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第9話 そろそろ狩りに行きませんか?

「――とまあ、そんな事があってな」

「昨日に引き続いて白森さん、事件に巻き込まれてるッスねぇ……」


 昼休みの休憩室。

 職場近くのコンビニで買って来たのり弁当を食べながら、昨日の出来事を遠金に話すと、しみじみと感心されてしまった。


「全く、嫌な事件だったぜ。事件の内容もそうだが、あの犯人はなぁ……」


 何と言うか、こう、世間の嫌なものを掻き集めて煮詰めたような、最低の犯人だった。もしも、今後も似た様なイベントに出遭わなければいけないのならば、せめて犯人にはまともな性格を持たせて欲しい。


「もしかして白森さん、本当にイベントとかクエストに好かれる体質なんじゃないんスか? 災害召喚者トラブルコーラーとか、そんな感じで」

「どんな感じだよ」

「まあそれで自分らも美味しいイベントに巻き込んで貰えると嬉しいッス」

「知るか。そんな好き好んでトラブルを抱え込みたくはないわい」


 そんな軽口を叩きあっている内に弁当を食べ終わり、昼休みも終わりに近付く。


「そうだ。今晩はこっちにイン出来るッスから、今度こそ一緒に狩りに行きましょう」

「ああ、宜しくお願いする。そう言えば、狩りって何を狩るんだ?」

「そうッスね……まずは地上でモンスターでも狩りましょうか」

「おお。本当にRPGみたいだな」

「その前に装備ッスね。3万あればそこそこ買えると思うッスよ」

「それなら嫌なクエストをこなした甲斐があったな」


 そんな事を言っていると、休憩室のスピーカーから昼休み終了のチャイムが聞こえてきた。

 今晩は9時に俺の泊まっているホテルで待ち合わせる事にして、俺達は仕事へと戻った。


――――――――――――――――――――


 そして帰宅してログインした夜の9時。ホテルのロビーでヤーウィと合流して昨日のダメージの治し方を教えて貰い、それからダイザ達が待つ武器屋へ向かったまでは良かったのだが……


「まさか、INT極振りがここまでネックになるとは……」

「初心者からワンランク上がった辺りなんで、もう少しアイテムが充実しててくれても良いんスけどねぇ……」

「真に以って――」

「申し訳ございません」


 ゲーム開始当初にはハンデキャップ以外の何物でもない、INT一極集中による弊害――欲しい武器を装備するのに必要なSTRとAGIにステータスが全然足りない――の大きさは、俺とヤーウィを途方に暮れさせ、グレンとダイザを土下座させていた。


「いや、詫びはもう良いから。顔を上げてくれ」

「それよりも装備をどうするかッスねぇ……」


 とりあえず二人に土下座を止めさせて、ヤーウィと一緒に頭を捻る。

 現時点での俺のステータスは、STRが2、INTが18、AGIが3となっている。この数値だと装備出来る武器は拳銃ハンドガン止まりだ。それ以上のライフルとかバズーカとかの大型火器は射撃後に反動で倒れこむのが落ちだとか。

 後は昨日手に入れたコンバットナイフ等の近接武器だが……


「モンスター相手ならファンタジー物の戦士系みたいに前衛って手もあるッスけど、それでも辛いッスねぇ。更に対人戦だと、飛び交う銃弾を掻い潜っての白兵戦になるッスからねぇ」

