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灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
11/20

#11 灰田くんVS楓さん

 私、楓美香は幼い頃に母親を亡くした。

 父、母、私、弟の四人家族だった家庭は、母が居なくなって家事をする人間がいなくなってしまった。

 父は仕事が忙しく、弟は幼稚園に入ったばかりだった。

 必然的に私が家事を担当することになる。

 小学生の内から、掃除、洗濯、料理など家事をこなした。もちろん遊ぶ時間などない。最初こそ、父さんは私を心配していたが、そのうちに心配はどこへやら、それを当たり前と受け入れていた。

 私は……そんな生活に疲れていた。


(どうして……私は同い年の子供と遊びにいかないのだろう……?)


 決まっている。遊ぶ時間が無いのだ。

 遊んでいる時間があったら、早く幼稚園に行って弟を迎えに行かないと。

 家に帰って家事をしないと。


(どうして……こんなに家事をやっているのだろう……?)


 決まっている。お母さんが居ないからだ。

 お母さんが居ないから、私は料理をつくり、洗い物をして、洗濯をしている。

 お母さんが居ないから……。


(どうして……私の家にはお母さんが居ないの……?)


 私は……お母さんに会いたかった。

 私は、お母さんの顔を、笑顔を、もう一度見たかった。

 お母さんのひいた布団で眠りたかった。

 お母さんの作ったご飯が食べたかった。

 お母さんの……。


(私は……お母さんに会いたい)


 その思いは段々と強くなっていき、中学に上がる頃には、それは願いになっていた。

 叶わぬ願いだと知りながら、それでも願わずにはいられなかった。

 もう弟も小学生になり、家事にも慣れてきていた。

 だが……お母さんに会いたいという願いは変わらなかった。

 母親に、もう一度会いたい。

 その願いだけが私の中で、燻り続けていた。

 そんな、ある日――


「君たちの中の一人だけ、願いを叶える」


 ミオンさんはそう言った。

 お母さんに会える? 私が八人の戦いに勝ち残れば……?

 でも、他の人を傷つけるのは……。

 私は迷った……だが……。


「願いのためなら、傷つけるのも傷つけられるのも仕方ないって割り切れる」


 灰田さんにそう言われ、決心がついた。

 例え……誰であろうと、倒して、私は……。

 私は……お母さんに会うのだ。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 俺、灰田健太は朝のジョギングをしていた。

 今日は月曜日。

 ミオンに選ばれた八人の試合の日だった。


「はっ……はっ……」


 今日はミオンは一緒ではなかった

 あれからのミオンは、朝のジョギングに来たり来なかったりだった。


(まぁ……毎日来られても、それはそれで嫌だけど……)


 俺は溜息をつくと、走るの止める。

 時折、街並みの中を走っていく車は、週の始まりを告げているようだ。


(今日は楓の戦い……絶対に負けるわけにはいかない)


 俺は決意のこもった厳しい表情を見せる。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「よし、それじゃ今日の予定を確認しようか」


 明和中学校。お昼休みの図書室。

 図書室の中のテーブルの一つに座った金本はそう言う。

 俺、灰田健太と囲碁将棋部の面々は、金本と同じテーブルに座り、話を聞く。


「俺が椿と双葉さんの試合、望月先輩が柳田先輩と枝野先輩の試合、倉田が御堂と黒崎先輩の試合、そして――」

「私が灰田と楓の試合ね」


 金本の話を遮り、川原が胸に手を当てながらそう言う。


「あぁ、楓の能力は分かっているけど、油断はしないようにな」

「任せてよ」


 金本は念押しし、川原はそれに答える。

 俺は……楓の言ったことを考えていた。


(今日、負けたら楓はどうする気なんだろう……?)


