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第74話 色々バレた三日目

 そう言えば今着てるセーラー服だって修理出来たのだから、砲弾の補充くらい出来そうな気がする。

 俺は一筋の希望を見出した気分になった。


「よし、試してみよう」

「……試してみるのは良いけど、やり方解かってるにゃ?」

「知らん。

 だがまあ何とかなるだろう」

「意外とアバウトなんだねぇ」


 スティンガーが呆れながら教えてくれた事によると、メンテナンスポッド内からメニューを開けば消耗品の作成を指定する事が出来るらしい。ただし、あまり複雑な物だと設計図が必要になったり、作成に必要な素材――金属とかプラスチックとか――を所有していなければならない。


「他にも、作成よりも修復が優先される、って仕様ルールがあるからね。

 まずサイボーグボディの修復、続いて所持品の修理、それらが終わってから指定した消耗品の作成に移る。

 場合によっては作成出来ない事もあるよ」

「え、そうなのか?」

「ウィンドウにその辺の時間と作成予想が表示されるから、それを参考にすると良いよ」

「なるほど……一度やってみよう」


 やり方も解かったところで、それを覚えている内にと反省会は終了する事になった。

 幾ら何でも、俺の記憶力はそこまで低くない筈なんだが……。


 ともあれ、スティンガーは自分の車でそのままログアウトし、俺とペトーはペトーの車へ戻った。


 早速メンテナンスポッドに入ってメニューを開くとスティンガーの説明通りの画面が現れて、弾薬の作成を指定する事が出来た。人を纏めるのも上手いし説明も的確な彼は、もしかすると何らかの団体とかの纏め役みたいなものをやっているのかも知れない。


 そんな事を考えつつ、俺はログアウトした。


――――――――――――――――――――


「――とまあ、そんな訳でまたもや機密事案が一つ、増えちまってな」

「おお……日本では白森さん達が発見者になっちゃったッスか」

「……『日本では』?」


 翌日の職場の昼休憩。

 昨日の顛末を遠金に話したところ、気になる感想が返ってきた。もしかして海外では既に出回っていた話だったのか?


