第47話 クエストは道連れ
ともあれ、これ以上こんな所で言い争いをしても時間が勿体無いとの結論で一致した俺とペトーは、ピンクトゥで今後の予定について話し合う事にした。
って、この時点で一緒にクエストをやる破目になるのは確定的に明らかじゃないか。
「ほわぁ……これが、あの時の装甲車にゃん……広くて明るいにゃん」
操縦室に乗り込んで来たペトーが中を見回しながら呟く。ヤーウィもダイザも、一様に同じ台詞を口にするのだが、宇宙船の操縦席というのは、そんなに狭いのだろうか。
「そうにゃあ……計器類がもっと多くて、操縦席の周囲を覆ってるにゃ。後、席の後ろにブランクスペースなんて無いにゃ。どっちかって言うと、戦闘機のコクピットに近いにゃ」
「なるほど。それに比べれば確かに広過ぎるな。
さて、クエストの事なんだが……」
「どうするにゃん?
ボクは一緒にやるのがモアベターって思うにゃ」
「因みに、工場の場所は何処なんだ?」
「……これにゃ」
差し出されたメモの座標を見て、俺は思わず天井のハッチの観察を始めてしまった。
「何てこった……」
「え?」
「ほれ」
俺の差し出したメモを見たペトーの耳と尻尾が露骨に垂れ下がる。
操縦室が重苦しい空気で満たされた。
「何て事にゃ……まさか、サーウにゃんも同じ工場だったにゃんて……」
目の下に縦線が入りそうな勢いで、ペトーが声を絞り出している。お前も情報無しでのクエストは嫌だったんだな……。
俺の方も、ペトーと組んで情報豊富な工場を狙えば、楽にクエストをクリア出来そうだと気を抜いてしまったもんだから、その反動を味わっている最中である。
そんな訳で10分が経過して。
「……落ち込むのは、ここまでにするにゃ」
「……これ以上は時間の無駄だな」
既にこの時点で無駄だらけとか、真実を追求しないで欲しい。
これでチームを組んでも組まなくても事前情報無しが決定してしまった。他のクエスト受領者を連れてくれば良いのかも知れないが、流石に今すぐは無理だろう。ならば……
「……チーム組んで盗りに往くか」
「そうだにゃ……そっちのが良さ気っぽいにゃ」
こうして、チーム「かんにゃんしんく」の結成は満場一致で可決された。
「でも、もう少し可愛らしい名前が良かったにゃぁ……」
「組むのはこのクエストの間だけなんだろ?
凝るだけ無駄だな」
「にゅう……面白みが無さ過ぎだにゃ」
フレンド登録をしながらぶつくさと文句を言い続けるペトーに、俺はきっぱりと、こう言い切った。
「受けを狙い過ぎたり、調子に乗って余計な仕事に手を出したりすると碌な事にならんぞ。謙虚堅実が人生の必勝パターンだ」
俺は失敗したけどな。
――――――――――――――――――――
こうして結成されたチーム「かんにゃんしんく」は、目的地の工場へ向けて高度5千メートルを驀進していた。
スタート地点である盗賊酒場から目的地の工場へ行くには、惑星ウンディーネを三分の一周する必要があった。しかも海のど真ん中である。一応、何処ぞの港からフェリーだかが出ているらしいが、盗賊酒場からだとそのルートは遠回りになるらしい。
そこで俺達は空を飛んで最短距離を進む事にしたのだ。
「飛行機が殆んど飛んでなかったから、てっきり軍事衛星が高度5百メートル以上の飛行物体を撃墜しているのかと思ったぜ」
『そんな訳無いにゃ。ちゃんと飛行機の定期航路もあるし、爆撃機だって存在するにゃ。ただ、燃料代が高いから皆使いたがらないだけにゃ』
音速を超えて飛んでいるにも関わらず動く気配の無い水平線をピンクトゥのメインモニターで眺めながらぼやくと、無線チャンネルが繋がっているペトーから反論があった。
燃料が出回っていないなら、確かに普及しないだろう。
「なるほど、ねぇ……
だったら、せめて高速鉄道を造るとかすれば良いんじゃないのか?」
『金属を地面に放置してたら、泥棒かマイン・ワームが片付けちゃうにゃ』
「ふむん。
あの兄ちゃん達、その辺はどうするつもりだったんだろう……?」
『大体、そんな妄想家は既に絶滅危惧種にゃ。
もし居たら詐欺師か、ゲームを始めたばかりの御新規さんにゃ』
「うぅむ。だったら、あいつ等は後者だったんだろうな……」
夢を熱く語っていた――少々オーバー過ぎる表現かもしれないが――あの兄ちゃんの目を思い出しながら、俺は彼等の夢が実現出来る様に黙祷した。
『そろそろ目的の島に到着するにゃ。これより高度を下げて着水するから、サーウにゃんも準備に入るにゃ』
「了解。
……オーケー、こっちは問題無しだ」
ピンクトゥの状態を改めてチェックして異常の無い事をペトーに伝えると、機体の高度が徐々に下がり始めた。
「全く便利な能力だな」
呟きながら、ピンクトゥの上空を映しているモニターに目をやる。そこには黒々とした飛行機の胴体がアップになっていた。ペトーの所有する飛行機ではない。ペトー自身だ。
ペトーが手に入れたレアサイボーグボディ「GOO System Type-N」の拡張能力は、なんと「変身」だった。ペトー自身が構造を把握してさえいれば、今回の様に飛行機にすらなれるのだから、某超能力者に仕えている三つ目の僕も吃驚である。
