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第62話 材料不足

「で、この二人がメールで言ってたお客かい?」

「はい。宇宙船を1隻ずつ注文して頂いたペトー様とサーウッド様です」

「ほお……二人で1隻じゃなくて、1隻ずつか。頑張ってるじゃん」

「ええ、まあ、何とか」

「ねえねえ、お姉さんがここの責任者にゃ?」

「ああ、そうだよ。どうしたんだい、お嬢ちゃん?」


 可愛らしく質問したペトーに、ランが応える。先程までのスミスと話していた時とは打って変わって、中々に良い笑顔だ。まあ、子供とは言え客にしかめ面を向けるのは拙いだろうしな。


「ボク達、頑張って有機水晶を集めて来たんだけど、これくらいで足りるかなあ?」


 久し振りのあざとさ全開な仕草で、ペトーは自分の持っている有機水晶15個をテーブルの上に並べた。サイズはピンポン球からビー玉程度の物ばかりだ。並べながら俺の方をチラリと見て、自分に続く様に急かしてくる。

 ここで揉めても仕方がない。俺は奴に従ってテーブルの上に手持ちの有機水晶を――二つだけだが――ドンドンと並べた。


「ほお……こりゃまた立派なサイズだね」


 ランの目つきが鋭くなった。

 掛けていた眼鏡――俺達が掛けているのと同じ物の様だ――を外して、俺が出した有機水晶二つを睨み付ける様に眺め始めている。


 一通り詳細に調べた後、ランは作業用の手袋を外し、右手に付けている腕時計の様な物を操作した。指に合わせて電子音が短く鳴り、腕時計から水色の光が漏れる。

 暫らく腕時計に視線を走らせてから顔を上げて、大きく息を吐き出す。

 俺とペトーは、彼女の様子を固唾を飲んで見守った。


「……なるほど。このクラスの宇宙船用にしては良いエンジンを手に入れたみたいだね。

 ただ、そのエンジンに見合うエネルギージェネレーターを搭載したいなら、もう少し素材を集めて貰わなけりゃいけないねぇ」

「え? これで足りないんですか?」


 俺の質問は、声が僅かばかり裏返ってしまった。

 少なくともネットで調べた限りじゃ、このサイズがあれば問題無いって事だったんだが……。


 俺の様子を見て、ランは諭す様な口調で答え始めた。


「確かにこのサイズの有機水晶だけでも、あんた達の宇宙船に詰めるエネルギージェネレーターは造れるよ。

 ただし、それだと折角のエンジンが無駄になっちまう」

「無駄とは?」

「エンジンの最大出力までエネルギーを供給出来ないって事だにゃ」

「そう言う事。こっちのお嬢ちゃんは良く解かってるじゃないか。

 本来、駆逐艦クラスに積もうかってエンジンなんだ。あんた達の注文した宇宙船ふねには高出力でか過ぎるのさ」


 ランの口振りからして、どうやら軽トラにF1用のエンジンを積むところだったらしい。

 だからと言って、持ち込み以外のエンジンを製造して貰う金銭的余裕は皆無なので、無理でも何でも積むしかないんだが。

 それよりペトーの奴、有機水晶が足りなくなる事を知ってたのか?


「サーウにゃんの調査不足にゃ。盗んで(もらって)来たエンジンのスペックくらい、自分で調べておくのが当たり前にゃ」

「ぐうぅ……」


 恨みがましい視線を正論で跳ね返され、俺はテーブルのジュースを一口啜すすった。


「手間暇は掛かるだろうが、ここは妥協しない方が良いよ?

 あんた達だって犯罪者おたずねものの端くれなんだから、折角逃げるのに有利な大出力エンジンを活かせる様にしとかなきゃ」

「そう言われるとそうかも知れないって気分になってくるな……」

「サーウにゃんはこの惑星で一番の賞金首なんだから、そんなぬるい事言ってないで、もっとお金と手間を掛けなきゃ」


 またもやペトーに正論でさとされてしまった。まあ確かに一理くらいはあると思うが……面倒臭そうだなぁ。


「覚悟が足りてないにゃあ」

「……五月蝿ぇ」

「まあまあ。それよりもどうなさいますか?

 ランの言う通り素材を更に追加して上のランクのエネルギージェネレーターにして頂いても、今ある物だけで製造して頂いても、どちらでもお選び頂けますが」


 俺達のやり取りを静観していたスミスが口を挟んできた。ペトーとの言い争いが続けば余計な時間を浪費する事になると判断したのだろう。


「因みにエンジンスペックを最大限に引き出せるエネルギージェネレーターを製造する場合は、後どれくらいの有機水晶が必要になりますか?」

「そうだねえ……

 あんたの宇宙船はエンジン1基だから、ここにある水晶の殆んどを使えば何とかなるね。

 お嬢ちゃんのはエンジン2基だから倍……とは言わないけど、それに近い量は欲しいね」

「……合計で、これの倍の数を集めて来る必要がある、ですか」

「まあ、ボクはサーウにゃん程切羽詰まってないから、もうちょっと低出力でも良いけどにゃ」

「それでも、これと同程度は最低限必要なんだろ?」

「……確かに、それ位は要るかにゃあ」


 ペトーが助け舟を出してくれたが、大変な事には変わらない様だ。。

 ともあれ、有機水晶を山ほどかき集めて来ないといけないらしいのは理解出来た。


 ん?

