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第77話 納品と最後の打ち合わせ

 ドロップアイテムの分配と反省会を終わらせた時点ところで、俺はログアウトする事になった。

 ペトーの方はログアウトするには未だ早いとかで、このまま工場へ向かって有機水晶と緑黄色大水晶、および青茄子鉱を纏めて納品してくれるらしい。有り難い話である。

 他の三人もこのまま続けて遊ぶそうだが、鉱山ここからは移動するらしい。


 ちなみに俺とペトーの取り分は、今まで集めていた緑黄色水晶をスティンガーに製錬して貰った青茄子鉱全部と緑黄色大水晶が一つだ。これだけあれば工場の依頼分以上にはなるだろう。

 残りの緑黄色大水晶三つはスティンガー、リゲイア、セバスティアンがそれぞれ一つずつ受け取った。自分達の宇宙船用に使うのか、それとも売り払うのかは聞かなかった。聞いても意味が無い様に思ったからだ。

 それでも皆満足そうな顔をしていたので収支は黒字なのだろう。


「じゃあ、サーウッド、また何処かで会ったら一緒に狩りでもしよう」

「もしくは敵味方に分かれてるかもな」

「ほっほっほ。出来る事ならば敵に回って欲しくはありませんな。

 ではご機嫌よう」

「ああ。三人共、今回は色々助かった。また何処かで会った時は宜しく頼む」


 挨拶を残して去って行く三人の車を見送って、俺とペトーも装甲車へと戻る。


「お前一人に任せてしまって申し訳ないが、頼んだぞ」

「本当にそう思うんなら、あがたてまつってちゃんと信仰するにゃ。今なら入信特典で、この輝くトラペ――」

「信仰して欲しけりゃ金寄越せ」

「――それじゃ本末転倒にゃ……」


 項垂うなだれて運転席に乗り込んだペトーがエンジンを掛ける。

 俺は設置したメンテナンスポッドに潜り込み、動き出した装甲車の振動を感じながらログアウトした。


――――――――――――――――――――


「――とまあ、そんなこんなで情報規制は解除されたんで」

「了解ッス。

 とは言え、粗方の情報は既に出回っちゃってんスけどね」

「……ああ、うん、そうだな」


 毎度お馴染み職場の昼休憩。

 遠金の言葉に頷くしかないのが少々切なかったりする。


「何か元気無いッスね、白森さん」

「いやな、あれだけ『ここだけの話』だの『秘密にしてくれ』だのと言っておいて別の所から漏れまくりってのがな……」

「それは気にするだけ無駄ッスよ。不特定多数の人間が同時に遊んでるんスから、どうしても情報の行き違いや別ルートからの漏洩は起きて当たり前ッス」

「そう言って貰えると少しだけ気が楽になるな。それに『緑黄色水晶が宇宙船のエンジンに使える』って情報は俺達が最初に発表したみたいだし」

「ヨーロッパサーバーからの情報と鼻の差だったみたいッスけどね。日本ではぶっちぎりッスけど」

「競う意味は無いんだろうが、ちょっと悔しいな」

「その『ちょっと悔しい』を挽回しようとして不毛な争いが起きたりするんスけどね……」


 俺の背後にある窓の外へ視線を移しながら、遠金が呟いた。何か思い当たる節があるのだろうか。

 追求しない方が良さそうに思えたので、俺は取り敢えず話題を変えるべく口を開いた。


「ところで、そっちの方はどうなってるんだ?

 ゼファあたりが、そろそろ何かやらかしそうな気がするんだが」

「そうッスねぇ……サラマンダーとウンディーネの間で運送業である程度の資金かね貯まっ(でき)たんで、新マップへ移動許可クエストを始めたところッス。

 ゼファは――」


 そこで遠金は一旦言葉を切った。天井をチラチラと見回して、俺の胸元に視線を移す。


「――サラマンダーで別れたッス。多分、そこでサーウさんを待つつもりだと思うッス」

「どうしてサーウッド(おれ)がそこへ行くと思ってるんだ?」

「……犯罪者クエストで宇宙船を手に入れた後、どうするつもりなんスか?」

「え? どうって……

 そりゃオリジン星系――だっけ? ――から飛び出して、無限に広がる大宇宙を縦横無尽に駆け回る予定つもりだが」


 遠金が眉間を揉みながら溜め息を吐いた。

 どうやら俺の返答に重大な問題があるらしい。


「え? ……そう言うゲームじゃないのか?」

「いや、まあ、それが出来るのならそれでも良いんスけどね」


 どう言う事だろう?

