ショートショート スマートフォン
ふと、私はスマホから顔を上げた。
仕事の昼休み。狭い社員食堂で無言の私を含む四人は、全員スマホを弄っている。
最近の若者はスマホばかりを触って、近くにいる人を見ようとしない。遠くにいる人ばかりを見て、側にいる人を大切にしない。
実に嘆かわしいが、かく言う私も今では四六時中スマホを見ている。
私が若かりし頃は、スマホどころか、ケータイも其処まで普及しておらず、それでも様々な人と繋がっていた。
激動の時代。始めて数字しか打ち込めないポケベルを持ち、暗号で恋人に愛を語らい、PHSをもったときには、その通話料が六桁に届いて親に叱られたこともある。
今ではインターネットを使い、SNSで世界中、ありとあらゆる人と繋がれる。
すぐ側にいる大事な人を蔑ろにして、何が世界中だ! 実にけしからん。けしからーんぞ。
そう私が現代社会に憂いているその時、てぃんこーんと、私のスマホにラインの通知。
向かいの席に座っているマリちゃんからである。目の前にいるのだから、顔を見て喋れってんだ。
『係長♡ 今夜、食事いきませんか?』
私が顔を上げれば、上目遣いのマリちゃん。
……やっべ、やっぱスマホ最高だわ。