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第54話 蛇三昧

「手前ぇ、禿げたらどうするんだ!」


 よくよく考えればサイボーグボディだしそれ以前にゲーム内のキャラクターなので関係無いよな、とは――後になって――思いつつ、文句と共にパピヨンを足下に落として右腕を後ろに回し、蛇の頭と思しき辺りに指を突き立てる。

 蛇は噛み付いたまま全身をくねらせて抵抗していたが、左腕を飲み込んでいた仲間がガラス片となって消えた事によって俺からのアイアンクローが両手ばいに増えてしまい、抵抗する力を徐々に落としていった。

 俺が両腕を開くと、蛇は掴まれている頭から3メールだけ歪な形で二枚に下ろされた。

 後ろの藪の中で尻尾が弱々しく跳ね回っているのを聞きながら、二つに裂いた頭を投げ捨てる。


「ふう……これで全部片付いた、か」


 一応周囲を警戒しながら、俺は落としたパピヨンと蛇のドロップアイテムを回収した。

 入手したのは、蛇肉の塊肉ブロックが乗せられたプラスティックトレイに、なめされて畳まれてリボンまで掛けられている蛇皮、そしてやや楕円形に歪んでいるがメロンサイズの宝石――名前までは判らないが――だった。宝石は半透明の緑色で、覗き込むと奥の方で光っている様に見える。


「何処かで見た事が、ある様な無い様な……」


 矯めつ眇めつしながら悩んでいると、不意に辺りが暗くなった。嫌な予感を感じつつ視線を上――影を作ったがあるであろう方向――へ向けると、仕留めたばかりの蛇達を10倍くらいにサイズアップした頭部が八つ、そびえ立つ針葉樹の更に上で細長い舌をチロチロとこれ見よがしにくねらせていた。


 思い出した。

 この宝石、アーマード・フォックスのドロップアイテムに似ていたんだ。

 で。

 あの時と同様、それの親だか御先祖だかが現れてしまった、と。


「そんなところまで似なくても良いんだがなぁ……」


 漏らした言葉があの高さまで届いたのか、頭の一つが俺の目の前まで降りて来た。縦長の巨大な瞳孔と見詰め合う。

 残りの七つも一斉にこちらを向いて、急降下を始めた。


「のわわわわ!?」


 可能な限りの速度と跳躍で跳び退いた所に、巨大な蛇の頭が次々と突き刺さった。工事現場の杭打機にも負けない重低音が地面を揺すり、周囲の樹木が纏めて吹き飛ばされる。

 俺一人を狙うにしては、余りに過激過ぎると言わざるを得ない。


 地面を抉った八つの頭の内、手近な奴にパピヨンを撃ち込む。鱗がレーザーを跳ね返しているが、目玉には効果がある様だ。片目に穴を開けられた頭が悲鳴を空へ轟かせている。

 上を向いて首をのた打ち回らせている仲間に代わり、残りの七つが俺目掛けて間を遮る邪魔な樹々をなぎ倒しながら一斉に飛び掛かってきた。

 俺は襲い掛かってきた頭達を横っ飛びに避け、パピヨンを乱射しながら森の中を逃げ回る。

 取り敢えず何らかの対策を練る時間が欲しかった。


『はろ~、サーウにゃん。今、酒場の前に着いたよ~ん!

 サーウにゃんはどの辺りかにゃ?』


 こんな時に救世主の可能性がありそうな奴から能天気なチームチャットが舞い込んできた。もう到着とか早いな、おい!

 森の中を縦横無尽――と言えば聞こえが良いが、単なる当てずっぽう――に逃げ回りながら、俺は神経の逆鱗げきりん逆撫さかなでする様な通信に怒鳴り返した。


『こっちはそれどころじゃねえ!

 八岐大蛇の親戚に追い掛け回されてる真っ最中だ!』

『八岐大蛇? ……ああ、エイトヘッド・ヒュドラの事だにゃ。

 サーウにゃん、あれを呼び出しちゃったんだ』

『好きで呼び出した訳じゃねえ!

