おまけ、身分証を手に入れる
あの王様は、どうやら人を見る目がないみたいだ。
預けられて数日後、その人の領地だという土地に着いたその翌日、執事らしき人に向かって、その人は言った。
『これで一晩世話をした。この娘の世話をしろ、という陛下の命令は遂行したのだからもういいだろう。どこか遠くへ捨てて来い』と。
そうして布を被せられて運ばれ、どこかの薄暗い森の中に捨てられた私は、とにかく人のいる所に行こうとひたすら歩き回り、途中で川を見つけ、その水を飲んで空腹を誤魔化しつつ進むこと二日、小さな町にたどり着いた。
町に入る際、その町の門にいた騎士様に身分証の提示を求められて困るという事態はあったけれど、魔法で犯罪者でない事を確認されると、冒険者ギルドという建物に連れて行かれ、そこで冒険者というものになれば身分証を貰えると言われて、無事にそれを手に入れられた。
そしてその身分証を発行してくれたお姉さんから詳しい説明を受け、『ステータスで自分の能力をしっかりと確認して、無理のない依頼を受けて頂戴ね。どこかのパーティーに入れて貰うのも一つの手よ?』と言われた私は、まずはそのステータスを確認しようと邪魔にならない隅っこに移動した。
そして『ステータス』と唱える。
名前 真池天
年齢 10
種族 人間
職業 冒険者
体力 並
魔力 特殊
力 並
賢さ 並
速さ 並
器用さ 並
運 並
光魔法 ランクS
火魔法 ランクE
水魔法 ランクE
スキル
料理 ランクD
掃除 ランクC
洗濯 ランクD
園芸 ランクD
特殊能力
箱庭ゲーム『ハーデンクーガ』
称号
クーガルーゼンの情けを受けし者
えっと、魔法とかのランクは、Eが最低でSが最高だって、さっきのお姉さんの説明にあったから……わ、凄い、光魔法が最高ランクだ!
それと、特殊能力が……箱庭ゲーム、ハーデンクーガ?
それに、称号……クーガルーゼンの情けを受けし者って?
「ハーデンクーガは……確かこの世界の名前だよね? あの王様がお姉さんにそう言ってたはず……でも、クーガルーゼンって何? 初めて聞く言葉だ……」
「何? この世界の守護神様の御名を知らんというのか!?」
「ひゃっ!?」
「こらこらリョソン! 駄目だよ驚かせちゃ! ごめんね~お嬢ちゃん。俺ら、このギルドをメインにして活動しててさ、受け付け嬢から、『新人がいるからパーティー入りを希望するなら入れてやって欲しい』って言われてね、それで声をかけに来たんだよ」
「え……? お、お姉さんから?」
突然横から現れた青年二人組に驚きつつも、その言葉に視線を二人の更に奥に向ければ、受け付けにいるお姉さんが微笑んでウインクするのが目に入った。
どうやら本当らしい。
色々気を使ってくれているようで、優しいお姉さんだ。
「それで、ステータスはどうだった? 何かわからない事があるなら、わかる範囲で教えるよ?」
「え、あ、じゃあ……えっと。……クーガルーゼンっていうのは、えと、この世界の守護神様の名前……なんですか?」
「うん?」
「そうだ! 偉大なる守護神様の御名だ、よく覚えておくように!」
「こらリョソン、言い方! ごめんね、こいつ神官だから、心酔してる守護神様の事にはうるさくてさ。……でも、何でクーガルーゼン様の事なんて聞くんだい? まさか、ステータスに守護神様の名前が記載されてるの?」
「えっ……え、ええと……」
「あっ、待って! ごめん、もしそうなら、言わないで! それは内緒にしなきゃ駄目なやつだから!」
「えっ?」
「そうだな。神殿に閉じ込められたくないのなら、言うべき事じゃない」
「えっ、と、閉じ込め……!? な、ない! 書いてないです!」
「……うん、わかった。じゃあ、他には何か聞きたい事ない?」
「他にですか……? えっと……」
……この、特殊能力の箱庭ゲーム『ハーデンクーガ』っていうのは、聞いても大丈夫な事なのかな?
