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2話

「いつまで落ち込んでんだよ。いい加減元気だせ。な? ほら、エリカなんて心配と嫉妬で凄い顔になってんだから」

「だ、誰が嫉妬してるのよ! べ、別に昴が誰を気にしようが、私には関係ないわ! いつまでもしょぼくれた顔されてちゃこっちまで気が滅入るってだけなんだからね!」

「ううっ二人ともごめんね……」


あれから時間は過ぎて、午前9時過ぎ。

今僕達三人は、もとい学校の生徒全員は体操着に着替えて学校のグラウンドに整列している。

何故かというと、今日は一年の中でもとても大事な日である、年に一回のランク測定日だから。


ランクっていうのは、ギルドによって認定される、人の持つスキルのレアリティ、魔力の多さ、そしてそれらを扱う技量を見て総合的に出される、人の強さを表したもので、このランクは其々FからSSまであって、上に行くほど生活や権力などに色々な恩恵を受けることが出来る。ただ総合的な強さだから、例えばCランクスキルを持っていても、上手く使いこなせなかったりするとランクはDになったりするんだ。

ただ、ランクは上に行けば行くほどモンスターや異種族、そして人との戦争の時には前面に立って戦わなくちゃいけなくなるのだけれど……


「べ、 別に謝ること無いわよ。ただ昴が気にかけるべき女の子はちょっと会っただけの女の子よりも、もっと身近にいると思うわ。そう、案外すごく近くにね」


あの出会いの後、忽然と姿を消した彼女を探したけれど結局見つけることは出来なかった。

せめて、せめて名前だけでも聞きたかった……と、こんな調子で、大事な日に、ずっと落ち込んでいる僕を、親友二人は励ましてくれている。

僕は本当に良い友達を持ったものだ。


「……ほぼ告白だろそれ。つーかこれでも気づかないとか、もはや鈍感ってレベルじゃねーよなぁ」

「気づくってなにを?」

「いや、何でもねーよ。つか、俺もその黒髪美人に会ってみたかったぜ。おっぱいもデカかったんだろう? もう少し早く登校しとけば会えたのに、くぅ〜惜しいことした」

「バカな事言ってんじゃないわよ、昴に変な事吹き込むなっ言ってるでしょ。でも、不思議よね。それに私達が昴を見つけた時、そばに誰かいた気配も無かったし。魔力も感じなかったわ」

「魔力痕をエリカが気づかないなんてありえないもんね」

「そうよ昴、もっと褒めて。私は凄いんだから」


同級生達よりも遥かに小さな背丈のエリカがえっへんと胸を張る姿はいつものハツラツとした雰囲気ではなく、幼い少女の様な可愛らしさを感じる。


「けどよ、実際エリカでも何も感じないって事は、転移系のスキルの持ちか、エリカより相当な実力者の遮断系のスキル持ちってことだよな?」

「そうね。けど、転移なんてSランクスキル持っているのなんて、この国でもほんの一握りだから、名前は知れてるし、それにあんな完璧に魔力まで消せる実力も持っている人なんて聞いたこと無いわ」

「同じオールSランクかつ『癒姫』の言葉だと説得力違うわな」

「もう! その名前恥ずかしいから呼ばないでって言ってるでしょ。もしかしたら一年の間に成長したって可能性もあるのかもしれないけど……やっぱり怪しいわね。昴、もうその女の事は忘れましょ」

「い、イヤだよっ。それに、あの人とは何だかまた会えるような気がするんだ 」

「ふん! 昴のアホ!」

「エリカ?いきなり怒りだしてどうしたの?」

「なんでもないわよ!」


エリカはそっぽを向いてしまった。ダンも「良い加減素直に言っちまえよ」と言いながら呆れたような目でエリカを見ているし、どうしようかと思っていると、グラウンドのスピーカーから校長先生の声が聞こえてきた。


「え〜皆さんおはようございます。本日は皆さんの一年の頑張りを審査する大切な日です。各々緊張せず自分の持てる実力を出しきってください。そして、今日はなんと皆さんの頑張りを、日本ギルドの長であるエドワード・エドワルド閣下が見に来て下さっています。だからと言って緊張しないように。良いですね?」


校長先生の言葉に、集まっていた生徒達皆がざわめいた。

エリカもダンも驚いている。

それもそうだ。エドワルド閣下と言えば、あの世界災厄『八王』と唯一戦う事ができる英雄なんだから。


「うおっマジかよ! エドワルド様なんて初めて見るぜ。エリカも会った事無いんだろ?」

「ええ。ギルドの集会でも会えた事無いわ。すっごくご多忙って聞いてたから」

「そんな方が、公表もせずにこんな田舎の学校に来るなんて、事件の匂いがするぜ……! なっ?お前もそう思うだろ、昴」

「うわぁ、エドワルド様かぁ! 姿を見れるなんて嘘みたいだ!」

「あちゃー。出たよ昴の英雄オタク」

「あら、英雄に憧れるなんて小さな子供みたいで可愛いじゃない」

「はいはい、砂糖吐く砂糖吐く」

「えー皆さん、気持ちは分かりますが静かに。静かにですよ。……ごほん。ではエドワルド様、お言葉をお願い致します」


エドワルド様かぁ!どんな人なんだろう……。本にはエドワルド様がどんな事をしたかとかは書いてあったけど、どんな人物なのかは何故か詳しく書かれて無かったから、少し緊張するなぁ。


だが、エドワルド様は皆の前に姿を現さない。全校生徒は勿論、校長先生も困惑していると「なんだあれは!」と一人の生徒が東の空を見上げ叫ぶ。

そちらを見ると、太陽から一筋の光が猛烈なスピードで此方に向かってくるでは無いか。

そしてその光は一瞬のうちに、全校生徒の前に立っていた校長先生の隣に到達した。

凄まじいスピードであったため砂煙が舞う。

と同時に何故か空から紙吹雪が舞い始めた。

えっ何で!?

