おまけ、ゲームをする 2
宿屋に帰って夕飯を取り入浴を済ませた私は、部屋に戻ると早速ゲームをする事にした。
特殊能力を使いゲーム機を出現させて、ゲームをスタートさせる。
すると、ゲームの私、ソラキャラが画面に現れた。
『宿を取った私はヴィナートギルの町を知ろうと散歩に出て、色々な場所へ行ったの。商店街で会ったシンさんに美味しいチョコワッフルを貰えたし、公園にあった忘れ物を騎士団支部に届けたらちょうど持ち主さんがいて感謝されたし、酒場の火事では消火の役にこそ立たなかったけど、怪我した人を治療して大活躍したの! 夜出歩いた事で心配したシンさんには怒られちゃったし、治療は大変だったけど、それを差し引いても良い事したよね、私! さあ、今日は何をしようかな?』
「わあ……これ、前回までのあらすじってやつ? そっか、このゲームのおかげで現実では火事はボヤ程度で済んだけど、ゲームでは大事になってたから、そのままのあらすじになるんだね。なるほど、なるほど。あ、ベッドから起きるところから始まった……あ、ゲーム内の日付も一日経ってる。寝て起きると翌日になるんだね……当たり前だけど」
さて、本当に何をしようかな。
町の、前回行かなかった場所を散策してみる?
あ、でも、お金稼がなきゃだし……ギルドに行って、明日の依頼を前倒しで見て、どんなのか挑戦してみてもいいかも?
予習みたいな感じで。
「よし、そうしよう。まずは冒険者ギルドに、っと」
私はソラキャラを動かし、冒険者ギルドへ移動した。
そのまま依頼が貼ってあるボードに向かって、一つずつ依頼を見てみる。
「近くの森の薬草採取、街道の魔物退治、町の清掃、パン屋の店番、港町シーランドまでの護衛、ストヤード洞窟の鉱石発掘の為の護衛、魔の廃村の魔物退治(複数パーティー求む)……」
……危険のない町中の依頼から、遠くの場所への護衛まで、色々あるんだなぁ。
まあ、港町シーランドっていうのがどのくらい遠いのかも、私には正確なところはわからないんだけどさ……。
とりあえず、私にもできそうなのが幾つかある、良かった。
でも、これは予習だし……町中のものや、一度やった近くの森の薬草採取は避けよう。
となると、護衛か魔物退治…………。
う~ん…………この、魔の廃村の魔物退治っていうのはどうかな?
複数パーティー求むって事は、絶対一人でやる事にはならないし。
あんまり戦力にはならないけど、治療なら回復魔法でバッチリ役に立てるし!
一人くらいそういう役割の人がいても、いいはずだよね?
よし、これにしよう!
そう決めて受け付けにその事を伝えに行くと、そこにいたのはあのお姉さんではない別の女の人だった。
「あのお姉さんは、お休みなのかな。ちょっと残念」
『こんにちは! 私、魔の廃村の魔物退治の依頼を受けます!』
『……そう。ま、何事も経験よね。集合は町の門だから。すぐに行って』
『はい、行ってきます!』
「町の門ね。よし、依頼だ。どんなのかな。他の冒険者パーティーもどんな人達か楽しみ!」
私はソラキャラを町の門へと移動させた。
画面が門に切り替わると、そこには既に六つの冒険者パーティーがいて、私がそこに合流した後すぐに七つ目のパーティーがやってきて、それにより、この依頼を受けた冒険者達が揃ったようだ。
パーティーは一つにつき四人~六人いて、結構な人数での仕事となった。
『では出発!』というこの依頼で集まった冒険者達のまとめ役らしき男性が言うと、次の瞬間、パッと画面が切り替わる。
そこは、枯れた木や崩れた家屋が寂しげに佇んでいる廃村だった。
何故か周囲は黒く塗り潰されていて、見えるのはほんの少しだけだったけれど。
まとめ役の男性が振り向いて、『これより廃村に入り戦闘を開始する! 諸君らの健闘に期待する!』と言って剣を抜くと、画面に大きく"戦闘開始!"の文字が現れ、そして消えた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「……わ、わ、わわっ、わわわっ! ひぃぃぃっ! ああっ! うわぁぁぁん!!」
甘かった。
凄く、考えが甘かった。
魔の廃村の中に足を踏み入れた途端、すぐに激しい戦闘になった。
そこはまだ昼間だというのにやけに暗いようで、やはり画面のほとんどが黒くて周りが見えない。
だから他の冒険者達がどこにいるかは勿論、魔物がどこにいるのかさえもわからなくて、突然至近距離から現れた魔物から必死になって逃げるしかできなかった。
最初はそれでも魔法を使って攻撃していたんだけど、コントロールの悪い私の魔法では命中する事が難しく、しかも何回か味方の冒険者さんに当たってしまったようで、『ふざけるな!』と怒られてしまった。
なので私はただ必死に逃げ回り、時々冒険者さんを見つけては回復魔法をかけるという行為しかできていない。
「うう、まさかこんなハードな依頼だったなんて……」
これがゲームで、良かったかもしれない。
知らずに現実で受けてたら、悲惨な事になってたよ……明日の現実では絶対この依頼受けない。
やっぱり予習大事、うん。
「って、うわわわっ! 魔物来たぁ! 逃げなきゃ!!」
うう、気が抜けない。
そうしてとにかく逃げ回っていると、やがて『戦闘終了!』という文字が画面に出た。
同時に魔物が現れなくなる。
「お、終わった……良かったぁ!」
私は心底ホッとして肩の力を抜く。
しかし、次の瞬間。
『おいお前! ふざけるなよ!!』
『戦わずにただ逃げ回るなんて、どういうつもり?』
『魔法、何回か俺達に当ててくれたよなぁ? ……コントロールもなってねえ素人が、何だってこの依頼受けたのか聞きてえもんだな?』
『……大方、多額の報酬に目が眩んだんだろうさ。迷惑な話だ』
「えっ……!!」
私は……ソラキャラは、怒りの形相を浮かべた他の冒険者さん達に取り囲まれてしまった。
"怒った冒険者達に詰め寄られている! どうしますか?"
