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第68話 新しい仲間

『それで今どこに居るにゃ?』

『うむ。それが、どうやら未発見のルートを見付けたみたいでな』

『マジにゃ!?』


 スティンガーの落ち込みっぷりを無理やりスルーしたペトーに意気揚々と現在位置を告げる。返ってきた反応も実に心地良い。

 ふっふっふ。もっと崇め奉り給え、君達。


 だが、俺の説明が進むにつれて、最初は驚きに満ちていた奴の相槌が段々と生暖かいトーンへと変わっていった。


『ああ、そこにゃあ。その広場はクリスタル・ビートルが出現しない安全地帯だから、連続で遭遇エンカウントしまくった時に、良くお世話になってたにゃ』

『へ?

 でも、どこのサイトを見ても、その情報は載ってなかったんだが……』

『そんな事無いにゃ?

 サーウにゃんの調べたサイトが、たまたま載せてなかっただけじゃないかにゃ』

『サイトを二つも調べたのに……そのどっちにも載ってないとか、どんな確率だよ』


 思い切り凹みながら、踊り場の床に「の」の字を書く。世の中そんなに甘くはないなぁ……。


『単にサーウにゃんのチェックが足りないだけにゃ。

 まあ場所も判った事だし、サーウにゃんはそこで待ってるにゃ。多分、15分か20分くらいで到着出来るにゃ』

『りょーかい。取り敢えず階段は下まで降りて、そこで待ってるわ』

『……え? かいだ――』


 意気消沈した俺はチームチャットを終了して、仰向けに寝転んだ。ここまでの洞窟の雑に削った物とは違う、平面に加工された天井が目に入る。

 どんな理由でこんな加工をしたのか、ぼんやりと疑問に思いながら暫らく眺め、やる気を無理矢理掻き集めて起き上がる。

 これ以上、ここに座り込んでいても仕方がない。言った通り、この階段の下で奴等を待つ事にしよう。

 俺は勢いを付けて立ち上がり、階段を降り始めた。


 最後にペトーが何か言いかけていた様だが、まあ合流してから確かめれば良いだろう。


 直角に曲がる螺旋階段――と言うのだろうか――を降りながら三周ほどして到着したのは、階段入り口の広場と同じくらいのスペースだった。

 ただし、出口と思われる場所には両開きの扉が鎮座している。開けようとしても開かなかったので、鍵が何処かにあるのだろう。


「あいつ等が来るまで、この部屋を調べてみるか」


 鍵の在り処はペトー達が知っているだろうが、丁度良い暇つぶしだ。

 俺は十分後に二人と合流するまで、部屋のあちこちを調べて回った。


 勿論、鍵は見付からなかった。


――――――――――――――――――――


 扉の周囲から始めて部屋を半周弱――向かいにある階段口まで後一息の位置――まで調べたところで、階段口から物音がかすかに聞こえてきた。ペトー達が上の部屋から降りて来ているのだろう。

 階段口を眺めていると、物音が徐々に大きくなってペトーと男が現れた。


 男はファッション雑誌辺りでモデルでもやってそうな爽やかな顔立ちに、モデルにしてはゴツい体つきをしていた。縦横の比率が取れているのでそれ程は感じないが、背が高い。多分180センチメートルはあるんじゃないだろうか。


「ご到着にゃ」

「やあどうも。改めて、僕がスティンガーだ」


 先程のチームチャットで聞こえていた、妙に爽やかさを感じる声で男が挨拶をしてきた。何と言うか、全てのパーツが「爽やかなイケメン」と言うコンセプトのもとに集められた様に感じる。


「ああ……サーウッドです。こちらこそよろしくお願いします」

「サーウにゃんサーウにゃん、今更取り繕っても遅いにゃ」

「え? ……ああ、そう言えばそうだった」


 チームチャットでペトーと会話した流れでスティンガーとも話したから、外面そとづらを取り繕うのをすっかり忘れていた。


「さっきのチャットでの事なら気にしなくても大丈夫だよ?」

「そうじゃないにゃ。サーウにゃんは普段、猫被ってるのにスティンにゃんに対して被り損ねたから落ち込んでるにゃ」

「……初対面の相手には外見に合わせた振る舞いをする様にしてるんだ。でないと悪目立ちしそうなんでな。

 後、出来るだけ丁寧な言葉遣いを選択するのは社会人としての常識だぞ?」


 思わず額を押さえた俺を心配するスティンガーにペトーが身も蓋も無い説明をしやがった。間違いじゃあ無いんだが……もっと言い方ってもんがあるだろうに。

 俺のフォローまでを聞いて、スティンガーは納得した様に頷いている。


「言いたい事は解かるよ。そんな子供が大人びた話し方をしてると確かに目立つもんな」

「そう言って貰えると助かる。最近、名前が売れ過ぎちまったんで、下手に目立つとロクな事にならないんだよなあ……」

「サーウにゃん、中途半端過ぎるにゃ。やるならボクくらい徹底的にしなきゃ逆効果にゃ」


 胸を張って得意気な表情を浮かべるペトーを暫らく見詰める。


「……流石に、こうなりたいとは思わんな」

「まあ、彼はその辺、完璧主義者だから……」

「ぶうぅぅ……サーウにゃん酷いぃ~」


 俺の感想にすかさずフォローを入れるスティンガー。どうもかなりの苦労人の様だ。現実リアルでも苦労しているのかも知れない。

 彼の人生の来し方行く末を想像して、ついしんみりとしてしまった。


「……サーウにゃん、何か失礼な事を考えてるにゃ?」

「そんな事は無いぞ?」

「まあまあ。

 ところでサーウッド、君に聞いてみるんだが、あの階段はどうやって発見したんだ?」

「どうやっても、あの階段は元からあるんだろ?