 襲ってきた蛇を片付けたら現れたんだ!』

『蛇? ビッグ・スネークにゃ。じゃあサーウにゃん、有機水晶をゲットしたにゃ?』

『したけど! んな迷惑な代物いらんわ!』

『そんな事は言わないにゃ。それが宇宙船のエネルギージェネレーターになるんだから。

 獲りに行く手間が省けたにゃ』

『いや、そうは言うがなペトー!?』


 今回手に入れたエンジンは外部から注入されたエネルギを増幅して噴射する部分のみで、その注入されるエネルギーを生成する部分は別途入手する必要がある。これが一般かたぎのルートなら完成品を購入出来るのだが、犯罪者側おれたちのルートの場合は材料である有機水晶を調達して指定された工場で加工して貰わなければならない。

 一応、一般と同じ物を購入は出来るそうだが、値段が馬鹿みたいに高いらしい。更には加工して貰った方が調達した有機水晶そざい次第でエネルギージェネレーターの性能スペックも高くなるとか。

 なので、少しでも高性能な宇宙船を造りたい強者ひまじん共が犯罪者認定ギリギリの軽犯罪をおかしていると、以前ヤーウィから聞いた事がある。


『まあ良いにゃ。救援に向かうから場所を教えて欲しいにゃ』

『酒場から南南東に50キロだ! 出来るだけ急いでくれ! 下手すると酒場へこいつと同伴出勤する破目になっちまう!』

『可及的速やかに急行するにゃ。

 あ、そうそう。エイトヘッド・ヒュドラの鱗はレーザーを跳ね返すから気を付けるにゃ』

『既に体験済みだ! 後、レーザーでも目玉には有効だった!』

『その調子で頑張るにゃ。それから、倒して消える前に尻尾を切り落とすとレアアイテムが手に入るにゃ』

『やっぱり八岐大蛇かよ!』


 ペトーからの頼もしい――筈だ、多分――返事に希望を見出した俺は持っていたパピヨンをアイテムボックスに放り込み、リニア・カノンを引っ張り出した。弾倉ランドセルを背負いながら、丁度噛み付こうと迫っていた頭の一つの、パックリと開いた大口目掛けて撃ち込む。

 こちらからでも判る程の風穴が後頭部に開き、繋がっている首がうねりながら地面に落ちた。


「残り七つ!」


 仲間の首が一つ消えた痛みに戸惑ったのか、エイトヘッド・ヒュドラの進みが止まる。

 それを見た俺は慣性の付いた身体を急停止しながら、向きを背後へと変えた。エイトヘッド・ヒュドラとの距離は大体20メートルだろうか。

 上空10メートルばかりの空間で踊り狂っている七つの頭はさて置いて、その根元の胴体を狙ってリニア・カノンを連射する。撃ち出された砲弾は胴体に命中したものの、そのまま滑る様に弾かれてしまった。


「ペトーの奴、適当な事を言いやがって!

 レーザーだけじゃなくて実弾も跳ね返すじゃねぇか!」


 愚痴を叫びながらリニア・カノンのセッティングを確認すると、弾種がAPFSDSではなくHEATになっていた。先の尖っているAPFSDSならば少々の丸みは無視出来る筈だが、HEATだと無理なのかもしれない。

