は縦読代美子。新聞部の三年生だよ」

「た、たてよみ……よみこ……?」

「そう、変わった名前でしょ。ちなみにこっちが――」

「能見です……新聞部の一年生です」


 縦読先輩の後ろに現れた一年生は能見と名乗った。

 背が低く、無表情で、何を考えているのか分からない。


「と、まあ、自己紹介はさておき……灰田くん! あなたにお願いがあって来たの! そのお願いとは……」


 わざとらしくためを作る縦読先輩は、その場で一回転してポーズを取る。


「あなたを取材させて欲しいの!」

「わーわー」


 熱く語る縦読先輩の後ろで、無感情に両手を叩く能見。


「俺を取材……?」


 俺は目をぱりくりさせる。


「そう!」


 ポーズを取り続ける縦読先輩。


「あなたを取材させてほしいの! あなたはミオン様の試合でここまで三戦全勝、勝ち続けているでしょ? 私達、新聞部では今回のミオン様の試合を記事に取り上げることに決まったのよ! それで現在勝ってる三人の特集を組もうってことになったのよ!」

「わーわー」


 能見は相変わらず無表情で拍手している。


「三人………?」


 俺は怪訝な顔する。

 三人ってことはもしかして……。


「そう! あなたと枝野さん、御堂くんよ」


 やはりか……。


「それで……その取材ってのは今やるのか?」

「いいえ、放課後に新聞部に三年三組のクラスでやるわ! なに、取材オッケーってことで良いの?」

「ああ……」


 縦読先輩はニンマリと笑う。


「そうこなくっちゃ! それじゃ私達はこの辺で失礼するわよ、能見!」


 嵐のように去っていく新聞部の二人。

 俺はそれを見ながら、心の中で呟いた。


(チャンスだ……御堂の力の秘密が何か分かるかもしれない……)




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 放課後。

 俺、灰田健太は三年三組に向かって廊下を歩いていた。

 慣れない三年の教室に向かうとあって、その足取りは重い。

 四階に行くと、三年三組の教室はすぐ目の前だった。


(あそこか……)


 俺は三年三組の教室を覗く。

 中にはまだ生徒たちがまばらに居た。その中、教室の片隅、新聞部の縦読先輩が居た。すぐ後ろには能見の姿も見える。

 縦読先輩はこちらに気付いたのか、俺に向かって手を振る。


「あっ、来た来た来た! おーい、こっちこっち! こっちだよー!」


 縦読先輩は教室中に響く大声で俺を呼ぶ。

 俺は慌てて教室に入り、縦読先輩に叫ぶ。


「き、聞こえてますから、そんな大声で叫ばないでください!」


 俺の突っ込みに縦読先輩は華麗にスルーして続ける。


「そんなことより来たわね! あ、御堂くんも来た! おーい、こっちこっちこっちだよー!」


 俺は振り返る。教室の入口には御堂が居た。


(御堂……!)


