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第82話 脱出

「動くな!」

「寝起きを襲うんじゃねぇ、こん畜生!」

「げえ!? サーウッド!」


 変装キットの代わりにPDWを掴んだ俺は、突入して来た男達に向かって罵声と弾丸なまりだまを一緒くたに叩き付けた。

 先手を取ってばら撒かれた弾丸が二人の上半身に次々と突き立つ。


「204号室当たり(ビンゴ)だ! ジョニーとシンがやられた!」


 入口の向こう側から聞こえる報告をBGMにジョニーとシン――どちらがどちらだったかは知らないが――だったガラス片が宙に舞い、床に拳銃と治療スティックが転がる。

 陰に隠れていた二人が部屋の中へ銃身を突き入れてくるのを見ながら、俺は入り口脇の壁へ跳び付く。先程まで俺が居た空間を、銃弾の雨が横殴りに通り過ぎた。


 弾倉マガジンを交換している間に、俺に気付いた一人の銃口が向けられる。

 銃口へ跳び掛かり、至近距離からどてっ腹に連射。

 数発喰らうがダメージにはなっていない。

 目の前の三人目がガラス片になるのを見て身体を回転させ、背後から弾丸を浴びせてくれていた四人目の頭に残弾を全て叩き込む。

 メンテナンスポッドで修理されたばかりのセーラー服はボロボロになったが、最初の襲撃者達は全員この場ゲームから辞去して頂く事に成功した。

 こちらのダメージは(ヒット)(ポイント)の2、3パーセントと言ったところだろうか。


 先程の報告からすると、どうやら襲撃者達は宿の部屋にPCがログインしてくるたびに押し入って確認していたらしい。手間暇の割に合わない迂遠な手段ではある。確実と言えば確実なんだろうが。


「俺がログインして来なかったら、あいつ等、どうするつもりだったんだろう……?」


 今更な疑問を抱きながら廊下のドロップアイテムを回収しておく。一つは見た目通り携行食料だったが、もう一つは高機能煙幕弾――煙だけでなくレーダーも阻害してくれるらしい――だった。


「ほほう……こいつぁ、使えるな」


 思わず頬を緩めながら部屋の中の二つも回収しようとしたら、窓ガラスが割れてグレネード弾が二つ程飛び込んで来た。

 それに合わせて廊下の左右からも銃弾とレーザーが群れを成して襲い掛かる。


 慌てて廊下にうつ伏せになると、部屋の中で爆発したグレネードの閃光と煙が俺の頭上で荒れ狂った。

 煙に紛れて弾倉を交換して、前方――1階の食堂へ降りる階段――へ低姿勢で突進する。

 目標は1階の食堂。ここで拾った高機能煙幕弾を爆発させ、襲撃者達を文字通り煙に巻いたところで変装キットを使って姿を変える。後は見付かる前に村から逃げ出すだけだ。


 拡張能力で調べたところ、建物を囲んでいた10人は二人ずつが正面玄関と非常口――宿屋にある入口は、この二つだけだった――を見張り、残りの3人ずつが俺を挟撃していた。

 そのまま目の前の3人目掛けてPDWを乱射しながら突っ込む。

 撃ち返してくるその横をすり抜けて、階段を転がる様に降りる。


 踊り場から食堂を見ると、食事に来ていた客達が正面玄関に殺到している最中だった。

 これ幸いと階段を駆け下りながら客達の頭上へ高機能煙幕弾を投げ付ける。一番人の密集している辺りで高機能煙幕弾が爆発し、周囲に閃光と煙を充満させた。


 背後の階段を駆け降りて来る足音を聞きながら、俺は煙幕の中に飛び込んだ。PDWをアイテムボックスに放り込んで、混乱している客達の中に埋もれながら取り出した変装キットのスイッチを押す。

 いきなり現れた確認のウィンドウを読みもせずに【Yes】をタップすると、ボロボロだったセーラー服が消えて全身に名状し難いゼリー状のモノが張り付いた。

 その感触に震えた時にはゼリーは既に消えて、新しい衣装が身体に纏わりついていた。続いて右手の中に現れた旅行鞄の取っ手らしい革の帯を、落とさない様にしっかりと握る。


(凄ぇ! 小道具込みで、ほぼ一瞬で変装しやがった!)