 眉間を揉み解すのに飽きたらしい遠金の視線が妙に痛い。


「白森さん、忘れてるッスね?」

「はて、何の事やら」

「マップ開放クエストが終わったら、その新マップへの移動許可を貰うクエストがあるって、前に言った筈ッスよ?」

「え? ……あ、ああ、ああ! あれね。

 そんな話もあったねぇ」

「完ッ璧に忘れてたッスね……。

 その移動許可を貰うクエストってのがサラマンダーで開始するんで、そこで合流まちぶせするつもりみたいッスよ、ゼファは」

「な、なるほど……判ったよ、うん。貴重な情報、感謝する」

「……で、どうするんスか?」

「どう、って?」

「ゼファの事ッス。一緒に行動するんスか?」


 遠金の口調のわりに鋭い視線を受けながら、ふむん、と考えてみる。

 ――別に無理して逃げる程ではないと思っている自分に気付いた。


「上手く合流出来たら、それでも良いかも、な」

戦闘うで得意たつみたいッスし、チームを組むのなら良い相手だとは思うッスよ?」

「それは思う。

 何か、えらく彼女あいつの肩を持つな?」

「一緒に動いてて結構助かったッスからね。出来れば上手くいってくれれば、とは思うッス」

「……まあ、なる様にしかならんさ」


 互いに相手を気にしていても、それが上手く機能するとは限らないからなぁ。

 運命論者を気取るつもりはないが、出会うも出会わないも流れ次第、って事にしておこう。

 そんな事をつらつらと思い浮かべている内に、休憩時間は終わってしまった。


「さて、もうひと頑張り、いってみようか」

「うぃッス」


――――――――――――――――――――


 そして仕事も無事に終わり、恙無つつがなく帰宅出来た。

 ペトーを待たせても悪いからと言い訳しながら今日もコンビニ弁当を掻き込んで、ゲームの準備を急ぐ。


 ここ最近はゲームを優先しているせいで自炊率が下がりエンゲル係数が高騰していた。未だ大丈夫だが、そろそろ気を付け始めないと厳しくなるかもしれない。

 財布の中身に思いを馳せながらログインしてしまい、顔をしかめながらメンテナンスポッドから出てみると、隣にペトーが座っていた。何やら空中をつつき回しているのでメニューを操作しているのだろう。


「んにゃ。サーウにゃん、お早いお着きですにゃ。

 ――って、何かあったにゃ?」

「ん? いや、別に?」


 ペトーは挨拶しながら俺の方をチラリと見て、質問を追加してきた。どうやら俺の表情が余りにも酷かったらしい。


「敢えて言うなら、昨今の経済情勢について色々と考察していたところだ」

「……要するにお財布が軽くなっちゃった、って事にゃ?」

「何故バレる」

「流石のボクでもそこまでは面倒見切れないにゃあ」

「いや、こっちもお前に面倒見て貰えるとは思ってないし、元々見て貰うつもりも無いからな?」


 ペトーのボケに突っ込みながら、俺もログアウトする時に設定して完成した消耗品を整理してアイテムボックスに納めていく。昨日は殆んどダメージを負わずに終了出来たので、予定通りリニア・カノンの砲弾が60発――HESH弾が40発とAPFSDS弾が20発――メンテナンスポッドの中にあった。今回は忘れずに弾倉ランドセルをポッドの中に並べておいたお陰で弾詰めも済んでいる。


「まあ、それは良いにゃ。

 それよりもサーウにゃん、早く工場へ行ってくるにゃ」

「また資材の値上がりでもあったのか?」

「流石にそこまでは値上がりしてないにゃ」

「じゃあ何なんだ?」

「昨日、預かった有機水晶と緑黄色水晶を全部渡したんだけど、結構質が良くて予想以上に高値で引き取って貰えたにゃ。

 それで余ったお金をどうするかって話なんだけど――」

「単純に半分ずつで良いんじゃないか?」

「――うん。ボクもそれで良いと思うにゃ。

 で、二人で山分けにしてもオプションを追加出来るかも、ってくらいの金額になっちゃったんだにゃ」

「え?

 俺のエネルギージェネレーターは一番良い奴にして、か?」

「そうだにゃ」

「お前のも最高級品にして?」

「ボクはそこまで要らないから、上から二番目にしたにゃ」

「山分けで良いのか?」

「別に構わないにゃ。

 それで何かオプションを追加するか、それとも全部換金して貯めておくか、サーウにゃんの分を決めて欲しいにゃ。

 それが決まり次第、宇宙へ出る準備に入るにゃ」


 そんなに儲けが出ていたとは、頑張った甲斐があったな。

 さて、どれか装備のランクを上げるか、でなけりゃ居住スペースか武装を追加するか……


「取り敢えず、ジョンにゃんのオフィスに行って打ち合わせをするにゃ。

 後、お金が余ってるって言っても、そんなに良い装備を追加するのは難しいと思うにゃ」

「……あ? あ、ああ、そうだな」


 皮算用で口許が緩み始めた俺に、ペトーが声を掛けてきた。

 言われた通りなので、少々名残惜しいが工場へと向かう事にする。


 装甲車は工場の駐車場に停車していた。二人して工場へ入るドアを目指す。

 その間にペトーはスミスと連絡を取っていた。


「ジョンにゃんは今接客中で席を外せないそうだにゃ」

「千客万来で嬉しい悲鳴、って奴か。良い事だ」


 三日前にも通った廊下を歩きながらペトーの話を聞くと、どうやら組み立て工場の方で別の担当者――宇宙船建造の責任者らしい――と打ち合わせする事になったらしい。

 しかし工場むこうの営業までお友達感覚で呼ぶのは如何なものだろうか。せめて、それが俺との会話の中だけなら良いんだが……俺が気にしても仕方ないか。


 更に数分程歩くと、前回の時にもあった工場区画を見下ろせる廊下に到着した。ガラス張りになっている廊下の中間辺りで作業の様子を眺めている女性がいる。作業着らしい地味な服の上にジャンパーを羽織り、黒髪を顎で切り揃えている。


 ふとこちらに視線を向けた彼女が俺達に気が付き、近付いて来た。

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