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第56話 大蛇退治の後始末

『う、噂には色々と尾鰭が憑いてるから――』

『全部本当の事なのに今更言い逃れするとか狡いにゃ』

『――、お前なぁ……』


 俺の弱々しい抗議いいわけをペトーの奴が一刀両断に切り捨てやがった。少なくとも俺は好きで犯罪行為こんなことをやってんじゃねぇんだぞぉ……。


『ハハハハ……まあ、それはそれとして、期待の大型ルーキーのお手並み、拝見させて貰ったぜ。

 流石、稀代のテロリストだな!』

『だから――』

『サーウにゃん、そろそろ腹を括って賞金首生活(プレイ)をエンジョイするにゃ』

『――ぐぬぬぬ』


 俺は善良なただのプレイヤーでいたいのに、どうしてこうなった。おお神よ、我を救い給え。


『サーウにゃんで遊ぶのはこれくらいにして、そろそろ残ったヒュドラも片付くにゃ。サーウにゃん、もう少し真ん中に来て欲しいにゃ』

『今度は何をやらかすんだ?』

『失礼にゃ……解毒剤を散布するだけにゃ。

 毒霧が残ってるとドロップアイテムの回収もスムーズにいかないし、何より周囲の環境への影響が洒落にならないにゃ』

『他の連中も集まってるから、近くに行ってくれよ。

 ……まあ、今の場所でも問題は無いと思うけどな』


 二人の言う通り、残っていた元エイトヘッド・ヒュドラの頭部、現大蛇の2匹はワイヤーロープで動きを制限されたところを様々な実弾兵器で蜂の巣にされていた。全身に空いた穴から如雨露の如く体液が流れる様子は、昔見たアメリカのアニメ(カートゥーン)のワンシーンそのものだった。著作権絡みでクレームが来ないか心配である。

 未だ深紫色の霧が残る中、結構な数――ざっと見て20人程だろうか――がガラス片となって消えつつある大蛇達を囲む様に集まっている。

 俺もその中に混じるべく、樹の下から小走りで近寄った。改めて見ると、来ていた装備が毒でやられてボロボロになっている。


「お、MVPがやって来たぜ!」

「おお、これが例の最凶テロリストか……」

「よっ、今回はお疲れ! 稼がせて貰うぜ!」


 俺に気付いた犯罪者共やつらが口々に声を掛けてくる。それに対して「ああ」とか「どうも」とか当たり障りの無い答えを返しながら上空を見上げると、ヘリコプターの1機から何かが投下された。

 投下されたそれは上空50メートル付近で弾け、若干水色に染まった液体を広範囲に振り撒く。水色の雨に触れたところから毒霧が晴れていき、ステータス表示から【装甲腐食】の項目が消えていた。

 これ以上ダメージが増えなさそうな事を確認して一安心していると、見知らぬ男が近付いて来た。


「よう、あんた、サーウッドだよな?」

「ああ、そうだ。あんたは?」

「マンカンゼンセキってんだ」

「……中華料理?」

「ま、そんなところだ」


 男――マンカンゼンセキはニヤリと笑いながら俺の質問に答えた。中肉中背、と言う奴だろうか。目立つ様な体格でもなく、顔の印象も――言い方は悪いが――非常に薄い。掏りでもやらせれば100パーセント気付かれないだろうと感じられる。ただ、声には聞き覚えがあった。


「それで何の用だ?」

「ああ、実はこいつなんだが……」


 先程の笑みを引っ込めて、マンカンゼンセキは手に持っていた剣を俺の前に差し出し、鞘から引き抜いた。

 それは両刃の片手剣で、奈良時代とか古墳時代の遺跡から出土しそうな形状をしている。


「こいつはさっきのエイトヘッド・ヒュドラから出たレアアイテムなんだが……あいつに一番ダメージを与えてるのはあんただからな。一応、あんたに優先権があると思うんだ」

「レアアイテム?」

「知らないのか?

