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第55話 大蛇(おろち)退治

「残り五つ!」


 一応樹の陰に隠れて弾倉の交換を済ませ、エイトヘッド・ヒュドラの様子を窺う。五つの首が空目掛けてくねっている最中だった。

 この状況では頭は狙い辛い。

 俺は先程開けた穴を拡大する事にした。

 ここから目標まで約50メートル。上空の頭ほどではないが、こちらもそれなりに動いている。

 直径50センチメートル程の穴を狙って連射する。半分程は鱗に弾かれたが残りは穴に命中、傷口を拡げながら体内を蹂躙していった。エイトヘッド・ヒュドラの悲鳴が更にオクターブを増す。


「このまま穴の拡大に専念するか、それとも残りの頭を潰していくか……」


 独りごちながら痛みに悶えているエイトヘッド・ヒュドラの頭達を眺める。

 ……動き回る頭よりも胴体の方が狙い易そうだな。ここは胴体の穴を拡張していく事にするか。


 結論が出て行動に移ろうとした時、エイトヘッド・ヒュドラの全身から深紫色の煙が吹き出し始めた。どうやら鱗の隙間から漏れ出しているらしい。煙は霧になり、濃度を高めながら周囲へ広がっていた。

 エイトヘッド・ヒュドラの周りの樹々が霧に触れたと同時に葉を落とし、立ち枯れていく。


「毒?

 それとも酸か?」


 樹は、融けていると言うよりも枯れている様に見える。多分、毒なのだろう。

 それはそれとして、効き目がやけに速過ぎるんだが……やはりゲームとしての都合なのだろうか。まあ、サイボーグボディの俺には、これくらいの毒霧なんぞどうと言う事もないけどな。


 仕切り直して攻撃に移ろうと身構えた時、ふと上空から視線を感じた。見上げると毒霧の向こうに霞んで五つの頭が見える。どうやら俺に狙いを定めている様だ。縦に伸びた影の中央に火球の灯りが光っていた。

 慌ててエイトヘッド・ヒュドラの胴体へと二度目の突撃を強行する。

 背後に着弾した火球の熱を無視して胴体の麓に辿り着き、弾倉が空になるまでHEATを撃ち込む。頭上から既に御馴染となりつつある悲鳴が降ってきた。これで暫くの間は攻撃してこない筈だ。

 俺は今の内に弾倉を交換しようとして、リニア・カノンの表面が泡立って融け始めているのに気付いた。


「……この毒、金属も溶かすのかよ!」


 慌ててリニア・カノンンをアイテムボックスに仕舞い込み、目の前に聳え立つエイトヘッド・ヒュドラの胴体に跳び付いた。そのまま蛇腹の隙間に指を突き立てながら、上へと攀じ登る。この位置なら火球を撃っても自分も巻き添えにするから、無闇に撃ってくる事は無いだろう。


 登りながら自身のステータスを確認してみた。今のところHPは減っていない様だが、見た事の無いステータス異常が表示されている。【装甲腐食】とあるので、多分毒霧で錆つき始めたか表面が溶け出したのだと思われる。表示の下にある数字がエライ勢い――多分ミリ秒単位――で減っているが、これが0になった時どうなるのか、出来れば体験する前にこの戦いを終わらせたいものだ。ちなみに予想通りなら、残り時間は15分を切っている事になる。


 毒霧の噴出孔は鱗の下にあるらしい。幸運な事に腹側からは出ていないが、それ以外の鱗に覆われている部分からは時折、深紫色の霧が荒い鼻息の様に噴き出すのが見える。

 このまま毒霧の噴射が比較的少ない腹側を頭部まで登り詰めて撃破する。あわよくば、そこから別の頭部に次々と八艘跳びしながら連続撃破。

 それが現時点で最も安全な作戦だろう。


「問題は、無事に頭部もくてきちまで辿り着けるか、だな」


 各首の根元――どの頭を目指すかの分かれ道――まで登攀した頃、残る五つの頭が俺と胴体と囲む様に集まるのが見えた。口の奥が赤く光り始めている。どうやら胴体ごと俺を燃やす方針らしい。