 御堂は笑顔で手を振ると、教室へと入って来た。


「やあ、お待たせしました」


 御堂は俺の前で席につく。


「灰田くんは座らないの?」

「…………」


 俺は御堂に言われて、席に着く。


「あとは枝野さんだけですね!」


 相変わらず大声で話す縦読先輩。

 分かって来たが……この人、声のボリュームがこれで通常なんだ。

 俺は突っ込みを入れるのを諦めた。


「あら? 私が最後?」


 俺は振り返る。教室の入口には枝野先輩が居た。

 枝野先輩はニヤリと笑うとロングの茶髪の先をいじる。

 ゆっくりと教室に入ってくると席に着く。


「じゃあ、それじゃあ、始めますか? 始めちゃいますか!?」


 縦読先輩はそう叫ぶ。


「ああ、そういうの良いから早く始めてくれない?」


 枝野先輩が俯きながら呟く。

 その様子から退屈しているのが見える。


「僕も早く始めて貰えると助かります。生徒会があるので……」


 御堂もそう言う。

 こちらは本当に急いでいるようだ。


「そうですか! じゃあ始めましょう! では皆さんにいくつか質問があります! ええと、まず聞きたいのは、ここまで戦った中で一番手ごわかったのは誰か!?」


 枝野先輩と御堂は考え込む。

 俺も一緒になって考える。

 椿、柳田先輩、楓……一番苦戦したのは……。


「柳田先輩……かな……」


 俺は思い出す。柳田先輩との試合、俺は気絶しかけていた。

 川原の助けがあったから戦えたが……。


「柳田くん? ぷっ、あの人に苦戦って……嘘でしょ?」


 枝野先輩はそう言って笑う。

 俺はムッとする……が、何とか抑える。


「そうですねえ……うーん……苦戦ていうほど苦戦した相手は居ないしなぁ……まあ、敢えて言うなら……双葉さんかな。唯一引き分けだった相手ですし」


 御堂は思い出すように宙を見上げ、思い出したように告げる。


「ああ、私も双葉ね」


 枝野も続いて双葉の名を上げる。

 それを聞いて能見が何やらメモをとっている。

 どうやら能見がメモをとる係らしい。


「ふむふむ! どうやら双葉さんが多いですね! そんなに強いのですか!?」


 縦読先輩はそう言う。


「いやいや……あいつ引き分け狙いで最初から戦う気なんて無いから。あいつマジふざけんなっつーの……どう考えても引き分け狙いの能力じゃねーかよ……」


 枝野先輩はイラついたようにそう呟く。


「まぁ……そういうことですね。引き分け狙いの能力ですから……どうしようもなかったですね」


 御堂もそう言う。


「ふむふむ! 引き分け狙いですか! 双葉さんも呼べば良かったですね! それでは柳田くんが手ごわかったと答えた灰田くん! どこらへんが手ごわかったですか!」


 縦読先輩は俺に質問してくる。


「柳田先輩の……姿を消す能力ですね。あれが最高にやっかいだったです」

「ふむふむ! 姿を消す能力ですか! それでは次の質問に移りたいと思います! ミオン様の戦いに勝ち残ったら何を願うつもりですか!?」


 俺たち三人を沈黙が包む。

 縦読先輩は三人をキョロキョロと覗き見る。


「話したくないわ」

「僕も言いかねますね」

「俺も言いたくない」


 俺たち三人は口々に答える。

 縦読先輩は口をへの字にして答える。


「むー! じゃあしょうがないですね! 次行きましょう! 次の質問は自分の能力の強さと弱さについてです!」


 またしても俺たち三人を沈黙が包む。

 縦読先輩は三人をまたしてもキョロキョロと覗き見る。


「言いたくないわ」

「僕も言いかねますね」

「俺も言いたくない」


 縦読先輩はまたしても口をへの字にして続ける。


「むー! したらば次の質問! あなたが最も戦いたくないと思ってる相手は!?」


 俺たち三人は悩みこむ。

