第71話 ウィークポイント
『待たせたな。弱点らしい物が見付かったぞ』
『早いね!』
『それで弱点は何処にゃ!?』
返事は間髪入れずに返ってきた。流石に二人共食い付きが良いな。
『グレート・クリスタル・ビートルの中に直径1メートルくらいの核がある。そこなら外側の装甲よりも脆くて、レーザーもある程度は効くみたいだ』
『……そんなもの見えないにゃ』
『うむ。HPが10パーセントずつ減るごとにコアの装甲が脆くなっていくらしい』
『つまり、先ずはHPを1割削って、そうしたら現れるコアを狙う、って事で良いのかな?』
『多分。流石に攻略本を読んだわけじゃないから正解は判らんが、それでいけると思う』
『うみゅうぅ……微妙だにゃあ』
『それでも目標が判っただけマシだよ。
じゃ、もう少し削っちゃおうか』
『『了解!』』
思わずペトーと唱和してしまった。
何処ぞのサッカー漫画みたいに気まずい様な照れくさい様な微妙な表情で奴と見つめ合ってから、俺はグレート・クリスタル・ビートルに向けてリニア・カノンを構える。
グレート・クリスタル・ビートルは俺達の会議中に頭部を引っこ抜き、現在は天井から次の突撃先を選んでいる最中だった。
左足の踏ん張が効かないので、膝立ちでグレート・クリスタル・ビートルの下を向いた背中に2発砲撃する。
着弾する直前に気付いて翅を広げかけたところへスティンガーの機関砲が連続で命中。動き損ねて半分開いた翅の隙間にHESH弾が吸い込まれる。
ひと際派手な爆発音と共に、視界に見えるグレート・クリスタル・ビートルのHPが90パーセントを切った。
大きく拡げられたグレート・クリスタル・ビートルの翅が超高速で振動を始める。
高周波が耳を直撃して、拡張能力を使った時とは一味違うハウリングじみた痛みが脳みそに叩き込まれた。
『こんなの聞いてないにゃ!』
『一体これは何なんだい!?』
『俺だって知らんわい!』
二人の通信に言い訳を返していると、超音波攻撃が突然止まった。
さてはまた突っ込んで来るかと身構えた俺達の視線の先で、グレート・クリスタル・ビートルの表面がボロボロと崩れ落ちる。
『おお! これはやったか?』
『流石にそれは無いと思うにゃ』
『エフェクトにしちゃ――』
零れ落ちたグレート・クリスタル・ビートルの欠片は、地面にぶつかる直前で天井へ舞い上がりだした。そのまま海中を進む小魚の群れの様に、壁に沿ってグルグルと回り始める。
欠片達の回遊は速度を上げながら何周も続き、トップスピードに乗った頃、俺達目掛けて突っ込んで来た。
『痛いイタイいたいにゃ!』
『くうぅ……これは、クリスタル・ビートル!?』
「のわたたたた!?」
スティンガーが指摘した通り、欠片はクリスタル・ビートルだった。1匹のサイズは最小の2センチメートル。だがそれが数百数千の礫となって横殴りにぶつかってぶつかってくるのだ。痛い上に避け様が無いので散々である。
取り敢えずは地面に伏せて、嵐が過ぎ去ってくれるのを待つしかないが……このまま死に戻りするまで続くって事はないよな?
嫌な妄想に囚われ始めていると、ペトーが心配して声を掛けてきた。
『サーウにゃん、大丈夫かにゃ?』
『返事が無い。ただの――』
『無事みたいだね。ところで、あんな攻撃があるとは聞いてなかったんだけど?』
『――ギャグくらい最後まで言わせてくれよ。
俺だって知らんかったわ』
『無責任過ぎにゃ』
『だから言ったじゃねえか、『攻略本を読んだ訳じゃない』って』
『騙されたにゃ!』
ペトーの言い草も判らないではないが、俺が見付けてきたのはグレート・クリスタル・ビートルの弱点であって攻撃パターンではない。そこのところを勘違いされても、そのなんだ、困る。
『まあまあ、無いよりはマシだったんだし気にするのは止めよう。
それよりも――ん?
