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第66話 本格的に狩りたい二日目

「多分かよ。

 じゃあ、どうするんだ?

 明日買いに行っても弾切れを起こしてから買いに行っても、結果的には同じにならないか?」

「う~~ん……それもそうなんだけどにゃあ……」


 俺の問い掛けに対して、ペトーは言い訳を考えている政治家の様に言葉を延ばした。

 奴の頭の中では、このまま進めて運が良ければ何とか集められるのだろう。だが万が一――もしかすると千が一くらいかもしれないが――集めきれなかった場合、しかもそれが期限前日とかで判明した時が問題だ。その可能性の高い事が、奴の歯切れの悪さに繋がっていると見た。


「一つ質問がある。

 明日のログイン、お前は何時くらい――正確には俺より早くログインするのか?」

「明日? そうだにゃあ……火曜だし、サーウにゃんよりは早いと思うにゃ」


 ふむ。ならば余計な仕事を頼んでみるか。


「だったら悪いんだが、お前一人で買い出しに行って貰うってのは出来ないか?」

「ボク一人で?」

「俺が同行するよりも手間は掛からないんじゃないのか?

 ログインした時にお前が帰ってなければ、俺一人でクリスタル・ビートルを狩りながら待ってりゃ良いし。

 それでどうだ?」

「うぅぅ……それなら良いかな?

 じゃ、サーウにゃん、そうして貰って良い?」

「クリスタル・ビートル狩りか? 勿論だ。

 後、悪いんだが、俺用にサブマシンガンを1丁と弾薬を適当に見繕って来てくれ」


 俺の依頼を聞いたペトーが唇をとがらせた。まあ、いきなり使い走りを頼まれればそうなるわな。

 だが、こればかりは頼まれて貰わなければならない。でないと俺の耐久力が擦り切れてしまう。それと服が。


「……まあ、仕方ない、かぁ」

「済まんが頼むぞ。服の替えだって潤沢にあるわけじゃないし、余計なダメージは抱え込みたくないんだ」

「はいはい」


 諦めを混ぜた答えを返して、ペトーは入口に向けて歩き始めた。

 俺も背後を気にしながら、それに続く。


 前を進むペトーの耳が、機嫌良さそうにピコピコ動いていた。


――――――――――――――――――――


 帰りの道中は平穏で、クリスタル・ビートルと遭遇エンカウントする事も無く洞窟から出られた。ペトーが気にしていた襲撃者も現れてはいない様だ。

 九十九折りの坂道を気持ち急ぎながら下り、隠蔽中の装甲車まで戻って来る。現実での時間は午後10時を少し回ったところで、ほぼ予定通りと言って良いだろう。


 二人して装甲車に乗り込み、未来チックな棺桶もどきを並べて設置する。そう言えば、こいつも持ってるんだったな。


「じゃあサーウにゃん、一応この装甲車くるまの所有権を預けておくにゃ」

「ん? ……お、おう」


 棺桶メンテナンスポッドに腰まで這入り込んだペトーから声を掛けられると同時に、目の前にウィンドウが現れた。

 この装甲車を俺に貸す事でペトー自身は自分だけで買い出しに出掛けられるし、俺もログインしたら移動中の装甲車の中と言う状況にならずに済むのだ。

 ウィンドウに書かれているメッセージを一通り読んでから、俺は装甲車を借りる操作を行った。


「これで良いか?」

「オッケーにゃ。

 それじゃサーウにゃん、明日はボクが帰って来るまで装甲車これを頼むにゃ」

「了解。

 とは言え、別に出来る事は無いと思うがな」

「そんな事は無いにゃ。装甲車の索敵サーチシステムを自動起動する様に設定しておくから、クリスタル・ビートルを狩りながら襲撃者おきゃくさんが現れないかチェックして欲しいにゃ」

「……面倒臭ぇ」

「我儘言わないで、ちゃんとやるにゃ」

「へぇへぇ。

 じゃ、サブマシンガンを頼んだぞ」

「……はいはい」


 ペトーはむくれた声で返事をしてから起こしていた上半身もメンテナンスポッドに沈め、ワザとらしく大きな音を立てて蓋を閉めた。奴への対応が流石に適当過ぎたらしい。


 まあ、明日は真面目に襲撃者のチェックもするとしよう。出来る範囲で、だが。

 表面がピコピコと点滅しているペトーのメンテナンスポッドを眺めながら、そんな事をつらつらと考える。

 大体、襲撃者がやって来た場合はどうすれば良いのか、俺にはよく解かっていなかったりするんだがなあ。その時はペトーにチームチャットでお伺いを立てるとしよう。


 ふと目をやると、ペトーのメンテナンスポッドから光が消えていた。

 更に暫らくするとメンテナンポッド自体が薄れて消えていった。


「なるほど。こうやってログアウトしているのか」


 初めて見るログアウトしたPCの消えていく状態に何となく感動を覚えつつ、俺もメンテナンスポッドに寝転んで蓋を閉める。

 そのままログアウト処理を済ませて目を閉じると、意識は眠りに引き込まれる様な感覚を経由して、現実に戻っていった。


――――――――――――――――――――


 翌日の昼休み。

 遠金と昼飯を食べながら、恒例となった互いの状況報告を行う。


「へえ。まさかクリスタル・ビートルでも有機水晶の代わりになるとは思わなかったッスねぇ」

「一応言っておくが、この事は内密にな。

 少なくとも今週一杯は」

「了解ッス」

「俺としては、同じ水晶って名前なんだから誰か調べていそうな気もするんだがなぁ。

 昨日見た限りだと誰も居なかったんだよな」

「クリスタル・ビートルは面倒ッスからね。好き好んで狩りに行く物好きは少ないッスよ」

「別に、そんな物好きって訳でも……」

「今までの白森さんのプレイっぷりは物好きのレベルを超えてるッス」

「……そんなもんかねぇ」


 遠金の軽口ツッコミに、俺はおざなりに返した。

 どうもペトーの敷いた道筋レールに上手く乗せられている様な、何処がとは判らないが妙に引っ掛かる展開に不安を感じてしまっている。初心者おれの自意識過剰と言うか、思い過ごしなら良いのだが。


