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第51話 地上に戻っては来たものの

 絶叫を切っ掛けに周囲が白く霞み始めた。黒と灰色だけの部屋が白い霧の向こうへとフェードアウトしていく。


【お客様のプレイヤー・キャラクターのデータを保護する為、行動を制限します。】


 【緊急】ウィンドウに重なって、新しいウィンドウが表示された。同時に身体がピタリと動かなくなる。視線も固定され、ウィンドウに書かれているとおり、メッセージを読む以外の行動が取れなくった。


【お客様がエキストラ・マップへ来る直前に居た座標へ移動します。】


 ウィンドウのメッセージがスクロールして、俺の行き先が判明した。どうやら落とし穴に落ちる直前に戻してくれるらしい。有り難い――んだろうな、多分。

 そう言えば、ペトーの方はどうなっているのだろうか。無事にお宝(エンジン)を分捕れていれば良いんだが。

 何にせよ、ここから脱出したら、次は島からの脱出だ。


「ピンクトゥを回収して無事に逃げられるか……まあ、それはペトーの成果次第だな」


 独りごちて辺りを見回す。どうやら先程までよりは行動の制限が緩くなった様だ――ったのだが……


「……え?」


 俺を囲んでいる白く濁った幕の向こうに透けて見える光景が、爆発している様に見える。

 ……一体、何がどうなってるんだ?


【現在、移動先で戦闘が発生している模様です。終了するまで、しばらくお待ちください。】


 ……戦闘?

 どちらかと言うと、自爆装置とか爆弾男の連鎖爆発とか、そんな風にしか見えないんだが……。


 そんな事をつらつらと思い浮かべている間にも、周囲では派手な爆発が続いている。


「せめて、何でこうなってるかの説明くらいは欲しいんだが……」


 ぶつくさと不満を漏らしていると、爆発の閃光が煙の中に埋もれ始めた。その煙も暫くすると薄まり、周囲の状況が徐々に明らかになっていく。追い掛ける様に俺を包む幕も透明度を増し、身体の自由が戻ってきていた。


「……おいおい、こりゃ何だよ……」


 顔面から血の気が引いていくのを感じる。

 俺を保護していた幕が消え、爆炎も流れ去った後に現れてきたのは星空と焼け野原だった。


――――――――――――――――――――


「こりゃまた酷いな……」


 先ず口から洩れてきたのは、工場だった土地の成れの果てに対する素直な感想だった。降ってきそうな満天の星空と地面で燻ぶる残り火に照らし出されているのは、捻じ曲がったトラスの残骸と工作機械だったと推測される真っ黒に焦げた金属の塊、火災の熱気に煽られて舞い降る焼け残った書類の欠片。その光景は、何処か幻想的な雰囲気を漂わせている。

 今、俺が立っているのは例の落とし穴のあった辺りの筈だが、それを偲ばせる物は1メートル程向こうに見えるレール――連絡通路と工場区画を仕切る大扉の跡くらいだった。


 人気ひとけも人工の灯りも無い中を暫く歩き回ってみた。肉眼では足下が覚束ないところだが、暗視機能が内蔵されているので、俺にとってはどうと言う事はない。ビバ・サイボーグボディ。

 波と燃え残った残骸の爆ぜる音くらいしか聞こえてこない中をうろついていると、前方から誰かが歩いて来るのが見えた。シャルビーだ。あちらも俺に気付いたのか、足早に近付いて来る。


「ようシャルビー、無事だっ――」

「手前ぇ、今度は何をしやがった!?」

「――って、いきなりどうした?」


 俺の挨拶に目もくれず、シャルビーは俺の胸倉を掴み上げた。怒り心頭に達した瞳には、呆気にとられた俺の間抜け面が映っている。そのまま暫く俺を睨み付けてから、地面に叩き付ける勢いで掴んでいた手を解いた。

 尻餅を搗いたまま、シャルビーを見上げる。理由は判らないが御立腹の様子だ。


「おい、一体どうしたんだ?」

「五月蠅ぇ!

 この様は手前ぇの仕業だろうが!」


 ここまで言われて、やっと見当が付く。


「ああ、この爆発の事か。

 俺が直接やった訳じゃない。

 誰か知り合いが巻き込まれたのか?」

「いや。今日は、夜勤はやってなかったし、警備の人間もアンタ等の侵入に対応するから倉庫の方に集まってたから、人死には出てないと思う」

「不幸中の幸いだな」

「全然幸いじゃねぇよ!

 俺の職場をまた吹っ飛ばすとか、何か恨みでもあんのかよ!」


 シャルビーの怒声が湿り始めた。顔を見れば目の端に涙が滲んでいる。そう言えば、こいつの前の職場(マフィア)も壊滅させちゃってたんだよなぁ。そりゃ怒りたくもなるか。


「恨みはないし、今回の事だって俺がやった訳じゃないんだが……

 まあ確かに、お前には色々迷惑掛けてしまってるな。申し訳ない」

「……お、おう……」


 俺は正座に座り直し、両手を地面に付いて頭を下げた。いきなりの土下座に面食らったのか、シャルビーの反応が鈍い。

 そのまま頭を下げ続けていると、流石に間が持たなくなったのかシャルビーの怒声が追加された。


「……ああぁもう良いから頭を上げろ! そんな恰好されたんじゃ文句も言えねえ!」


 お許しが出たので頭を上げてみた。いきなり謝られて困惑しているらしいシャルビーの目を見詰めながら、もう一度謝っておく。


「本当に済まなかった。」

「もう良いってば!

