神託騒動
★☆以降は領主様視点です
その日、セイントバルド王国の三つの場所に神託が下った。
ひとつは王都、王城。
ひとつは同じく王都、神殿。
そして最後のひとつはラッセルライト領の領都、ラッセルフォーム。
神託を受けた三人の人物を筆頭に、その三つの場所は俄に慌ただしくなったのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★
「私は申した筈です。あの男ではなく、私の元へ少女を預けて下さいと。そうしてさえ下さっていれば、少女が何日もさまよう事などなかったというのに」
「う、うむ……すまぬ。よもや、あの伯爵が少女を放り出すとは思わなんだ……。信用していたのだがなぁ……」
「貴方は少々人が良すぎるのです。一人の人間としてはそれは美徳ではありましょうが、王としては、もう少し慎重な判断をして戴きませんと」
「うむ……そうだな。すまなかった」
ラッセルフォームから魔の廃村だったあの村へ向かう馬車の中で、私はくどくどと兄である陛下に苦言を呈していた。
神託が下ってすぐ、王城から早馬が出され、兄と神殿の大神官殿が領地を訪れる事を報された。
無論、神託の内容からそれを予測していた私に抜かりはない。
予定を調整し、万全の態勢で出迎えた。
そしてこれ幸いと、我々の他には大神官殿しかいない馬車の中で、ソラ・マイケ嬢に起こった災難を話し、兄を責め立てる。
大神官殿は人格者だ。
話の内容を知れば、私達が兄弟である事を考慮し、不敬には目をつぶってくれる。
「お二人とも、そのお話はそろそろ終わりにして下さいませ。公爵様、陛下もしかと反省なされているご様子。貴殿の忠言はお心に深く刻まれた事かと。……それよりも、魔の廃村だったというその村にはまだ着かないのですか? 今は一刻も早く辿り着き、光の精霊様をお迎えする準備をせねば。もし、準備が整わぬうちにかの少女が契約を済ませ、光の精霊様が降臨されるような事になってしまったらそれこそ一大事です」
「大丈夫です、大神官殿。もうまもなく到着致します。……しかし、神殿と塔を同時に建てよとは……それもできるだけ急がねばならぬし、職人達にかなりの負担を強いる事になりますな……」
「ああ、それについては案ずるな。追って王都からも人を出す。今頃宰相が手配しているはずだ」
「無論、我々も協力しますぞ。食事の炊き出しなら我らの常たる善行ですからな。職人達の食事はお任せくだされ」
「それは有り難い。どうかよろしくお願い致します。……おや、馬車の速度がゆるみましたね。どうやら到着したようです」
「おお、ここが……! では、早速村を見て回り、神殿を建てるに良い場所を決めねば。光の精霊様が降臨なされる場所なれば、心穏やかに過ごされるよう、環境も整えねばなりません」
「塔も近いほうが良かろうか? 光の精霊様がおわす神殿となれば、信心深い者達の参拝もあろうし、宿などの必要な施設も造らねばな。やることは山積みだ」
立派な馬車が村の入り口に止まり、そこから身形のいい人物が三人も降り立った事に、村の家々を解体し造り直そうとしていた職人やその家族達は手を止め、呆然とこちらを見つめている。
そして。
新たに建設を指示されたものに、あんぐりと口を開けた。
私もだが、彼らにも完全に想定外の事態だろう。
やれやれ、苦労をかけるな。