「どうかしたんスか?」

「何か嫌な予感がするんだよなぁ……」

「ペトーに騙されてる、とか?」

「いや、それはない……と思う。

 今のところは」


 確かに今のところまでで奴の動きに怪しい箇所はあっても、それが致命的な結果には結びついてはいない。少なくとも俺が知っている範囲では。


「ただ、何て言うか、奈落の底への単線レールを走らされている様な……このまま突っ走ると危ない、って気分が止まらないんだよなあ」


 我ながら歯切れが悪いと言うか、要領を得ない言葉が口から漏れ出している。これでは遠金には何が何やらで理解出来ないだろう。

 頭を抱えながら遠金の方をちらと見れば、あちらも腕組みをして天井を眺めていた。


「白森さんの言いたい事も何となくではあるけど解かるッス。

 ただまあ、先の読めないところがVRMMO(このてのゲーム)の売りでもあるんで、それを楽しむしかないんじゃないッスかね」

「……なるほど」


 つまりは、このまま流されて行くのが最善手、って事か。仕方が無い。当分はペトーに付いて行く事にしよう。


 俺が抱えていた頭を上げると、視線の先には本のページをめくっている三崎さんがいた。相も変わらず時代小説――タイトルからして織田信長が主人公みたいだ――を読んでいるのだろう。

 そう言えば遠金が彼をゲームに誘っているのを見た事が無いな。職場の最古老である田山さんですら誘った事があるのに。


「なあ、あの人もゲームに誘ってみればどうなんだ?」

「三崎さんッスか?

 あの人はもう――」

「おっと、もうこんな時間だ。

 そろそろ仕事に戻るか」

「――ッスね」


 俺の視線を追い掛けた遠金が口を開くとほぼ同時に、休憩時間が終了してしまった。

 俺達はテーブルの上を片付けて、休憩室から仕事場へと移動を開始した。


――――――――――――――――――――


 仕事は滞りなく進み、今日も無事に定時帰宅出来た事に感謝しつつ、さっさとコンビニ弁当を掻き込んでゲームにログインする。

 ゲームを始めて自炊の回数が減り始めているのが気になるが、それ以上にゲームの進行に興味が向いている状態では対処は難しそうだ。外食の回数が増えるよりはマシだと思っておこう。


 毎度お馴染みメンテナンスポッドの中で目覚め、蓋を開けて外へ出る。昨日ログアウトした時と同じ装甲車の中だ。

 メンテナンスポッドを片付けてステータスを確認すると、微妙に受けていた各部のダメージが全て回復していた。ついでに着ているセーラー服も新品同様に戻っている。


「うぅむ……こんな物も修理出来るのか。便利ではあるな」


 どうせなら別の服に着替えておけば良かった、と思いながら、ふと視界の違和感に気付く。

 左端にウィンドウが一つ増えていた。これがペトーの言っていた索敵システムとやらなのだろう。中央に青い点があり、そこから同心円が三つばかり等間隔に描かれていた。


「ここでぼうっとしていても仕方ないか」


 ひとちながら装甲車から出て、ペトーに教えて貰った通りに周囲の偽装をチェックして直しておく。

 ふと気になったので左端のウィンドウに目をやると、青い点が中心から少しだけずれていた。


「なるほど装甲車を中心にしたレーダーって訳だ」


 ウィンドウには俺以外の点は見当たらない。

 一応周囲を警戒しながら装甲車から離れて鉱山の入口へと登って行く。青い点は中心からジリジリと離れ、坂を半ばまで登った辺りでウィンドウから消えた。ふむ、半径3百メートルが索敵範囲ってところか。


 そのままウィンドウをチラチラと気にしながら坂を登り切り、入り口に到着した。

 広場からの絶景を暫らく堪能し、麓に他の奴等が来ている形跡が無いか見渡しておく。それらしい痕跡は勿論無かった。


「それじゃあ行きますか」


 昨日と同じく警棒をアイテムボックスから取り出して伸ばす。

 装備とやる気が準備出来たのを確認して、俺は洞窟へ入って行った。気分は昭和ではお馴染みの某探検隊である。


「カメラマンも照明さんもいないけどな……」


 ブツブツと呟きながら暗視機能を起動して視界を切り替える。影の無いモノクロの視界の中で、装甲車のレーダーを映すウィンドウが目立っていた。


 昨日と同じ道を進んで、左右と下へ分岐している四叉路――と言って良いのだろうか――に到着した。


 ここまで来るのに遭遇したクリスタル・ビートルの群れは三つ。入手した緑黄色水晶は、直径2センチメートルから3センチメートルの物が35個。昨日よりは数も少なく、戦い方も慣れてきた為、ダメージは受けずに済んでいた。


 見える範囲にクリスタル・ビートルの群れはおらず、左右の道はそれぞれ30メートル程進んだ所で曲がっていた。下へは梯子が10メートルくらい伸びており、その途中に横穴は見当たらない。


 さて、これはどの道を行くべきかな?

年内の更新は、これで終了となります。

年明けは暫らく更新が滞るかもしれません。

ご迷惑をおかけします。


それでは皆様、良いお年を。

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