表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/83

第78話 発注完了

「ようこそ、ペトーさんと……サーウッドさん、でしたかしら?

 私は宇宙船建造部門の監督をしています、メアリー・スーと言います」

「どうもスーにゃん、昨日ぶりにゃ」

「……。

 サーウッドです。宜しくお願いします」


 年上の取引相手を「スーにゃん」呼ばわりするペトーに溜め息すらも出せず、辛うじて自己紹介を済ませられた。

 しかし、ランと同じ「メアリー」とは……もしかして、こっちが姓なのか?


「ええと、メアリー・ランさんとはご親戚ですか?」

「いいえ?

 最近、同じ質問をされる方が時々いらっしゃるのですけど、私とランは親戚ではありません。たまたま同じ名前だっただけです。

 第一、私もランも、『メアリー』はファーストネームですわ」

「あ、そうなんですか。失礼しました」


 あらあらうふふな表情で答えてくれたスーに、俺は思わず頭を下げてしまった。まあ、いきなり不躾な質問ではあったからな。


「お気になさらず。

 実は、当工場にはもう一人、メアリーが居りますのよ」

「……もしかして、その人の名前はメアリー・ミキさんだったり――」

「あら、ご存知でしたの?」

「――え、本当に(マジ)?」

「あらあら。まるで超能力者エスパーみたいですのね」

「エスパーって存在するんですか?」

「ええ。数は少ないので、私も実際に会った事は無いのですけど」


 ううむ、まさかと思ったら本当にいらっしゃったとは……それと、この名前ネタ、他の――海外の――サーバーではどうなってるんだろう。


 しかし、エスパーが存在すると言う事になると、その内、サイボーグボディみたいにクエストをクリアすれば超能力を使える様になるのだろうか。


「あらあら。つい立ち話に夢中になってしまいましたわ、御免なさい。さあ、こちらへどうぞ」


 会話が一段落したのを見計らって、スーが俺達を近くの部屋へ案内する。

 彼女の後に続いて部屋へ入ると、そこは6畳間位の小会議室だった。現実リアルでもよく見掛ける長机二つが中央で向かい合わせにくっ付いており、それを挟む様にパイプ椅子が三つずつ並んでいる。壁際には予備のパイプ椅子が数脚とホワイトボードが一つ。部屋の角に備品入れと思われる、ちょっと大き目のロッカーが一つ据え付けられていた。


 スーに勧められて長机の真ん中にあるパイプ椅子に座ると、彼女はロッカーから徳用マッチ箱程の黒い箱を持って来た。テーブルの上に置いた箱の天板を開き、中のボタンを二つ三つ押す。

 俺の目の前にホログラムのロゴが浮かび上がってきた。


 ロゴが変形してウィンドウになり、俺の注文した宇宙船のスペックが表示された。その中に書かれている数字――緑黄色水晶を持ち込んだ結果、浮いた金額――を見て、思わず口笛が漏れた。


「こちらとしても、あれ程の質と量を持ち込んで頂けるとは思っておりませんでしたわ」

「は、はあ……多分、これからは同じかそれ以上の持ち込みが増えてくると思います」

「ええ、スカラベルの廃鉱山で巨大なクリスタル・ビートルが発見されたのは存じております。今回、サーウッドさん達にお持ち頂いた物がその収穫だとか」


 ふむ。流石にその辺の情報はペトーが伝えているか。

 俺はスーの温かい視線に見守られながら、宇宙船の仕様変更パワーアップを模索し始めた。


――――――――――――――――――――


 色々悩んだ末に俺が選択したのは、搭載するレーダーの性能を2ランク上げるのと固定武装としてレーザー砲を1門を追加する事の二点だった。これで若干のお釣りが戻ってくる筈だ。


