娘の嫁入り
暖かな日差しのもと、花咲き乱れ、鳥はさえずり、蝶は舞い、娘は微笑む。
なんと幸せなひとときであろうか。
... ...いかん、つい現実逃避してしまった。
いや、まぁ、一部はあってる。
暖かな日差し、春だしな、天気いいしな、微妙に汗ばむけど、まぁ暖かだわな。
花も咲き乱れてるよな、名前判らんけど。雑草だけど。花には違いない。
鳥も鳴いてるよ。うるさいけど。黒いけど。でかくて怖いけど鳥には違いない 。
蝶は... ...ああ、和むわ~、一匹だけど舞ってるよ、可愛いよ。
娘は微笑んでいるよ、目は笑ってないけど。怖い微笑みって、おい、器用だな。
いや、わかるよ、気持ちは。でも、仕方なかったんだよ~!!
ここオランシア国は美しい自然ぐらいしかとりえのない弱小国だ。
しかし、周り三方向を山に囲まれ、残りは海に面していることから、近隣との争いにはほとんど巻き込まれることのない穏やかな時代が続いていた。
しかし、そんな平安もいつかは破れるも のだ。侵略者たちには道理など通じないものたちが多々いる。 ただ、暴れたいから襲うという野蛮なやつらもいる。
何がきっかけなのがわからないが、そんなやつらに目をつけられたオランシア国は、その美しい自然や穏やかな民たちが次々犠牲になった。
しかし、ここに救世主が現れる。
オランシア国でしか育たないと言われる、ナランザと呼ばれる食すと非常に辛い植物。きれいな水辺でしか育たないので、美しい自然を保つオランシアでは普通にあるが、他国ではほとんど育たないそうだ。
しかし、食すには辛いので育たなくてもさほど気にならないのだが、遠く離れたヤポナという国ではこれを調味料として用いるらしく、また料理によってはなくてはならないものだそうで、こんなものを、なかなかの良い値で買い取ってくれるのだ。
たいした産業もないオランシア国では、これは国の大きな収入源となっていた。
そして、ヤポナという国は、このナランザのためだけに!?我が国の救援に来てくれたのだ。
ヤポナの民はオランシアはもちろん、他国でもほとんど見ることがない黒い髪、黒い目を持つ民で、国によっては不吉な色とされがちな黒色を持つ民ばかりのヤポナを恐れているところが多い。
オランシアの民も恐れているものたちは多いが、オランシア国一番の貿易相手でもあるので、それを表だって言うものはいない。
ヤポナが助けに来てくれるまでに大分国内は荒らされ民たちは復興に必死な状態だ。 復興には人手と時間だけでなく、当然資金も必要だ。もともと裕福とはいえないオランシア国では非常に厳しいところだが、ヤポナが条件付きで援助してくれることになった。
その条件というのが、我が娘アンジェリークとヤポナの大商人カキノウチ家との婚姻であった。
ナランザを確実に得るための対応だそうだ。
カキノウチ家は商人という平民ではあるが奥方が公爵家の令嬢で、珍しく恋愛結婚だそうだ。 当時は反対されいろいろ大変だったそうだが、今は両家とも仲良くしているらしい。
私の領地でのヤポナの取り扱いが国の半分以上を占めていることから、娘に白羽の矢が当たったのだ。年回りも五歳違いということで丁度よいというのも理由の一つだ。
ナランザの重要性をよく知っており、外に出しても恥ずかしくない程度の容貌、知性だからだと王に告げられ、打診と言う名の命令により我が娘は他国に嫁ぐこととなったのだ。
しっかし、恥ずかしくない程度って王とはいえ失礼だな!恥ずかしくないどころか自慢できる程だろうが!うちの娘はオランシア一!
な・の・に... ...これまた船で8日もかかる他国へとやらなければならない私の気持ちがわかるかぁ!ううっ、泣いていいかな、いいよね。