 楓は負けてください、と言った。

 もちろん、それは出来ないことだと断ったが……。

 あいつの願いは今日潰えるかもしれないのか。


「…………」


 俺は考えを巡らすうちに、無言になっていた。


「――だ――灰田!」


 俺は自分の名前を呼ぶ声にハッとして、周囲を見渡す。

 川原がむくれっ面で俺を睨んでいた。


「もう、聞いてるの? なにぼうっとしてるのよ」

「あ、あぁ……ごめん……」


 俺は慌てて謝る。


「何か気になることでもあるのか?」


 金本がそう聞いてくる。

 俺は咳払いをして、悩む思考を振り切ろうとした。


「な、何でもないよ」


 俺は笑って誤魔化す。

 そうだ、何でもないのだ。

 楓が負けたときのことなど、考えてどうする気だ。

 俺は最初から全員倒して、ミオンに願いを叶えてもらうと決めたはずだ。

 やがて金本が全体を見渡して告げる。


「それじゃあ、皆、よろしく頼むよ」

「よろしくお願いします……」


 俺は何となく頭を下げる。

 囲碁将棋部の面々は笑顔で、


「任せておきなさい」

「うん、任せて」

「今日も良い映像を撮って見せます」


 などと言う。

 やがて、囲碁将棋部の面々は図書室を後にする。

 俺は午後の授業を受けながら、消しきれない一抹のしこりを胸に感じていた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 放課後。

 十六時……十五分前。


(そろそろ行くか……)


 俺、灰田健太は時計を見ながら立ち上がる。

 教室を出て、格技場へと向かう。

 格技場は一階の奥、廊下で繋がった別館となっていた。

 俺は格技場までつくとドアを開けた。

 格技場の中には、柔道部と剣道部の部員たちが居た。皆、格技場の中央を避けるように、端に並んでいる。

 俺は格技場の中央に行こうと、人込みを抜ける途中で川原の声を聞く。


「頑張んなさいよ」


 川原は人込みの中に居た。俺の方を笑顔で見ている。

 俺は川原に、


「ああ」


 と返すと、格技場の中央へ向かった。

 格技場の中央にはミオンと楓が居た。


「やあ来たね、灰田くん」


 ミオンは俺を見て、笑顔で迎える。

 楓は黙っている。


「まだ五分くらい時間があるね」


 ミオンは時計を見てそう言う。


「ふむ……雑談でもしようか? ねえ、灰田くん」

「どうして俺に振る……」


 ミオンの笑顔に俺は嫌そうに答える。


「そういえば、妹さんに買う誕生日プレゼントはもう決めたのかい?」


 ミオンは俺にそう聞いてくる。

 ミオンとは朝のジョギングの時、世間話などをしている。妹の誕生日プレゼントを何にしようか悩んでいることも、その時に話していた。

 ミオンは心が読めるので隠しても無駄だと思い、俺は素直に答える。


「いや、まだ……何にしようか迷ってる」


 妹の誕生日は一週間後だった。

 俺は何を買えば良いのか迷っていた。


「ふんふん、それじゃ換えの下着とかどうだい? 新しいパンツとか?」

「い、いや、お前なに言ってるの……?」

「私は至って真面目だよ。どうせ本とかだと買っても読まないんだろう? なら必ず使う日用品さ」

「…………」


 本を読まないのは……心を読んだのか。

 俺は考える。

 下着……下着……それも良いかもしれない。


「ありかもしれないな……」

「だろう?」


 ミオンはどんなもんだいといった様子で笑う。


「あの……お二人は……その……?」


 楓はそんな俺たちの様子を見て聞いてくる。


「ん? あぁ、ただのジョギング仲間さ」


 ミオンは横目で楓を見ながらそう言う。


「ジョ……ジョギング仲間……?」


 楓は目をぱちくりさせる。


「気にしなくていいよ……」


 俺は疲れた様子で告げる。

 やがて時間が来たのか、ミオンが言う。


「そろそろ時間だ……二人とも準備は良いかい?」


 俺は『ビック・ハンマー』を展開する。

 『ビック・ハンマー』を一回転して、地面に柄をつける。

 楓は自分の周囲に五枚の正方形の板状の心衣領域を展開する。前後左右上に障壁のように展開している。もう一枚、宙に浮いている正方形の板状の心衣領域がある。恐らく攻撃用だ。


