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第十話 尽きない心配

最近「シーラス姫と愉快な仲間たち」を修正しました。

読み返してみると表現などかなり変わったかもしれません。話の内容は変更してはないと・・・思います。

とうとうシーラス姫は一日経ってもジュウクのもとに現れなかった。


それでも月は沈み日は西から輝きだす。



ジュウクの一日が始まる――――――



いつもの黒いシャツに黒いスラックスを着る。


シャツの上には王宮魔法使いの象徴ともいえる黒いジャケットを。


俺は目も髪も黒だから周りに変な目で見られる。全身黒いから・・・ だから出仕以外のときはジャケットは着ない。


シーラスからも『地味』『根暗に見える』などと散散言われてきた。


だが昨日からその姫も姿を現さない。

実に平和な一日であった。

静かな生活。新薬の研究にも没頭できる筈だった。



…だが実際は失敗続き。

薬の原材料の分量の比は間違え失敗。

薬を加熱していたことを忘れてボヤになり失敗。近くに置いてあったレポート類も焦げて作り直し。おかしい。

シーラスが来て邪魔をしてもこんなに失敗をすることはないのに。


だが今日はそんな失敗は許されない。

2日ぶりの出仕なのだ。

王宮でボヤ騒ぎなんて起こしたらとんでもないことになる。

・・・王宮の調度品や貴重な資料。失うわけにはいかない。

物品の損害ならまだいい。“人”を傷つけることは絶対避けなければならないのだ。


・・・・本当に俺はどうにかしている。

たぶん理由はアレだ。


シーラスが訪ねてくるのは日常だった。

しかし来なかった。


それが原因か。あの煩い生活に慣れてしまったから。


シーラス…


はっ

もしかしてここに来る前に何かあったのか?


まさか‘庭’という名の森に迷うなんてないよな…


まさか誘拐とか…


それはありえないから!


きっと来なかったのはアレク王様の命だからだ。あれは俺に非があるのに…申し訳ない…


でもあの姫さんは簡単に命に従うか?


…いくらなんでもアレク王様の言い付けなら守るはず。


いや違うな。

俺は彼女はそれを守れると断言出来ない。


もし脱走するならいつものように一人で来るだろう。かなり危ないのでやめて欲しいが。


王宮からどうやって逃げだすかは分からない。

だが森(庭)の中にあるこの家を目指すなら絶対森に入ることになる。


昼なら良いが夜森を歩くのはジュウクでも控えている。

勿論彼は並人ではないのだから真夜中でも平気だ。

それでも出歩かないのは師匠・マルサの教えでもある。『寝る子は育つ。だから夜遊び・外出禁止』マルサはこう言っていたが他にも理由はある。

街だと夜闇が濃くなるにつれて人の心の闇も強くなる。平和な国でも昼に比べ治安が悪くなる。

また森など自然が多いところでは野性動物が出没する。

人を襲う動物は少ないし危険にさらされても身を守ることは出来るかもしれない。だが過信はいけない。自然の中で起きること。

魔法使いだろうが基はひ弱な人間。自然の気まぐれには逆らえない。


さらに魔法を使えないシーラスはかなり危険。


森は俺が監視している。ここに住まわせてもらう以上森を安全に保つのは義務だ。

監視していると言っても家からせいぜい半径八百メートル。監視時間だって日によってまちまち。だいたい十時から一時間、森の中に『異物』が無いか時々気を澄ませながら気を配るだけ。


シーラスに…

…………もしも…のことがあったら…


……そう思うと煩くてもいいから無事な姿を見せて欲しい。


たった一日シーラスが来ないだけでこんな不安に陥るとは。


頭を抱える。

俺どこかおかしくなったのか?


おかしくなってない…

健康そのもの。寝る時間を多少削ったが日常茶飯事なので気を揉むことでもない。


ただあの幼なじみが心配なだけ。


…そんなに心配なら…

さっさと王宮に行けばいいではないか。


王宮で会えなくとも彼女の話が聞ける。無事かが分かる。王宮は彼女の噂が絶え間無く流れる場所。


…もっとも…俺の杞憂は取り越し苦労だろうが…


王宮の者はシーラスが消えるとジュウク宅に来る。

それはシーラス姫がよく通う幼なじみだからだ。

だから彼女が失踪したらジュウクのところに王宮の者がが訪ねてくるだろう。


勿論そんな者は来ていない。


なら無事のはずだ。


…そう分かっているのに何でこんなにイラつくのだ?

机上の朝ご飯のからっぽの皿。洗わなければならないのに…体はひどく重く皿一枚持ち上げるのも憂鬱だった。


何だ…?