 バレたら元も子もないので声を出さない様にして感想を漏らした俺は、客達と一緒に宿の玄関から外へ出た。拡張能力で見張りと思われる二人の位置を確認しながら、煙幕が晴れる前に宿から離れる。


「糞ッ! まさか煙幕弾スモークまで持っていやがるとは!」

「煙幕に紛れて逃げられるなよ!」

「駄目だ! 出て来た奴等を把握出来ねえ!」


 背後――宿の入口――から聞こえる怒声を、パトカーと消防車のサイレンが掻き消していく。

 有志の皆さんの、恐らくは無届けであろう捕り物に、漸く駆け付けて来たらしい。

 これであいつ等の足が止められると良いのだが。

 丁度バスターミナルの方へ向かう親子連れ――両親に兄と妹と思われる4人――が居たので、俺はその後ろをバレない様に祈りながら何食わぬ顔をして付いて歩く。


 途中でチラリと振り返ると、襲撃者らしい連中が警察官達に囲まれているのが見えた。


――――――――――――――――――――


 この村のバスターミナルは、数台のバスが停められる広場の片隅に待合室と乗車券チケット売り場を兼ねた建物があるだけだった。

 広場には2台、長距離バスが停まっており、その内の1台からはアイドリング音が聞こえている。


 俺は出発間近のバスへと向かう家族連れからそっと離れて建物へ入った。

 10脚程の長ベンチが並んでいる待合室では、数人の客が思い思いの場所でバスの出発を待っている。

 入口のすぐ横にある受付カウンターで、俺はフォーチュン行きのバスのチケットを頼んだ。カウンターに居た小母さんが側の端末で調べてくれた結果、最も早くフォーチュンへ行くには30分後に出発するバスに乗れば良いと言う事になった。途中、3回の乗り継ぎがあり、順調にいけば現実リアル時間の日曜日中にはフォーチュンへ到着出来る。

 30分……その間に襲撃してきた奴等が警察を説得して追い掛けて来るだろうか?


「外にもうすぐ出発しそうなバスがありましたけど、あれはフォーチュンへ行かないんですか?」

「あのバス? あれはフォーチュンへ直接行くのだけど、遠回りのコースになるのよ。」

「遠回りって、どれくらいですか?」

「さっき調べたルートは乗り継ぎの待ち時間を含めて約30時間だけど、あのバスの場合は途中の休憩時間を含めて約63時間ね」


 うぅむ三日とちょっと。現実時間で言うと火曜日の早朝にフォーチュンへ到着する事になるのか……。

 長距離バスの場合、一度乗り込んでおけば、ログアウトしてもバスに乗ったままと見做される。しかもログアウト中に目的地へ到着した場合は、そこのバス停か、予約してあればホテルの部屋でログイン出来るらしい。

 と言う事は、あのバスに乗ってからログアウトしてしまえば、最悪、火曜日の仕事が終わった後にログインした時にはフォーチュンのホテルに泊まっている事になるな。

 丁度良い。


「あのバスには今から乗れますか?」

「遠回りでも大丈夫?」

「はい」

「ええと……そうね、席は空いているから、今なら未だ間に合うわよ」

「じゃあ、あのバスに乗ります。それとフォーチュンでの宿泊も予約したいのですけど」

「はい、ちょっと待ってね……身分証を見せて貰えるかしら?」

「あ、はい。

 どうぞ」

「有り難う……お名前はマーガレット・ハマーね。

 将来は首相かしら?」


 偽造された身分証を端末で確認した小母さんの言葉に、頬が微妙に引き攣る。今時「鉄の女」なんて解かる奴、少ないと思うぞ?