「胴体をやられたら自分等も無事じゃ済まないだろうに!」


 アイテムボックスから手榴弾を一つ取り出し、最接近している頭の喉奥目掛けて投げつける。

 火球が生じる前だった為か、手榴弾は赤い光の中に吸い込まれて爆発した。頭の前半分が大口を開けたまま落ちていく。

 これで頭の残りは四つになった。


 仲間が殺られた事を悼んでいるのか半減した事を怒っているのか、残った四つは俺への攻撃を止めて空中ダンスを始めている。

 これ幸いと距離を稼ぎ、適当に選んだ頭の首の半ば辺りまで登ったところで残り三つが俺を囲んだ。何か先程胴体付近での状況と酷似している気がする。


「おいおい、今度は首一つ(なかま)諸共か、よ……?」


 大きく開けた口の奥で光っている色が違う。これまで赤だったのが、今は深紫色になっていた。

 この違いが何を意味するのかは知らないが嫌な予感しかしない。

 首の後ろ側に急いで回り込む。

 毒霧が相変わらず噴出しているが、それに構っている場合ではなさそうだ。


 火球のそれよりも早いタイミングで三つの咢からレーザーが放たれた。先程まで俺の居た位置に、深紫色に輝く帯が集中する。蛇腹に当たったレーザー達は全て反射されて、周囲の樹々を両断していた。


「糞ッ! そういやレーザーは反射するんだったな!」


 悪態を吐きながら、鱗を毟る様に掴んでは身体を引き上げる。剥がれた――もしくはささくれだった――鱗の下の、毒霧を吐き出している肉に靴の爪先を蹴り込んで次の足場にする。

 次のレーザー攻撃が襲ってくる前に頭の上に辿り着きたい。


 何とか頭の上へ登頂する事に成功し、揺れる足場の上でリニア・カノンを装備し直す。

 砲口を足場の鱗に当てたところで、三つの頭の内の一つがこちらを見ているのに気付いた。距離にして10メートルだろうか。口を開いてレーザーを撃つ構えを見せている。他の二つは似た様な距離から威嚇するだけでレーザーを撃ってくる素振りは見せていない。

 どうやら時間差を付ける事で、俺が逃げた先にレーザーを撃ち込むつもりらしい。


「妙に頭が回りやがるな!」


 アイテムボックスから最後の手榴弾――装備の補充をすっかり忘れていたのが本当に痛い――を深紫色に光り始めた口の中へ放り込む。喉の奥で手榴弾が爆発し、頭部が四つ目の奴と同様に千切れて落下した。

 他の二つが動き出す前にリニア・カノンを足下に撃ち込む。鱗が弾けて剥き出された肉にHEAT弾が穴を穿ち、深紫色の体液を空中へ撒き散らしながら奥へと抉り込んでいく。

 10発も撃ち込むと、あしばが透明になり、弾けた。

 噴水のごとく噴き出ては透明な粉となって消えていく体液と、空に溶け込む様に崩れていく頭を眺めながら、背中へと落下する。

 バウンドして地面に叩きつけられない様、最初に掴んだ鱗を下の肉ごと握りしめて、滑落するのを防ぐ。


 態勢を立て直して状況を確認すると、残った二つの頭が俺を挟む様に見下ろしていた。どちらも口を大きく開いてレーザーを吐き出す態勢を取っている。ただ、先程レーザーを撃ってきた時よりも喉の奥の光り方が派手になっていた。