 やがて俺が口を開く。


「御堂です」


 御堂は口元をわずかに吊り上げて笑う。


「僕ですか……はは、そんな警戒しなくて良いのに」

「私も御堂ね」


 枝野先輩も御堂の名を上げる。


「枝野先輩まで……いや、困ったな、本当に僕なんて大したこと無いのに……」


 そう言って笑う御堂。


「ほうほう! 御堂くん! お二人に随分とマークされているようですね! 何かコメントはないのですか!?」


 縦読先輩は御堂に詰め寄る。


「いや、本当にただの買い被りですよ。僕なんて大したことないですって……」

「ふむふむ! ちなみに御堂くんが戦いたくない相手は誰ですか!?」

「え? 僕ですか……うーん、特には居ませんね……誰とでも戦いますよ」

「ほうほう! 誰が相手でもかかってこいと! 強気ですね!」

「いや、そこまでは――」


 御堂は反論を言いかけたが、縦読先輩はそれを遮り続ける。


「では次の質問に行きましょう! ここからは一人ずつに違う質問をしたいと思います! まず灰田くん! あなたは好きな女子生徒は居ますか?」

「……うん?」


 俺は聞き返す。


「好きな女子生徒は居ますか!?」

「…………」

「好きな女子生徒は――」

「三度も言わなくても聞こえているよ! 何だよその質問! ミオンの戦いとなんの関係もないじゃないか!」


 なんだか分からない質問をされて、俺は憤っていた。


「そうですか!? そうですね! 関係なかったですね! じゃあ次は御堂くん! あなたに質問です! あなたはモテるそうですが、あなたが今まで告白された女子生徒は何人ですか!?」

「……ノーコメント」


 御堂は俯いてそう答える。


「そうですか! 残念です! では枝野さん! あなたに質問です! あなたが好きな男子生徒のタイプは何ですか!?」

「ねえ、もう帰ってもいい? 関係ない質問するなら帰るけど?」


 枝野先輩は縦読先輩に向かって質問する。


「そうですか! それじゃあ仕方ないですね! いやあ良い記事が書けそうです! あぁ最後に一つ! 皆さんの今後の試合について、一言抱負をお聞かせください!」


 縦読先輩はどこ吹く風でそう告げる。


「特にありません」


 御堂が答える。


「なーし」


 枝野先輩もそう答える。

 俺は少し考えてから、こう答えた。


「誰であろうと全員叩き潰します」


 御堂はそれを聞いて、微かに笑う。

 枝野先輩は口笛を吹く。


「そうですか! そうですか! 全員叩き潰す! いやあ良い記事が書けそうです! 皆さん、ありがとうございました!」

「ございました」


 縦読先輩がそう言うと、能見を追随してそう言う。

 御堂と枝野先輩は席を立ち、出て行ってしまう。

 俺はと言うと結局、御堂について何も分からずしまいだったことにショックを受けて、まだ席に座ったままだった。


(結局、なにも分からないままだった……)


 うなだれる俺。


「いやあ良い記事が書けそうです! 部長ももっと早く記事にさせてくれれば良いのに! そうすれば職員室前のプリントを破かなくても済んだのに!」

「……ん?」


 俺は気になることが聞こえて聞き返す。


「破いた犯人って……縦読先輩ですか?」


 俺の話を全く聞いていない縦読先輩に変わって能見が答える。


「そうですよ。何でも自分が書きたい記事を先に書かれて悔しいからとか何とか……よく分からない理由です」

「……そう」


 俺は思いがけず犯人を見つけて、どうすべきか悩んだ。

 言うべきか……言わないべきか……。


「……俺も失礼します」


 俺は席を立った。

 今後のこの人の行い次第ということにしよう。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 翌日、水曜日。

