万年蕾さんの襲撃
寝室の鉢植えが、またまたおかしいです。
といっても、以前のような病気には見えません。
でも、花が咲かないのですよ。
もっと正確に言うと、蕾のまま花が咲かないのです。
蕾が付くまでは順調に育ってたんですのよ。
前までは、蕾から花が咲くまで2、3日ぐらいでしたのに、今回は蕾のまま十日経ってもまだ蕾。
おかしいですわよね。
どうしたのかしら。
「アンジェリーク、変な顔してどうしたの?」
変な顔って言わないでよ。
難しい顔って言うんですよ、こういう時は。
この蕾おかしくありません?
「確かにねぇ、長すぎるよね。あんまり待たせると逃げられちゃうよ。」
……旦那様、何の話しをしているのですか。
旦那様のその手の過去話は、あまり聞きたくないんですけど。
「ああ、ホウシ君の話。」
ええ~!
さらっと爆弾発言ですわね。
しかも他の人の話しを。
ホウシ君、彼女に逃げられたのですか?
結婚前提のお付き合いじゃありませんでした?
お相手幼馴染みって。
ああ、確かに幼馴染みからの付き合いなら長いですわね。
ホウシ君、落ち込んでるんじゃありませんか?
「番犬が駄犬になってるよ。」
旦那様、ひどい!
可哀想ですけど、こればかりは他人がどうこうできることではありませんものね。
仕方ないですわ。
ホウシ君の大好きな水羊羹でも差し入れてあげましょうかね。
ところで、蕾ですけど……。
「それね、妖精に聞いてみたらどうかな?」
ああ~、普段姿を見せないので忘れてましたわ。
そうでした、この花にはデブ……じゃなかった……ポッチャリ系の妖精さんが住んでいたのですわ。
「いちいちポッチャリ系は付けなくていいんじゃないかなぁ。」
旦那様が何か言ってますが置いといて。
「妖精さん、妖精さん、いらっしゃいませんか?ちょっとお聞きしたいことがあるのですけど。」
「こんにちは。ポッチャリ系の妖精です。」
あら、結構地獄耳ですのね、ごめんなさい。
「あれ、ヤポナ語話してるじゃん。いつの間に覚えたの?」
はっ、そういえばいつの間に。
「皆さんの会話を聞いていたら自然に覚えました。」
ううっ、それは盗み聞きって言うのでは。
まあ、鉢植えなので、動けませんから仕方ありませんけど。
今度から気をつけよう。
さすがの旦那様も複雑そうな顔をしながら。
「蕾の時期が長いようなんだけど、どうしたの?」
「今、戦争中なんです。」
はい?
今なんておっしゃいました?
この静かな寝室で戦争中?
誰と、何で、どうやって?
「私も初めて見るので、おそらくヤポナの民だと思うのですが、《万年蕾》さんとおっしゃる方がいきなり攻めてきまして。」
万年蕾……そのままですわね。
すごく分かりやすいですわ。
で、その方が攻めてきたら、蕾のままですか。
わかってます、わかってますわ、突っ込んだら負けなのは。
わかってるけど……くぅ~!
「花が咲かないと言うことは、負けてるってことだよね?」
「……すみません。私が不甲斐ないばかりに、せっかく楽しみにされている花を咲かせることができず。」
「何言ってるの!僕は何で相談してくれなかったのかってことを言ってるんだよ!僕達家族じゃないか!」
そ、そうだったのですか。
いつの間に私たち家族になったのですか。
「アンジェリークまで何言ってんの!僕達一緒に病を乗り越え、同じ屋根の下に住む立派な家族じゃないか!」
「ふぇぇぇ~。あ、ありがとうございます。いままで何百年と生きてきて初めて家族が……うぅぅぅ。」
ああ~、妖精さん感動しすぎて涙と鼻水で顔が凄いことに。
「さあ、泣いてる場合じゃないよ!その戦い負けられないよ。」
そうですわね。
旦那様たちのドラマはさておいて、花を咲かせないなんて意地悪するなんて許せませんわ。
でもどうやって戦うのかしら?
「他の妖精に聞いたところ、タバコの煙が苦手なんだそうですが、私、煙草はたしなみませんので持っておらず、苦戦していた次第で。」
ほぉほぉ、タバコが苦手ですか。
タバコは煙いですものね、わかりますわ。
「タバコはうちでは誰も吸わないねぇ。仕方ない。買ってこよう。」
旦那様が飛び出して行きました。
その間少しおしゃべり。
撃退法を教えてくれた妖精さんは、風の妖精で自由に動けるのが羨ましい。
けど、逆に決まった家がなく、帰る場所がないのも悲しいと。
ここは、居心地がよく嬉しいとか。
気に入ってもらえて、私も嬉しいですわ。
だから、突っ込みませんわよ、風の妖精のことは。
もう、どこに、何がいても驚きませんわ!
多分……ふぅ~。
「買ってきたよ~。さっさとやっつけるぞ。」
旦那様張り切ってますが、吸わない人だらけで誰が煙を出すのでしょう。
「あ、どうしよう。う~ん、仕方ない。頑張ってみるよ。」
吸いながら火をつけて、煙を……。
ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!
ですよねぇ。
やっつける前に自滅ですよねぇ。
涙目になり、咳き込みながらも、鉢植えに煙を吹き掛ける旦那様。
頑張れ~!
すると……。
「ゲホッ、ゴホッ。や、やめてぇ。堪忍してぇ。」
やっと出てきました、小さい……女の子?
「ち、ちょっと羨ましかったんよぉ。花咲かせたらすっごい喜んでもらえて。お水もご飯も欠かさずもらえて。幸せそうなんが腹立ったんよぉ。」
話を聞くと、名前通りこの子の行く先では花が咲かず、厄介者扱いで人生(?)拗ねてしまったようです。
「じゃあ、ホトケノザとかスミレとかのところにいけばいいんじゃないかなぁ。」
どういうことですの?
どこにいってもお花を咲かせないのは嫌がられるでしょう?
「全部じゃないけど、確か、花が咲くのと咲かないのがあるよ。」
そんな植物があるのですか?
「うん。一つの植物で、時期や場所をずらして、花が咲くものと咲かないものを持つ植物があるんだよ。さっき言ったホトケノザとか、スミレ類とかね。蕾のまま受粉して実ができるの。だから花が開く必要がないから、蕾のままなんだよ。そこなら、それが当たり前だから嫌がられないんじゃないかなぁ。」
へぇ~、初めて知りましたわ。
今度、よく見てみましょう。
でも、そこなら《万年蕾》さんも大丈夫そうですわね。
次の日、旦那様がホトケノザがたくさん生えているところに《万年蕾》さんを連れて行ってあげました。
そして、その翌日、再び茶色の渋い花が咲きました。
めでたし、めでたしですわぁ。
《閉鎖花》という、蕾が開かないまま自動同花送粉をして、開かないまま果実が成長する植物を参考にしました。あくまでフィクションで参考程度です。
ホトケノザやスミレ類に多いそうです。
《万年蕾》も人を食べるとか言われてますが、怖いので蕾のままと言う可愛いげのある(?)力と言うことに。