「ついさっきみたいッスけど、海外の掲示板でその鉱山にラスボスが追加されたってニュースが流れたんスよ。

 もしかすると、今日ログインしたら鉱山が同じボス狙い(どうぎょうしゃ)で溢れかえってるかも知れないッスね」

「うへぇ。

 あともう一回は倒したいんだがなぁ」

「下手すると順番待ちになるかも」

「……勘弁してくれ。これでも急ぎたいんだ」


 天井を仰いだ俺を見る遠金の視線に面白がっている気配を感じたのは、気のせいだと思いたい。

 ログイン後に待ち受けているであろう面倒事じゅんばんまちに思いを馳せて、俺は大きく溜め息を吐いた。


「そう言えば白森さん、サーウディック・ステートの話は聞いてるッスか?」

「何だそりゃ?」


 黄昏たそがれるのに忙しい俺に向けて遠金が急に持ち出してきた新しい単語に、頬がピクリと痙攣けいれんした。言葉の意味はよく解からないが、嫌な予感しか出て来ない。


「『フォーチュンの圧政からウンディーネを開放すべく立ち上がった義士サーウッドの後に続け』なんて言い出した勢力やつらがPC、NPCを問わずに現れてるんスよ」

「フォーチュンって、そんな厳しい締め付けをやってるのか?」

「目立つ様な事はやってないッス。まあ、色々独占はしてるッスから、その辺りで不満を募らせた連中とかは居るっぽいッスけど」

「……で、そいつ等が俺の行為やらかしをネタに吹き上がってる、と」

「ついでに強盗だの窃盗だの、犯罪行為の動機いいわけにしてるッス」

犯罪んなモンまで俺のせいかよ……」


 思わず机に突っ伏した俺を、遠金が「まあまあ」となだめる。

 どうしてこうなった……。


「それと、昨日だったか、シェリコート市の偉いさんの屋敷を襲撃した奴等が『サーウッド』の名前で声明文を出したッス」

「俺ぁ分身なんて出来ねぇぞぉ……」

「今は隠れてボス狩りの真っ最中ッスからねぇ。お陰で本物だと思われてるみたいッス」

「勘弁してくれぇ……」

「ご愁傷様ッス」

「……まさか、それで俺の賞金が跳ね上がったなんて事はないよな?」

「今のところは。

 ただ、今後、サーウディック・ステートが活躍し過ぎると、その可能性も出てくるッス。覚悟の一つもしておいた方が良いかもッス」

「俺ぁ、テロ活動の下請け(アウトソーシング)なんか頼んじゃいねぇぞぉ……」


 俺に出来たのは、残りの休憩時間を机にうつ伏せていじける事だけだった。


 ぐすん。


――――――――――――――――――――


 俺の気分はさて置いて仕事の方は問題無く片付き、昨日とさして変わらない時間にログインする。

 先にログインしているスティンガーとペトーは既に鉱山ダンジョンに潜っているらしい。15分前に「知り合いが来てくれたので、これからボス戦に挑む」とのメールがペトーから届いていた。確認してみるとチームのリストに二人、知らない名前が増えている。

 俺をチームから外さなかったのは枠を開ける必要が無かったのか、それとも急に外されたら狼狽うろたえそうな俺に気を使ったのか。


 昨日の戦いからして俺が例の闘技場へ到着する頃には片が付いているだろう、と考えて、「修理品の整理をしながらチームの凱旋がいせんを待つ」と、チームチャットは戦闘中だと邪魔になりそうだからメールで返信しておく。


 それが終わってから、インフォメーションに表示されている、修理および作成の終了した物品のリストを確認する。

 自身ほんたいおよび装備していたセーラー服、リニア・カノン、パピヨンのダメージが全て回復し、指定していたリニア・カノンのAPFSDS弾が40発、作成されていた。これだけあれば、パピヨンを使わずに倒せる……には少々足りないだろうか。

 ただ、弾倉にまで気が回っていなかったのは失敗だった。


「……ランドセル背負って寝てたら、弾詰めもやってくれてたのかなぁ」


 メンテナンスポッド内の足元に並んでいた――そして起きる時に蹴とばしてしまった――APFSDS弾を1発ずつランドセルに入れながら、俺はぼやいた。

 40発だから大して時間が掛かる訳でもなく、スティンガー達を待つ良い暇潰しになっているが、ある筈もない――幾ら何でも、そこまでは再現していないだろう――錆び弾のチェックをしながらの弾詰めは、少々辛気臭く感じてしまう。

 ……そりゃ、しなくても良いチェックをしてるのが悪いんだろうが、やらないと今度は暇過ぎる事になりそうなんだよなぁ。


 ともあれ、海外サーバーの情報を見て鉱山ここへやって来たPCが少なくとも二人いるのは確認出来た。

 ならば他にも来ていないだろうかと、ふと思い付いたので拡張能力を使ってみる。

 周囲の地形やPC、モンスターの配置と共に頭の痺れが流れ込んできた結果、どうやらこの鉱山にしては珍しく千客万来状態らしい事が判明した。


「……ふむ。順番待ちは二組ってところかな?

 クリスタル・ビートルはそれなりに居て、グレート・クリスタル・ビートルも……」


 眉と目元を歪めながら流れ込む情報を確認していると、グレート・クリスタル・ビートルが無数の粒に弾けたのが判った。倒したのかと一瞬喜んだが、散らばった粒が小魚達の群も吃驚の団体行動で闘技場内を席巻し始めたのに気付く。