 胴体が消える前に尻尾を切り離すと、そこからレアアイテムが出てくるんだが」


 そこまで教えられて漸く思い出した。確かペトーも同じ様な事を言っていた筈だ。……って八岐大蛇の尻尾から剣が出て来たって――


「――草薙の剣かよ」

「ははは。それは皆言ってるな」

「やっぱりか。

 ま、俺にそんな長物を振り回す技術うでは無いからな。あんたが使ってくれ」

「良いのか? 売れば良い値段になるぜ?」

「取り敢えず今は生き延びた事だけで頭が回ってないんだ。これ以上考え過ぎて下手な欲が出てくる前に貰ってくれ」


 マンカンゼンセキの言葉に肩を竦めて見せる。正直、疲れで頭が回っていないので、使えそうにないアイテムに食指が動かないだけだったりするんだが。


「ま、あんたがそう言うなら有り難く貰っておく。後で悔やんでも知らないからな?」

「その時は一人寂しく悔し涙を流すさ。

 と言うか、あんたもかなり物好きだろ。言わなきゃそのまま手に入れられたのに」

「これは俺の流儀さ。共同で倒した獲物からのドロップアイテムは、一番苦労した奴が良い物を手に入れるべき、ってね。

 そして俺はそいつからレアドロップを奪い取る。それが良いのさ」

「PK、って奴かよ」

「盗むって手段もあるんだぜ?」


 再びニヤリと――先程よりは獰猛な――笑みを浮かべるマンカンゼンセキを見て、ある可能性に思い至った。多分、こいつは俺の物になったレアアイテムを強奪したかったのだ。


「……スマンな。あんたの趣味の邪魔をしたみたいで」

「こんな日もあるさ。

 ともあれ、この事は借りにしておく。何かあったら声を掛けてくれ」

「そんな暇は無いと思うが……その時は宜しく頼む」

「ああ、任せておけ」


 そう言って片手を上げながら、マンカンゼンセキは去って行った。そう言えば胴体への攻撃の最中だったかに「獲ったどー!」とか叫んでいた奴がいたが、あいつだったのか。

 今頃になって気付いたぜ。


――――――――――――――――――――


 その後、大量のドロップアイテムを集まって来た皆で分配し、エイトヘッド・ヒュドラとの戦いは終了した。

 ヒュドラ肉の詰まった巨大プレゼントボックスや、製鉄所から出荷された圧延ロール宜しく巻いてリボンを掛けたヒュドラ皮――直径、長さとも2メートルの大物だった――を抱えたヘリコプターや航空機――勿論、垂直離着陸機(VTOL)だ――が次々と飛び去って行くの見送りながら、俺は大きく息を吐いた。


「やれやれ。やっと片付いたか」

「クエストはこれからだけどにゃ」

「出来れば達成報告と次のクエストを受注したところで一旦締めたいんだがなぁ」

「サーウにゃん、お年ですかにゃ?」


 横でこまっしゃくれた顔をしているペトーを睨み付けながら口を開く。


「手前ぇももうすぐ解かる様になる。

 そんな事より、昨日の晩遅くからずっとログインしっ放しなんだ。幾ら日曜だからと言って流石に長過ぎだ。このままログアウトして寝たいんだが」

「あららら……流石にそれは入り浸り過ぎにゃ」

「本当はクエストを受けたところで一旦ログアウトして、一休みしてからエンジンを分捕りに行く予定だったんだ。

 それを誰かさんの口車に乗ったお陰でこんな破目に……」


 およよよ、と泣き真似込みで嫌味を言ってやると、流石のペトーも少し慌てた様だ。


「ちょ、それってボクのせいなの!?

 だったら、そう言ってくれれば良かったのに!」

「言ってたらどうかしてたのか?」

「取り敢えず一時間くらい休憩してから出発したかも」

「無いよりはマシ、ってところだな。その程度で年寄りの体力が回復すると思うなよ?

