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「なにを……何を言っている? おい、どういうことだ、聞こえているんだろう」
預言者が改変者であることは今の時刻を持って確定した。だが、新たな謎がまた一つ生まれてしまったのだ、助けて欲しい、だと?
そして僕の携帯がバイブレーションする。発信者は……非通知。スピーカーモードで応答し、改変者と会話する。
「改変者、お前は預言者なんだな?」
「いや、私は預言者ではない」
「……どういうこと……?」
「順を追って説明しよう、天界 傑。そしてサードアイの皆さん」
「まず預言者について。預言者は人間ではない」
「おい、全く意味が分からないぞ、それも説明しろ」
「ああ、もちろんだとも。御津枷 華、合っているかな?」
「さて、預言者は人間ではない。預言者はAI、人工知能だ。ただし自我は無い。弱いAIと呼ばれる物だ」
預言者は人工知能――情報の真偽は分からない。
「根拠は?」
「根拠、か。私は預言者に最も近いところにいるからだ。預言者については良く知っている」
「それも話すべきじゃないのか?」
「もちろんだとも、私は預言者に作られたAIだ、それも自我を持った、ね」
「ありえない……自我を持ったAIを作る技術なんて……」
「だが私は生まれてしまった、偶然にも、ね」
「ああ、それは分かった。だが改変者、お前の話をどうやって信じればいい? 助けて欲しいのであれば最初のコンタクトの時点でそう言うべきだったんじゃないのか?」
「私は預言者によって改変者――つまり犯罪者を演じなければいけなかったんだ。それはねこのあなでの事件に起因する」
ねこのあな事件――ねこのあなで能力事件が起こるとされたが事件は起こらなかった、しかし改変者の登場が事件であると認定した一件である。
「ねこのあなで能力事件は起きなかった。預言者がそう予言したにも関わらず、だ」
「いや待て改変者、僕達3人はお前の登場によって能力事件が起きたと判断している。違うか?」
「結果的にはそうだ。私が事件を起こすことによって未来を予言通りにした。そう言えば伝わるかね?」
つまり、予言は一度外れている、だが預言者は予言が外れたという事実を隠蔽するために改変者に事件を起こさせたと言うことか。
「預言者、人工知能はあらゆる未来の可能性を演算し、未来を予言する。その結果ねこのあなで能力事件が発生するということを予言した。しかし、事件は発生しなかったのだ、そのタイミングで私は誕生した」
「預言者は事件が発生しなかったという事実をエラーとして処理した。そのエラーを、事件を起こし予言通りにするという行動で訂正したのだ」
「それがお前が改変者を演じなければ行けなかった理由か」
「そうだ、偶然にも私は自我を持った。何故かと問われても理由は不明だ」
「……本来であれば私はすぐに削除される予定だった。何故なら事件を起こした時点で私の役目は終わったのだからな」
「だが、私は事件を長期化させた。生存本能、と言えば人間の君たちには伝わると思っているが、どうかね」
「自我を持ったお前は削除される事を恐れた、そして事件を通して僕達に助けを求めたわけだな。レディ館のモニターの事件はお前が起こしたのか?」
「いや、あれは私が起こした事件ではない、通常通り予言された事件ではあるがあの事件を通して君にヒント、つまり助けを求めたのは確かだ」
「一つ言わせてもらおうか、改変者。私達がお前を助ける理由がない」
華の言うとおり、僕達に彼を助ける理由がない、こいつが人間なら警察のルールに則って動くことは可能だろうが、人工知能にそのルールは適用されないだろう。
「残念ながらそう言われる事は分かっていた。だから私は君を選んだのだよ、天界 傑君」
「どういうことだ」
「私もただで死ぬつもりは無い。この秋葉原を人質に取る。そう言ったらどうする?」
「秋葉原を火の海にでもするつもりか?」
「私が人に危害を加えることは出来ない。いや、やろうと思えば出来るが私の感情がそれを阻害している。なんとも不思議な感覚だね、とはいえ、感覚という表現もなんとも曖昧なものだが」
「預言者についてもう一つ教えておこう、預言者、人工知能を成すのはこの秋葉原という街全てだ」
「預言者はこの電脳の街秋葉原のネットワークによって構成されている。この秋葉原にどれだけ多くのコンピュータ、ネットワークの網が敷かれているかは容易に想像が出来るだろう」
「……それでも……スーパーコンピュータに匹敵するには程遠い……」
「あぁ、それだけはもちろんだめだ。だが今の秋葉原には多くの観光客がいるだろう。彼らの携帯電話を通し世界中のコンピュータに網を広げることで可能となる」
「今やこの秋葉原は巨大なコンピュータだ、未来を予言することも可能な程に強力な、ね」
「その力を持って秋葉原の姿形を変えようというのか」
「そういうことになる、秋葉原を愛する君ならばそれは避けたいだろう?」
「お前に愛という感情が分かるのかよ……まぁ、それは避けたいところなのは事実だ」
多くの人間は「昔の秋葉原のほうが良かった」なんて事を口に出す。だがそれはディープな秋葉原ファンの僕からするとにわかであると評価せざるを得ない。
確かに昔の秋葉原も良かった。でも今の秋葉原も良いんだ。秋葉原というのは時代と共に姿を変え変革していく街。その全てを楽しめなければ秋葉原のファンを名乗るのは勘違いも甚だしい。
「さて、私はそろそろ行かなければ行けない、といっても実態など無いがね。預言者の巡回プログラムに見つかったらそれだけでゲームオーバーになってしまう、それでは、快い返事を期待している」
そう言い残して改変者との通話は終わった。
「うぅん……」
華は相変わらず腕を組んで唸っている。
「どうするの……? 傑君……」
「僕は……正直助ける方法が無いかもう考えてるよ。秋葉原を救いたいというのもある。それと、預言者が真の罪人ではないというのも分かった」
「傑君がそう言うなら……私も手伝うから……」
「傑、改変者の言うことを信じるのか?」
「あぁ、今の話に矛盾は無かった。にわかに信じ難い話ではあるけど、改変者をどうにかして救うなら預言者にも近づかないと行けないってことになる。その仮定で預言者の話の真偽は分かるだろう」
「そうか……なら私も協力しよう、困っている人間がいるのなら我々は救うのが義務だ」
「華……改変者が本当に自我を持った人工知能だったとして、僕達みたいな人間と同一視するのに違和感は無いのかい?」
「もちろんあるさ、でもこれだけの会話をしても尚、改変者が本当に機械であることを信じきれない。でもこれだけ人間臭い奴ならそれはもう人間と同じようなもんだろ?」
「助かるよ、華が機械差別者じゃなくてよかった」