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双眸のクオリア  作者: K
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 そうして僕達がやってきたのは大人のデパート、エヌズ。通称エロタワーと呼ばれているここはレディ館から徒歩2分、つまり駅の正面にあるわけだがにも関わらず激しくエロい。

 下から上まであらゆるエログッズが揃ってしまう文字通り大人のデパートってわけだ。

「なるほど、これがオナホールか」

 そう呟きながら”生意気JKのふわとろ名器”と銘打たれたオナホールのサンプルを人差し指でツンツンとつついている。

「……」

 おお…すごくエッチだ…ものすごくエッチだよ、その行為。

 女性が女性器を模した性玩具を弄っている光景を見ていやが上にも華に備わっている”ソレ”を想像してしまう。

「(やばい、少し勃ってきちゃった)」

「ねぇ傑」

「へ?」

「私…したくなっちゃった…この後、空いてる?」

 僕は勃起した。

「傑君……私も……挿れて欲しいな……」

 左から華がサキュバスの様な誘いをしてくると同時に右から葵が私もして欲しいと懇願する。リアル催眠音声のこの状況に僕もうは下半身で物事を思考する猿になりかけていた。

「ま、傑は優しいから断らないよな」

「何がしたい…? 傑君がしたい事……全部してあげる……」

「はは…まぁそれはその時に……」

 あぁもう、2人がしてくれるならなんだってOKだよ。とは言えるはずもなく、シャイボーイなオタクは当たり障りの無い返事をすることしか出来なかった。

「上も行ってみよう!? 行ったこと無いんだよね~」

 この状況を打破しようと咄嗟に出た一言だったが、すぐに自分の失言に気づいた。それもそのはず、上の階は女性用フロアだ。とはいえ僕1人で入るわけじゃない、男1人で入ろうものならそれこそ異端者だ。

「いいじゃないか、上がってみよう。どんなおもちゃで虐めてくれるんだ?」

 この通りだ。だが、こんな絶体絶命の状況の僕に助け舟を出したのは思いもよらない人物だった。

「ごめん、メールが――」

 預言者。僕のスマホに表示された3文字が事件の始まりを告げる。

「預言者からのお告げだ。楽しみにしている所悪いけどすぐに準備に取り掛かろう」

「残念だったな傑、しばらくエッチはお預けだ」

 あぁ、本当に残念だ。とはいえ自分の性欲と人の命を天秤に掛けるわけにはいかない。

「メールの情報は歩きながら共有する、とりあえず事務所に向かおう」

 息苦しい空間から抜け出せたのは僥倖だが、”エッチはおあずけ”というどうでもいい案件と、預言者からのメールという重大な案件が重なり、僕は小さくため息を一つついた。




 僕達3人が集う事務所は秋葉原駅よりも末広町駅に近い。蔵前橋通りを秋葉原駅から離れるように直進し、4つ目の曲がり角を左に曲がるとすぐ見えてくる。この小さな雑居ビルを貸し切った場所が僕らの事務所であり、家でもある。

「さぁ傑、PCパーツとフィギュアを同時に扱ってて陽の光が直接差し込むような眩しい場所はどこだ? 教えてくれ」

 華は会議室(そう呼称しているだけだ)で着席すると同時にそう切り出した。

「少し待ってくれ、まだ何も考えてない」

 預言者からのメールにはこう記載されていた。

「パソコン部品と思われるものとショーケースに飾られた少女のフィギュアが見える。これ以上は眩しくて観測不可能。通路の奥から光が差している。周囲の人たちは何かを見つめている」

 まずパソコン部品と思われるものという条件。この条件は秋葉原なら腐るほど満たせる。僕達が根城にしているこの雑居ビルの近くにあるジャンク通りなんかを歩けば飽きるほどPCパーツを堪能することが出来るだろう。

 しかしそれらのお店はどちらかというとその名の通り電気街として名を馳せていた秋葉原の名残という側面が強く、少女のフィギュアなどという俗物を飾っていたりはしない。

 そもそも少女のフィギュアがショーケースに飾られていたという事は、間違いなくレンタルショーケースの事を指しているだろう。レンタルショーケースというのは、店側がスペースをテナントに貸与し、テナント側は売り物を展示し販売する商法である。レンタルショーケースのお店ならこの秋葉原の各地に点在している。

 厄介なのはこの2つの条件を満たすお店でなければ行けないということ。さらに厄介なのは時間によって眩しくて商品が見えなくなるほどの光が差す過酷な立地であるということ。

「……そろそろ……?」

「傑、そろそろ検討が付いたか?」

「多分」

 パーツとショーケースのフィギュア、この条件を満たす店は何店舗かある。だがそれでは難しい、ならば逆に眩しい場所から探す。

「左右に別れる秋葉原駅電気街口を繋ぐ小さな連絡通路、あそこだと思う」

 電気街口を右に出ると巨大なUTXビルが居を構えるビジネスライクな広場へ、逆に左側に出ると真っ赤なゲームセンターとレディ館が居を構えるいつもの秋葉原へと出ることが出来る。

 一見するとこの2つを行き来するには改札前を通るか、一旦大通りへと出るかの2択の様に思える、しかし、その中間地点にこの2つを繋ぐ小さな小さな連絡通路がある。その通路は機械部品も売ってるしショーケースに飾られたフィギュアもある。極めつけは時間帯によって非常に眩しくなる、もちろんこれは経験談。

 この小さな連絡通路は僕みたいなディープな秋葉原ファンにとっては感慨深い場所だ。なにせ昔の秋葉原と現代の秋葉原が混じった様な空間なのだから。

「……どこ……?」

「ほら、前に僕が言ったと思うんだけど、急いでレディ館に行きたいならここを通れ。って言った場所だよ」

「あぁ、急いでレディ館に向かう状況なんてねえだろ。って私がツッコミ入れた奴な」

 いや、あるだろ……ん……?無いか。無いな。

「……あそこは……眩しい……?」

「うん、午前10時ぐらいかな。多分数分だけかなり眩しくなる瞬間がある。僕の秋葉原散策がまだ駅からのスタートだったころに実際通ったから間違いないと思う」

「確かに今の私達じゃ10時にあそこを通ることはないからな」

 さて、”周囲の人たちは何かを見つめている”というのは何のことか。何かが起きるのだろう、それに対して周囲の人間が興味を持ったと考えるのが妥当だ。

「何かを見つめている……ってなんだろうな」

「……事件?」

「預言者が見たって事は事件なんだと思う。見てみないとなんとも」

「結局見ることしか出来ないな、私達は」

「何かが起きるって事が分かっただけでも十分なアドバンテージだよ」

 ――改変者。僕の脳裏の例の人物がよぎる。

「改変者の事だな?」

「あっ、うん」

「それだけ眉を顰めていれば察しは付くさ、今回も改変者は接触してくると思うか?」

「間違いなくしてくると思う。改変者はゲームのルールとタイムリミットを僕に提示した。この事件を通してタイムリミットが迫っている事を僕に伝えてくると思う」

「……改変者は…予言を知れる?」

「このメールが改変者に漏れているのか、それとも……」

「それとも?」

「警察の人間か」

「……」

 華はいつも通り腕を組み幼獣の如く小さく唸った。

 それと考えたくない可能性が一つ、普通に考えたら一番最初に疑われる人物――

「預言者自体が改変者という可能性」

「そんな馬鹿な――」

「でも会ったことは無い」

「でも……何故……?」

 それが分からない。仮に預言者=改変者だとして、何故僕達とゲームをしている?

「うぅん……」

 僕は腕を組み幼獣の様に小さく唸った。


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