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第73話 割れ物注意

『さ、サーウにゃん、いきなり酷いにゃ……』

『……俺がやったんじゃあ、ねぇ』

『もう少し、穏やかな方法は採れなかったのかな……?』

『だから、俺がやったんじゃねぇって』


 天井から降り注いだ無数の礫は、俺達を含めた地面を盛大に叩いた挙句に埋め尽くしていた。

 痛みと轟音が収まった頃を見計らい、身体の上に載っていた緑黄色水晶をザラザラと落としながら立ち上がり、周囲を見渡す。

 闘技場一杯に広がる黄緑色のガラス玉の海からスティンガー達が顔を出していた。


『それはともかく――』

『あ、逃げたにゃ』

『――ド喧しい。

 それはともかく、これだけあれば必要数ノルマ分は揃うよな?』

『実際に数えてみないと判らないけど、これだけあれば多分大丈夫にゃ』

『ええと、5万個だっけ?』

『残念、10万個にゃ』

『こんだけありゃあ億は堅いだろ。楽勝だな』


 俺は足首の上まである緑黄色水晶の海を掻き混ぜながら能天気な予測を立ててみた。数については大雑把な推測だが、それ程外れてはいないと思う。多分。運が良ければ。

 だがスティンガーの意見は俺とは少し違う様だった。


『数に関してはそんなところだとは思うけど……ただ、質が、ねえ』

『そんなに悪いのか?』

『良くはない、ねえ。普通にドロップしている物とサイズは同じくらいだけど、質の方は2ランクか3ランクは落ちるね。通常ドロップと同じ質にして製錬するとなると……多分数十万個は必要になるんじゃないかな?』

『ふうん……』


 スティンガーの説明を聞きながら足元の緑黄色水晶を足で掻き混ぜて遊んでいた。何と言うか、このザラザラと足に当たる感触が面白いのだ。混ぜている内に足に当たる緑黄色水晶の重さが徐々に軽くなっていくのも良い。


『何にせよ早く回収しないとだにゃ。数が数だし、アイテムボックスに入り切らないのは身に見え――消えたあ!?』

『ああ、品質が低く過ぎるからね。ここまで低品質だと、すぐ壊れるよ?』

本当マジかよ!?』

『マジ。品質が1ランク落ちたくらいなら問題は無いけど、2ランク落ちると耐久値が2割減っちゃうね。3ランク落ちだと、ほぼ半分かな』

『そんなの知らなかったにゃ……』

『品質の低過ぎるアイテムが出る様になったのは今回のキャンペーンからみたいだよ?

 それ以前の低品質は精々、本来の5パーセントから悪くても1割ダウンってところだったけど、最近になってこんなのが出回り始めてるね。

 それでも、ここまで大量に出る事は無いんだけどなぁ』


 スティンガーの説明を聞きながら慌てて足元を見る。掻き回していた左足周辺の緑黄色水晶が無くなって地面が見えていた。

 予想以上の減少に吃驚びっくりして、まだ無事な緑黄色水晶を拾おうと腰を落としたのは良いが、バランスを崩して黄緑色の海に横倒しに倒れ込んでしまった。


「痛たたた……そう言えば左足がまともに動かないんだった」

『サーウにゃん、大丈夫にゃ?』

『ああ、大丈夫だ。足をやられてたのをすっかり忘れてたぜ。

 それで、これからどうするんだ?』

『とにかく緑黄色水晶を掻き集めて、纏めよう』

『纏める?』


 纏めるって、緑黄色水晶コレを、か?

 そんな事が出来るのか?