 と言う事は、これから巨大生物と連戦する必要があるのか。

 さて、どうするか……


「ああ、一応言っておくけど、数じゃないよ。

 色々細かい事を省いて説明すると、必要なのは水晶の容積おおきさだからね?」


 巨大モンスターを10匹も倒せば良いかと高を括っていたら、どうやらそんなに甘い話ではないらしい。

 確か、ジャイアント・アーマード・フォックスにしてもエイトヘッド・ヒュドラにしても、俺が入手した有機水晶は結構珍しいサイズだった筈だ。

 俺はペトーに尋ねてみた。


「どうする?」

「どうするって?」

「単純に考えても、昨日の八岐大蛇クラスを3匹は倒す必要があると思うんだが……あれって通常現れる奴よりデカいんだよな?」

「そうだにゃ」

「って事は、今ある水晶と同じ量を集めるには何連戦か……下手すりゃ数十連戦はこなさなきゃいけないんじゃないか?」

「……でもここで端折っちゃうと、これから先が大変そうだよ?」


 どうやらペトーは覚悟を完了したらしい。小首を傾げて、ハイエンドスペックを狙わない奴はただの豚だと言わんばかりの口調と視線を俺に浴びせてきやがった。


「とは言え、時間と手間がだな――」

「でも、値段は同じ筈だよ?」

「その通り。

 搭載するジェネレーターの出力は変わっても数は同じだから、製造費用はそんなに大きくは変わらないよ」

「――ううぅぅぅむ……」


 余り手間暇を掛けたくないと言う俺の意思は、|ペトーとランの説得攻勢ツープラトンアタックを受けて、豆腐をグラインダーで削るよりも脆くなっていた。


 確かに値段が同じならば少しでも良い物を狙いたい。

 だが、それで不必要な時間が掛かるのは勘弁願いたい。……てぇか、もう大型モンスター(でかぶつ)の相手は嫌だ。疲れた。有機水晶が、もう少し楽に入手出来るのなら一も二も無く率先して集めるんだが、あんな大物相手は流石にキツイ。しかも、こちらの戦力は二人だけだ。

 ああでも有機水晶ブツを頑張って集めれば最上級は無理でも一段階ワンランクくらいなら上の奴を……


「で、どうするんだい?

 最高級ジェネレーターを狙ってみるのも悪くないと思うよ。

 失敗したところで宇宙船の納期が遅れる以外のデメリットも無いしね」


 二律背反――と言うのは大げさかもしれないが――をこじらせて思考回路が無限ループ化した俺を眺めながら、ランが聞いてきた。

 確かにデメリットは宇宙船を手に入れるのが遅れる程度の事だけだろう。だが、それが一番問題な訳で……


 おっと、また無意味な考えに嵌まり込むところだった。

 このまま考えてもまともな答えが出て来そうにないので、俺は最後の手段に打って出た。大人の必殺技「どっちつかずな玉虫色の回答」である。


「一週間。

 とりあえず、一週間は有機水晶を集めてみます。そこまでで集まった有機水晶で製造をお願いします」

「う~~ん、その辺が妥当かにゃあ。確かに、ずっと水晶集めばっかりってのも詰まんないしにゃあ」


 こちらに視線をチラリと投げてから、ペトーは俺の提案に賛成した。奴としても本当なら最上級を狙いたいんだろうが、この辺を妥協点にしてくれたのだろう。とりあえず心の中で感謝しておく。


「……ま、あんた達がそれで良いんなら、これ以上あたしが口を出す事でもないね」


 これで、この工場での用事は全て終了した。


 次に工場ここを訪れるのは一週間後。

 それまでに集めた有機水晶を持ち込んでジェネレーターを製造して貰う予定だ。船体の方はこれから製造に掛かるそうで、次回訪問時にはジェネレーターを組み込むだけの状態になっています、とスミスが言っていた。

 ジェネレーターの製造には二、三日掛かるそうなので、十日後には宇宙へ旅立てる筈である。


――――――――――――――――――――


 駐車スペースまで案内してくれたスミスに見送られて、俺達はペトーの装甲車で工場を後にした。金は全額支払い済みで、有機水晶は一応持ち帰っている。


 地下道を抜けて湖の畔に出ると同時に、背後で林がスライドして入り口を隠した。


「よくもまあ、こんな凝った秘密基地を誰にも見付からずに造れたもんだな」

「細かい事は気にしたら負けにゃ」

「……左様さいで」


 三桁近い時速で渓谷をすっ飛ばして行くペトーの操縦技術を横目で見ながら、俺は助手席で脱力した。予定外の交渉事で気力をごっそり持っていかれている。ペトーのボケ反応する(つっこむ)のも面倒だ。

 俺の口調が気になるのか、ペトーが正面を見据えたままで――流石によそ見運転は難しいらしい――口を開いた。


「何か気になる事があるにゃ?」

「疲れただけだ。

 ……まあ、乗せられて余計な手間が増えたのも疲れの原因ではあるが」

「サーウにゃんも納得して1週間の狩り三昧を選んだくせに?」

「デカブツに吶喊とっかんするのが一番疲れるんだ……もっと、こう、楽に行きたいんだがなあ」

「……自堕落過ぎるにゃ」

「仕方ないだろ。飲み込まれたり追いかけ回されたりは、もう懲り懲りなんだ」


 俺の言い訳に溜め息を返して、ペトーは運転に専念する事にしたらしい。それ以上は話し掛けてこなかった。

 お互い何も喋らないまま、フロントグラスを見つめ続ける。


「……そう言えば、何処へ水晶狩りに行くんだ? この辺でエイトヘッド・ヒュドラでも狙うのか?」


 黙っている内にふと湧いた疑問をペトーにぶつけてみる。

 残念ながら俺はモンスター等の配置について全く知識を持ち合わせていない。まことに遺憾ではあるが、ここはペトーに頼るしかないのだ。


「それなんだけどにゃあ……」


 だが、ペトーから返ってきた言葉には、明らかに切れがなかった。

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