「負けません……」


 楓が呟く。


「負けません……灰田健蔵さん……」

「灰田健太です……」


 俺は名前の間違いを訂正する。

 一瞬の沈黙。


「……は、灰田健太さん」


 楓は訂正して言い直す。

 俺は『ビック・ハンマー』を構える。

 ミオンが試合開始を告げる。


「試合開始!」


 俺は『身体強化』を使ってその場から消えた。

 楓はその場から動かない。

 恐らく楓の能力に身体強化は無いのだろう。

 俺は楓に狙いをつけて『エアシュート』を使う。


(喰らえ……)


 俺の『エアシュート』は……外れた。

 楓の障壁の上を叩いた。

 衝撃が楓の障壁を伝わる。

 楓は驚いた顔でビクっとする。


(外れた……? 楓の能力か……?)


 俺はもう一度、『エアシュート』で狙いをつける。


(……今度こそ)


 再び楓の障壁の上を衝撃が襲う。

 また……なんで……?

 俺は楓本人を狙っているはずなのに、一、二メートル狙いがずれる。


(なんでだ……楓の障壁にそんな力が?)


 俺は直接楓を叩こうと、『身体強化』で楓に接近した。


(だったら直接だ……!)


 楓の背後で俺はハンマーを振り下ろす。

 衝撃が楓の障壁を叩く。


(か、硬い……)


 楓の障壁は予想以上に硬かった。

 楓は衝撃にビクっと体を震わせるが、慌てた様子で振り返る。

 俺は『身体強化』で楓の背後から姿を消す。

 楓は俺の姿を探してキョロキョロと周囲を探す。


(どうする……これだけ硬いんじゃ……)


 叩きまくるか……。

 俺は『身体強化』で加速して楓の周りを走り回る。

 そして『ビック・ハンマー』で楓の障壁を叩き、一撃入れては離れ、また叩く。

 俺は一撃離脱を繰り返した。

 だが、楓の障壁はビクともしない。


(くっそ……こんだけ叩いてもビクともしねえ……)


 俺は手つまりだった。

 楓の障壁は想像以上に硬い。『エアシュート』は何故か当たらない。

 どうしたらいい……?


「何やってんのよ、灰田!」


 川原の声だ。


「何をしてるのかって聞いてるのよ!?」


 川原は続けて叫ぶ。


「あんた何をわざと外しているのよ!?」


 わざと外している?

 俺が?

 なんで?

 俺は思わず走るのをやめて、川原に叫び返す。


「わざとじゃない、楓の能力で――」


 そう叫んで気付く。

 楓がきょとんとしている。

 それは罠とか自分の能力とかが上手くいっている人間の顔じゃない。

 どうして自分はまだ倒されていないのか? そういう顔だ。

 ……俺なのか?


「俺は……」


 俺は……わざと外していた?

 なぜ?

 どうして?


「あんた分かってんの!? 負けたら妹が……妹が……うー……と、ともかく何やってんのよ! あんた勝つ気あんの!? 相手にも失礼でしょうが! 私たちにも失礼よ! まさか、あんたその子が年下だからって妹に重ねてるんじゃないでしょうね! いい加減にしなさいよ、この……」


 川原は大きく息を吸い込み叫ぶ。


「シスコン!!」


 俺は慌てて川原の方に向かって叫ぶ。


「お、おま……ち、違うからな! お、俺は……シ、シスコンじゃねーし!」


 川原はムキになって続ける。


「はぁ? あんた自覚ないの!? あんたシスコンだから! それも超が付くほど! 超絶シスコンだからね、あんた!」


 俺は川原の方へと歩いていく。


「ち、違うし……俺はただ妹を大切にしてるだけだし! シ、シスコン? は! ちゃんちゃらおかしーね!」


 川原は笑みを浮かべて続ける。


「ほーう、それじゃあ妹のためにお勉強を教えてあげたり、妹のために料理をしたり、妹のためにお掃除したり、妹のために下着を洗ったり――」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? それは今関係ないだろ!・」


