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第69話 新発見

「まあ、それはそれとして、どうするんだい、サーウッド?」


 がっくりと項垂れるペトーを俺と二人して楽しんでから、スティンガーが半開きになったままの扉を指さした。

 先に進むか戻ってクリスタル・ビートルを大量虐殺するか、選べと言う事か……


「先に進みたいのは山々なんだがなあ……」

「もうすぐログアウトしなきゃいけないとか?」

「いや、後2時間――無理して3時間は大丈夫だ。

 ……それくらいあれば大丈夫だよな?」

「実際に行ってみないと判らないけど、大丈夫だと思うよ。

 じゃあ何が問題なんだい?」

「装備だな。弾薬タマ切れなんだ」

「補充は?」

「忘れてた」


 スティンガーはわざとらしく額を押さえながら大きな溜め息を吐いた。頭を振りながら俺を見下して、口を開く。


「そんな初心者じゃあるまいに――」

「いや、始めて一か月も経ってない初心者なんだが」

「――え? あ、ああ、そうだったね。

 うん、まあ、次からは、消耗品の補充は小まめにした方が良いよ」

「ああ。次からは気を付ける」

「それなら良い物があるにゃ」


 俺とスティンガーとの会話にペトーが入り込んできた。何やら良い考えがある様だが……あ。

 思い当たる節に気付いた俺は、空中に現れているのであろうウィンドウを操作し始めたペトーに聞いてみた。


「そう言えば頼んでおいたサブマシンガンはどうだった?」

「勿論ちゃんと買って来たにゃ。今渡すから、これ持って先に進むにゃ」


 見えないウィンドウの操作を終えたペトーの両手にマシンガンが1丁現れた。

 UZIとかイングラムとか、あの辺りの奴――ペトーが使っていたのもそれくらいのサイズだった――を想定して頼んだのだが、どう見てもそれより二回りは大きい。


「えらく、大きい様な気がするんだが……」

「サブマシンガンとしては大振りな方かもにゃ」

「それ以前に……サブマシンガンって、銃床ストックが付いてるものなのか?」

「そう言うのもあるにゃ。現実リアルでもイングラムなんかは折り畳み式のストックが付いてるにゃ」

「いや、こいつのストックは折り畳めないし、第一、ストックに弾倉マガジンが付いてるんだが……?」

「プルバップ方式って言うにゃ。とっても格好良いにゃ」


 ペトーが偉そうに胸を張っている。

 確かに未来っぽいデザインで格好良いと言えるかもしれないが、見掛け倒しじゃないのか?


