村に住もう 1
「ねえシンさん、リョソンさん。領主様に会うには、どうしたらいいのかな?」
「えっ?」
翌日、私は火事をまぬがれた酒場で、シンさんやリョソンさんと一緒に、店主さんが『お礼に』と言ったお昼をご馳走になっていた。
もう一人いるらしいシンさん達のパーティーメンバーさんは今日もまだ宿で安静な状態らしい。
私はそこで、領主様にお会いするいい方法がないかを二人に相談する事にした。
やはりゲームでやったようにあの依頼を受けるのは却下だ、危険すぎる。
けれどやっぱりあの村を浄化してそこに住む権利は得たい。
ならばどうしたらいいかと、私は考えに考えた。
結果、領主様に会えばいいと答えを出した。
ゲームの中で領主様は、私の事を覚えていた。
なら当然、現実でも覚えているはず。
だから現実で会って、私があの村を浄化できる事を……いや、できるかもしれないと伝えて、実際に移動し浄化してみせればいい。
そしてその上で、あの村に住みたいとお願いするのだ。
そうすればきっと許可を貰えるはず。
と、そこまで考えてはみたものの、次は領主様にどうやってお会いするかという問題が出てきてしまった。
領主様は、当然ながら、偉い人だ。
その偉い人に、ただ会いたいと訪ねて行ったところで、会えるとは思えない。
どうしたらいいのかと散々考えてみたけれど、こっちは答えが出なかった。
答えが出ないものは、誰かに相談すればいい。
私はその相手としてシンさん達に白羽の矢を立て、今決行したのである。
「領主様に……会いたいの? ソラちゃんが?」
「はい。どうしたら会えますか?」
「う、う~ん……ええとねソラちゃん。まず、領主様は普段、ラッセルフォームっていう街の領主館にいらっしゃるんだ。そこで、大変なお仕事をされているお忙しい方なんだよ」
「身分もある。会いたいからといって簡単に会える方ではないぞ」
「み、身分は、わかってます。でも、それでも会いたいんです。どうしても!」
「どうしても? ……何故そこまで領主様に会いたがる? 理由を話せ。それ次第では方法を考えてやる」
「そうだね。理由を教えて、ソラちゃん。どうして領主様に会いたいの?」
「え、はい、あの……えっと。……う、噂で聞いたんです、魔の廃村の事を、噂で。私、その村を、えっと、浄化できると、思うんです。だから」
「「 何だって!? 」」
「ひゃっ!?」
魔の廃村の事を口に出した途端、シンさんとリョソンさんは大きな声を上げた。
驚いて体がびくりと揺れる。
改めて二人を見ると、シンさんもリョソンさんもどことなく険しい顔をして私を見据えていた。
「……馬鹿を言うなよ。あの村の浄化は、高位の神官でも不可能な事柄だ。それこそ、数日前に召喚されたらしい、遥か昔に神から直接祝福を受けたという魂を持つ聖女様でもなければ、到底なし得ない事だ。……それを、できるなどと……。ソラちゃん、冗談はよせ。全く笑えん」
「えっ、いえ、えっと」
「リョソン、言い方! ごめんねソラちゃん。……でも、さすがに、あの村の浄化は無理だと、俺も思うよ。君があの村に近づくのはあまりにも危険だ。やめたほうがいい」
「えっっ、えっと、あのでも、ほ、本当に、できるんです! あの村が危険なのは、よくわかってます。でも、できるんです! だからやりたいんです! 信じて下さい、シンさん、リョソンさん! お願いします!」
言い方や口調は違えど、同じく否と言う二人に、私は必死に言いつのって、頭を下げた。
すると、しばらくその場に沈黙が落ちる。
重苦しく感じるそれに耐えながら、私は頭を下げつつげた。
それから、どれくらいそのままでいただろうか。
ずいぶん長く感じたその沈黙を、やがて二つのため息がかき消した。
「……あの村の、定期的な魔物退治の依頼、確か出ていたんだったな」
「うん。カイがあの状態だから受けれなかったけど。確か、今朝出発だったはずだよ」
「……今から支度して発てば、退治が終わるかどうかくらいには着けるか」
「そうだね。でも、カイは連れてけないし、あの村までソラちゃんを守りながら行くには二人だけじゃ少し厳しいかな。あの周辺は出没する魔物も強いし」
「……ギルドマスターに話して力を借りるか。その権限で誰かをつけて貰おう。……あの村の浄化が成される可能性があるとなれば、自ら来られるかもしれないが」
「え、あ、あの……?」
突然話しながら席を立ち始めた二人に、私は戸惑いながら声をかける。
すると再び、二人の視線が私へ向いた。
「ソラちゃん、魔の廃村に行くから、急いで支度して。浄化、するんだろう? 領主様にお会いするのは、それが無事に終わってからね?」
「護衛の不足を補う為にギルドマスターに動いて貰う。それで行ってみたら無理だった、では通用しないからな? 死ぬ気で浄化をして貰うぞ。いいな?」
「! ……は、はいっ!! 頑張ります!!」
その言葉にどこか困ったように顔を見合わせたシンさん達は見るからに半信半疑、といった様子だったけれど、それでも一応は信じてくれたらしい事が嬉しくて、私はにこにこしながら席を立った。
その後、酒場の店主さんに挨拶をすると、ギルドに行くというシンさん達と一度別れ、私は魔の廃村に行く支度を急いで整えたのだった。