 この間、病院で二人で盛り上がっていた時に、妹が色々喋った内容だ。

 俺は川原の正面に立つ程、接近していた。


「関係あるでしょうが! シスコン!」

「だから俺は――」


 川原がガシッと俺の顔を掴む。


「あんたはシスコンよ」


 川原は人差し指を俺の胸に立てる。


「だから……自分の妹一人の為に戦いなさい」

「…………」


 俺は……。


「…………」


 俺は……。

 俺はどこかで……楓のことを気にかけていた。

 口では妹の為に勝つんだと言っておきながら、そのくせ心のどこかで楓のことを気にかけていたのだ。

 だけど、それは……妹に対する裏切りだ。

 応援してくれていた囲碁将棋部の面々へも……裏切りだ。

 俺は覚悟が決まってなかった。

 本当に覚悟しなければいけないのは……だれかの願いを踏みにじることに対してだ。

 楓の願いを踏みにじることを……俺は躊躇していた。

 だけど……。


「……目ぇ覚めた」


 俺は川原に向かって呟く。

 川原は溜息をついて、俺を睨む。


「本当でしょうね、シスコン」

「シスコンはやめろ」


 俺はジト目で呟く。


「大丈夫だ……本当に目が覚めたから」


 俺はそう言って、楓の方へと向き直る。


「そう……なら……」


 バシンと音を立てて、川原が背中を叩く。


「行ってきなさい」

「おう」


 俺は真っ直ぐに楓の方へと歩いていく。

 楓は困った顔をしていた。

 俺はふと気になったことを聞いてみた。


「……今の隙に俺を攻撃しなかったのは何でだ?」


 楓は目をぱちくりさせながら答える。


「え? え……えと……話し中は攻撃しちゃダメかなって」

「…………」


 俺は肩の力が抜けそうになる。

 そうだ……こういうやつだった

 だからこそ、俺も……。


「あ……あ、あの……今の話しの中で、妹さんが――」

「俺はシスコンじゃない」


 俺は楓の話の途中で遮る。

 観客の方から川原が「何言ってんのよ、シスコン」と言っていたが無視する。


「あ、いえ……そうじゃなくて……その……家事してるんですか?」

「家事? あぁ、小一のときからやってるよ。母さんが亡くなってからずっとだな」


 楓は何かを考えてる様子だ。


「その……お母さんが亡くなって……悲しくなかったんですか?」


 俺は答える。


「そりゃ悲しいよ、決まってるじゃん……でも、妹が居たからな」


 俺は『ビック・ハンマー』を構える。


「俺がしっかりしないとな」

「…………」


 楓は何を考えているのか……黙り込んでしまう。

 やがて……ゆっくりと顔を上げる。


「……凄いですね」


 そう言って、笑った。

 俺は『ビック・ハンマー』を強く握る。


「じゃ、再開するか」

「……はい」


 俺は心の奥底に感じていた躊躇を、より一層しっかりと認識しようとしていた。

 今までは気付かないフリをしていた罪悪感。

 それとしっかりと向き合おうと決めたからだ。

 その上で……楓を倒す。


「…………」


 俺は『ビック・ハンマー』を振り上げる。

 『エアシュート』の狙いをつける。狙いは……障壁の内側、楓本人だ。

 俺は『ビック・ハンマー』を振りぬいた。

 『エアシュート』の衝撃は……今度こそ、障壁の内側、楓を直撃した。

 楓は最後の瞬間、笑っていたような気がした。

 ミオンは倒れてピクリとも動かない楓を確認すると、


「勝者、灰田くん」


 と楽しそうに告げる。

 俺はそれを聞きながら、倒れている楓を見ていた。


「俺の勝ち……か……」


 俺は呟く。


「あれ? いつもみたいに叫ばないの?」


 ミオンは不思議そうな顔をしていた。

 俺の心の中が読めるということは、この顔もワザとか。