クリスタル・ビートルが戻って行く?』
『え? ありゃ?』
『戻ってって言うか……グレート・クリスタル・ビートルに吸収合併されちゃったにゃ……?』
俺達が無意味な言い争いをしている間に、剥がれ落ちて飛び回っていたクリスタル・ビートルの群れがグレート・クリスタル・ビートルと合流し、融合していた。
頑張って開けた穴やクレーターが綺麗に塞がれ、外見上は傷一つ無い姿に戻っている。
ただし、そのHPは90%を割り込んだままで、よくよく見るとサイズが一回り小さくなっている。そしてその中央――胸部と腹部の境辺り――に、微妙に色の濃くなった直径1メートル程のガラス球が見えていた。
『あれが、コアか……』
『多分な』
『身体の中に埋もれてるって事は、物理攻撃は届かないにゃ?』
『コアには、レーザーは効くんだったよね?』
『他の部分よりは、ってところだな。
HPを削れば、それに合わせてコアの防御力? も弱くなるみたいだ』
『……よし。僕とペトーが前衛に出るから、サーウッドは敵の攻撃目標にならない程度に攻撃してくれ。
ペトー、君はレーザー兵器は持ってるかい?』
『持ってないにゃ』
『困ったな――』
『俺ので良ければ貸そうか?』
『――良い銃を持ってるのかい?』
『良いかどうかは知らないが、イベントの残念賞で貰った奴が――げぇ!?』
打ち合わせの真っ最中に一回り縮んだグレート・クリスタル・ビートルが俺目掛けて跳び降りて来やがった。
とにかく身体を浮かせて、右足一本で地面を蹴る。ペトー程ではないが、今度は上手く跳んで躱す事が出来た。
座り直して体勢を整える。グレート・クリスタル・ビートルの中に浮かんでいるコア目掛けてリニア・カノンを3点射。コアには勿論届かなかったが、横腹にクレーターを穿つ事は出来た。
スティンガーがグレート・クリスタル・ビートルを挟んだ反対側から機関砲を連射しているのが透過した結晶越しに見える。
「サーウにゃん!」
「うわっ!? お前は何処ぞの妖精族か!?」
「何それ?」
「……大声を出されて吃驚しただけだ」
急に耳元で怒鳴られたので文句を言うと、ペトーは小首を傾げた。ううむ、これがジェネレーションギャップと言うものか。
これ以上アホなじゃれ合いを続けても時間の無駄なのでアイテムボックスからパピヨンを取り出し、ペトーに差し出す。
「ほら、こいつだ」
「にゃ……すっごく凝った銃だにゃあ。何処で手に入れたにゃ?」
「ええと……イン・アバとか言う村だったな。巨大ウサギが襲って来る所だ」
「ああ、あそこ――って事は、『イン・アバ村の虐殺』の時に手に入れた奴?」
「……間違ってはいないが、その嫌な名称は何だ?」
「掲示板とかでそう呼ばれてるにゃ。
『嫌な事件だったね』って」
「マジかよ!?」
掲示板を見て回る習慣なんぞ持っていないから、そんな事になっているとは知らなかった。もっとも、知ったからと言ってそれに対して何かが出来る訳でも無い。泣き寝入りするしかなさそうだ。
「まあ、良い……サイズの割りには威力があるからな。エネルギーの入力を多くし過ぎて吃驚すんなよ?」
「そんなににゃ?」
「そんなにだ」
俺の話を聞いて興味を持ったらしいペトーは、一旦伸ばし掛けた手を途中で止めた。暫らくパピヨンを眺めてから手を引っ込めて、俺に視線を戻す。
「どうした?」
「どうせなら、そっちのリニア・カノンを借りた方が良いかも。そしたらサーウにゃんへ向くヘイトも少なくなるだろうし」
「ヘイト?」
「そこかにゃ……『ヘイト』って言うのはモンスターが誰を狙うかを決めるパラメータにゃ。基本的に沢山のダメージを与えた相手を狙う様に設定されてるにゃ」
「……つまり、現在、一番攻撃力のあるリニア・カノンをぶっ放してる間は一番狙われ易い、と?」
「そう言う事にゃ。今のサーウにゃんの状態だと、ボクがリニア・カノンを使う方が安全だにゃ」
「そりゃ構わんが、残り9発だぞ?」
『どうしたんだい! 何か問題があるのかな!?』
ペトーの答えの前に、焦りと疲労が混じり始めたスティンガーの声が聞こえてきた。俺達が話し込んでいる間、一人でグレート・クリスタル・ビートルの相手をしていてくれたのだが、流石に辛くなってきたらしい。
二人の会話を手短に纏めて伝えると、スティンガーは考えたとも思えない早さで指示を出してきた。
『それならペトーにリニア・カノンを渡してくれ。弾切れになったらまたサブマシンガンに戻せば良い』
『了解にゃ』
『それでペトーが良いのなら、俺は構わん』
早速リニア・カノンと弾倉をペトーに引き渡し、奴が装着するのを見守りながらパピヨンからエネルギーケーブルを引き出して接続する。
ペトーの方も問題無く装着してエネルギーケーブルの接続も終えたのを見て、俺はスティンガーに報告を入れた。
『待たせたな。準備完了だ』
『助かるよ! それじゃペトーはリニア・カノンでビートルを牽制。サーウッドはそこからレーザー銃でコアを狙ってみてくれ』
『了解』
『オッケーにゃ!』
返事を送信すると同時にペトーが駆け出した。こちらへ後部を向けているグレート・クリスタル・ビートルの左側面へ回り込んでリニア・カノンを撃つ。周囲の砂埃が舞い上がり、思っていた以上に迫力があった。
『反動が思ってたより大きいにゃ!』
『そうか? 俺にはそう感じられなかったが――』
『サーウッド! 今の内にレーザーで攻撃してみてくれ!』
『――了解!』
スティンガーの催促を受けて、慌ててパピヨンを構える。ケツ越しに透けて見える球体に狙いを定め、可能な限りの最大出力で撃つ。
レーザーは狙い通りグレート・クリスタル・ビートルのケツに吸い込まれ――
「え?」
――、その体内であちこちに反射した。コアには掠る気配も無い。
グレート・クリスタル・ビートルの体内で数回反射したレーザーは左の脇腹辺りから外へ抜けていった。丁度2発目を撃とうと構えたペトーの足元に吸い込まれ、結構大きな爆発を起こす。
予想外の攻撃に反応しきれなかったペトーが、仰向けにひっくり返った。