 ……じゃあ、誰がこんな事をしやがったんだ?」


 怒りの矛先を誤魔化す様な口調で発せられたシャルビーの質問に、さて何と答えるか考え始めたところで、少し離れた場所の瓦礫が大きく崩れた。


「そいつは俺も聞きたいな」


 崩れた瓦礫の中から持ち上がった影が、バリトンを響かせながらこちらへとやって来る。結構大きい。身長は2メートルくらいだろうか。それに見合った横幅もある。

 巨体は俺とシャルビーの近くへどっかりと腰を下ろし、ニヤリと口を歪めた。剥き出された歯がキラリと光る。


「先ずは自己紹介しておこうか。俺の名はガリウス。お前さん達にエンジンを狙われた哀れな子羊の内の一匹だ」


 ゴリラでも怯みそうな筋肉を装備の上から感じさせつつ、巨体――ガリウスは俺を見下ろした。何処ぞのアメコミ辺りで主役をやっていそうな外見と声が、爽やかな豪快さを醸し出している。

 とりあえず正座したまま、俺はガリウスを見上げる。


「俺はサーウッドだ」

「知ってるぜ。

 オリジン星系最高額の賞金首にして、惑星ウンディーネを実質支配しているフォーチュン評議会を敵に回した『誰にでも噛み付く(クレイジー・サイコ・)狂犬テロリスト

 『奴の通った跡にはペンペン草一つ残らない』って噂は本当みたいだな」

「何時の間にそんな風説が!? 訂正を要求――」

「全部当たってるだろ……」

「――ぐぬぬぬ」


 どうやら思っていた以上に悪名は轟いていたらしい。名乗った途端に謂れの無い単語をズラズラと並べ立てられてしまった。

 思わず突っ込みを入れてしまったが、シャルビーにあっさりと肯定された。もっとこう、オブラートに包んで貰いたいところなんだが……。


「まあ、それはさて置き、こいつの経緯って奴を知ってるなら教えて貰いたいんだが」


 歯噛みする俺に声を掛けたガリウスを見ると、先程の笑みを口元に残しながら視線だけが真っ直ぐこちらへと突き込んでいた。一拍、呼吸が止まる。

 さて、説明するのは吝かではないのだが、何処から話して何処まで信じて貰えるのか……ストーカー気質の元GMに目を付けられてバグ空間に飛ばされました、この爆発の事は――まあ、どうせあいつが嫌がらせ目的でやらかしたんだろう。そんな事を正直に話して納得して貰えるのかどうか、それが問題なんだよなぁ。


「説明、出来ないのかい?」

「あ……ああ、いや、何を何処から説明すれば良いのか、ちょっと迷っててね……」


 悩み過ぎても仕方ないし、逆に相手に対して不信感を植え付けそうだな。理解して貰えるかはさて置いて、知ってる事を全部話してみる、か。


「上手く説明出来るかは判らんが、取り敢えず話してみようか」


 ガリウスとシャルビーの目に力が篭るのが見える。

 俺は大きく息を吸って、吐き出し、それから説明を始めた。


――――――――――――――――――――


 落とし穴に落ちてからバグ空間での変態GMとの闘い、その後の強制転送だっしゅつまでを出来るだけ解かり易く説明する間、二人は無言で聞いていてくれた。

 そして一通りの説明はなしが終わり、最初に出てきた台詞は、シャルビーの


「あー……もう少ぉし、俺みたいな馬鹿にも解かる様に話してくれねぇか?」


 だった。

 その場で両手両膝を突いて項垂れていると、ガリウスが俺の首を抱え込んで耳元に囁き掛けてきた。


「ちょいと良いかい?」

「な、何だよ?」

「NPC相手にGMだのバグだの、その手のシステム絡みの話題はNGだ。OK?」

「そ、そうなのか?」

「知らなかったのか?

 ……VRMMO(このてのゲーム)は余りやった事がないのか? 普段はレース系とかFPSとかが主戦場メイン?」

「VRそのものが初めてだ」

「……」


 ガリウスに合わせて小声で返事をしていたら、彼が黙り込んでしまった。顔を見上げると眉を顰めて何かを我慢している様だ。


「……どうした? 何か問題でも――」

「ああ、すまん。大丈夫だ。

 オーケイ。そう言う事なら、その辺の事を説明レクチャーしておこうか」

「――そ、そうか。じゃあ頼む」


 ガリウスから聞いた話を箇条書きにすると、


 1.NPCの思考を司るAI(プログラム)の処理能力の関係でNPC達は自分の事をゲーム内の世界で生きている「人間」だと認識している。

 2.PCがゲームの「外」の話をNPCにすると、NPC達はそれをただの世迷言として聞き流すか、会話そのものを無かった事にする。

 3.NPCがゲーム外の話題について無反応なのは、それとNPCの世界認識との齟齬による矛盾をAIが処理しきれずNPCの認識力が破綻し、自己崩壊を起こしてしまうのを防ぐ為である。


 と言う事らしい。


「んーと、じゃあ、最初から『自分はNPCであると認識させておけば良かったんじゃないか?」

「そこはゲームのコンセプト次第だな。実際にそう言うゲームは存在する。

 だが、このゲームではそうなっていない」

「なるほど。プレイヤーのごっこ遊びを優先、って事か」

「まあ、そんなところだ」


 折角その気になって遊んでいるところに設定外の話を持ち込まれたら興醒めするって言うのは、解かる気はする。

 昔の時代劇なんかでも電線が映ってたりカツラの線が見えてたりすると、そっちに気を取られてしまう事があるもんな。

 最近の奴は背景やカツラを含む小道具の殆どがCGに置き換えられているそうだから悪目立ちは減っているが、それでもガチガチなリアル路線の時代劇でIHコンロが画面に映り込んでしまい、一部のマニアが騒いだ事もあった。

 五月蠅い奴は昔から居るもんだ。

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