双眸のクオリア
ここは秋葉原の裏路地にある小さな事務所。
異能警察の中でも下っ端中の下っ端、通称”サードアイ”と呼ばれる組織の集会所だった。
能力者、超能力者とも呼ばれるが、例えば空間を転移したり、身体能力を爆発的に向上させたり、といったとんでも連中の事だ。異能警察というのはその神から授かった超能力を国家の治安と平和の為に使おうという愛国心に溢れた者達の集まり。
その中で、僕達サードアイは瞳に関連した能力者の集まり。
僕達3人は白熱灯に照らさた質素な部屋の中で本部から貰った情報の打ち合わせをしていた。
「傑、情報は確かなんだろうな?このアキバで能力事件が発生するってのは」
金髪のショートカットに引き締まったスタイル、そのカッコよさに拍車をかける様に装われた質の良さそうなブラックスーツ。
彼女の名前は御津枷 華。紛れもなく彼女も瞳の能力者で、視界を途中で曲げることが出来る。その緑色の双眸は、通称、屈折視と呼ばれている。
例えば、正面3メートル地点で視界を180度曲げ、自分の姿を見たり、曲がり角を曲がる前にその先の情報を知ることが出来たり、とか。あとこれは僕の勝手な想像だが、スカートを正面に立っていながら覗くことが出来る。多分、恐らく。
だが残念なことに屈折させて得た視界には色が無く、白と黒でしか世界を見れないと言う。つまりスカートを覗いたとしてもパンツの色を知ることは出来ないというわけだ。
「う~ん……預言者がそう言うなら確かだと思うけど……」
「傑君がそうと言ったら…そうなんだよ……?」
何をこの女は頓珍漢な事を言っているんだと首をかしげた彼女の名前は宝条 葵。黒いロングヘアーを右側で縛ったサイドテール。なんといっても特徴的なのはその独特な装いで、ゴスロリファッションというのだろうか。ただ彼女曰く、
「これは…ゴスロリじゃなくて、黒ロリって言って……」
違いなんぞものはさっぱり分からないが、ぬいぐるみが似合うのが黒ロリ、骸骨が似合うのがゴスロリ。なんだそうだ、つまり我々男性の感性から見ると、どちらも似たようなものだってこと。
先程僕のペニスを丹念に可愛がってくれた彼女の蒼い瞳も正しく能力を持っている。通称、過去視 。
読んで字の如く対象の過去を見ることが出来るのだが、便利すぎるということもない。見たいと思って見れるものでもなく、見る時間を指定することも出来ない、ついでに記憶をリアルタイムで追想する為、彼女が記憶を見ている間は棒立ちしたまま失神する。
「はは……僕が言ったわけじゃないんだけどね」
そしてこのサードアイのリーダーである僕、天界 傑も何の因果か存在するかもわからない神様から能力を授かった能力者。
通称、憑依視。相手の視界に参加するこの能力はスカート覗きに便乗することも出来るし、棒立ち失神体験を一緒に楽しむ相手になるにはうってつけってわけだ。
残念なことに華からは、
「違和感が凄いからあまり私には使うな」
と釘を刺されたのでスカート覗きには使えていない。
ところが一方葵の方は、
「……同じ世界が見れるなんて……素敵だね……」
なんて言ってるから好き放題憑依してもいいことにはなっている。
まぁ僕も女の子と同じ世界を見たい!なんてとんでも変態野郎じゃないから必要以上の憑依はしないけど。
こんな感じで我々サードアイは曲がり角の先をいち早く見ようとする女にゴスロリヤンデレ、そして視界フェチのとんでも変態野郎で構成されている。
「それで、情報は?」
「預言者が夢で見たって話、彼女は秋葉原の地理に詳しくないから僕達に白羽の矢が立ったわけだ」
「なるほどね、そいつは、HENTAI BUKKAKE OTAKUの傑にはピッタリの案件だ、それで、ヒントは見えたんだろう?」
「僕にとんでもないイメージを抱いているようだけど、それは僕のことじゃないな。それで、彼女が夢の中で見た空間だけど、女の子のキャラクターが裸になってるポスターがたくさん飾ってあったって言ってた、つまり」
「つまり、18歳未満は入れないところで事件が起こるってわけだ」
「……ふふ……ぶっかけは……正解……」
「余計なことは言わなくていいから!」
「しかし、18歳未満が入れない所ってのはこの秋葉原には腐るほどあると思うが、他には無いのか?」
「僕はそれしか聞いてないな、有名所で言えば……」
このオタクの聖地秋葉原でオタク向け成年グッズを買うとならばどこへ行くだろう?