 それ以前に、その話題ネタが地球ではない惑星の上で通用するのも如何なものだろうか。


 個人的には、その名前だとグリスで歯磨きさせられそうで嫌なんだが……。


 しかし、膝にふわふわ当たってたのはやはりスカートだったか。気付きたくなかったから無視してたんだが……。しかも、声まで変わってやがるし。


 俺が溜め息を吐いている間に、小母さんはバスの乗車手続きと宿泊予約を済ませてチケットを発行してくれていた。車中2泊にホテル1泊で4百クレジット。車内での食事は別料金だそうだ。バス旅行なんぞした事が無いので、この金額が高いのか安いのかは判らない。

 ともあれ、クレジットを払ってチケット――プラスチックのカードで、乗車券からホテルの予約券まで全て兼用するらしい――を手に入れた俺は、小母さんの「出発まで時間が無いわよ」との忠告を聞いて急いで待合室を通り抜けてバスに向かった。


 途中、待合室の壁に取り付けてあった姿見に目をやると、臙脂色の学校の制服にも見えるスーツを着こなした北欧系美少女がこちらを見返していた。白に近い金髪が肩甲骨の辺りで綺麗に揃えられている。

 あまりに整い過ぎている容姿に、これだと人目を惹き捲くるんじゃなかろうかと、思わず余計な心配をしてしまった。


「……まあでも、これならバレる事だけはない、か」


 ひとちながら駐車場へ抜けるドアを開けて、バスへと向かう。

 いざ傍に来てみると、以前乗ったバスよりも二回りは大きい。特に長さ方向は1.5倍くらいはありそうだった。入口は中央部の一箇所のみで、窓は無い。運転席はやはり前方の屋根が盛り上がっているので、そこなのだろう。


 入り口の前には車掌と思われる女性が薄いグレーの制服を着て立っていた。

 バスへ近付いた俺を見て、微笑みかけてくる。


「ようこそ、フォーチュン行き3047便へ。乗車券をお見せ頂けますか?」

「はい」


 俺がチケットを渡すと、車掌さんはトランシーバーみたいな端末に差し込んだ。


「マーガレット・ハマー様ですね? お部屋は最後尾の10号室になります。このチケットがお部屋の鍵を兼ねておりますので、お部屋から出る際には忘れずにお持ち下さい。

 当バスの現在位置の確認や停車場所の案内、お食事の注文は、お部屋の端末から出来ます。

 わたくし、当バスの車掌を担当致します、キャサリン・サンティーニと申します。何かあれば私までご連絡下さいませ。

 それでは、どうぞご乗車下さい」

「あ、はい」


 車掌サンティーニうながされて、俺はバスの階段をのぼった。


 バスの中は以前の物とは大違いで、バスと言うよりも寝台列車だった。

 階段を上るとすぐ外壁――と言っても外の映像がリアルタイムで表示されているので全面ガラス張りと変わらないのだが――沿いに通路が伸びており、そのガラス張りの壁の反対側には等間隔でドアが並んでいる。


「なるほど。だから『10号室』な訳か」


 最後尾へ向けて通路を歩いていると、風景がゆっくりと動き始めた。俺の乗車と同時に出発した様だ。

 エンジンの微かな振動を靴の裏に感じつつ10号室のドアを開けて中へ入ると、狭いながらも快適そうな空間があった。


 進行方向側の壁には2段ベッドが設置されており、今は下の段のベッドが畳まれて簡易テーブルと椅子が並んでいる。

 ベッドから大人一人が通れる隙間を挟んだ後尾側の壁にはスライドドアがあり、その中は洗面台が併設されたシャワールームだった。トイレは別にあるのか、それともゲームの都合で省かれているのか……微妙なところだな。

 入口のドアと反対側の壁は通路と同じく全面が車窓に(スクリーン)なっていて、村から出たばかりで未だ樹々の多い風景が流れている。もう少し走ったら立木の少ない荒野が広がるだろう。

 その車窓とシャワールームの間に小さな机と椅子が押し込まれており、ここに食事の注文等が出来る端末が置かれていた。


「取り敢えず、飯にするか」


 無理に食べる必要は無いのだが、駅弁だの車内販売だのは、この手の長距離移動時の楽しみの一つでもある。食べても問題無いのならば挑戦してみるべきだろう。

 俺は机の前の小さな椅子に腰かけ、端末のスイッチを入れた。目の前の壁の一部が画面となり、バスの現在位置や走行速度、次のバス停の情報等が表示される。

 その中から食事の注文を選択すると、昼食のメニューが現れた。


「ふむ……ラーメン定食にパスタセットと、ざる蕎麦と天丼か……」


 流石に厨房は無いだろうから弁当できあいなのだろうが、何故、昼食メニューの三つ全部が麺類なのだろう?

 何者かの大いなる陰謀を感じてしまうんだが……。

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