雷獣の落とし物
やっちゃいましたわ。
ヤポナの夏はこれがあるのよね。
ザーザー、ピカッ、ゴロゴロゴロ!
はぁ~、どしゃ降りですわ。
「夕立」と言うらしく、そんなに長くふり続けるものではないのですが、それでも傘がなければ雨宿りで足止めですし、家に帰るのが遅くなっちゃいます。
お使いもまともにできないなんて、ちょっとへこみます。
確か、もくもくしたクリームみたいな雲が出てる時は要注意でしたわね。
聞いていたのに私としたことが。
ふぅ~。
ザーザー、ピカッ、ゴロゴロゴロ!
ドドーン!
え?今何か違う音が?
雷が落ちたの?
音のした方を見てみると、仔猫が一匹。
まあ、可愛い。
でも、怪我をしているようだわ。
可哀想に。
その横に大きな石があるので、これにでもぶつかったのかしら。
それとも誰かにやられたのか?
雨が止むのを待って、仔猫を連れて帰ってきました。
怪我は軽そうだったので、家で治療を。
仔猫はとっても大人しく可愛いです。
「フシャー!ブニャー!ヴギャー!」
ちょ、ちょっと、何なの?
メグミちゃん、何やってんの!
この子は怪我してるのに、攻撃しないでちょうだい!
止めて~!
「どうしたの!」
ああ、旦那様~、助けて~。
「メグミちゃん、メグミちゃん、落ち着いて。ほら、大丈夫だからね。」
周りで大騒ぎしているのに、当の仔猫はいつの間にかスースーおねんね。
鈍いのか、大物なのか、わかりませんけど。
「アンジェリーク、この子どうしたの?」
雨宿りしていたところで、拾ったのです。
怪我してましたので、放っておくことはできませんでしたの。
首輪がないので野良猫だとは思いますが、可哀想で。
「アンジェリーク、この子、猫じゃないよ。」
えっ、どう見ても猫......。
「この子、雷獣だよ。雷すごかったからねぇ。暴れまわって自爆したのかなぁ。」
ら、雷獣......?
いや、もはや突っ込まないわよ。
突っ込んだら負けよ。
はい、はい、雷さんね。
自爆......爆発はしてないようですけど。
要は、暴れてるときに転んだとか、ぶつかったとか、そういうことですか?
「雷獣はちょっと乱暴でね。木を裂いたり、人を傷つけたりしたこともあるから、メグミちゃんは心配してくれてるんだよ。」
まあ、そうだったんですか。
てっきりいつものメグミちゃんかと。
ゲシッ。
痛っ。
うう、ごめんなさい、ありがとう。
でも、この子は今怪我してますし、大人しいですわよ。
暴れてるのは他の雷獣ではないかしら。
「ん~、でも何で降りてきたんだろう?」
とりあえず、今は雷獣も寝てるようなので、メグミちゃんに見張りをお願いして仕事に戻ることに。
仕事を終え、夕食やお風呂も済ませて寝室に行くと、目をさました雷獣とメグミちゃんが黙ってにらみあってます。
一体いつからその状態なの?
私が雷獣を、旦那様がメグミちゃんを確保。
だってそのままじゃいつ喧嘩になるかわからないですもの。
旦那様は用意よく例の《いろはかるた》を持ってきています。
最近、カキノウチ家で一番働いてるのではないかしら、《いろはかるた》さん。
雷獣さん、わかるかな。
メグミちゃんが通訳できるのかしら。
話の前にひとまず雷獣にご飯をあげて、その間に旦那様が、「喧嘩禁止、このあとちゃんと事情を話すこと」を淡々と言い聞かせました。
どうやら、メグミちゃんとは話せるみたいですがヤポナ語はわからないようなのでメグミちゃんが通訳をすることに。
さて、それでは。
「どうしてあそこにいたの?」
「お、と、し、も、の」
落とし物ですか。
何を落としたのかしら。
「ら、い、ふ」
らいふ?何でしょう。
「異国の言葉で「命」とか「人生」とかあるけど、まさか魂的なものじゃないよね。」
オカルトはやめて~。
「い、し、の、お、の」
「ああ、『らい』は雷ね。『ふ』は斧か。」
つまり、石で出来た雷の斧と言うことですね。
正直、雷の斧って何よとか、石だと斧の方が割れそうだわと思わないでもないですが、突っ込みはやめましょう。
虚しくなるから。
わたしも随分ヤポナに慣れてきましたわ。
「でも、怪我を治してから探そうね。」
「い、そ、く」
あら、どうしてかしら。
「お、と、う、さ、ん、の、お、の」
あちゃ~、それは不味いですわね。
なんでまた、そんなもの持ち出しちゃったのよ。
「お、の、く、れ、な、い」
斧が貰えないからお父さんの取っちゃったの?
「まだ小さいから仕方ないよ。大きくなって使えるようになったらちゃんと貰えるよ。」
旦那様の言葉に頷きながらも。
ああ、泣きそう、可哀想、でも可愛い~。
ぷるぷるしてるわ~。
くぅ~。
そこへ、一際大きな声が襖の向こうから聞こえてきました。
「ごめん!こちらにわしの子が来ておるはずだが。」
襖を開けるとそこには......。
でかっ!こわっ!迫力ある身体が。
象ぐらいの大きさの雷獣(おそらく父)が立ってました。
「こら~!貴様~!わしの斧持ち出して何しとる!!」
でかっ!こわっ!迫力ある声が。
「まあまあ、落ち着いて。お子さん怪我もしてますし。」
「そんな怪我、舐めときゃ治るわ。」
治りませんから。
ばっちぃですわ。
「どうせ、斧に振り回されて自分で勝手に怪我したんだろうよ。」
えっ、そうなの?
誰かに苛められたとかじゃないの?
旦那様が言った通り、自爆だったのね。
「今回で自分にはまだ斧は早いってわかったでしょうよ。僕の顔に免じて許してあげてくださいよ。」
「お前の顔にどんな価値があるってんだ。」
......それもそうだ。
初対面だし、旦那様が雷獣たちに顔が利くわけでもないし。
あっ、旦那様、落ち込んでる~。
でも振り回されるほど大きい斧ってどんなのかしら。
「わしの身体半分ぐらいだな。」
ええ~っ、それは大きい、大き過ぎる。
そんなの使えるものなの?
と言うか、この子そんな大きさのもの、よく持ち出せたわね。
むしろ、そっちにびっくりだわよ。
ん、ちょっと待って。
石、大きい......あれ、この子が倒れていたところに大きな石があったような。
いやいや、あれは道具ではないわよね、いくらなんでもね。
一応、話してみると。
「おう、それだそれだ。持ち出すと言うより、持ったらそのまま落ちちまったてとこだな。」
ああ~、あれはないわ。
あれは無理だわ。
いくら欲しくても、あれは駄目だわ。
「ちゃんと大きくなったら立派なやつやるから、もう少し我慢して身体を鍛えておけ。」
結局、雷獣(子)は雷獣(父)に連れられて帰っていきました。
そういえば、今更ですけど、あの斧ってどう使うのかしら。
手じゃないものね。前足よね......。
雷獣の職業は木こり?
後日迷惑かけたお詫びにとお菓子が送られてきました。
......《雷おこし》......雷獣(父)遊んでるでしょう!
激しい雷雨時、空を飛び木を裂き人や動物に被害を与え、武器として石斧を利用すると言われている《雷獣》から。
見た目は色々言われてますが、好みで猫に。




