おまけ、聖獣の子(仮)、始めました
見渡す限り、どこまでも草原が続くその場所を、とりあえず歩き出す。
クーガルーゼン様は、『光の眷族と契約して参れ』と言っていた。
という事は、こうして歩いていればいずれ誰かに出会うだろう。
そうしたら、その人に契約して貰えるように話しをすればいい。
そう思い、辺りを見回しながらすたすた歩く。
てくてく歩く、とことこ歩く、ぽてぽて歩く、よろよろ歩く、ふらふら歩く……ちょ、ちょっと、休憩しようかな……??
私はその場に座り込んだ。
「はぁ……広い」
そして、誰もいない。
これは、ちょっと……誰かを見つけるだけでも、時間がかかりそうだ。
無理せず休憩を挟みつつ進もう、うん。
そう決めて、ごろんと寝転がる。
晴れた空の下にある草原にはそこかしこに小さな野の花が咲いていて、心地よいそよ風が吹いている。
ピクニックをしたら楽しそうだ。
やった事はないし、ここに再び来るのは難しいだろうけど、他の似たような場所でならできるだろう。
誰か、付き合ってくれないかなぁ、シンさん達とか。
あ、でも、この後私、旅をするみたいだし……その途中で、旅の合間にできないかな?
聖女様になったあのお姉さんならたぶん、付き合ってくれそうな気はするけど……他の仲間の人達もいるし、お願いしたら迷惑かなぁ?
う~ん、旅が終わった後にシンさん達にお願いするほうがいいかなぁ……あ、でも、シンさん達ってずっとあの街にいるのかな?
冒険者さんって、護衛の仕事とかもあるし、色んな場所を流れ歩きそうだよね…………あ、そういえばシンさん達、長期の護衛依頼受けてた!
てことは、あの街出て行っちゃう!?
その後また戻ってくるならいいけど、そうでないなら……もう会えない、って事になる、よね……。
ええぇ……お別れは、嫌だなぁ…………うぅ、でも、それでも生きて、元気でいてくれるなら、また、いつか会う事もできるかもしれないし……。
クーガルーゼン様にあの影の対処法も貰えたんだから、もうあのゲームのようにはならないんだから、この先も生きてるんだから、どこかできっと、会えるよね……!!
「……微かな悲しみの感情を感じて来てみれば、人の子か。このような場所に寝転んで、どうした? 迷い子か?」
「えっ!?」
突然聞こえた声に、急いで起き上がって見てみれば、数歩先に真っ白な毛を全身に纏った大きな動物が立っていた。
えっと確か、獅子、だったろうか?
そんな名前の動物だったように思う。
さっきの声は、あの獅子のものだろうか?
「あ、あの、初めまして。貴方は、光の眷族さんですか? 私、クーガルーゼン様に契約するよう言われて来たんです。貴方がそうなら、契約をお願いできないでしょうか?」
「ほう、かの方に契約を勧められたと申すか。いかにも、我は光の眷族だ。この地にはそれしかおらぬよ。……しかし、そなたのような幼子ならば、契約相手は我でないほうが良かろう。あちらへ行くが良い」
そう言うと、その獅子は一度右の方向へ顔を向け、そして再び私を見ると『ではな』と言って去って行ってしまった。
こ、子供である事を理由に断られちゃった……あの獅子、子供嫌いだったのかな……うぅ、仕方ない、言われた通り右方向に行ってみよう。
休憩はもう終わりにして立ち上がり、私は再び歩き出した。
しかし。
それからも何人……いや、何頭? かの光の眷族さん達に出会うも、その全員に『子供か』と言われて断られてしまった。
ひ、光の眷族さん達って、子供嫌いな人が多すぎないだろうか……。
契約できるのか不安になってきた……どうしよう……あっ、こんな時こそ、ゲームしてから行動すべき?
ソラキャラを動かして、契約してくれる光の眷族さんが現れたらゲームをやめてその場所に向かって歩いて行けばいいんじゃない?
「よし、早速起動を……って、えっ?」
3D〇を出現させようとした私に、ふっと上から影が落ちた。
不思議に思って顔を上げて、そのままぴしりと固まる。
目の前には、軽く三メートルを越えるだろう大きなカンガルーが立っていたのだ。
「光の眷族との契約を望んでいる幼子というのは、貴女ね?」
「えっ、あっ、は、はい、そう……です」
「そう。……クーガルーゼン様の勧めと聞いたけれど、貴女、ご両親は? 人の子なら、契約を望むなら親が神殿に付き添い、そこの神官が眷族に願い請うのが一般的なはずだけれど」
「え」
親、という言葉に、もう会う事もない人達の姿が脳裏に過る。
この世界に来た時、あの王様と話した時以来、思い出しもしなかった人達だった。
「……そう。貴女、もうどこにも"親"は存在していないのね。まだ幼い子供を……呆れたこと。不愉快だわ」
「え?」
「私、少し前に子を亡くしたの。とても可愛い子だったわ。独り立ちするまで、大切に育てたかった……。……子を大事にしない親なんで、不快なだけ。もう思い出さなくていいわ。忘れてしまいなさい」
「! ……私の記憶を、見たの?」
「……ごめんなさいね。通常と違う方法なのがどうしても気になってしまったのよ。お詫び、と言っては何だけど、私が契約するわ。眷族達も、幼子との契約なら、子を亡くした私がするのが一番だろうと言って、貴女を私の住処の近くへ誘導したのよ。私へ報せた上でね。貴女、お名前は?」
「えっ、あ、ありがとうございます! そ、そうだったんですね……私、ソラといいます! ソラ・マイケです!」
「そう。ソラ、私はルガル。貴女は、私が育てるわ」
「えっ?」
育てる。
そう宣言された次の瞬間、私の視界は大きくブレ、僅かに高くなった。
体は、何か温かいものに包まれている。
「……うわぁ」
自分の状態を確認した私は、思わずそう声を上げた。
私はルガルのお腹にある袋に、すっぽり収まっていたのである。