 それよりも、この扉の鍵が何処にあるか教えて欲しいんだが……?」

「え?」

「え?」

「一応言っとくと、あの階段から下――つまり、この部屋の事はボクもスティンにゃんも知らなかったにゃ。多分、サーウにゃんが最初の発見者にゃ」

「……マジ?」

「ああ」

「マジだにゃ」


 呆けた声で問い返したら、二人に揃って頷かれてしまった。

 今、俺達が居るのは、これまで見付かっていなかった場所で間違いなさそうだ。


「……サーウにゃん、嬉しくないにゃ?」

「いや、何と言うか……喜ぶタイミングを逃して困惑しているんだが……」

「えぇ~? ホントはすっっごく嬉しいんでしょ~?」

「いや、だから――」


「えっと、これからどうするのかな?」


 スティンガーの言葉に、呆けていた俺と、俺を揶揄からかおうとしていたペトーが我に返った。二人とも、こんな所で時間を無駄にする余裕は無いのだ。


「そうだにゃあ……」

「ここの扉の鍵が何処にあるかなんて、やっぱり知らないよな?」

「だね」

「むう。そう言う事なら仕方がないか……」


 俺が最初に発見した場所ならば、そこにある扉の鍵のある場所も、誰も知らないのは当たり前だな。

 場所を聞けば良いと楽観視していたのに、とんだ落とし穴だ。


「サーウにゃん、拡張能力でちゃっちゃと探すにゃ」

「をい!」


 ペトーの奴、落とし穴の底にもう一つ穴を掘りやがった。

 拡張能力の話はしない方針じゃなかったのかよ!?


「今は細かい事を言ってる場合じゃないにゃ。そんなのよりもスピードが大事にゃ」

「……手の内はバラしちゃ駄目なんじゃなかったのかよ」


 したり顔で己の変節を誤魔化そうとする奴に、呆れ半分諦め半分の突っ込みを入れてみる。


「ここの攻略が最優先にゃ。もしかしたら、初攻略の特典でレアアイテムが貰えるかもにゃ」

「それで俺に手の内をバラせ、と?」

「良いじゃん。どうせ何時かはバレるにゃ」

「そう言う問題か?

 困るのは他人おれだからって、適当な事を言ってるんじゃねぇぞ?」

「まあまあ、二人とも落ち着いて。

 それよりも、この扉なんだけど……」


 俺とペトー(こども)口論けんかを聞き流しながら部屋の中を見回っていたスティンガーが、なだめる様に声を掛けてきた。扉の上端の辺りを見ているのだが、何か見付けたのだろうか。

 俺達の視線が自分へ向いた事に気付いた風も無く、スティンガーは扉の上枠に手を伸ばした。そのまま指を左右に滑らせて何かを探し始める。


「……ああ、あったあった。

 二人とも、これが鍵じゃないかな」

「へ?」


 振り向いて手のひらに載せた古めかしい形状の鍵を見せてくる彼の笑顔に、俺は間抜けな声を返す事しか出来なかった。


「サーウにゃん、何処を探していたにゃ?」

「……俺の身長タッパじゃ、あそこまでは探せねぇよ」

「だからボク達が来るまでにさっさと拡張能力を――」

「お前達が知ってると思ってたんだよ」

「――にゅう。それじゃあ仕方ないか」


 上手く逃げやがったな、と言う顔つきでペトーは引き下がった。

 上手くも何も本当にお前らが知ってると思ってんだ、と腹の中だけで言い訳しながら、俺は一度探した場所で鍵が見付かった事に少しだけ苛立っていた。


 見付けられなかった言い訳としては、場所が悪かった事が挙げられるだろう。何しろ、この中で一番上背のあるスティンガーが背伸びをして手を伸ばして、それでやっと届く位置なのだ。

 それでも悔しい事には変わりないんだがな。


「さて、これで扉が開いた訳だけど……」


 俺達のやり取りをするっと聞き流しながら扉の鍵を開けたスティンガーが、振り返ってこちらを見た。

 その先へ進むか効いているんだろうが……今の装備じゃ心許ないんだよなあ。ペトーの奴なら一も二も無く突撃しそうだが。


「ん~……サーウにゃんはどうするにゃ?」

「え?」

「どうしたにゃ?」


 てっきり何も考えずに賛成――どころか俺達が反対しても進むだろうと思っていたら、俺の意見を聞いてきやがった。ここへ来る途中で何か変な物でも食べたのだろうか。


「サーウにゃん、何か失礼な事考えてるにゃ?」

「いやいや、そんな事は無いぞ?」


 顔を覗き込まれて、思わず目を逸らしてしまった。うむ、これでは認めた様なものだな。

 だがペトーの追及はそこで止まった。


「まあ良いにゃ。ここは一応サーウにゃんが最初に見付けた所だし、サーウにゃんの意見を尊重するのが礼儀って奴にゃ」

「お前から礼儀だの尊重だのと言われると、何かの陰謀を感じるな」

「何でにゃ!?」

「右に同じ。ペトー、君、さっきの買い物で何か変な食べ物を買い食いしたのかな?」

「スティンにゃんまで!?」


 協議の結果、2対1でペトーは何か変なモノを食べてしまった事になった。

 人間、普段の行いって大事だよな。

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