プロローグ
置いて行かれた。
それを知ったのは、我が家の車が駐車場に停められていたスペースから消えていたのを目にした時。
空いたスペースを見つめ、私は力なく項垂れた。
住んでいる町にできた新しいテーマパークに家族で来たのは今朝の事。
一日遊んで、陽が傾いて来た頃、出口付近に密集する、グッズやらお菓子やらを販売しているお店を巡る家族について歩いていた私が、帰宅しようと出口に向かう人波に押され、両親や妹からはぐれたのは少し前。
慌てて周囲を探し、見つからなかった事に嫌な予感を覚えて急いでここまで来たら、案の定そこには、というわけだ。
……同じ町内とはいえ、まさか置いて帰られるとは、さすがに予想していなかった。
さて……どうやって帰れば家に着けるだろう?
家の近くまで行くバスは出ているだろうか。
お金、足りるかなぁ?
とにかくまずはバス停を探さなくちゃ……。
溜め息を吐いてとぼとぼと歩き出す。
そうして、数分後。
「あら? 貴女、どうしたの? お父さんとお母さんは?」
バス停を探してきょろきょろしながら歩いていたせいか、ふいにそんな声をかけられた。
声のしたほうに顔を向ければ、高校生くらいの優しげな顔をしたお姉さんが立っている。
「え……あ、あの、えっと」
「あ、もしかして迷子? なら一緒においで。迷子センターに案内したげる!」
「え、い、いえ、あの……」
笑顔で差し出された手を見て、私は困惑した。
迷子センターに行って呼び出して貰っても、既に家族はここにいない。
けれどそれを正直に話せばきっと大事になる。
そして大事になれば、後で両親から怒られるのはもうわかりきっている。
親切に声をかけてくれたこのお姉さんには悪いけれど、なんとか誤魔化さなければ。
「あ、あの、大丈夫で」
『大丈夫です』と告げようとした私の言葉は、しかし最後まで発される事はなかった。
私のその声は、突然足元から放たれた白い光の奔流に呑み込まれたのだ。
私自身と、目の前にいるお姉さんと共に。
そして。
「お目覚めになられましたか、聖女様!!」
歓喜を多分に滲ませた大きな声に、意識を失っていた私は強制的に起こされる事になる。
横になっていた体をゆっくり起こした私の視界に飛び込んできたのは、テレビで見るアニメに出てくるような、王様や騎士様や魔法使いの格好をした、見知らぬ人達だった。