『サーウにゃんは、やっぱり知らなかったのにゃ。

 採掘された鉱物は製錬する事で金属隗インゴットになるにゃ。製錬する時の鉱物の量を増やせば大きなインゴットが作れるんだけど、それを『纏める』って言ってるにゃ』

 

 首を傾げていたら、ペトーが説明してくれた。大雑把ではあるが、言葉の意味は理解出来た。だが――


『――なあ、以前マイン・ワームを倒した時には加工済みのインゴットが手に入ったんだが……』

『それはインゴットがドロップアイテムだったからにゃ。採掘した時は加工前の鉱石の形で見付かるにゃ』

『なるほど。

 そう言えば緑黄色水晶って製錬で纏められるのか? 一応、宝石だろ?』

『全部ではないけど、宝石も鉱石の一種だからね。纏められる物もあれば、出来ない物もあるよ。緑黄色水晶は纏めると青茄子鉱って言う鉱物になるんだ。

 逆に有機水晶は纏められないね』

『え、そうなのか?』

『一応生物由来だからなのか、出来なかったよ』


 どうやらスティンガーは色々と試しているらしい。

 ペトーが彼を連れて来たのは、多分纏めるのを手伝わせる為なのだろう。


 それはさて置き……製錬して鉱物になるって事は、それを更に製錬しないとインゴットにはならないのだろうか。

 これも(すごく)(ふしぎ)……と考えて良いのか?


この惑星(ウンディーネ)に居るPCで、鉱石を製錬出来るのはスティンにゃん含めても10人も居ないにゃ』

『そ、そうなのか……因みに理由は?』

ウンディーネ(ここ)じゃ鉱石が手に入りにくいからね。製錬装置を買ったなら宇宙へ出て、小惑星帯か、でなければこの星系にあるもう一つの惑星サラマンダーに行くのが普通だよ』

『へえ……じゃ、何であんたはここに残ってるんだ?』

『……色々あってね。買っちゃったんだ……』

『有り金はたいた後になって、鉱石が殆んど手に入らないのに気付いたんだにゃ』


 在りし日の思い出を眺め始めたらしい口調でポツリと呟いたスティンガーに、ペトーが塩をなすり込んだ。どうやら装置を買ったのは良いが、それを宇宙へ持って出る金が残っていなかったらしい。

 戦っている時とかを見ていると結構やり手だと思えたんだが、どうやらスティンガーは少々おっちょこちょいらしい。名前の件もあるしな。


『まあ、それは置いておいて、僕の車まで緑黄色水晶を運んでくれれば、それを纏める事は出来るよ』

『なるほど。でも、どうやって運ぶんだ?』

『ふっふっふ~。そんな事もあろうかと、ちゃんと準備して来てるにゃ』


 偉そうなペトーの口振りに奴の方へ視線を向けると、何やら箱を次々と組み立てていた。出来上がった箱にはランドセルの様な肩ベルトが付いていて、何処ぞの聖なる闘士の鎧入れを縦に二つくっ付けたくらいの大きさがある。上面が開けっ放しになっているので、そこから荷物を入れるのだろう。


『これを使えば緑黄色水晶なら千個くらいは運べるにゃ。取り敢えず10個持って来てるから、サーウにゃんはどんどん詰めてくにゃ』

『へいへい』


 つまり、俺が箱詰めした緑黄色水晶をペトーが運んで、スティンガーが製錬して纏めると言う事なのだろう。

 現在の俺は足をやられて上手く歩けないので、それが適材適所ではある。掻き集めるのがちょっと面倒かも知れないが。


 俺は左右のバランスに苦労しながらペトーの近くへ歩いて行った。正座し過ぎて痺れた足で歩いているみたいで、いつ転ぶのか不安で胸がいっぱいいっぱいである。


『あ、サーウにゃん来たにゃ。じゃ、片っ端からどんどん宜しくにゃ。後、これを返しておくにゃ』

『おう、サンキュ』

『それからこれ』

『脚立?』

『ボクもサーウにゃんも箱の口に手が届かないから、これは必需品にゃ』

『おおう。確かに』


 ペトーから受け取ったリニア・カノンをアイテムボックスに片付けてから足元の緑黄色水晶を両手で掬い取り、渡された脚立に乗って近くの箱に流し込む。数十個ほどの緑黄色水晶は派手な音を立てて箱の底に当たり、砕け散った。