 まあ、終わった事は仕方ない。これから例のねえちゃんの所へ行くんだろ?

 さっさと次のクエストを受けてログアウトしちまおうぜ」

「うぅ~……未だ夜の7時にもなってないのに、勿体無いにゃ……」

「諦めろ。元気が残ってたら9時くらいから1、2時間程ログインするかもしれん」

「期待出来そうにないにゃあ……」


 耳と尻尾まで垂れ下げて悲しみを表現しながら、ペトーは巨大な鳥――良く解からないがオウムに似た姿だった――に姿を変えて、その足で俺を鷲掴みにした。ばっさばっさと羽ばたく音と共に身体が空中へと運ばれていく。


「おい! もう少し丁重に、親切に、安全に、運んでくれ!」

「少しでも早くログアウトしたければ我慢するにゃ」


 巨大オウムの口から否定の回答が届きやがった。この野郎、さっきの事を根に持ってんのか? 世知辛い奴だなぁ。


「まあそれはそれとして、こいつ等って使い道あるのか?」

「さっき貰ってたレアドロップにゃ?」

「ああ。俺には、そんなに重要なアイテムには見えないんだが」

「譲ったメンバーが聞いたら号泣しそうな台詞だにゃあ」


 そうは言うがなペトー、本当にどう役立つのか解からん代物が殆どなんだが……まあ、ログアウトして落ち着いたらネットで調べてはみるつもりだが。


「まあ、紫色レーザー共振器は判るんだがな、このエイトヘッド・ヒュドラの肝とか、どうすりゃ良いんだよ」

「エイトヘッド・ヒュドラの肝とばら肉は高級食材だにゃ。何処かのレストランか道具屋に売っても良いし、自分で料理して食べても良いにゃ。

 因みに、肝の方は調理方法次第で対毒耐性が一定時間付与されるにゃ」

「おお。それは凄そうだ……が、サイボーグボディ(おれたち)には関係無い話だよな?」

「全く無関係って訳でも無いにゃ。さっき散布した解毒剤も肝から抽出したエキスを加工して作った物にゃ」

「なるほど」

「後、エイトヘッド・ヒュドラの毒腺は肝の逆で、物理攻撃武器に塗ればヒュドラの毒ダメージを相手に与えるにゃ」

「それはまた、強烈だな」

「エイトヘッド・ヒュドラの眼球は高級お土産品として珍重されてるにゃ」

「土産物かよ! 直径が1メートル近くあったぞ!?」

「今回のヒュドラは大きかったからだにゃ。普通はその半分から三分の二位にゃ。

 それ以外にも光学装置レンズとしても使えるにゃ。結構丈夫だから宇宙空間で大活躍にゃ」

「そっちの方が重要じゃねぇのかよ。

 それはそれとして、一つ重大な疑問がある」

「何だにゃ?」

「ヒュドラ――ってぇか、蛇にばら肉ってあるのか?」

「あるにゃ」

本当マジか!?」

「ヒュドラサイズの蛇にはばら肉があるにゃ。

 ただし、元々脂身は少ないから、ささ身よりもヘルシーにゃ」

「……それって、ばら肉と呼ぶ意味があるのか?」


 そんな会話の合間に分捕ったエンジンの分配――俺が2基、ペトーが1基と自警団の誰かが落と(ドロップ)したエンジンの設計図1個で決着した――も終えて、俺達は20分足らずで目的地の盗賊酒場に無事到着した。

 店から3キロメートル程離れた森の中に一旦着地した巨大オウムは元の姿(ペトー)に戻り、そこからは二人並んで走る。勿論ペトーの能力を隠す為だが……行きはヘリコプターに便乗してた奴が帰りは乗らなかったらバレバレではないだろうか。


「ま、サイボーグが全力疾走すれば時速100キロは堅いから何とでも言い訳出来るにゃ」

「……お前がそう言うんなら、俺が口を出す必要は無いな」

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