何しろこの世界の名前だし……駄目な事のような気がするけど……でも、何なのか全然わからないし……。
「……あの、特殊能力の詳しい事って、どうにかしてわかったりしないでしょうか……?」
「へ、特殊能力? ああそれなら、ステータスのその部分に触れてみるといいよ」
「え、触るんですか? わ、わかりました」
私は指を伸ばし、言われた通りにその部分に触れてみた。
すると、そこに文字が追加される。
特殊能力
箱庭ゲーム『ハーデンクーガ』
ハーデンクーガの世界をゲームとしてプレイできる。
制限は一日三時間。
そこで入手したものは任意で取得できる。
「え」
ハーデンクーガの世界……この世界をゲームとしてプレイできる?
え、何それどういう事?
う~ん、イマイチよくわからないけど……でも、ゲームっていうのは、凄くやってみたいかも……!!
いつも妹がやってるのを遠くから見てるだけだったから、羨ましかったんだよね……!!
あ、でも、その前にご飯、ご飯食べたい!
お水で誤魔化してたけど、もうお腹ペコペコだよ……!!
「どうお嬢ちゃん、わかったかい?」
「あっ、はい、えっと……まだよく理解できないので、とりあえず試しにやってみます! それじゃ、私ご飯食べたいので、失礼します!」
「え、ちょ、ちょっと待った! お嬢ちゃん、ご飯って、お金は持ってるの? それに、宿屋、泊まれるくらいある?」
「え? ……あっ!?」
そっか、お金!
元の世界のなら幾らかはあるけど、こっちじゃ当然使えないだろうし……こっちの世界のお金がなければ食事も何もできないよ……ど、どどどうしよう!?
私が今更気づいた事実に青ざめ、オロオロと忙しなくただ周囲に視線を走らせていると、すぐ側で呆れたような溜め息がした。
見れば、お兄さんが苦笑している。
「……ないんだね、お金。なら、やっぱりパーティーを組もうか。今日だけの臨時でもいいから。幸い陽はまだ高いし、近くの森くらいなら日帰りできる。薬草採取と、簡単な魔物退治の依頼受けて達成させて、お金貰おう? ね?」
「あ、は、はい……あのっ、よ、よろしくお願いします!!」
「うん。俺は剣士のシン。こっちは神官のリョソンだよ。あと一人魔術師がいるんだけど……昨日の依頼で魔力使い過ぎてね。今日は休んでるんだ」
「あの馬鹿の事など今はいいだろう。それよりも、君は何ができるんだ? 特殊能力は不明としても、魔法やスキルは? 何がある?」
「あっ、はい、えっと。光魔法と火魔法と水魔法に、料理、洗濯、掃除、園芸です!」
「そうか。ならばまあ、近くの森の魔物程度なら戦えるな。新人ならばどれもランクはEだろうが、私達もいるんだ、問題ないだろう」
「え」
ランクE?
確か、火魔法と水魔法はEだけど、でも、光魔法が……。
……うん、これも、言ってはいけない事ってやつだよね、きっと。
黙っておこうっと。
「そうだな、問題ない。じゃ、依頼受けて、さっさと行こうか」
「は、はい! あっ、私、ソラっていいます!」
「ん、ソラちゃんだね。わかった。じゃ、お近づきのしるしにこれあげるよ。移動しながら食べてね」
「え……あ、ありがとうございますっ!!」
私はシンさんから差し出されたサンドイッチにかじりつき、その美味しさに感動しながら、二人の後をついて森へと向かったのだった。
そこで薬草の特徴を教わりながら、せっせと採取を頑張った。
魔物退治のほうは……うん、シンさんとリョソンさんに魔法を当てなかっただけで、良しとしとこう!