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第70話 大晶甲虫

 己の暗視装置スペックに胡坐を掻いた為に隠し通路を見つけ損ねていた俺達は、疲れと虚しさに打ちひしがれながら半周先の入り口へと急いだ。

 しかし、そんな時に限って行く手を遮る団体様クリスタル・ビートルが続々と現れやがる。

 漸く目的地に辿り着いた時には40分が経過していた。

 緑黄色水晶はかなり手に入ったが、進行速度は半分以下に落ちている。


「なあ……クリスタル・ビートルの出て来る回数が増えてないか?」

「そうだね。気のせい、と言うには多いかな」

「やっぱり二周目だからかにゃあ……」


 精神的、肉体的――実際に体を動かしているのではないが――に疲れた俺達は目的地の壁を目の前にして座り込んでいた。

 ステータス上のダメージはほぼゼロなのに疲労感が洒落になっていない。なるほど、誰もこの洞窟ダンジョンへ来たがらない訳だ。


「ちょっと違う気もするけど、大体合ってるにゃ……」

「……左様さいで」


 俺の思考に突っ込むぺトーも、それに返す俺も、口ぶりに元気が足りていなかった。

 それでも5分程の休憩で何とか元気を復活させて、入り口の壁へと突入する。


「元気と言うよりも空元気だよねえ」

「それは言わない約束だろ……?」


 切れの無いボケと突っ込みを交わしながら通路を進む。どうやらこの通路にはクリスタル・ビートルは出現しないらしい。


 通路は10メートルも進まずに終了した。

 高さ3メートルはありそうな両開きのドアが行く手を阻んだのだ。扉には巨大なクリスタル・ビートルが浮き彫りで描かれている。


「なあ、これって――」

「中でボスモンスターが出て来るんだろうね」

「それ以外に考えられないシチュエーションだにゃ」

「――やっぱりか」


 取っ手に手を掛けると、扉は音も無く開いた。

 目の前には直径100メートルくらいはありそうな空間が広がっている。天井までは30メートル程だろうか。


 緊張しながら中へ入って周囲を見回すが、ボスらしい物が現れる様子は無かった。

 先程の拡張機能ではボスに関する情報は見付けられなかったので、俺にはどうすれば出現するのかは判らない。


「この手のギミックだと、部屋の中央辺りにスイッチがありそうなんだけど……」

「サーウにゃん、さっさとボスキャラの出現方法と弱点を調べるにゃ」

「幾ら時間が無いからって頼り過ぎだぞ?」

「ケチだにゃあ」


 調べる気力が一番多く残っていたスティンガーを先頭にして、俺達は闘技場じみた広場の中央へと向かった。

 おのぼりさんよろしく、あちこちに視線を走らせながら歩いたが事件アクシデント一つ起きる事も無く中央に辿り着いてしまい、改めて周囲を眺め回してみる。


 そして三人ほぼ同時に見付けたのは、天井の中心に灯っている小さな光だった。


「……あれって怪しいよな?」

「怪しいんだけど、どうすれば良いのかなあ……?」

「だからサーウにゃん、さっさと調べるにゃ」

「お前はもう少し真面目に考えろ」


 三人して見上げていると、光が急に膨らんだ。同時に入り口の扉が音を立てて閉ざされる。

 膨らんだ光は直径10メートルを超えたあたりで弾け、粉雪の様に地面へと降り注いだ。


「ふわあ……綺麗にゃ……」

「その意見には同意するけど、ぺトー、君はもう少し周囲を警戒してくれ」


 舞い降りた光の雪は、俺達のいる広場の中央半径1メートル以外を満遍無く光らせていた。

 やがて光は入り口の扉前へと集まり、巨大なドームを形成した。


「これがボス……なのか?」

「多分。これからボスの形に変形モーフィングするんだろうね。

 凝った登場だな」

「あ、浮いたにゃ!」


 光のドームはぺトーの言葉通りに2メートル程浮き上がり、直径10メートルの光球になった。そこから細い紐が6本伸びて、地面に辿り着く。

 同時に光球の光がデコボコと収縮して、細かな形状ディテールが形成されていく。


 現れたのは、巨大なクリスタル・ビートルだった。体長10メートル、高さは5メートルといったところか。

 視界に現れた敵のHPゲージには【(グレート・)晶甲虫(クリスタル・ビートル)】と表示されている。


「……凝った演出の割りに、見た目は変わらないのか」

「なあ、これってやっぱり手抜きになるのか?」

「う~ん、微妙なところだにゃあ」


 水晶の巨体に吸い込まれて消えていく光を見送りながら、俺は武器をPDWからリニア・カノンに切り換えた。今までは獲物の大きさもあって使えなかったが、このサイズなら弾種以外は問題無いだろう。