「へえ、PDWか。面白い物を選んだね」

「俺が選んだんじゃないんだけどな。

 ところで、PDWって何だ?」

個人(Personal)防衛(Defence)火器(Weapon)の略称だよ。サブマシンガンとほぼ同じ使い勝手で、それ以上の威力を持つ機関銃さ」

「へえ……俺は聞いた事無いんだが、流行ってんのか?」

「ゲーム内ではそれ程でもないね。どうせ持つのなら強力なアサルトライフルにするし、野外で護身用とするにはちょっと嵩張かさばるし。

 リアルの方だと、室内で不特定多数を相手にしなければならない人達が使ってるよ」

「ほほう」


 つまりテレビの特番スペシャル企画でお馴染みの『潜入! 特別機動隊24時』に出てくる様な皆様御用達、って事か。だがあの番組にこんな銃は出てなかったと思うんだが。


「日本じゃPDWは採用されてないにゃ。威力が強過ぎて危険だからって人権団体が反対してるにゃ」

「それで犯人に反撃されたらどうすんだよ」

「さあ?」

「犯人にも人権がある、って事らしいけど、ねぇ……」

「どう考えても犯人を優遇し過ぎじゃないか?」

「何を今更、だにゃ」


 それを言っちゃあお仕舞なんだがな、ペトー。どうも「弱者救済」って言葉が、ここ30年くらい色々捻じくれてるよなあ。


 ま、その手の話は置いといて、図らずも得物が手に入ってしまった。

 こりゃ断る言い訳が無くなったかな。行くこと自体は構わないし、後は時間次第なんだが、こればかりは判らないか……となれば、後は勇気だけだ。


「そいつがあるなら大丈夫そうだな。

 よし、行こう」

「そうこなくっちゃ!」


 ペトーが嬉しそうにPDWとやらのストックをこちらへ向けてきた。

 受け取って構えてみる。流石に子供が持つには大きいらしく、ストックが肩に当たらなかった。リニア・カノンと同じく脇に抱える感じで使う事になるんだろう。

 持ち方を研究していると、目の前に【Petoh Talraynから取引の依頼が来ています。】と書かれたウィンドウが現れた。一瞬吃驚してしまったが、要は立て替えた代金を払えと言う事だろう。

 ウィンドウを操作して取引される品物アイテムを確認する。

 ペトーからの欄には今渡されたPDWとそれ専用らしい弾倉が50個リストアップされ、俺の欄にはその代金が表示されていた。


「なあ、弾倉の数が多過ぎないか?」

「これでも少ないにゃ。サーウにゃん、目標を忘れたにゃ?」

「確か……緑黄色水晶を1万個だったか?」

「10万個にゃ」

「やる気をぐ様な数を言わないでくれ……」

「現実逃避してる時間が勿体ないにゃ」

「決めたのなら急ごう。どれくらい時間が掛かるか判らないよ」


 無慈悲な正論を後に残してペトーが扉の向こうへ消え、こちらを気遣う様に振り返りながらスティンガーも後に続いた。


「……ったく、現金な奴等め」


 俺も二人に遅れない様に、急いで後を追い掛けた。


――――――――――――――――――――


 扉を出ると、普通の洞窟が左へ延びていた。

 良く判らない彫刻の並ぶ曰くありそうな通路だのボスキャラが現れそうな広場だの、そんな特別な場所へ行くのかと思っていたら、上の階とさして変わらない光景が続いている。

 クリスタル・ビートルも現れる様になっており、これまで10分ばかり歩いた間に団体さんを二つばかり全滅させている。手に入った緑黄色水晶は三人合わせて百個程だ。


「ふみゅう。これで一段落にゃ」

「久し振りに来たけど、相変わらず疲れる割りにドロップが少ないね」

「サーウにゃん、新しい銃の感想はいかがかにゃ?」

「うん、中々良いな。

 しかし何と言うか、獲物あいての変わり映えがしないな」

「てっきりボスキャラが追加されているかと期待したんだけどねぇ」

「モンスターの種類も変わらないにゃ」


 三人並んで愚痴を交わしながら、ボチボチと洞窟を歩いて行く。

 実はスティンガーも――GOOとか言う怪し気なモノではない普通の――サイボーグボディだそうで、ここにいる三人共クリスタル・ビートル程度の突撃で大きなダメージを負う事は無い。更には全員暗視装置をボディに内蔵しているの為、傍から見ると真っ暗闇の中を歩いている様に見えるだろう。


