まりっじぶるー
思い出す、おとといの夜のこと。
手の中で光る指輪。ありきたりなプロポーズ。
緊張すると眼鏡を触る癖は、サプライズには向いていなかったけれど。
ずっと大切にするよなんて、なんとも簡単に永遠を約束してしまう。
永遠なんて馬鹿げてる、そう思いつつも、少し信じてしまう私がいる。
幸せは、必死でもがいて足掻いて、やっと手に入れるものだった。
だから、ふわふわと生きているだけの私には訪れることはなくて、それは一生そのままだと、ずっとそう思っていた。
別に今に不満がある訳でもないし、それなりに楽しくやってる。
でも、私の中の幸せは、とてつもなく大きくて、手を伸ばしても届かないような遠くにあるものだった。
なのに、あぁ、なんで。
こんなにもあっけなく、幸せ。
まだ少しふわふわしていて、冷たい水を飲んでなんとか目を覚ました。
目が悪いせいで、君の寝顔さえもボヤけてよく見えない。
少しふらつきながら洗面台にたって、コンタクトをつける。
色違いの容器は、赤が私で青が君。
お揃いが大好きな君は、こんなところまで抜かりない。
そうすれば心もお揃いになると、馬鹿みたいに信じていたのだろうか。
あぁ、馬鹿なヤツ。
君の愛を一蹴して、やっと私は私を保てる。
君は知らない。
私のこと、ホントは何にも知らない。
私のなかの醜いところ。
冷たくて、暗い、
ずっとずっと奥深くにあるところ。
何にも汚されてない君は、裏切りを知らない。
君に映る世界はとても綺麗で、私はそこにいる時だけ美しくなれる。
君にはそれが全てだから。
それが君にとっての私だから。
もっと、はやく出会ってたらなぁ。
ありきたりなセリフ。誰に向けたものだろう。
君が寝返りをうつ音が聞こえて、ふと我に帰る。
甘ったるい夢のような時間たちと、私はお別れしなければいけない。
もう、甘えちゃいけない、幸せになるために。
絶対的だったものが突然無くなってしまうのは、どんな気持ちだっただろう。
私がそれを最後に感じたのは、酷く昔だった気がする。
君はどんな顔をするだろうか。
泣くのだろうか、叫ぶのだろうか。
靴を履いてドアを開ける前に、
私は振り返って君の部屋を見た。
この位置からは、君の足しか見えない。
でも、まだベットの上で寝ていることは分かる。
何か、言うべきだったのだろうか。
でも、君に言う言葉が見つからなかった。
ううん、これ以上、傷つきたくなかった。
最後までワガママな女だ。自分でも嫌になる。
冷たいタイルの上に水滴が落ちる。
この涙もきっと、自分の為だろう。
君が起きる頃には、きっと乾くはず。
(幸せに、なってね。)
嘘つきな私だけど、でもそれでも、その言葉に嘘はなかった。
けれど、私にそれをいう権利なんてない。
代わりに、ごめんねって小さく呟いて、私は部屋を出た。