「"逆ギレする"、"謝る"、"逃げる"、"開き直る"……いや、謝るでしょ!! それ一択!!」
『あ、あの……ごめんなさい……でも私、そんな、つもりじゃあ……』
『待て、皆。怒るのは当然とは思うが、やめるんだ。……お嬢さん。悪いが、今回の戦闘内容はギルドに報告させて貰うぞ。君に今回の報酬が支払われる事はないだろうが、それでいいな?』
『は……はい。あの……すみませんでした……』
「うっ、報酬なし……! ……まあ、あれじゃ貰えないよね……仕方ないかぁ……」
『よし。……皆も、それでいいな? この件は終わりだ』
『ん……まあ、いいぜ。報酬なしになりゃ、そいつも懲りるだろ』
『そうね。お嬢ちゃん、もう二度とこんな事、するんじゃないわよ?』
『は~あ、小さいのにこんな依頼に参加するから余程の才能の持ち主かと思ったら、とんだ期待外れだったぜぇ。……この村、いつになったら救われんだろうな』
『む? ……お前さん、この村の関係者か?』
『い~や。……けど、祖父さんの友人がこの村の住人だったらしくてな。話を聞いた事があるんだよ。いい村だったらしいぜ』
『……そうか。まあ、もうそう遠くないうちにこの地も浄化されるだろう。聖女様が召喚されたと、王都で噂を聞いたからな』
「……ん? ……聖女様? 浄化? この地って……この村? え、この村浄化が必要なの? なら……」
私はキーを操作してメニューを開き、魔法の欄から浄化魔法を選択した。
『ホーリーキュアール!』
ボタンを押した直後、ソラキャラが呪文を唱え、ソラキャラを中心に綺麗な淡い黄色とオレンジの光が広がっていく。
それと同時に村を覆う闇も晴れ、画面全体が見えるようになっていった。
『な、何だ!? ……おいお前、何したっ!?』
『村に光が……っ、まさか、浄化を……!?』
『そんな!? だってここの呪いは、最高ランクの光魔法でしか浄化できないのよ!? そんなの、聖女様くらいしか……!!』
『だよな……じゃあ、この嬢ちゃんが、召喚されたって聖女様……』
『まさか!? 何だって聖女様がこんなとこに一人でいるんだよっ!?』
……あれ?
なんか、大事になってる……?
ど、どうしよう……ここってそんなに浄化の難しい場所だったの……?
うう……もう少し考えて浄化するんだった……って、あっ。
"冒険者達が驚きの表情を浮かべてこっちを見ている! どうしますか?"