「おー。ここからはサーウにゃんの独壇場にゃ?」

「残弾は粘着榴弾(HESH)が20発だけだがな」

「……サーウにゃん、使えないにゃ」

「そんな事を言っちゃいけない。無いよりはマシだよ」

「失礼な奴等だな」


 スティンガーとぺトーも無駄口を叩きながら得物を構える。


 三人の準備が整うのを待っていたかの様にグレート・クリスタル・ビートルに纏わりついていた光が全て吸い込まれ、背中の翅が開いた。そのまま最初の光があった場所へ飛び上がる。


 天井スレスレで高周波を撒き散らし始めたグレート・クリスタル・ビートルは、闘技場の状況を確認したと同時に広場中央おれたち目掛けて飛び込んで来た。慌てて跳び退くと同時に、今まで立っていた場所が爆発する。


 衝撃で転びそうになりながら振り返ると、地面にめり込んだグレート・クリスタル・ビートルの頭部がゆっくりと引き抜かれるのが見えた。


「こん畜生!」


 そのまま身体を反転させ、腰だめにしたリニア・カノンを撃ち込む。グレート・クリスタル・ビートルの横っ腹に大きくはないクレーターが生まれ、反対側の表面が少し砕けるのが見えた。どうやら衝撃波がグレート・クリスタル・ビートルの体内を伝播して反対側へ抜けたらしい。


「とは言え、効果は小さいね!」

「無いよりはマシってレベルにゃ!」


 俺の砲撃を見ていたスティンガーとペトーも、それぞれ手持ちの機関銃を撃ち始めていた。スティンガーは口径が30ミリメートルはありそうな機関砲でそれなりの穴を穿っているが、ペトーの方はサブマシンガンなので表面にあばたを作る程度に留まっている。