「ふむふむ。サーウにゃん、居住スペースを追加しなくて良かったのかにゃ?」

「それよりは自衛装備を優先だな。安全な航行みちゆきが何より一番」

「面白味とは縁の無い堅実さだにゃあ」

「だが、それが良い」

「ちぇー」

「では、この仕様で建造に移らせて頂きますね。後、特典のペイン――」

「それと、今後の予定については昨日の打ち合わせの通りで良いにゃ。サーウにゃんにはこちらから説明しておくにゃ」

「――そうですか。了解しました。では、その通りに」


 最終確認を済ませたスーは、テーブルの上の箱をロッカーに片付けている。

 その様子を見ながら、俺は大きく伸びをした。ありもしないのに強張っていた全身の筋肉が悲鳴を上げながらほぐれていく。


「漸くこれで宇宙船持ちか……これで大宇宙を光の速さで縦横無尽にダッシュ出来るな」

「え? この宇宙船では光速は出ませんよ?」

「……え?」

「サーウにゃん、知らなかったにゃ?

 ここで建造出来る宇宙船は、スピード特化の仕様でも光速の90パーセントが限界なんだにゃ。サーウにゃんの宇宙船ふねだと80パーセント位かにゃ?」

「そんなところですね。それでも船体の割りには高速になるのですけど」

「えぇと……じゃあ、ワープとかテレポーテーションとか――」

「そんな事出来るくらいならゲートなんて造ったりしないにゃ」

「――マジか……」

「一応、ワープ航法自体は存在しますけどね」

「「え、本当?」」


 思わずハモってしまった生徒二名おれたちに、先生スーは微笑みながら説明してくれた。


「はい。光の速度を超えて進む為には、空間を歪める事で現行のエンジンでも移動可能な経路に光年先の地点を出現させる方法が必要になります」

「それがワープ航法、って事ですよね?」

「その通りです、サーウッドさん。

 さて、空間を歪める為には莫大なエネルギーも必要ですが、それ以上に特殊な波長を生成する必要があります。

 現在の文明レベルでは、それをなす為にはクロスター機関――エネルギージェネレーターにチェレンコフ鉱と呼ばれる特殊な鉱石を加工したコアを使用しなければなりません。因みに、これが採掘された状態のチェレンコフ鉱です」


 スーがウィンドウを操作して新しいホログラムを俺達の前に出現させた。

 それは瑠璃色を更に深くした色の透明な石だった。その中心から小さな光が揺らめいているのが見える。多分、宝石としても高価な物なのではないだろうか。


「チェレンコフ鉱が産出するのは、こことは別の銀河系にあるトワイライト星系だけです。産出量も少ないので、ワープの出来る超光速宇宙船の数は多くありません」

「ほえぇ……綺麗な色だにゃ」

「ええ、そうですね。でも、これを購入するのは無理でしょう。エネルギージェネレーターに使う為と言うのもありますが、先程話の出た超能力を使う為の触媒でもありますから」

「ほえ? じゃあ、これを手に入れる為には、どうすれば良いのにゃ?」

「私が知っているのは、トワイライト星系にある超能力者の修行場がっこうで必要な訓練を修め必要がある、と言う事だけです」


 つまり、ゲームに超能力が出てくるのは、かなぁり先の話になる、って事か。

 取り敢えず、今すぐ何かが出来る状況ではないのは理解出来た。それだけで十分だろう。


 ……それにしても、この名前は大丈夫なのか?


「ええと……でも、今度、他の星系へ行ける様になる、って聞いたんですけど……」

「それは、このオリジン星系にゲートが設置される事になったからです。

 ゲートとはクロスター機関を組み込んだ直径1万キロメートルのリング状の構造物です。これは一定の条件を満たしている空間同士を常態的に連結するシステムで、今回はオリジン星系とジェミニ星系の間を繋ぐ空間の歪みが見付かった事と、オリジン星系の開発度がゲート開設に足ると判断された事によって設置が認可されたのです」

「だから今のエンジンでは光速は出ないけど、それでも『恒星間航行』は可能なんだにゃ」

「……何か詐欺みたいなうたい文句だな」

「サーウにゃんも、もっと真面目に掲示板とかチェックしてたら早い内に気付けたのににゃあ」

「五月蝿ぇ」


 スーの説明を勝手に引き継いで偉そうに締め括ったペトーに文句を言ったら、身も蓋も無い言葉を返されてしまった。俺はああ言う独特のノリのホームページは苦手なんだよ。全部とは言わんが。