 嫌な予感に急き立てられて、エイトヘッド・ヒュドラの背中から飛び降りる。

 同時に、二つの口それぞれからレーザーが扇状に吐き出され、鱗で乱反射されて周囲に飛び散る。


「今度はワイドレーザーかよ!」


 ミラーボールで反射した様に飛び散るレーザーから逃れる為、俺は胴体と地面の隙間にしゃがみ込む様にして隠れた。毒霧の影響を受けてしまうが、レーザーで切り刻まれるよりはましだろう。

 何しろ飛び降りる時にリニア・カノンの砲身がレーザーで三分の一程切り落とされたのだ。

 毒霧のダメージもあるし、これ以上使うのは無理だろう。


「さて、これからどうするか……」


 物理攻撃手段じつだんへいきが無くなってしまった。一応コンバットナイフは残っているが、あれ一本でこいつを解体するのは俺には無理だ。

 他に考えられるのは、ジャイアント・アーマード・フォックスやマイン・ワームと同じく体内に潜り込んでの全方位攻撃テロだが、サイボーグボディさえ融かす体液の中に這入って無事に倒し切れるのか判らない。

 他に良い方法を思い付かなければ……。


 溜め息を吐きながら作戦を練っていると、上空から機械音が幽かに聞こえてきた。航空機とヘリコプターの飛行音だ。どうやら騎兵隊ペトーが間に合ったらしい。

 音の重なり具合からして、かなりの人数を掻き集めた様だ。

 今度は安堵の溜め息を吐き出して上空を見上げる。エイトヘッド・ヒュドラの胴体が邪魔して狭くなった空を、飛行機の編隊が横切って行った。

 直後に風切り音と爆音、そして激しい爆風が俺をエイトヘッド・ヒュドラから引き剥がして、先程まで森だった荒れ地へと投げ飛ばす。

 俺の体は回転しながら数回バウンドして、立ち枯れた樹の根元に叩き付けられた。


「痛ぅ……連絡も無しにいきなりかよ……」


 遠くで誰かが「獲ったどー!」と叫ぶ声を聞きながら、転がり着いた根元から起き上がる。

 エイトヘッド・ヒュドラの胴体は先程の爆撃――多分、対地ミサイルか何かなのだろう――で完全に吹き飛び、残った頭二つが大蛇二匹に転職クラスチェンジしていた。


「あいつら、分離出来たのか」

『サーウにゃん、無事かにゃ?』


 思わず呟いたら、漸くペトーから連絡が来やがった。チームチャットではなく無線通信だ。他の助っ人達にも聞かせているのかもしれない。

 絶妙過ぎる登場タイミングで疑心暗鬼を生じてしまった俺の答える声に嫌味成分が混じってしまったが、それは仕方のない事である。


『おう。本っ当にナイスタイミングで助かったぜ』

『うわ~……何か疑われてるにゃ?』

『ソンナコトナイデスゾー?

 まあ、助かったのは事実だしな。取り敢えず、礼は言っておく』

『これでも頑張って31ノットで急行したのにぃ』

『お前は何処ぞの海軍提督か!

 それに空飛んで31ノットってのろ過ぎだろ』

『まあまあ、そう言わないでくれよ。

 これでも準備含めて20分弱。結構頑張ったと思うんだけど?』


 俺とペトーの言い争い(まんざい)に第三者が介入してきた。やはり他の奴等にも聞かせていた様だ。

 聞いた事の無い気安さを感じる口調に、何処となくヤーウィを思い出す。


『ああ、俺はノウホープ。しがない賞金首だ。宜しく』

『サーウッドだ。不幸に見舞われた結果、お尋ね者になっちまった一般市民だ』

『またまた御謙遜を。噂はかねがね聞いてるぜ。

 ナグール市街での破壊活動を皮切りにマイン・ワームを暴走させてのナグール軍の殲滅、村一つを灰にすると同時に起動エレベーターを狙うとか、日本サーバでは断トツのトップで、他のサーバを合わせても5本指に入る犯罪歴だいかつやくじゃん』


 好きでやってんじゃないんだがなぁ……。

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