 ふと気付いてチームメンバーのHPを確認してみると、半分を割り込んで苦戦中らしい。


「意外と手間取ってるみたいだな……ん?」


 俺よりは戦力になる奴等が揃ってるのに、なんぞとお気楽に評論していると、ペトーからチームチャットの要請が来た。

 揶揄からかってやろうかと思いつつ受諾すると、思っていた以上に切羽詰まったペトーの声が耳に突き刺さった。


『サーウにゃん、急いで闘技場まで来てほしいにゃ!』

『……お、おう。今から31ノットで急行する』

『駆逐艦じゃないんだからもっと急いで!』

『無茶言うんじゃねぇ!』


 ペトーの無理強いに文句を言いながら詰め終わっていたランドセルの一つをアイテムボックスに片付け、もう一つをリニア・カノンに接続して背負う。

 車から降りて鉱山入口への坂道を睨み付け、こういう時の決まり文句(おやくそく)をどれにするかちょっとだけ悩んだが、今回は空を飛ぶ訳でもないし、こちらが良いだろう。


「やるしかないだろう、きっとぉぉぉぉ!」


 叫びながら夜――じゃなくて騎士な運転手ばりに急発進した俺は九十九折りをドリフトで切り返しながら一気に登り、坑道へ飛び込みながら視界を暗視モードに変更した。何処からともなく「解かりづらい上に、シチュエーションに無理があり過ぎです」と機械音声の突っ込みが聞こえた気がしたが、どうせ聞いているのは俺だけだ。気にしたら負けだろう。


 途中で出遭ったクリスタル・ビートル達を後ろに引き連れて昨日発見した階段を駆け降り、闘技場の外を一周する坑道を、その入口へと驀進ばくしんする。

 順番待ちしていたチームからの「ちょッッMPK止めれ!」だの「をい待てトレインかよ!?」だのと、よく解からない単語を含む悲鳴を背に最後ラストの直線を駆け抜けてて、俺は扉の前に到着した。

 後続のクリスタル・ビートル達は何時の間にか消えていた。


 チームメンバーのHPを確認すると、どいつも更に減って半分前後になっていた。

 俺はリニア・カノンを右腕に抱え、左手にパピヨンを装備した。

 大きく息を吸って、吐く。

 扉をもう一度睨み付け、右足で蹴り開ける。


ちょっと(Just a )待ったあ(moment)!」


 大音声と共に闘技場へ跳び込むと、敵味方全員がこちらを振り向いた。

 しん、と静まり返った場といぶかし気な視線を一通り眺めて、俺は改めて口を開いた。


「あー……お呼びで、ない?」

「ボケなくて良いから、とっとと参戦するにゃ!」

「お、おう……」

「それから、レーザーは使用禁止にゃ!」

「お、お……?」


 丁度扉の近くに居たペトーが突っ込んでくれたが……何故、レーザーが禁止なんだ?


「コアにダメージを与えないで倒すと、ちょー高品質でちょー巨大な緑黄色水晶がドロップするんだにゃ」

「え? そんなの聞いてねぇぞ?」

「海外の掲示板に載ってたにゃ」

本当マジ?」

「マジマジ。

 そんな訳でレーザー兵器は仕舞っておくにゃ」


 ペトーに言われて、俺は折角準備して来たパピヨンを渋々とアイテムボックスに片付けた。

 しかし、そうなると前回、馬鹿みたいに降り注いだ緑黄色水晶を回収していた俺達の苦労は何だったんだろう。


「全くの無駄じゃないけど、しなくても良い苦労だったにゃ」

「なんてこった……」

「まあ、あの時点じゃ他の倒し方なんてする余力も無かったし、仕方なかったって思った方が気が楽にゃ」

「……はあぁ。それもそうか。

 じゃ、仕切り直しだ!

 ってやるぜ――って近い近い!」


 改めて闘技場の中央に視線を向けると、グレート・クリスタル・ビートルのどアップが迫っていた。

 慌てて跳び退いた空間に、巨大なコガネムシの頭部が突き立つ。あれがトラックだったら異世界に転生していただろう。


おのれの気配を空にして敵を断つとは……こいつ、出来るな」

『単にサーウにゃんが気付かなかっただけにゃ』


 俺とは反対側に避けたペトーが、サブマシンガンを連射しながらチームチャットで突っ込んできた。

 それで漸く我に返ったので、俺もグレート・クリスタル・ビートルの頭部の付け根辺りにリニア・カノンを3発、お見舞いしておく。放たれたAPFSDS弾は2発目で反対側の付け根まで貫通してしまい、3発目は闘技場の壁と天井の境目に大穴を穿った。床へと零れ落ちた瓦礫が近くに居た名前も知らないチームメイト――スティンガーの名前の元ネタになった小説に出て来そうな、所謂いわゆる一つのエルフっぽい外見をした美女――に降り注ぐ。


『手前ェ何しやがんだこのファッキン役立たず!』

『え? あ、その、どうも済みません』

『五月蝿ェ謝るぐらいなら最初ッから余計な攻撃するンじゃねェ! この、玉と脳みそと根性無し!』

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