 左へ緩やかに曲がる一本道を更に20分、クリスタル・ビートルの群れには5回遭遇したところで洞窟は行き止まりになった。


「これだけにゃ?」

「……一体、何がやりたいんだ?」

「さて何だろうねぇ……」


 想定外の肩透かしに、俺もペトーもスティンガーも全身の力が抜けてしまっていた。

 それでも万が一と思って、スティンガーと二人で来た道を戻る様に周囲を調べてみる。ペトーは俺達の後ろ、行き止まりの壁の辺りを探り始めた。


「実はそこらの壁にスイッチがあったとか……」

「流石にそれは無いと思うよ?」

「あ、あったにゃ」

「「本当マジかよ!?」」


 二人でハモりながらペトーの居る場所へ駆け寄ると、壁の方を向いていたペトーが振り返って微笑んだ。


うっそにゃ~ん!」

「ええ――」

「ほえ?」

「――加減に――」

「にゅ?」

「「――しろ!」」

「にゃぎゃああぁぁぁ……」


 その憎らしいまでに可愛らしい笑顔へ、スティンガーと一緒に拳を叩き込む。

 情けない悲鳴を後に残して、ペトーは壁の向こうへと消えていった。


「壁を……素通りした……だと……?」

「この場合は……壁自体がホログラムか何かの映像? なのかも……」

「ったく、サーウにゃんもスティンにゃんも酷いにゃあ」


 予想外の事態に呆然とする俺達の前に、ペトーが壁の中から浮かび上がってきた。生意気にも口をとがらせて機嫌が悪い事をアピールしていやがる。


「ドやかましい。

 それよりも、これは一体何なんだ?」

「……まあ良いにゃ。

 プレイヤーの注意力を試すトラップじゃないかにゃ。実際、サーウにゃんもスティンにゃんも引っ掛かっちゃったし」

「ぐぬぬぬ」

「そう言われると反論出来ないねえ」


 歯噛みする俺とスティンガーを得意気に眺めてから、ペトーはくるりと後ろを向いた。

 岩壁から生えている奴の尻尾が俺達を急かす様に跳ねている。


「さっさと進むにゃ。時間が勿体ないにゃ」

「……御尤もで」


 反論する気力も無くした俺は、目の前の壁に手を突っ込んだ。肘まで岩の中にめり込んだのに、何かにぶつかった感触が無い。

 そのまま前進すると何も見えなくなり、更に歩くと二、三歩で直ぐに通路が現れた。

 慌てて振り向けば岩壁が鎮座している。勿論手を伸ばしたところで何も触れる事は無い。

 溜め息を吐き、前を向こうと――して、何処かで見た様な両開きの扉に気付いた。


「なあ、あれって……」

「ああ。入って来た扉だね」

「一周しちゃったみたいにゃ」


 横に居たスティンガーに尋ねたら、ペトーと一緒に俺の懸念を肯定してくれた。やっぱりかよ。


「……どうする?」

「サーウにゃん、拡張能りょ――」

「却下だ」

「――拒否るの速過ぎ!?」

「神速ブロックだったねえ……」

「だから他人ひとの秘密をホイホイと洩らそうとするんじゃねぇよ」


 呆れが8割以上混じったスティンガーの称賛を聞き流して、俺はペトーに抗議した。

 自分で「拡張能力の様な秘密は簡単にバラさない方が良い」とか言っておいて、この体たらくである。言行を一致させる努力って奴を、こいつは覚えるべきだ。


「じゃあ、どうするにゃ?

 今日はここでお終い、ってのは無しだにゃ」

「チッ、この我が侭ちゃんめ」

「サーウッド、そうは言うけど、そろそろ君のログイン時間も微妙になってきていないか?

 もしも何か仕掛け(ギミック)があるなら、その後にある筈のイベントに時間を残して置きたいし、出来れば使って貰いたいんだが」


 表情だけは申し訳なさそうにスティンガーも頼んでくる。


「判ったよ。

 使えば良いんだろう、使えば」


 俺は露骨に顔を顰めながら拡張能力を起動した。

 耐えられるが耐えたくない偏頭痛が顰めた表情を更に険しくさせる。


 起動して数秒で隠し通路は発見出来た。ほぼ円形になっているこの通路を半周した位置だ。


「……言われてみれば、一番ありそうな場所だねえ」

「気付かなかったのは一生の不覚にゃ……」


 落ち込む二人に、俺は止めの一撃を告げるべきか一瞬だけ悩み、口を開いた。この一撃は奴等だけではなく、俺にとっても致命傷となるだろう。


「一応言っとくとな、そこもここも暗視装置にのみ効果のあるトラップだぞ」

「……どう言う事にゃ?」

「松明なり懐中電灯なり、明かりを点けて肉眼で行動していれば、壁なんぞ見ずに済んだって事だ」

「なんて事にゃ……」


 反応する元気が残っていたのはペトーだけだった。

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