「また選択肢だ……。……"私が聖女ですと胸を張る"、"違いますと否定する"、"笑って誤魔化す"、"ダッシュで逃げる"……はあ」
これは"違いますと否定する"、だね。
ていうか最初の選択肢……嘘ついてどうするのもう……。
『違います、私は聖女様じゃありません!』
『そ、そうか……そう、だよな。そんなわけ……ないよな?』
『で、でもそれじゃ、どうしてこんな浄化が……』
『よそう。事実しか話さないのは、詮索は無用という事だろう。しかしだお嬢ちゃん。この事も、ギルドに報告させて貰うぞ。……魔物退治の依頼の報酬はないが、嬢ちゃんには別件で報酬が出るだろう』
「え、別件で報酬? 何で? ……ま、まあ、貰えるんなら何でもいいかなぁ。うん、難しい事は気にしない事にしよう」
『ではヴィナートギルに帰還しよう! 任務完了だ!』
冒険者さんがそう言うと、パッと画面が切り替わった。
あ、ここ冒険者ギルドの中だ。
あれ、ソラキャラが動かせないや。
あっ、誰か近づいて来た。
『諸君、魔物退治ご苦労だった。報酬は受け付け嬢から貰ってくれ。このお嬢さん以外は解散してくれて構わないから、ゆっくり休んでくれ』
「えっ」
現れた男性の言葉を受けて、冒険者さん達は全員で受け付けへ行ったあと、それぞれに立ち去って行った。
え、えっと、私はどうなるんだろう……ああ、ソラキャラまだ動かせない……。
『さてお嬢さん、話は既に通信で聞いている。あの魔の廃村を浄化したそうだね? 二階に領主様をお呼びしてあるから、そこで話そう』
『は、はい』
「は!? りょ、領主様っ!? いやいや、"はい"じゃないでしょうソラキャラ!? 何で領主様なんて人が出てくるの!? ああもう、動かせない~~!!」
私はすっかり混乱して必死にキーを動かすが、ソラキャラはちっとも動かない。
いや、正確には動いてはいるんだけど……私が操作した方向ではない。
つまりまた自動で強制的に動いているのだ。
それでも私は必死にキーを動かし続けるが、全くの無駄な努力のまま、ついにソラキャラは領主様がいるらしい部屋へと入ってしまった。
『お待たせ致しました、領主様。連れて参りました』
『ああ、ご苦労。……ふむ……やはり君か。聖女様以外であの魔の廃村を浄化するなど、可能性があるのは君だろうと思っていたよ。数日ぶりだね、お嬢さん』
「へっ?」
す、数日ぶり?
え、私こんな人とどこかで会ったっけ?
金茶の髪に赤い瞳の、かなり綺麗な顔の男性…………う~ん?
『覚えていないかな? 聖女様と君が召喚されたあの場所に、私もいたんだが』
「えっ!!」
『え、そうだったんですか……? ……ごめんなさい、覚えてないです……』
『そうか……まあ、それも仕方がない。私は一言も話してはいないし、君は現状把握に必死だったろうから。……それで、だ。今君がたった一人でここにいるという事は、あの男はやはり君を放り出したんだね?』
「!」
『……え、えっと……』
『ああ、正直に答えて構わない。……全く、だから私が引き取ると言ったのに、あの男の土地のほうが緑豊かで良いだろうなどと……兄上は、本当に……っ』
『え、あの……』
『ああ、すまない。とにかく、こうなった以上やはり君は私が引き取ろう。とは言っても、後見人になるだけだが。……君には、あの魔の廃村を再生させ、そこの村長となって欲しい。勿論暫定的にだ。子供の君に村長の役目の全てを負えとは言わない。いずれ適任者が見つかるまでの繋ぎをお願いしたいんだ。……今まで誰もあの廃村を救えず放置するしかなかったのを、君が救ってくれたんだ。だから是非君に任せたい。なに、他に誰もいない土地だ、気負う事なくゆっくり村として再生させてくれればいい。適任者が見つかったあとも、村についての君の発言権は保証しよう。……私が引き取って領主館で暮らす事もできるが、それだと君が毎日余計な気を使う事になるだけだろうからな。故あって私はまだ独身だし、妙な噂でも立てば君が傷つく事にもなりかねん。何より、自分の家を得て居場所を作るのは今の君に必要な事だろう。……ああそうだ、忘れないうちに魔の廃村浄化の謝礼金を渡しておこう。六十万エネだ、受け取りなさい』
『え、そんなに!? あ、ありがとうございます……!!』
『うむ。では、今日のところは、ラッセルフォームにある領主館に行こうか。何か困り事があればいつでも訪ねられるように、場所を覚えておいてくれ』
『え、あっ、は…………はい。ありがとう、ございます……!』
「ちょっ!! はいって、また勝手に!! ああ、まだ動かせない~~!!」
何この強制行動!
軽い気持ちで受けた依頼からまさかこんな事になるなんて……!!
……ああでも、あの村に住む権利が貰えるのかぁ。
誰もいないからのびのび暮らせるだろうし、ちょっといいかも……あ、画面が切り替わった。
『ここが領主館……? 凄い、広~い……!! 一晩とはいえ、こんな部屋に泊まれるなんて……!! ベッドもふかふか!! 嬉しい、いい夢見られそう……!!』
『はは、気に入って貰えたなら良かった。今日は疲れたろう? ゆっくり休むといい。私は今日はこれで失礼しよう』
『はい! ……それじゃあ今日は、おやすみなさ~いっ』
「わ、本当に広い……!! 一部屋だけでこの広さって……。うう、泊まってみたいかも……。……あ、ゲーム終了の問いかけがきた……はい、と」
"入手金額六十万エネを取得しますか?"
「え、お金も取得できるの? やった! はい、っと」
ボタンを押すとゲームは消え、代わりにお金が入った布袋が残された。
ふぅ、なんだかちょっと疲れた。
それにしても……あの村に住む権利は欲しいけど、現実であのハードな依頼を受けるのはかなり厳しいよねぇ……。
う~ん、どうしよう……?