何だ?



****


もやもやとした気持ちを抱えながら目の前にいる上司に目を向ける。

―――結局出仕しても、気分は晴れなかった。

さらにシーラスの噂も聞けなかった。いつもは煩いくらい耳に入ってくるのに。


「ジュウク殿。聞いてますか?」


「はい?」


椅子に姿勢良く座っているスマートなおじさんは…俺の上司・エバギーン殿。

エバンさんは王宮魔法使いの管理を担当している人。王宮魔法使いの誰もがこの人の指示を受けそれぞれの仕事をする。

要は魔法使いの仕事を調整している。



「どうかなさったのですか。らしくない。」

深い深い溜息を吐くエバン。


「申し訳ありません。…それでどのようなお話でしたか?」



「ジュウク殿。あなたには今日から『おまわり』をしてもらいます。」


「おまわりって・・・もしかしてあの(・・)?」


通称おまわり。正式に言うと首都巡回警備。

名前どうり魔法使いが街を歩きまわり異状はないか確認する、というのが本来の仕事だ。

だが実際は異状など滅多に起きない。


あの(・・)おまわりです。今まであなたの希望を通してこの仕事と魔法学校の講師だけは諦めて他の人にまわしていましたが今日から絶対やってもらいます。

ちなみに魔法学校の方は来週から非常勤講師として毎日通ってください。」


「・・・・・・・」


なんてことだ。『おまわり』だけでなく学校にも行かなければならないなんて…


俺は魔法学校に通ったことが無い。魔法使いになるには学校に通いその後師匠が見つけ弟子入りさらに実用的な技術を身に付け実力が認められないと魔法使いとして働くことは出来ない。

その魔法使いのトップが王宮魔法使い。数多の魔法使いの中から選ばれる最高峰の実力者。

生徒は師匠を選ぶことが出来ない。師匠が生徒を選ぶ。…それで師匠に選ばれなければ…魔法使いとしての道は完全に絶たれる。厳しい世界。


ジュウクは最初からマルサの弟子として魔法を学び始めた。――それは異例のこと。

そうでもしないと魔法を学ぶことが出来なかったのだ。親代わりのアレク王様に学校に通いたいなんて言えなかったから・・・


…苦手なのだ。魔法学校の生徒が。実は一度講師をしたことがある。皆ギラギラと目を光らせ教師から出来る限りの知識を吸収しようとしてくる。

しかもあわよくば自分が俺の弟子になりたいと頼み込んでくる。俺が弟子をとるなんて十年早いのに。


「何故今になってこの仕事をやるのです?」


「もうすぐ十六でしょう?十六は誰もが大人と認める年齢です。そろそろ仕事に本腰を入れていただきたい」


本腰。

そう言われ軽く今までの仕事を批判されてもしかたがない。結局アレク王様の庇護を受け自分のしたい仕事だけを選び過ごしてきたのだから。

俺にこの仕事を拒否する権限なんてない。


「分かりました。」


「あなたならそう言ってくれると思っていましたよ。おまわりのルートは9−29です。」


エバンはにっこりと微笑む。

この人は仕事にとても真剣だ。仕事のためには誰に嫌われようが仕方が無いと思っているだろう。

それでも嫌われないのは真摯な言葉とこういう些細な表情だろう。


「それでは行って参ります」


「はい。気をつけてくださいね」


昨日何とか仕上げたレポートをエバンの机にぽんと置き踵を返す。

さっさと完璧な仕事してやる。エバン殿に『本腰を入れていただきたい』なんて言葉絶対次は聞かないようにする。




「あ・そうだ。シーラス姫様なんか様子がおかしいらしいですよ。いつもとうって変わって静かで自室に篭っていらっしゃるそうで・・・・ありがたいことなんですが心配ですね・・・」


エバンは意味を含めた目をジュウクに向ける。その目はにやりとしていてこちらの居心地が悪くなる。


でも待ちに待ったシーラスの情報。あまり芳しくない情報だがそれでも状況を知ることができて良かった。


シーラスは無事だった。今はそれで十分。




「失礼します」


シーラスの情報をくれたエバンに心の中で崇め感謝した。

これだからこの人は憎めない。


5グラムほど心が軽くなったジュウクは新たな仕事への不安と期待を胸に城を後にした。



前回の投稿からかなりの時をあけてしまいました・・・

短編小説など他のものに気をとらわれたのですがなんとか書き上げることが出来ました。


予定と違い新たに登場したのは一人でした。


きまぐれ更新すみません。

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