おまけ、神様に会う
光がおさまると、そこには紫色の着物を着た白髪のおじいさん…………おじいさん、だよね? が立っていた。
背筋はピンと伸びているし、筋肉も程よくついてて、全く年齢による衰えというものがなさそう…………神様って、凄いんだなぁ。
そんな事を思ってまじまじと見ていると、おじいさん……クーガルーゼン様は、にこりと優しく微笑んで口を開いた。
「こうして会うのは初めてじゃな。ソラよ、わしがクーガルーゼンじゃ。どうじゃ、この世界は楽しんでおるか?」
「あ……えっと、は、初めまして。あの、まだ、この世界に来て数日なので、何とも言えませんが……優しい、いい人達に巡り会えたとは、思っています。あの、この世界に連れて来て下さって、ありがとうございました。クーガルーゼン様」
「うむ、うむ。そうかそうか。この世界でとくと楽しい人生を歩むが良いぞ、ソラ」
「は、はい。……あの、それで……クーガルーゼン様。ゲームの……えっと、ハーデンクーガに出てくる、あの黒い影の事なんですけど。どうしたら回避できるんでしょうか?」
「む? 黒い影? それが今回こうして会う事になった理由かの?」
「は、はい。何度違う行動しても出て来て、ゲームオーバーになっちゃいまして……。回避の方法を知りたいんです」
「ふぅむ……暫し待ちなさい」
そう言うと、クーガルーゼン様は胸の高さに右手をかざした。
するとその手から光が迸り、長方形の板になる。
そして、そこに映像が流れ出した。
「あ……っ」
それはゲームで辿った内容だった。
あの黒い影が出てくるまでを、何度も映し出す。
あの最後には……シンさん達が…………。
それを見たくなくて、私は光の板から目を逸らして俯いた。
どれくらいそうしていただろう。
しばらくすると、光の板が粒となって霧散した様子が見て取れた。
光の粒子が、俯いた私の視界にも入ってきたのだ。
「ふぅむ……なるほどのぅ。あれがこの国にも流れておったとはの。どこにも救いがたい愚か者はおるようじゃ……嘆かわしいのぅ」
「え……?」
クーガルーゼン様の呟きに顔を上げると、クーガルーゼン様は顎に手を当て、何やら難しい顔をしていた。
「しかしどうしたものか……。これは聖女達がある程度成長してからあの国に送り対応させるつもりであった案件であるしのぅ……。今の時点ではまだ力不足だのぅ。かといって放置してはソラが死ぬ。それではこの世界に連れてきた意味がないし何よりそんな事態は許せん。うむ。……しかしじゃ……現在あれに対抗できるであろう光の精霊王はいずれ聖女に与える存在だしの……ソラにはやれんのぅ。となると…………むぅ…………」
ぶつぶつと呟きながら、恐らく対応策であろう事を考えているらしきクーガルーゼン様をただ見つめ、暫し待つ。
手持ち無沙汰で暇だけれど、下手に声をかけたりして考え事の邪魔になってはいけない。
きちんとした対応策を示して貰えなければ、私は死んでしまうのだから。
「ふむ……やはり、こうするのが一番かのぅ。ソラよ、そなた、巫女にならんか?」
「え? み、巫女、ですか? それって、一体?」
「うむ。巫女とは、神事を司る女人の事じゃ。そなたが浄化した村に光の力を司る神殿を建て、そこの巫女にそなたがなるのじゃ。あの村は永きに渡って負の力が満ちていたせいで、浄化した今も他の地よりも負の力が集まりやすい。光の神殿を建て常に浄化するようにせねば、そこに住む生物は短命となる事だろう」
「え、えええぇっ!? そ、そうなんですか!?」
「うむ」
「えぇ……。……あ、じゃあ、えっと、神殿って事は、あの……清浄のクリスタル、でしたっけ? あれを置くんですか?」
「いや。村とその周辺を浄化するだけであれば、そこまで大きな神殿である必要はないからの。あれは必要ない。しかし象徴は必要だろうの。それに……せっかくじゃ。あれの被害者達……そなたが言う"黒い影"を元に戻す施設も作りたいしのぅ。ソラ。そなたを光の眷族が住む地へ送る故、誰かと契約して来てくれんか。その間に神託を下ろし、村の準備を進めさせておくからの」
「え」
あれ……これ、村に神殿を建てて、私がその神殿の巫女になるって、もう決定しちゃってる?
ま、まあ……そうしなきゃ、あの村に住む人達が大変な事になるみたいだし、仕方ないのかな……。
私はどうせあの村に住むつもりだったんだし、仕事が決まって、ちょうど良かったのかもしれない。
一人で冒険者続けるのは、ちょっと怖いし。
安全な仕事が見つかって良かったんだと思おう、うん。
……神事っていうのがどんな仕事かはよくわからないけど……少なくとも危ない事はないよね?
「それと、差し迫ったそなたの危機じゃがの。ハーデンクーガに新たな能力を追加しておく。"黒い影"が現れたら、能力を発動しハーデンクーガの中に閉じ込めい。施設と連動もさせておくでの、元に戻るまでそなたが世話をしてやるとよい」
「えっ?」
「ついでに、乗りかかった船じゃ。そなたも聖女達と共にあの国へ赴き"黒い影"を作っておる諸悪の根源を滅して参れ。それには双方まだ力不足である為共に成長してからとなるのでちと長い旅となろうが、まあ、そなた達なら大丈夫であろう。聖女の護衛達は聖女のものであるが……まあ、わしが考える必要人数よりもだいぶ多いからの。その中の一人や二人、そなたを気にかけたとて構うまい」
「え、えっ? あ、あの、クーガルーゼン様っ?」
「何じゃ? どの道、あの"黒い影"が作られ続けておるうちはそなたの身は狙われ続けるのじゃ。滅して阻止したほうが良かろう、ソラ?」
「えっ! そ、それは……はい。わかりました……」
「うむ。では、頑張るのじゃぞ、ソラ。わしはいつでもそなたを見守っておるからの。さて、まずは光の眷族の地へ送ろう。契約して来るがよい」
「あ、あの、その契約って、どうやっ……!?」
そう声を発した途端、私は目映い程の光に包まれ、そして。
次の瞬間には、太陽の光溢れる、快晴の、広い広い草原のど真ん中に、一人立っていたのだった。