 二人の残弾がどれくらいなのかは知らないが、この調子ではグレート・クリスタル・ビートルを倒すよりも先に弾切れを起こしそうだ。


 6本の脚を踏ん張り頭部を地面から引き抜いたグレート・クリスタル・ビートルが天井へ飛び去った。そのまま逆さに貼り付いて、俺達の位置を確認している。


「こりゃ削り切るのに弾薬が5万発は必要になりそうだね!」

「サバ言うのは後にしてくれ!」

「サーウにゃんこそ訳の分からないボケ言わ(かまさ)ないで欲しいにゃ」

「……まあ良い。

 取り敢えず、分散して攻撃する方が良くないか?」

「そうだね。あの突進を馬鹿正直に全員で受ける必要は無いし」

「同意だにゃ」


 意見の一致を見たと同時に、ペトーは左へ、スティンガーは右へと走り出した。

 二人の見事な連携を目の当たりにして、俺は自分が最初の囮となった事に気付くのが、一瞬遅れてしまった。


 ふと上へと視線を向けると、天井で脚をたわめているグレート・クリスタル・ビートルと目が合った――様な気がした。

 畜生。日本の芸能史に関する若い者(ペトー)への解説せっきょうはこいつを倒してからだ。


 俺がリニア・カノンを撃つのと、グレート・クリスタル・ビートルがこちらへ飛び掛かるのは、ほぼ同時だった。


 迫り来る頭部の中央にHESH弾が命中、爆発する。

 それを確認しつつ背後へと飛び退るが間に合わず、左足をグレート・クリスタル・ビートルの突撃タックルが掠める。

 ダメージそのものは大きくないが、足首が変な方向に曲がっている。左足に歩行制限のバッドステータスの表示が点灯した。多分、まともに走れない。


「糞。これじゃ良いまとだ――ゲッ!?」


 顔を顰めていると、グレート・クリスタル・ビートルの前肢が俺目掛けて落ちてくるのが目に入った。

 慌てて逃げ出すが、体重を掛けた左足首が捻じれてその場に転んでしまう。

 細い前肢目掛けてリニア・カノンを3発連射するが、1発が掠めただけで、全弾とも天井にクレーターを穿った。

 転がって前肢の直撃を避ける。何とか間に合って追加ダメージを貰わずに済んだ。


「サーウにゃん!」


 ペトーの叫びと共に、俺のすぐ横にそびえ立つグレート・クリスタル・ビートルの前肢にサブマシンガンと機関砲の弾が次々と命中した。

 弾のサイズが小さい分狙い易いのか、あいつ等の腕が良いのか……ともあれ降り注ぐ水晶の破片を避けて更に転がり、体勢を立て直してリニア・カノンを撃つ。グレート・クリスタル・ビートルの頭部と胸部の境目辺りに2発命中した。


 グレート・クリスタル・ビートルが頭部を地面から引き抜く間に、可能な限りの速さで這い逃げる。何とか壁際まで――10メートル程度ではあるが――移動する事に成功するが……遮蔽物の無い円形闘技場みたいな場所では大して意味が無いんだろうなぁ。

 壁に寄り掛かりながらグレート・クリスタル・ビートルの方を見れば、引き抜いた頭を左右に振っている最中だった。


「頑丈過ぎるな、こいつは」

『大丈夫にゃ、サーウにゃん?』

『何とか、な』

『それは良かった。どうやら君のバズーカが僕達の中で最大のダメージソースになるみたいだからね』

『残り14発だけどな』


 頭部に付着していた泥を振り払ったグレート・クリスタル・ビートルが天井へ戻って行くのを眺めながらぼやいていると、スティンガーとペトーからチームチャットが入った。何だかんだで三人共結構離れた位置に移動してしまったので、これからの連絡にはこちらを使う方が楽なのだろう。


『それで、アイツを倒す良い方法は無いのか?』

『初見の相手でそれが判るなら苦労はしないよ』

『そんな時にこそサーウにゃんの拡張能力にゃ』

『……やっぱりか』


 仕方がない、か。

 スティンガーの言う通り、このデカブツと戦うのは俺達が最初の筈だ。攻略法が出回る様な幸運は期待出来ない。キングのフォーカードにスペードのエースの手に、エースのフォーカードにハートのキングで勝つ様な奇跡は起こさない方が良いと思うのだが。


『サーウにゃんだって攻略法を知りたいくせに』

『ここまでの攻撃と残りHP(ヒットポイント)を考えたら、打てるは全部売っておくべきだよ?』

『うぅむ……』


 先程までの戦いで削れたグレート・クリスタル・ビートルのHPは全体の4パーセント程だった。

 現在の時刻は現実リアル時間で午後10時前。

 この調子でいくと、勝てたとしても日付は変わってしまうだろうし、下手すれば日付が変わった挙句に死に戻りだ。


 そして、拡張能力で弱点が見付かれば何とかなるかも知れない。


「是非も無し、か……」


 呟いて、拡張能力を起動する。

 天井に張り付き直したグレート・クリスタル・ビートルを見上げ、奴の弱点と思われる情報を掻き集める。細かいギミックはさて置いて、倒すための手順だけを情報の沼から救い上げる。

 またもや俺をターゲットに定めたらしいグレート・クリスタル・ビートルにスティンガー達が銃弾を浴びせて、注意を俺から逸らしてくれている。


 集中したいのに邪魔ばかりする偏頭痛を無理やり無視してそれらしい情報を集め終わり、俺は拡張能力の使用を終了した。


 グレート・クリスタル・ビートルはターゲットを俺からペトーに変えて急降下し、ペトーはそれをサブマシンガンを撃ちながら跳び上がって躱していた。

 今度は頭部を地面と壁の境にめり込ませたグレート・クリスタル・ビートルの腹部にスティンガーの機関砲が次々と命中する。


 攻撃が一段落したのを見て、俺は二人に連絡を取った。

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