 ともあれ、そう言う事ならば弾種を変更すれば良いだけ……あ。APFSDS、切らしてた。てへ☆


 俺が装備の確認(ひとりまんざい)をやっている間に、エイトヘッド・ヒュドラは金切声の様な叫びを響かせ、残った七つの頭で俺を囲む様に襲い掛かってきた。

 辛うじて襲撃に気が付いた俺は、手近な針葉樹の幹に跳び付いて躱す。

 そのまま針葉樹にしがみ付いていると、頭の一つがその根元に突撃しやがった。

 振り落とされる前に頭の上へ何とか飛び降りる事に成功し、足元の鱗を握り込む。これで多分すぐには振り落とされないだろう。

 取り敢えずの足場を確保してもう一度リニア・カノンを頭部と垂直にして構え、顎の下へ貫通するまで連続で撃ち込む。

 空いた穴から深紫色の体液を撒き散らしながら二つ目の頭が空へと昇り、断末魔のダンスを踊り出す。

 握っていた鱗ごと、俺は振り落とされてしまった。


 振り落とされた先に立っていた樹木にぶち当たってから真下に落下し、それでも何とか立ったまま着地出来たまでは良かったが、エイトヘッド・ヒュドラの頭が側頭部にぶつかってきやがった。

 弾き飛ばされて顔から地面に激突した俺は、痛みに呻く暇も無くそこから駆け出した。背後から残った六つの頭が地面に突き刺さる衝撃が襲ってくる。


「あいつ等の頭は杭打機かよ……ともあれ、残り六つ、か」


 仕切り直して、無いよりはマシだと思いたい樹木の陰からエイトヘッド・ヒュドラの様子を覗き見る。

 残った頭達は鎌首を俺よりも5メートル高い位置に持ち上げたまま、こちらを睨んで攻撃してこない。


「こっちが動くのを待っているのか、はたまたこちらを攻めあぐんでいるのか……」


 相撲の立ち合いさながらに睨み合いつつ敵の次の攻撃を考えている内に、俺はふと気が付いた。

 こいつ等、頭突き以外の攻撃をしてきていないじゃないか。

 口からブレスだのレーザーだのを吐き出すどころか、噛み付きすらしてこない。


「まさか……ここから特殊攻撃に切り替え、か……?」


 俺の呟きを待っていたかの様に、六つの頭が揃って口を開いく。喉の奥が赤く染まり、バスケットボールかそれ以上はありそうなサイズの火球が浮かび出すのが見えた。


「って、いきなりファイヤーボールかよ!」


 撃ち出される前にと手近な頭の口内にリニア・カノンを叩き込むが、全て火球に溶かされた。

 お返しとばかりに6個の火球が吐き出される。

 灼熱と共に襲い掛かる火球を、俺は前方――エイトヘッド・ヒュドラの側――へダッシュする事で躱した。背後で樹木に当たって爆発する音が聞こえる。身体の背面が熱で焦げているみたいだ。弾倉の中の残弾(HEAT)が誘爆しないか心配になってくる。

 だが誘爆する前にやる事がある。

 眼前にあるエイトヘッド・ヒュドラの胴体の隙間――蛇腹の谷部分――へリニア・カノンを撃ち込む。砲弾の命中した箇所が凹んで、一部で穴が開いた。体液が流れ出し、地面に落ちて深紫色の煙を立てる。

 穴を確認したと同時に、俺はそこへ目掛けて残弾全てを釣瓶撃ちに捻じ込んだ。巨大な腹部が捩じれる様に揺れ、上空で超高周波の悲鳴が轟く。


 空になった弾倉を交換しようとアイテムボックスに仕舞い込んだ時、頭の天辺に高熱が突き刺さった。六つの頭達が腹に風穴を開けている俺に向けて火球を降り注いでいるのだ。

 折角開けた穴に未練を残しながら急いで逃げる。

 走りながらアイテムボックスから手榴弾を取り出す。本当は煙幕弾で奴等から隠れたいのだが、生憎と在庫切れだ。


 森の上から覗き込む様にして火球を撃ったエイトヘッド・ヒュドラの口の中へ、俺は手榴弾を投げ込んだ。火球を吐き出した反動なのか、エイトヘッド・ヒュドラの動きが鈍かったお陰で手榴弾は見事に口の中へ吸い込まれる。今の内にリニア・カノンの弾倉を交換しなければならない。

 一拍置いて、首の一つが吹き飛んだ。千切れた頭がのたうちながら地面に落下する。

 内側からの攻撃に弱いのは、ジャイアント・アーマード・フォックスと同じらしい。

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