 まあ、あの盗賊酒場での様子からして騙されたのは俺だけじゃない筈だ。それだけが心の支えだな。


「サーウにゃん、器がっちゃ過ぎるにゃ」

「ド喧しい」


――――――――――――――――――――


 多少の寄り道(まんざい)はあったものの、宇宙船の仕様変更は無事に終了した。宇宙船は三日後――現実リアル時間の日曜日――に完成する予定である。

 残っている懸案は宇宙船の引き渡し、および宇宙への持ち出しだった。


「ボクは昨日言った通り、通常コースで行くにゃ」

「なるほど。

 さて、こちらはどうするか……」


 スーに予定変更が無い事を伝えるペトーを横目に、俺は腕を組んで天井を見上げた。


 宇宙船を地上から宇宙へ運ぶには幾つかの手段ルートがある。


 第1に、海上の打ち上げポイントから打ち上げる方法。

 これは地上で製造されている宇宙船のパーツ――この工場のエネルギージェネレーターや、以前俺達が強奪したエンジン等――を宇宙にある一般人かたぎ用の宇宙船製造工場へ運び上げている際のどさくさに紛れて犯罪者おれたち宇宙船ブツも打ち上げちゃえ、と言うものだ。

 打ち上げ地点が惑星上の各都市から離れている為に比較的露見す(バレ)る事無く、最も安全なルートとなっている。成功率はほぼ100パーセント。


 第2に、宇宙船を地上で受け取り自力で大気圏を脱出する方法。

 最も安上がりではあるが、都市政府やフォーチュンに捕捉され易いので各勢力の航空戦力に追い掛けられる。成功率は50パーセント前後らしい。

 それでも「一番エキサイティングで面白い」と言って何度も挑戦する奴等リピーターも、それなりにいるとか。


 第3に、軌道エレベーターを利用する方法。

 宇宙船を「宇宙空間に運び出す貨物」に偽装して軌道エレベーターに乗せ、アッパー・エリアの宇宙港から搬送先の宇宙船製造工場へ運ぶ途中で――もしくは目的地に到着後に――離脱トンズラする、小型の宇宙船でしか出来ない方法だ。成功率は40パーセント弱。


 成功率から言えば第1の方法――ペトー曰くの「通常コース」――が良いのだが、こちらは打ち上げスケジュールが詰まっているそうだ。今から予約すると最短でも現実時間で四日後。今日が木曜日なので月曜日以降になる。

 しかも打ち上げイベントで最低5時間は拘束される。平日に長い時間ログイン出来ない俺みたいな社会人は、来週の土日まで待つ必要がある。流石にそこまで待つのは辛い。


 第2の方法だと宇宙船が完成しさえすれば後の日程は好きに出来る。引き渡しから大気圏脱出、そのまま追撃を振り切るまでに必要な時間も――色々な要因があるので一概には言えないが――1時間前後と短いのも良い。宇宙船が完成する日曜日にそのまま飛び出せば、最短で大宇宙フロンティアへと旅立てるだろう。

 ただ、その場合だと、初めての宇宙船でぶっつけ本番の空中戦をやらかす破目になってしまう。流石にリスクが高過ぎだ。それで撃墜でもされた日には立ち直れないだろう……少なくとも、俺は。


 第3の方法は、これら二つの中間――と言うには少々ハードなコースだ。

 軌道エレベーターの予約が必要な為、一度スケジュールが決まると変更出来ないのは第1の方法と同じだ。宇宙船にもつだけなら、ほぼ問題無く運べるが、荷主の正体がバレてしまう可能性が結構高く、宇宙むこうの工場の片隅で保管料をバカ食いしている宇宙船と再会するのが大変だそうだ。それでも宇宙船を――完全に(100パーセント)、とは言えないそうだが――安全確実に宇宙へ運べるので、俺みたいに宇宙船を作り直せない奴等(PC)に人気らしい。

 人間の方は失敗しても、最悪、死に戻りして再挑戦出来るし、軌道エレベーターにこだわらずに第2の方法を採る宇宙船に便乗させて貰う手段もあるらしい。


 ふむ。これが一番安全、か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