僕ぐらい秋葉原に詳しくなると目的の品によって行く場所が変わるし……
どこにあるかも分からない目的の品を探しに行く、となるとやはり最初はレディオ会館だろうか。
レディオ会館、通称レディ館。秋葉原駅電気街口を出てすぐ正面にあるという超一等地。下から上まであらゆるオタクショップが揃う場所でオタク成り立ての人向けの定番アニメグッズから成年向けの同人誌、上の階に登ればドールからサバゲーの装備までもが揃ってしまう。
ここの成年向けショップで犯罪が起きるのであれば大体どこに立って犯行に及んだのかすら想像が出来る。
だが違うだろう。預言者はあられもない姿の女の子のポスターが飾ってあったという状況しか見え無かったって話だ。あそこはポスターやタペストリーはあくまでおまけ、メインは同人誌なのだから、裸の女の子以外の特徴である、「本屋みたいだった」というのが出てこないのはおかしな話だ。
「傑、いつもどおり思考を巡らせているところに割り込ませてもらうが、そろそろ当てがついた頃だな?」
「ああ、大体察しは付いたかな」
「聞かせてもらおうか?」
「……すごいね……勉強のためにいくつかお店を回ったのに、全然思いつかなかったよ……」
「保健体育の勉強かな?殊勝な心がけだ。さてさて、まず秋葉原でエッチな女の子のポスターを飾っているお店は、大抵ポスターやタペストリーがメインの商品ではない。エロゲーや同人誌がメインのはずなんだ。預言者がその特徴を挙げなかったってことはそういうお店は除外される
「ふむ……しかし女性の裸体に目を奪われて他の特徴に目が行かなかったという説は?」
「預言者はプロの捜査員だ、夢を見てる時は出来る限りの情報を集めてくるはずだ。それでもその情報しか集められなかった。つまりそれしか無かったってことだ」
「なるほどねぇ、つまり青年向けのポスターだけを売ってる店を探せば……」
「残念ながらそんな店は無いだろうな、僕の脳内アキバマップを見る限りそんな空間は見当たらなかった。預言者は絵しかないのであれば絵から情報を探す。ということはだ。絵柄の違いなんかは絶対に上げてくるだろうさ、だがそれすらも無い」
「……つまり……特定の絵師のグッズだけを集めているお店……とか?」
「そうだろうな、だがもちろんそんなコアな店は無い。一定期間を除けば、ね」
「一定期間……イベントか!」
「そういう事だ、特定の絵師にフォーカスした販売イベントならば、その状況が起こる。葵、今アキバで行われている絵師系のイベントでそれっぽいのを探してくれ」
「……がってん」
答えに近づいてテンションが上がったのか、珍妙な返事を繰り出し、葵は”傑LOVE”というこれまた珍妙なステッカーが貼られたノートパソコンに文字を叩き込んでいく。
「流石だな、たった1行の情報でそこまで目星をつけるとはな」
「適材適所ってだけだよ、舞台が新宿だったら辞表を叩きつけていた所」
「それでも凄いさ、礼をしてもいい、胸でしてやろうか?」
「……私も……してあげたいと思いました……」
「葵はさっきしていただろう。今度は私がしてやる番だと思うが」
「いや……僕は自分の仕事をしただけでお礼なんて……」
「いいからおいで、悪い話では無いだろう?」
華はそう言うと僕の腕を掴んで隣の部屋へと引っ張った。