初めてのお買い物デート その二
さて、次は三階へ向かう。
ここには食器やランプ、家具などの家庭用品が並んでいる。実は私はここを見たかったのよ。
カキノウチ家の食器は多数あるし、色柄も上品な良いものが揃っていて流石!という感じではあるんだけど、一つだけどうしても使い心地の悪いものが。
ヤポナの飲み物の主流はヤポナ茶。
お茶は栽培方法、摘取時期、製造方法、発酵度などによって様々な種類に分けられる。また、オプションとしてハーブを混ぜたものやお花の香りをつけたものもある。
ヤポナ茶は発酵させないで作られるお茶だ。対して、オランシアで飲まれるお茶のほとんどは完全に発酵させたものが用いられる。各国で栽培されているが、サンド国が有名な産地であることから、サンド茶と呼ばれる。
世界的にはほとんどがサンド茶でヤポナ茶はヤポナだけのものであったが、最近は他国でも飲まれるようになってきた。
ヤポナではお茶は取っ手のない少し縦長の円柱の形をした湯呑みと言われる茶器で飲むが、サンド茶はヤポナ茶より高温で入れる方が美味しく入れられるので、取っ手がついた茶器でないと熱くて持ちにくい。
カキノウチ家にも取っ手のついた茶器はあるが湯呑みに取っ手が付いたような形で、せっかくのサンド茶の特徴である香りが広がりにくく、またせっかくのきれいな色もわかりにくい。
商売柄、カキノウチ家にはサンド茶が普通にあるのだが茶器が合ってないとその魅力が半減だ。
ということで、アンジェリークは今日は絶対茶器を買うぞと思っていたのだ。それも、お揃いの夫婦茶器を!
流石に百貨店。アンジェリークが探す茶器も色々揃っている。
さあ、どれにしようかな~と見ていると旦那様が 「これかわいいんじゃない?」 と手にする物は... ...。
ブタ?
上から見ても下から見ても... ...ブタ?しかも結構リアル!
いや、まあ、人によってはキモカワイイとかいう人もいるかもしれないが、サンド茶にブタ?
ヤポナの人たちのサンド茶のイメージってどうなの?
選ぶ方も選ぶ方だけど、作る方も作る方だよね。さらには、売る方も売る方だ。
何故にブタ?
でも、旦那様、すごい笑顔なんですけど。離さないんですけど。そんなに気に入ったのかしら?
私はブタが好きなわけではない。美味しいけど。リアルな生身は好きではない。
ここでお揃いは諦めるべきか?それとも私もブタにすべきなのか?と、アンジェリークがうんうん唸っていると、店員がやって来て、
「さすがお客様、お目が高い!それはあの有名な茶器職人タナカの一品ものでございますよ。」
... ...いや、知らないし... ...。
「なぜ、ブタなのですか?」と聞くと、
「タナカのペットがブタなのですよ。とても賢く大人しい忠ブタだとか。そのブタへの愛情が込められた作品なのです。」
... ...ブタへの愛情... ...いらない... ...。
私が欲しいのは旦那様の愛情なのだけど。なんか念がこもってそうで怖いんですが。
ところが、旦那様はますます笑顔でしかも感動してる?
結局、旦那様の笑顔の圧力に負けて買っちゃいました。
ブタでサンド茶、なんかシュールだ。
でも、夫婦茶器だ、うん、お揃いだ。と自分に言い聞かせる。
あれだ、何事も慣れよね。きっとブタも慣れると可愛いわよ。慣れたらブタでもおいしく飲めるわよね。なんといってもお揃いだもの、うん、そうよ、大丈夫よ。
... ...頑張れ、私!
家に帰ってお義父様とお義母に見せたら、お義父様は大笑い。お義母様は、
「まあ、可愛い~!すてき~!美味しさ倍増ね!」
... ...旦那様、中身はお義母様似ですね... ...。