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双眸のクオリア  作者: K
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 雲一つない晴天、春の暖かな陽気が人々を外に駆り立てる気持ちのよい日。そんな素晴らしい天気の今日、僕達3人はメイドによるビラ配りが盛んな通り。通称、ビラビラ通り。を一つ向こう側に進んだ道路に面したドタールコーヒーでお茶を啜っていた。

「傑、中澤さんから連絡があった。昨日は秋葉原で事件は起きていない。だそうだ」

「……未来を……変えたの?」

「さぁね、あいつは、未来は”変わったのかもしれないし、変わらなかったのかもしれない”なんて事を言ってたからな。結局この発言の真意も分からない」

 だが彼、改変者、とでも呼ぼうか。改変者はこうも言っていた。”君が観測したのではないか?”と。

 変わったのかもしれないし、変わってないのかもしれない。それは観測者次第では無いのか?そう問われたのではないか、と今になって思う。

 僕達3人の視点では未来は変わった、しかしそれ以外の人間にとっては未来は変わっていない。

 タイムパラドックスなんてものは結局観測者次第なのかもしれない。

「私達と同じ瞳の能力者なんだってな、それで、傑と同じ能力と聞いたが?」

 このドタールコーヒーが取調室になった。そんな錯覚を覚えさせるような口調で華が改変者の事を尋問してくる。

「全ての目を味方にする事が出来る。改変者はそう言ってた。もちろん本部に掛け合ってみたけどそれっぽい能力者は僕しかいない。まぁ、能力を秘匿する事はそれほど難しいことじゃないから、登録されてないって可能性もあるけどさ」

「傑と同じ能力ならまだ手の打ちようがある、仮にそれ以上の事が出来るなら……厄介だな」

 例えば、相手の視界に憑依した挙句、自由に視界を動かせるとしたら。心理学に精通した人間ならそれだけである程度人間の行動を誘導出来るだろう。それ以上の能力も考えられる。とはいえ人間の瞳を起点に人間を自由に操れるなんてことも出来たら……それこそ真の意味で”全ての目を味方にする”なんて能力は預言能力級とは言わないがA+クラスの超能力だろう。

「でも、強力な能力だったら探知能力者の網に引っかかるだろ? 僕と同じ程度の能力と考えていいと思うけどね」

「日本にいる探知能力者を招集して改変者の言ってるゲームを終わらせてもらうというのは出来ないのか?」

「……今は日本にいないみたい……」

 能力者を探知する能力、通称、トレーサー。能力の残滓を元に能力者の位置を特定する能力。この犯人捜査に特化した能力者は世界で3人しかいない。幸いにもこの日本にも1人いるのだが今は海外の事件に協力している。なんせ世界で3人しか持たない能力なのだ。世界中の警察から引っ張りだこなのは想像に容易い。

「では携帯の逆探知は? 音声鑑定は?」

「もちろんやったよ、でも支給された携帯じゃなくて個人携帯にかけてきたからね、成果はさっぱり」

 華はここで、むぅ。と幼獣のように唸って腕を組んでしまった。

「……次の予言を……待てばいい」

「……まぁ、そうなるよな。”世界の選択通り事件を起こす”改変者の言葉を信じるなら次にアキバで起こる事件、それも予言された事件と向き合うことになる。そこが僕達が改変者を探すヒントになるのは間違いない」

「世界の選択通り事件を起こすなら、次は間違いなく犠牲者が出るということだぞ?」

「あぁ、でもそれが世界の選択なんだ。残念だけど予言が出た時点で僕達異能警察はそれを覚悟しないといけない」

  とはいえ、次の予言がいつくるのかは分からない。よしんば予言が僕達の元に届けられたとしてもその予言が改変者の手のかかったものとは限らないのだ。厄介なことこの上ない。

「……どうする……?」

「どうするって言われてもね、現時点でなにか出来ることがあるわけじゃない。強いて言うなら、能力データベースの洗い出しとか? って言っても僕が昨日の時点で殆ど調べ尽くしたから新しい発見は無いと思うけど」