「俺に飛んで来る弾を斬り捨てろなんて無茶言うなよ?」


 対戦車ライフルの弾を斬れるなんて特殊能力、俺は持ってないからな。


「せめてSTRが5あれば突撃銃アサルトライフル系が装備出来たんスけどねぇ……」

「4までなら上げられるんだがなぁ」

「だったら、後1レベル上げて貰えば良いじゃない」


 と言い出したのはグレンだった。


「それが一番早そうだな」

「ここで長考してても仕方ないッスもんね。じゃ、サーウさんがもう1レベル上げる事を見越して、これを買っとくッスか」


 ダイザとヤーウィもその意見に乗ってくる。

 結果、俺の腕には未だ使えない大きな突撃銃――外見的にはM16が近いだろうか――が抱えられる事になった。


「突撃銃なら、このMAL-038が手頃ッスね。実弾ッスからストッピングパワーも良いッスし」

「レーザー銃の方が攻撃力は高いんじゃないのか?」

「ダメージだけならな」


 俺の質問にダイザが答える。本当に解説キャラだな。


「昨日、レーザーを食らったそうだから解ると思うが、レーザーだとダメージが大きいわりに衝撃が少ないんだ」

「……確かに、撃たれても痛みで動きが鈍る事はあったが、ひっくり返ったりとか吹き飛ばされたりとかは無かったな」

「相手の動きを止める衝撃――ストッピングパワーって言うんだが、それは実弾の方が大きいんだ。

 そしてモンスター相手の場合は、そのストッピングパワーが重要になってくる。何せHPが高いから何十発も撃ち込まないといけないからな。

 対人でもストッピングパワーはあった方が良いんだが、モンスター程HPが高くないし、当たり所が良ければ即死させられるからな。レーザーでも十分だ」


 なるほど。そういう事ならば納得出来る。

 俺は押し付けられていた銃と、それ用の弾薬やエネルギーパック、そして防具を買い込んだのだった。


――――――――――――――――――――


 ミドル・エリアの中心部、直径5百メートル程を占める軌道エレベーター区画へ向かい、降りエレベーターへの搭乗手続きを済ませて、待合室でエレベーターの到着を待っている。待合室は自動販売機と数十人分のベンチが置いてあるだけのだだっ広い部屋で、俺達の他にはプレイヤーと思われる5、6人連れの団体が3組と、10人程の個人客が居るだけだった。

 エレベーターは1基のみで、それが地上と静止軌道上のミドル・エリアを片道15分で結んでいる。次の降りエレベータの発進時刻は20分後だった。昇って来るまでは後5分だが、荷物の積み下ろしに15分掛かるらしい。


「しかし、防具系が想像以上に……アレ、だなぁ」

「皆、最初はそう言うッスねぇ」


 搭乗口側にある待合室でぼやいた俺に、ヤーウィが返事する。

 先程、俺が買った防具は、如何にも軍用ぽいブーツと、人差し指だけ生地が薄くなっているグローブ、他には肩、肘、膝に当てるパッドと脛と前腕に付けるプロテクター、首から手首、足首までを1枚で覆う全身タイツ的な下着インナーウェア、それと無線機能を内蔵したヘルメットだ。全部装備すると、モトクロス選手か何かの様な外見になる。


「何てぇか……頼りない様に感じるんだよなぁ」

「まあ、ファンタジーの全身鎧とか時代劇の鎧兜とかをイメージすると、ちょっと物足りないッスよねぇ」

「あまり大仰な防具だと動きが悪くなるからな。それくらいが丁度良いんだ」

「なるほど」

「装甲宇宙服とかなら、まだSFっぽいけどね」


 退屈していたのか、ダイザとグレンも話に加わってきた。


「へぇ……そんなもんがあるのか」

「宇宙服とは言っても、実際は全長3メートルくらいのマニュピレーター付きバックパックを背負う形だけどね。重量もかなりあるから地上に持ち込んでも使い物にならないそうよ」


 と男にしては高い声で説明してくれるグレン。小顔なのもあって男装の麗人に見える――と思っていたら中身リアルは女性らしい。


「そう言えば地上での移動手段はどうなるんだ? タイヤ、キャタピラ、ホバーに飛行機とか色々あるみたいだが」

「基本は地上輸送ッスね。空飛ぶのは機体が高価なわりに使い勝手が悪いんで流行ってないッス。後、歩行系――足で移動するタイプは結構見かけますけど、これも余程の悪路でもない限りトレーラーで移動して戦闘時に起動ってのが基本になってるッス」


 お。ロボットアニメの世界が展開か?