と思っていると砂煙の中から現れたのは、サングラスを掛け、無精髭を生やし、着崩したスーツを身にまとった、黒髪の男性であった。


「ハーッハッハッハ! 俺、華麗に参上!俺がエドワード・エドワルドだ。宜しくな、チェリーボーイ&ヴァージンガール共!」

「なーにやってんですか! この年中頭残念男がぁっ!!」

「いってーなっ! 鈴香! 頭殴んな!お偉いさんの頭を! おまっ、せっかく俺がかっこ良く登場したってのに台無しよ?台無し」

「何がかっこ良くですかっ! 事前に説明もなくあんな登場、非常識過ぎですっ。怪我人でも出たらどうするんですか! それに何ですか、あのチェリーなんたらってのは」

「そりゃあれよ。やっぱ最初が肝心じゃん?気持ち捕まえたいじゃん? この年代の学生なんて皆、ちんこ、うんことか下ネタ大好きじゃん?だからよ、適度なジャブからかました訳よ」

「全然意味が分かりません。と言いますか、その…ち、ちんこ、とかうんことかで喜ぶのは精々小学生までです」

「照れながらのちんこいただきました〜! イイね! どうだチェリーボーイ共、これが俺からのプレゼ「死ね!」ぶべらっ!?」


皆ぽかーん。

僕もぽかーん。

突如の出来事に思考が付いて行けてないみたいだ。

エドワルド様と名乗った男性の凄い挨拶の直後、雷光の様な速さで、クールビューティーの言葉が似合いそうな鈴香と呼ばれた女性がエドワルド様の隣に現れ、頭をわりと本気に殴ったと思いきや、何やら言い争いを始めた。


「あ、あれが日本トップ……」

「な、何だか凄いね……」

「あれがエドワルド様か……。想像を超えたと言うか、随分と破天荒な人っぽいな。だけど、ちんこグッジョブ!」


ダンは、鈴香さんにまたグーパンをされているエドワルド様に向かってサムズアップをした。

周りを見てみると、男子生徒を中心に、これまたエドワルド様に向かってサムズアップをしている。


「ほらぁーー! 見てみやがれ鈴香! 男子は喜んでんだろ」

「女生徒は大体引いていますが」

「良いか、鈴香。この世界は何かを得るためには何かを諦めなくてはならないんだ」

「何、良い感じに締めようとしてるんですか」

「ぴゅ〜」

「ふけもしない口笛で誤魔化さないでください」


そんなやり取りを繰り返す、二人を見ているうちに、生徒達から緊張感が解け、笑い声が聞こえ始める。

すると、エドワルド様は僕達全校生徒をみて朗らかな笑顔を浮かべた。


「おっ。お前らやっと表情が柔らかくなってきやがったな。それで良いんだよ! こんな中年おっさん相手に緊張してたらもったいねーぞ。どうせ緊張すんなら、この鈴香みてぇな美人にした方が得だ」

「び、美人……! もうっ、バカな事を言わないでください」

「ホントの事だぜ? 今日はランク測定日。俺がいようがいまいが、ただでさえ緊張する日だっつーのは分かる。だけどよ、笑顔で行こうや? 上のランクを目指す。金が欲しい、名誉が欲しい、周りが目指すから目指す。お前ら一人一人いろーんな思いがあるわな。だからこそ、今日は楽しもうぜ」


皆がエドワルド様の言葉に聞き入る。


「こんなおっさんが日本のトップなんだ。お前ら若い連中が、もしかしたら、将来鼻くそほじりながらでも、世界を救う英雄になるかもしれないぜ?」


エドワルド様と目があった気がした。

英雄。

僕も、本当になれるのだろうか。


「諦めなければ、夢は必ず叶う。お互い頑張ろうぜ?若人よ」


そう言い終わると、エドワルド様の言葉に聞き入っていた皆から拍手が巻き起こる。

夢は必ず叶う、か……。

僕は高鳴る心臓に合わせ、皆と一緒にエドワルド様に拍手を送った。



エドワルド様と鈴香様はスケジュールが埋まっているらしく、その後すぐに学校を離れて行った。

「良い昴? エドワルド様も言った様に、緊張しすぎないようにね。一年間頑張ったんだもの、きっと大丈夫よ」

「う、うん。ありがとうエリカ」

「保護者かお前は」


ダンは苦笑しながらツッコミをいれる。


「それじゃね。行ってくるわ」


エリカは小走りで女子グループの方へと向かっていく。


「そんじゃ俺たちも行きますか」

「うん!」


僕達男子はまず魔力量の測定から始まる。僕だってエリカとダンに特訓を付き合ってもらいながら一年間努力したし、去年より成長してるはずだ。よーし頑張るぞ!と自分では気合を入れた顔をしたつもりだったんだけどダンに「面白い顔になってんぞ」と笑われた。

恥ずかしい……


そして一日かけて測定は終わり、僕に出された結果は


Eランクスキル『身体能力上昇』

魔力総量F

魔力操作F

総合Fランク


という、去年と何一つ変わらない結果だった……

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