 俺は強い怒りをミオンに感じた。


「そんなに怒んないでよ、冗談だよ」


 ミオンは俺の怒りを感じたのか、そう言う。


「君にとっては初めてだったね。実際に人の願いを叩き潰すのは……それで、どうだい? これを続ける覚悟は決まっているのかな?」


 ミオンは意地悪く、そう言って俺の顔を覗き込む。

 俺は顔を下げて考える。

 やがて顔を上げてミオンに答える。


「もちろん……八人の戦いに勝ち残るのは俺だ。俺は……戦うよ……」


 俺は強い意志の宿った瞳でミオンを見る。

 ミオンはそれを見ると、満足そうに笑う。


「結構。じゃあ、いつもみたいに喜んだ方がいい。君はこれで、あと四つ……あと四つで願いを叶えることができるのだから」


 ミオンはそう言う。

 俺は溜息をついてから深呼吸して叫ぶ。


「俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は気持ちを吐き出すように叫んだ。

 叫ぶと……少しすっきりしていた。

 ミオンは笑顔でその様子を見ていたが、やがてふと思い出した様子で楓の方へ手を翳す。楓の治療をしているのだろう。


「……うん、これで良し」


 ミオンは楓を治すと、踵を返して格技場の入口に向かう。


「それじゃ、私はこの辺で失礼するよ……灰田くん、あと四つ……期待してるよ」


 ミオンが出ていき、格技場は剣道部や柔道部の部員が練習の準備を始めた。

 俺は楓を格技場の端っこに寝かせると、そのまましばらく待った。

 川原には先に帰って良いと言ったのだが、自分も一緒に待つという。

 やがて楓が目を覚ます。


「……ここは?」


 楓は上体を起こし、辺りをキョロキョロと見渡す。


「起きたか?」


 俺は楓に話かける。


「……私は……負けたんですね」


 楓は俺に聞いてくる。


「あぁ……俺の勝ちだ」

「そうですか……」


 楓はそう言って笑う。


「な、何だかすっきりしました」

「すっきり……?」

「はい……私、勝たなきゃいけないって……そう思ってたんですけど……どうも……そういうの向いていないみたいで……」

「そうか……」


 楓は虚空を見つめる。その瞳には重いものが取り除かれたような、そんな目をしていた。やがて、楓はこちらを向いて、片手を差し出してくる。


「握手です」

「あぁ……」


 握手を求めているのだと言われて気付いた俺は慌てて手を差し出す。


「…………」


 俺たちは無言で握手をした。

 楓が口を開く。


「頑張って下さいね……灰田健太さん」

「俺の名前は……」


 俺はクセで訂正しようとして合っていることに気付く。


「灰田健太です」

「知ってます……四度も間違って教えてもらいましたから」


 楓はそう言って笑う。

 俺も釣られて笑う。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 夕方の職員室前。

 掲示板には今日の試合の結果がプリントで貼り出されている。


「ふーん……」


 俺、御堂誠二は試合結果を見ていた。

 概ね予想通りだったが……。


「灰田くんね……」


 灰田は今日の試合も勝ちだった。

 これで無傷の三連勝だ。

 俺は二勝一引き分け……引き分け分、俺の方が負けてる。と言っても双葉のあの能力を前にしては、誰であっても引き分け以外ないだろうが……。


「ちょっと……邪魔かな……」


 俺は目を細めて、灰田の名前を睨む。

 俺の力なら、誰が相手でも一緒だったが、念には念を入れておくのも一手か。

 俺は職員室前を後にする。

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