「日本アニメで御馴染みのロボットは期待するなよ? 『足の生えた戦車』レベルが殆んどだからな?」


 ……ダイザにあっさりと夢をぶち壊されてしまった。


「設定上、現在この星系で産出される金属だと歩行時の振動に長時間耐えられるサスペンションが作れないそうなんスよ。なので、今後の新マップ追加で新しい鉱石が出てくるのを待ってる状態ッスね」

「それでも存在するって事は、使えるんだろ?」

「それなりには、な。値段を考えるとホバー型かキャタピラ型の方が使いやすいし、現時点ではネタ装備だな」

「あら。そろそろ乗り込めるみたいよ」


 グレンに言われてエレベーターの方を見ると、巨大なコンテナを載せたトレーラーが10台程、エレベーターの中へ移動していた。

 暫らくして車両の乗り込みが終わった旨の放送が待合室に流れ、続いて一般客に乗り込むよう指示がでる。俺達も他の客達と一緒に待合室から出て、エレベーターへと向かった。

 エレベーターは巨大な鳥篭みたいな形をしていた。床は金属板が敷かれているので大丈夫だが、壁は重量軽減の為か金網になっている。お陰でエレベーターの行き先が消失点の向こうなのまでばっちり見えている訳で……結構、怖い。某所の某玉がキュゥゥゥゥゥっと引き篭もってしまう感覚でゾクゾクしてくる。本当にバーチャル・リアリティーとは思えないくらいリアルだ。

 地上に運ばれる巨大な資材やトレーラーは見晴らしの良すぎる空間に固定されているが、人間の方は流石にそう言う訳にはいかないらしくロープーウェイのゴンドラを大きくした様な部屋に片端から詰められている。1部屋20人の定員で、それが15部屋。鳥篭の縁の4分の3を使って並んでいる。因みに残り4分の1はトレーラーの通路だ。

 部屋の中には固定式の椅子が20脚あり、シートベルトを付ける様にアナウンスが流れていた。


「無理に座る必要は無いッスよ」


 と言うヤーウィを信じて、窓際で外を眺める。窓の向こう、数メートル先に巨大な黒いケーブルが檻の様に並んで宇宙から地上へとぶら下がっていた。


「軌道エレベーターの予備ケーブルだそうッスよ」


 俺の視線の先に気付いたのか、ヤーウィが声を掛けてくる。


「予備?」

「このエレベーターの中央に同じ物が3本あるじゃないッスか。あれの予備とエレベーターの防護を兼ねているそうッス」


 言われて振り向くと、トレーラーやコンテナに囲まれたエレベーター中央部に黒いケーブルが3本聳え立っているのが見えた。


「あのケーブル1本で数百トンを支えるそうッスよ。それが3本と、昇降装置の重量や安全マージンを考慮して、エレベーターの最大積載重量は千トンだそうッス」

「それが衛星軌道まで1時間に1本かよ。現実リアルじゃ考えられん――てぇか、宇宙産業関係者が嫉妬しそうな設定だな」

「まあ……現実あっちは技術もッスけど、政治も絡むッスからねぇ」


 それを聞いて、先週だったかに聞いた、軌道エレベーター候補地の選定で国連の作業部会が大荒れになったニュースを思い出す。現実では未だ紆余曲折の向こうに見え隠れしている夢の技術なんだよなぁ。

 その時スピーカーからのアナウンスがあり、エレベーターは高級車顔負けの振動を感じさせながらゆっくりと降下を始めた。窓の外の風景が、ミドル・エリアの町並みから宇宙ステーションの構造材に変わり、更に成層圏から大気圏へと次々に変化していく。


「おお……」

「良い眺めでしょ? これ見るだけでもエレベーターに乗る価値はあるッスよ」


 確かに、この光景は一見の価値有りだ。

 だがそれはそれとして、俺には聞いてみたい事があった。

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