おまけ、話を聞く
目の前で繰り広げられる、見知らぬ人達からのお姉さんに対する状況説明に、私は必死で耳を傾ける。
どうやらここは、異世界らしい。
元の世界には、もう帰れないらしい。
このお姉さんは、聖なる聖女様らしい。
世界に蔓延する負の力を浄化して貰う為に召喚されたらしい。
この浄化は誰にでもできるというわけではなく、遥か昔、聖なる力を用いて"清浄のクリスタル"という浄化の為の道具を作り出し世界を浄化して歩いた聖女様の生まれ変わりでなければ、その道具を扱えずに浄化を行えないらしい。
だからその道具を保管している各地の神殿を回って清浄のクリスタルに祈りを捧げ浄化をして欲しいと、見知らぬ人達はお姉さんに頭を下げた。
帰れないという事実に衝撃を受け、ひとしきり泣いて……やがて落ち着いたお姉さんは、小さく頷いて了承を示した。
次いで私に視線を向け、それに倣うように、見知らぬ人達、この国の王様達も、私を見た。
あ、やっと私についてのお話になるんですね?
「……あの、私がその聖女なら、この子は……?」
「はて……それが、よく、わからないのです。我々が召喚したのは、聖女様のみの筈なのですが……何故、この少女まで現れたのか……」
「えっ……じゃ、じゃあこの子はもしかして、私が巻き込んじゃったとか……!? あの、この子、ここに来る前に、すぐ側にいたんです!」
「なんと……!? わ、我々が聖女様を見つけ召喚魔法を展開した時は、確かにお一人だった筈ですが……!!」
「え、そ、そうなんですか? でも……あっ、そういえば、この子に会ったの、あの光に包まれるほんの少し前でした……! ま、まさか、そのせいで、確認もれ……!?」
「! それは……うむ、そういう、事、だな……」
お姉さんの話に頷いた、王様だと名乗った男性は、無言で私の目の前まで来ると床に膝をつき、私にその目線を合わせた。
「すまない、娘。こちらの不手際で、そなたまで、生まれた世界から引き離してしまった。二度と、戻れぬというのに……。そなたのような幼い子供では、さぞ辛く悲しかろうな……両親と、二度と会えぬなどという事実は……。本当に、すま」
「え、別に」
「ない…………は?」
あ、しまった、つい本音が。
思わず出てしまった言葉に、王様はポカーンとした顔で私を見る。
うん、まあ、そういう顔になるよね。
お姉さんのあの反応が、普通なんだろうし。
でも、仕方ないと思うんだ。
だって、私達は家族であって家族じゃなかったもの。
私の本当のお父さんは、小さい頃に事故に遭って死んでしまっていて、今のお父さんはお母さんが再婚してできたお父さん。
お母さんに紹介されて、再婚して一緒に住むまでは優しくしてくれてたけど、お母さんが妊娠して妹が生まれると途端に豹変した。
ずっと仲良く助け合ってきたお母さんは、死んでしまったお父さん似らしい私より、自分に似た妹のほうを溺愛して私を蔑ろにするようになった。
妹は、成長するにつれて、両親に空気のように扱われてる私を見下すようになった。
最初こそ気を引こう、もう一度好かれようと頑張った私だったけれど、次第に疲れてしまい、関係を改善する事を諦めた。
だからあの三人と私との間には壁ができていたし、二度と会えないと言われても、特に未練はないんだ。
今日一緒に連れて行って貰えたテーマパークも、なんという事はない、ただ同じ町内にあって、誰か知り合いに私だけいないのを見られたら厄介だからという理由だけで、一緒に行っても、何に乗りたい、どれが食べたいと聞かれるのは妹だけで、私がかえりみられる事などなかった。
私達は、そういう関係なのだ。
……まあ、帰れないと言われても特に困惑も動揺もしない、という事実が、少し……少しだけ、悲しくはあるけどさ……。
「えっと……気にしないで下さい。仕方ない事でしたでしょうし。……それより、私、どうなりますか?」
「う、うむ……そうだな。そなたはまだ子供であるし……」
「勿論、私が面倒を見るよ! こんな事態に巻き込んじゃったの私だし! 責任はちゃんと取るから……私まだ未成年だけど、保護者役をするから! 一緒に旅に行こう!」
「あ……はい。わかりまし」
「待て! それはならぬ。旅は危険だ。今は負の力のせいで魔物が常より凶暴化しておる。無論旅には護衛が付くが、守る対象をむやみに増やすわけにはいかぬ。言い方は悪いが、何の力もない子供を連れて行くのは許可できぬ」
「えっ、そんな……! ……でも、危険があるなら確かに、連れて行くのは……」
「聖女よ、心配はいらぬ。この娘の事は、きちんと面倒を見てくれる者に預ける事とする。心当たりがあるのだ。信頼できる者ゆえ、必ず幸せになるだろうて」
「え、そ、そんな人がいるんですか……? ……わかりました、なら……お任せします。……あの、本当にごめんね、巻き込んじゃって。旅から戻ったら、様子を見に会いに行くからね!」
「……はい、ありがとうございます。旅……お気をつけて」
「うん、ありがとう……貴女も、また会う日まで、元気でね!」
そう挨拶をすると、お姉さんはやたらキラキラした人達に連れられて去って行った。
そして私は、一晩だけお城の豪華な食事やお風呂、ベッドを堪能し、翌日、信頼できるという人に引き合わされ、その人の家へと連れられて行ったのだった。