 昼休みの明和中学校。

 俺は職員室前の掲示板の前で震えていた。


「なんじゃこりゃ……」


 そこには新聞部の新聞があった。

 捏造新聞が。

 『灰田くん宣戦布告! 御堂なんて敵じゃない!』

 『熱愛発覚! 御堂副会長、教師との熱愛発覚!』

 『枝野さん、なんと男あさりに夢中? 今度の相手はサッカー部の部長!?』

 などなど好き勝手な見出しが書いてあった。


「これは……捏造っていうんじゃ……」


 すると職員室前の掲示板に教師がやってくる。


「また勝手に張り出して……」


 教師はそう言って、掲示板から新聞部の新聞を剥がしてしまった。

 剥がした新聞を持って職員室に戻る教師。


「許可とってなかったのかよ……」


 俺は呆れて物も言えなかった。


「全く許可くらいとってからにしてほしいよね……」


 俺が声のした方を見ると、ミオンが居た。

 ミオンは俺に気が付くと『やぁ』と手を上げる。


「ミオン……」

「やあ灰田くん、昨日は新聞部のインタビューを受けたんだってね。それでどうだった?」


 俺は押し黙った。

 ミオンはおかしそうに笑う。


「まったく人はどうしてこうも愚かなんだろうねえ……。真実を伝えるべき新聞という媒体でさえ、この有様だものね」

「俺もこんな捏造記事を書くとは思わなかったよ……」


 俺は新聞部のインタビューを受けたことを後悔していた。

 こんなことになるなら無視しておけば良かった。

 そういえば……。


「なぁ……ミオン」

「なんだい灰田くん」


 俺の呼びかけにミオンは横目で俺の方を見る。


「プリントを破った犯人を見つけたぞ」

「……ほお?」


 ミオンは俺の振った話題に、瞳孔を開いて興味を示す。


「新聞部の縦読代美子だよ。」

「彼女か? ……理由は?」


 俺は能見が言っていた理由を思い出して答える。


「自分が書きたい記事を先に書かれて悔しいからとか何とか……よく分からない理由だったな……たしか」

「ふむふむ……」


 ミオンはその回答に頷くと、恐ろしい瞳で笑いだす。


「そうか、そうか……彼女がねえ……そうか、そうか……くくく」


 底冷えのするような声でミオンはそう言って笑う。

 俺はちょっと心配になってミオンに質問する。


「な、なあ……その……まさか殺したりは……」

「殺す? まさか! そんなことしないよ! 灰田くんは物騒なことを考えるなあ」


 ミオンは意外そうに俺を見る。


「そ、そうだよな……はは……」

「そうだとも。せいぜいが全裸で校庭を百周くらいだよ」

「…………」


 俺は絶句した。


「ん? 全裸校庭百周はきつ過ぎたかな?」

「いや……うん……」


 俺はかろうじて返答する。


「そうか……うーん、それじゃまた何か考えないとねえ」


 ミオンは楽しそうにそう言う。


「…………」


 俺は犯人を教えたことを少し後悔していた。

 この調子だとミオンは何をするか分からない……けど、まぁ縦読先輩だから良いか。


「それでミオン、新聞部には何か制裁を加えるのか?」

「ん? 新聞部かい? いや、今回の件は彼女の独断だからね。新聞部に制裁は加えないよ」

「そうか……」


 俺はちょっとホッとしていた。

 新聞部にまで制裁が行くのはちょっと理不尽な気がしたのだ。

 俺はふと思い出したようにミオンに尋ねる。


「なぁミオン……能力のことだけどさ」

「ん? 能力?」


 ミオンは底冷えのする笑いを止め、俺の質問に聞き返す。


「ああ……心衣領域のことだ。心衣領域って八人で均等に割り振られているんだよな。誰か一人だけ大きな心衣領域を割り振られてるってことは無いよな?」


 ミオンは俺の質問に退屈そうに答える。


「ああ、心衣領域は八人で均等に割り振ってるよ。そこは私が保証するよ」

「そうか、なら……」


 俺はつばを飲み込む。


「何らかの方法で心衣領域を増やすことは可能か?」


 沈黙が流れる。

 ミオンはやがて俺の質問に答える。


「可能だ」


 ミオンは面白そうに笑う。

 ミオンの笑みで俺は確信する。


「そうか……」

「あぁ、そうだ、そうだよ灰田くん」


 ミオンは楽しそうに俺の顔を横目で眺める。


「実際にその方法を使っている奴が居るかどうかは――」

「それは答えられない」

「だよな……分かってた」


 俺は御堂の力が、心衣領域を増やした結果であることを確信した。

 だが、問題はどうやって、だ。

 俺は深く考える。

 御堂、その力、どうやって……。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 その日の夕方。

 新聞部の縦読先輩が下着姿で校庭を百周する姿が目撃された。

 縦読先輩は「横暴だ!」「ペンは剣よりも強し!」「ふんがー!」など、わけのわからないことを言っていたとの情報もある。

 また、能見はそんな縦読先輩が百周を終えるまで傍にいたそうだ。

 百周終えた縦読先輩が息も絶え絶えになっているところに、


「これに懲りたら、捏造新聞はやめましょうよ……」


 と言っていたのだとか。

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