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河童衆のカッパ巻き

「おかしい。」


 お義父様が眉間にシワを寄せ考え込んでいます。


「カッパ巻きが食べられない。」


 旦那様が悲壮な顔で呟きました。


 どうやらキュウリが入荷されていないんだそうです。

 連絡を取っても返信がなく、状況がわからないとか。


 あれ?


 でもキュウリなら一昨日私見ましたよ。


 ちゃんと入荷されてましたよ。


「あれは普通のキュウリ。来ないのは、カッパ巻き用のキュウリだよ。」


 はて?


 カッパ巻きってキュウリを、巻いたお寿司と聞きましたが?


「キュウリはキュウリだけどね、カッパ巻きのキュウリは河童衆が作るキュウリで作られたもののことなんだよ。他のキュウリで作られたものはただのキュウリ巻き。」


 なるほど、生産者が限定されているのですね。


 では入荷がないと、キュウリ巻きは食べられるけれど、カッパ巻きは食べられないと言うことですわね。


 それは大変ではないですか。


「サクヤ、悪いがちょっと様子を見に行って来てくれないか。アンジェちゃんも一緒に頼むわ。」


「了解。」


「はい、わかりましたわ。」


 河童衆の里は、隣町との境にある低い山の中腹にあるのだとか。


 運搬のための道もあるし、それほど高い山ではないとはいえ、山登りは中々きついですわ。


 フウフウ、ゼイゼイ......。


 でも、山道なので馬車は無理だし、乗馬も崖が多く慣れていないと危ないからと言うことで徒歩での訪問。


 なんとか目的地近くまでいくと、何やら緑がかった物が落ちてます。


 何かしら、大きなゴミね。


 不法投棄よ、環境破壊よ。

 心ない人もいるもんだわね。


 近づくと......。


 人!人ではないですか!


 いや、正確にいうと、人らしき人......私何言ってるのかしら、落ち着け、アンジェリーク。


 旦那様が足の爪先で小突いています。


 いやいやいや、駄目でしょ、足は。


 どうみてもマジで倒れてますよ。


「あなた大丈夫ですか。」


「み、水、水を......。」


 おお、定番のセリフ、水ですね。


 幸いあまりの暑さに水筒持ってきていて良かったですわ。


 水を差し出すと、


「ちげぇよ、口じゃねぇ、頭に頼むよ。」


 は?頭ですか。


 暑いから頭から被りたいということかしら。


 頭に水筒を向けると、そこにはおあつらえ向けにお皿が一枚。


 ああ、ここに入れるのね、はいはい。


 ......。


 え?お皿?


 ええ~っ!


「河童衆の方だったんですね。そりゃ、この暑さじゃ水もなくなるわ。いや~大変でしたねぇ。」


 え、この方が河童衆の方ですの?


 河童衆の方たちは、緑がかった肌、くちばしのような尖った口、頭のてっぺんにお皿を持つ(ハゲじゃないのよ)、ヤポナ古来の種族なんですって。


 頭のお皿の水がなくなると、力がでなくなって最悪死ぬことも有りうるのだとか。


 私たちが通りがかって命拾いしたと、大変感謝されました。


 でも、良く考えると旦那様は河童衆の方のこと、ご存じだったのですよね。


 なのに足蹴に......。


「だって、助けろ強盗だったかもしれないじゃん。」


 何その強盗。


 なんとなく言いたいことはわかるけど、そんな名称あったの?


 しかし、いくら暑いからとはいえ、なぜあんなところに倒れてたのでしょう。


 彼はヨキチさんと言う方で、キュウリ農家の次男坊なんだそうです。


「今年はこの暑さのせいか、キュウリクイムシが異常発生してなぁ。いつもはあいつらの天敵のオテントサマムシがやっつけてくれるんで大した被害はでないんだけどよ、今年はいつもの数じゃ足りなくてよ。野生のオテントサマムシを捕まえてキュウリ畑に放そうとしてんだけどよ、あいつら中々捕まらなくてよぉ。」


 つまり、夢中で虫取りしているうちに、いつの間にか頭のお皿が乾いてしまって動けなくなったところに私たちがやって来たと言うことですね。


 オテントサマムシは不思議なことに異国の音楽、特にサンバのリズムを好むので、サンバを口ずさんでよってくるところを捕まえるのだそうですが......。


「ラララ、ラン、ラララン、ラン。」


 ......。


 何でしょう?


 私の知ってるサンバとはずいぶん違うのですが、ヤポナではこれがサンバなのでしょうか?


「ヨキチ下手!それサンバじゃないじゃん。何でサンバでコブシをまわすのさ。」


 コブシ?


 拳骨が回る?


 意味がわかりませんが。


小節コブシだよ。歌い方の種類だよ。サンバでコブシはまわらないよ。」


 へぇ~、いまいち、分かったような分からないようなあやふやですが、ヨキチさんの歌がサンバからほど遠いのはわかります。


 だから、虫がよってこないんですね。


 むしろ、逃げられてるような。


 旦那様が歌い出すと、あらあら不思議。


 赤い甲虫が一匹二匹とよってきましたわ。


 マラカス鳴らしてお尻フリフリ、歌う、踊る、楽しい~。


 ってあれ?


 マラカスどうした?


 どこから出てきた?


 ノリノリの旦那様ですわ。


 役に立ってるから、もう突っ込みませんが......。


 虫籠に一杯集まったところで、ヨキチさんたちの畑へ。


 畑は河童衆総出で管理されてるそうで、何人もの人が普段の作業の他に、網をかけたり、チマチマとキュウリクイムシを取り除いていました。


 それぐらいでは追い付かず、あちこちのキュウリの葉や実が食べられて穴だらけ。


 そこへ、急いで取ってきたオテントサマムシを放すと一斉にキュウリクイムシに突撃~!


 ムシャムシャ、パクパク......。


 キュウリクイムシとオテントサマムシの大きさがあまり変わらないせいか、丸飲みとはいかず。


 体液ブシャー!のスプラッタ~!


 ギャア~、小さいとはいえ結構えぐい。


 気、気持ち悪~!


 思わぬ形でのお手伝いでしたが、これで大分ましになると皆様喜んでくださいました。


 数日後にはまた出荷すると約束をいただいて一件落着。


 お礼にと、貴重な新鮮キュウリのカッパ巻きをいただきました。


 瑞々しいキュウリをパリパリの海苔で巻いたカッパ巻きに、少しのナランザと煮きり醤油を付けて食べる。


 美味しい~!


 ポリポリしたキュウリとパリパリの海苔の歯ごたえが気持ち良く、キュウリの少しの青臭さを海苔の風味が緩和し、微かに甘酸っぱい寿司飯とぴりっとしたナランザが素材の味を引き立ててくれます。


 こんな単純な料理なのに美味しさ抜群!


 さすが河童衆のカッパ巻き!


 隣で旦那様がうろんな目をしてますが、どうしたのかしら?


「なんで僕のカッパ巻き小さいの?キュウリすっごく細いんだけど。」


「おめぇ、俺を蹴ってたじゃねえかよ!」


 あら、気づいてらっしゃったのね。



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