「あぁ、なら少し付き合って欲しい事がある」

 そう言って華はジャケットを羽織り、そそくさと退店の準備を始めた。




 僕達3人は大通りに面したソフマッパの6階、所謂エロゲーコーナーに来ていた。

「(浮いてるなぁ……)」

 なんせここは高貴な”魔法使い”達が集う聖域なのである。そんな聖域に女性、それも美人を2人も連れ込んでいる僕。邪教徒と呼ばれても否定することが出来ない。

「初心者用のエロい店に案内してくれ」

 なんて言われた時は一体全体どうしたんだと思ったが、どうやら成年グッズ慣れしていないのが捜査に支障をきたしたのではないかと気にしている様子だった。

ここソフマッパならそこまでドギツイエロゲーを中心に扱っているというわけでもないし、陳列の仕方も綺麗で見やすい。

「……あ……」

 そういって葵が指差した先には、”ぼくはバター犬になりた~い”と書かれたパッケージが一つ。

 昨日葵が機転を利かせて(利かせていたのか?)話題に出してくれた、件のぱんでぃー先生が原画を努めたエロゲーだ。

”僕はバター犬になりたかったんだ。ついに今日、その夢が叶う!原画:ぱんでぃー シナリオ:ブラ丸 の最強タッグ!期待のエロゲーここに爆誕!”と尤もらしく書かれてはいるが、明らかにバカゲーである。僕がバカゲーマイスターなら迷わずレジに駆け込んでいる所だ。

「……これ、面白かった」

「まさか、本当にプレイしてたのか?」

「した……」

 機転を利かせて(効かせていたのか?)適当な事を言っていたのかと思っていたがどうやらそうでは無いらしい。

「葵は結構エロゲーとかプレイするの?」

「本を読むより……面白いから……」

 ごもっともな意見だ。ただ紙に印刷された文字を読むよりはキャラクターの立ち絵があって音声まで流れる。つまらないわけが無い。

「なんというか…以外だな、葵みたいな女の子でもこういうゲームを遊ぶとは、いやはや」

 ”ぼくはバター犬になりた~い”のパッケージ裏を眺めながらふむふむなるほどと首を上下に動かす華。その緑色の真剣な目で眺めているのがバカゲーなのがシュールだ。

「バター犬を傑君に置換すると……結構抜けるよ……」

「他人のソロプレイの遊び方にケチをつけるわけじゃないけど、それは僕が犬って事だよね?」

「このゲームのジャンルは催眠だから……犬は出てこない……」

「(想像以上にバカゲーじゃねえか…)」

「すまない、抜けるというのは?」

「まぁその…自分を自分で慰めるというかなんというか」

「……自慰行為…オナニー…マスターベーション…」

「なるほど」

 真剣な眼差しで首を上下に動かしているがもっと女性らしい反応は無いのか。もっとこう…「お、おなにー!? 破廉恥な!」みたいなさ、別にそういうのが好きなわけじゃないけど女の子なんだからそういう反応を期待していたが。

「存外淡白な反応をしやがって、とでも思っているのかい傑」

「はは…」

「いつも2人プレイしているだろう。今更オナニーぐらいでどうこう思ったりはしない。それに私もたまには自慰行為ぐらいするさ、人並みに性欲は持ち合わせている」

「オープンすぎるだろ…そういうのはもっと隠すべきだと思う」

「……今度3人で気持ちの良いオナニーの仕方会議……しよう」

「どう考えても僕は参加できないだろ」

「はは! じゃあ傑は竿役な!」

「おい、会議から実践編が始まってるじゃねえか、それにそれはもはやオナニーの域を超えてる」

「……でもしたいよね…傑君……私はしたいなぁ……」

 はーい、したいでーす。って馬鹿か、さっきから隣のサラリーマンが腰を引っ込めながらチラチラ見てくるんだ。もう許してくれ……

「よし、傑、次の店に行こう。私は気分が乗ってきたぞ」

「はぁ? まぁ華が行きたいなら僕は構わないけどさ、葵も来るよね?」

「私は…傑君が行くところに行きたい……迷惑じゃ…なければ…」

「迷惑なんて思うわけないだろ、じゃあ行こうか」



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