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シュテンさんは危険海域で漁をする

 先日、サケノミ水運のシュテンさんから港に着いたらお土産があると連絡がありました。 生ものなので早く渡したいと。


 そういう言うわけで、今日入港予定の『幽霊船』を迎えに来ています。


 どうでもいいですけど、この船名、呼びにくいですわ。

 船を指差して、「あ、幽霊船よ。」とか言ったら、周りの人に変な目で見られそうですわ。


 そんなことを考えながら待っていると。

 あ、見えてきましたわ。 あの船ですわね。 無事に航海できたようで良かったですわ。


 船影が段々近づき大きくなってきます。

 船べりに群がる船員たち。

 大きく風をはらんだドクロ模様の帆。

 その横には綺麗にたなびく大漁旗。


 ん?大漁旗?


「ねえ、うちが契約したのは貿易船だよねぇ。見た目や名前はともかくとしてさ。」


 ですよねぇ。 でも、どう見ても大型漁船ですわね。

 見た目や名前はともかく。


「なんで大漁旗なんだろう?」


 私にもわかりませんが、着いたらシュテンさんに聞いてみましょうよ。


 私たちが色々考えてる間に、船は港に入り梯子が下ろされ、人が次々に降りてきます。


 最後にシュテンさんが降りてきて、私たちに気付き、ニコニコしながらこちらに歩いてきました。


「よう!久しぶりだなぁ!元気そうで何よりだ。」


「いつもご苦労様。シュテンさんもお元気そうで良かったよ。ところで一つ聞きたいんだけど、あの大漁旗は何なの?」


 シュテンさんはニヤリと笑って。


「決まってんだろう。大漁だったから大漁旗を掲げたんだ。」


 そのまんまですわね。

 でも積み荷を運んでいるはずなのに大漁とはどういうことでしょう?


「どういうこと?取引が予想以上に大きくできたってこと?」


「なんだい、その謎かけもどきはよ。そのままだよ、大漁だったんだよ!」


 私たちが話している横では、カキノウチ家が注文していた荷物がどんどん運び込まれていきます。


 その中に生臭い匂いのするものが。

 今回は生ものは頼んでませんし、お土産にしては量が異常に多いのですが。


「おう、あの中から好きなもん好きなだけ持っていってくれや。」


 お土産あれですか? 買ったにしては多すぎますが、どれだけの人に配るんですか。


「だ、か、ら、大漁だって言ってんだろうが!買ったんじゃねぇよ。採ったんだよ。」


 はあ?貿易してるはずが漁をしてたんですか?


「ちょ、ちょっと、それはまずいんじゃないのさ。漁をするなら届け出がいるでしょ。勝手に採ったら泥棒だよ。採った場所によっては国際問題だよ!」


 そうですよ!

 海にだって国境はあるのですよ。 下手すりゃ戦争ですわよ!


「へっ、大丈夫だよ。採ったのは放棄地域、あの《魔の三角地帯》パムーダだぜ。誰も文句言えねぇよ!」


 ええ~!あの忌まわしき海域ですか!


 あの年中嵐が吹き荒れ、コンパスが狂い、不思議な光が現れ、どんな大きく立派な船も沈没し、しかも船も船員たちも跡形もなく消えてしまうと言う、あのパムーダトライアングルですか!


「アンジェちゃん、詳しいな......。そう、そのパムーダだよ。嵐もなく、コンパスは正常で、不思議な光も見えず、中型の俺の船でも沈没せず、船も俺らもここにいるけどな!」


 うっ、確かに無事にここにいますわね。 でも、多くの船が犠牲になったと聞きましたが。


「そうだよ、たまたま助かったんだよ。そもそも、そこは航行ルートに入ってないでしょう。なんで勝手にそんなとこ通ってるのさ!」


「けっ、お役所が勝手に決めたもん知ったこっちゃねえよ。それに、坊っちゃんとこの契約は積み荷と期限と出航入港場所だけで、それさえ守れりゃどこ通ろうが俺らの勝手だろうが。」


 それはそうですが、なにもそんな危険なところを通らなくてもいいんじゃないかしら。


「海の男は冒険好きと相場は決まってんだよ。」


 いやいや、そんなことないでしょう。 中には真面目で堅実な人だっていますでしょう。 ほら、契約のとき色々細かい内容を話していた方とか。


「あん?イバラキのことか?はんっ、あいつは真面目ではあるが、やっぱり海の男だぜ。パムーダの話したら、大乗り気で嬉々として海図眺めてたぞ。」


 そ、それは意外ですわ。 見た目からだと、すぐにでも止めそうですのに。


「パムーダなんてただの言い伝えだぜ。そりゃ、過去には嵐も事故もあったかも知れねえけどよ、そんなもん他の場所でもあることじゃねえか。」


 そりゃ、どこも絶対安全なんてありませんけどね。

 あそこは危険だからと皆が避けて通りますし、どの国もあそこは領土にしないというかできないままで、自然に緩衝帯のようになってますわね。


 そんなところに冒険心とは言え、突入して漁までするって、凄い強い神経ですわ。


「いや~、そんなに誉められても。照れるじゃねえか。」


 誉めてるというか、あきれてると言いますか。 ま、良い方にとってくださいな。


「そもそも、あそこにゃ他にも人がいたぞ。歌の上手な姉ちゃんとか、目が見えない爺さんとか、でかい坊さんとか。結構、皆こっそり行ってんじゃね。」


「それ、もしかして《セイレーン》とか《海座頭》とか《海坊主》とかじゃないの!?それだけ会っといて、よく無事だったね!......もういいや、なんか考えるの疲れたよ。とりあえずありがとう。魚を適当に貰っていくよ。」


 降ろされた積み荷を見ると、多種の魚がぎっしり。


 秋刀魚、かれい、いわし、いか、太刀魚、この大きいのは鰹ですかね。 飛び魚もありますわ。


 こちらは鯛、めばる、さよりですか。


「ええ~!ちょ、ちょっと待て~!なんで?それって春の魚でしょ。なんで今採れるのさ!秋刀魚とさよりを一緒に釣るっておかしいでしょ!」


 そ、そういえば旬が違うのになぜ採れるの?


「パムーダだからじゃね?」


 そんな当たり前のように言われても。


 旦那様が船員さんに近くにあるヒラガ鮮魚店に使いを頼みました。


 しばらくすると、凄い顔したゲンナイさんが走り込んできて開口一番。


「めばるやさよりがとれたって~!」


 積み荷を見て大興奮!


「次の漁はいつだい!わしも連れていってくれ!」


「......漁に出るんじゃないよ。交易しに行くんだよ。」


「おう、漁のついでに荷物運んでるだわ。」


「荷物運ぶついでに漁をしたんでしょう!」


「あ~、どっちでもいいわい!ともかく、わしも乗せてその漁場に連れていってくれ!」


 パムーダ海域だと説明しても乗せてくれ、漁ではなく貿易だと言っても連れていってくれとききません。


 結局旦那様が折れ、シュテンさんも了承し、五日後に出航する船に乗ることになりました。


 ご家族に何て言おうと心配したら、皆さん笑顔で。


「まあ、あんこうやハマチはとれるかしら。」


「マグロやカワハギはどうだろね。そろそろなくなってきたから、ここで入荷できたらまだまだ売れるわね。」


 皆さん、なかなか商魂たくましいようですわね。

 パムーダの危険を心配するどころか、どんな魚を採ってくるかリクエストしてます。

 お孫さんは研究日記がどうのこうのと言ってますし。


 旦那様が複雑な顔で。


「この商売根性、見習わなくちゃ......かな?」



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