「げげっ」

『どうしたにゃ?』


 思わず上げた声に、ペトーはチームチャットで聞いてきた。スティンガーにも聞かせているのだろう。こちらも同じくチームチャットで返事をする。


『いや、箱に落とした緑黄色水晶が全部砕けちまってな。こりゃ箱詰めもかなり大変そうだ』

『あーそうか。そうなっちゃうか。出来るだけ静かに入れて行くしかないね。蓋してロックすれば中身が壊れる事は無いから、運んでいる間は大丈夫だと思うけど』

『うへぇ……』

『面倒臭いにゃあ。サーウにゃんも丁寧に急いで詰めていくにゃ』


 ペトーは顔を顰めながら箱の一部を分解して高さを三分の一に調整した。なるほど、これなら底へ手が届くので静かに置く事が出来そうだ。

 俺も奴のやり方を真似して目の前の箱のサイズを調整した。改めて掬い直した緑黄色水晶を箱の底へゆっくりと転がす。今度は砕ける事もなく入れる事に成功した。


『ふう……こりゃさっきのボス戦よりも神経を使いそうだな』

『ま、頑張ろうよ』

『……だな』


 スティンガーも同じ箱を5個、用意していた。三人で黙々と緑黄色水晶を詰めていく。

 今の箱のサイズ一杯になると、サイズを三分の二にして更に詰める。

 本来のサイズに戻った箱10個分ほどに詰め終わったところで、スティンガーとペトーは外へ運び出す事になった。


『アイテムボックスに3個と背中に1個背負って、それ以上は止めておいた方が良いかな?』

『クリスタル・ビートルに襲われる可能性もあるし、無理はしない方が良いと思うにゃ。

 じゃ、ボク達は行くけど、サーウにゃんは怠けずに箱詰めしてるにゃ』

『手前ぇと違って怠けねぇよ』

『本当かにゃあ?

 ボクはすぐに戻って来てあげるから、それまでは一人で寂しくても頑張るにゃ』

『ハイハイ、とっと行って来い。でないと緑黄色水晶が消えちまうぞ』

『じゃ、宜しく。多分、敵は現れないと思うけど、サーウッドも気を付けてくれ』

『応。二人もな』


 一度こちらを振り返っただけのスティンガーと手を振りながらバックで歩くペトーが扉から出て行くのを見送り、俺は箱詰め作業を再開した。


――――――――――――――――――――


 結局、消えるまでに確保出来た緑黄色水晶の数は約20万個だった。箱にして、のべ200箱。最後の頃には横倒した箱を引き摺って緑黄色水晶を入れていくと言うワイルドな手段まで使ってしまったが、どの辺りまで無理が効くかが判ればどうとでもなってしまうもんだ。


 最も活躍したのはペトーだろう。数は多くはなかったそうだが、それでも遭遇エンカウントしたクリスタル・ビートルを倒しながら闘技場とスティンガーの車――トラックみたいな装甲車で、麓から入り口の広場まで移動して製錬作業を行っていた――の間を50往復弱、一人で頑張ったのだ。


 だが、三人の頑張りで製錬出来た青茄子鉱の数は、通常の品質で約5万個分だった。

 スティンガーの車――10トン車よりも一回り小さいワンボックスだった――に設置されている製錬設備の前に集合した俺達は、本日の収穫の結果を見ながら反省会を始めていた。


「四分の一か…… 効率が悪くないか?」

「大半どころか8割以上が低品質だったからね。高品質の物なんて数える程しか無かったし、こんな物じゃないかな?」

「1回で予定ノルマの半分が集まったんだから、それで良しとするにゃ。

 取り敢えず今日はこの辺で解散するにゃ。

 明日、もう一度グレート・クリスタル・ビートルに挑戦するにゃ」

「それしかない、か」

「だからサーウにゃんは怪我をとっとと直すにゃ。それと、メンテナンスポッドでリニア・カノンの弾を作れないかにゃ?」

「……おお!」

「『おお!』じゃないにゃ」

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