『変身出来ないものも、色々あるんだけどにゃ』
「どんなものだ?」
『ヒ・ミ・ツ、にゃ』
語尾にハートマークを浮かべながら海抜10メートルにまで高度を下げたペトーは、両翼に上向きのプロペラを生やしていた。後部にあったジェットエンジンは、何時の間にか消えている。
プロペラが回り始めると、今まで惰性で滑空していた機体に上昇する力が加わった。そのままゆっくりと着水する。
先程まで飛行機の胴体を映していたモニターからは、元の姿に戻ったペトーが見えていた。
操縦席上部のハッチからペトーが乗り込んできたのを確認して、俺はピンクトゥを前進させた。8本の脚による装甲車掻きは、外洋の荒波をものともせず目的地へ向けて力強く進んでいる。
島までの距離を開けた地点から水上航行に切り替えたのはペトーの拡張能力を隠す為である。
「あんまり、大っぴらにするモンでもないしにゃ」
「そりゃそうだ」
侵入経路および逃走経路を特定されない為にも、手札は出来るだけ隠しておく方が良い。
夜の闇――目的地には、月の光は届いていなかった――に紛れて海上を進んでいたピンクトゥは、前方から伸びてくる灯台の明かりの下を進んでいった。俺の拡張能力で調べたところ、周囲で作動しているレーダーは半径50キロメートルで、海中を探索する装置は無かった。
最新鋭技術を擁する施設としては防犯に不安があるのだが、忍び込む側としては大助かりである。
「この辺は何処の工場に行っても変わらないみたいだし、ゲーム上の『お約束』だと思うにゃ」
「盗まれる側としちゃ傍迷惑なお約束だな」
「勿論、有志が集まって自主的に警備してる所もあるにゃ」
「手前ぇのエンジンが盗まれない様に、ってやつか。ご苦労なこって。
……っと、そろそろ潜航するぞ。メインタンク、ブロー」
「よーそろーにゃー」
このピンクトゥには何故かバラストタンクが車体底面に付属していた。誰が何を考えてこんな仕様にしたのかは判らないが、水中を逃げ回る事もある俺としては有難い装備である。
「本来は宇宙空間での機体制御に使うスラスターの燃料タンクを積んでる場所だから、地上じゃ無意味にゃ。だから似た様なサイズのタンクを積んでみただけじゃないかにゃ?」
「お陰で逃走が楽になったんだから、何が幸いするか判ったもんじゃないな」
お気楽なお喋りの間にも、メインスクリーンの映像が星空に浮かび上がる島影から真っ暗な水中へと変化していく。ここで照明を点けると何処で見付かるか知れないし、乗っている二人共が暗視装置内臓のサイボーグなので必要も無い。
「おっと、今の内に島の様子を調べておくか……ッ痛ぅ!」
俺は自身の拡張能力を1秒だけ起動した。途端に、頭の中心から延髄寄りから頭頂部へ向けて痛みが通り抜ける。
「どうしたにゃ?」
「いや、脳味噌を孤独な稲妻に引き裂かれたみたいな頭痛が……」
「突然過ぎるにゃ」
「ここまで酷いのは初めてだぜ」
「今までにも似た様な事があったにゃ?」
「長時間、連続で使った時に痺れる様な痛みと言うか……そんなのならあったんだが、ここまでじゃなかったな」
「……情報過多で脳味噌がショート寸前かにゃ?
ボクはそんなの起きた事無いにゃあ」
「使い過ぎたら起きるのかもしれんぞ?
誰かに変身して潜入してたら、一番大事なところで頭痛が起きて変身が解けたりな」
「……嫌な事を言わないで欲しいにゃ」
暫くして頭痛は収まり、ピンクトゥはわしゃわしゃと移動を再開した。
「どうせならスクリューも装備しておいてくれれば良かったのに」
「贅沢は言わないにゃ」
――――――――――――――――――――
そんなこんなで島の港湾設備の外れに位置する防波堤の突端で照明を回転させている灯台の麓に到着した俺達は、一旦ピンクトゥを海面ギリギリまで浮上させて島に上陸した。
ピンクトゥの方はハッチを閉じてから無線操縦でその場の海底に潜らせて、そのまま待機させておく。
俺達の計画では、工場に侵入してエンジンを格納している倉庫を発見し、そこから2~3基かっぱらったペトーが空を飛んで脱出、俺はピンクトゥを回収して海から逃走、となる予定である。
「穴だらけと言うか、穴しかない計画だよなぁ」
「事前情報皆無じゃ、これが限界にゃ」
「ま、仕方ないか……。
良し、固定完了。
行くぞ」
ピンクトゥが海底に到達し、アンカーでの固定に成功した事を確認して、俺達は防波堤を静かに移動した。向こうに見える岸壁の付近は街灯に照らされているものの、防波堤にはそれすら灯っていない。上空5メートルで振り回されている光の帯がこの近辺で唯一の明かりだった。
万が一に備えて灯台の光が通過した直後を狙い、俺達は身体を低くして防波堤を走り抜けた。
街灯のスポットライトを迂回して――お陰でコンクリの絶壁を指先だけで横移動する破目になった――誰にも見付からず海岸沿いに延びている道へ到着する。
「上陸成功だけど、けっこう時間が掛かったにゃ」
「素人にしては上出来って事にしておこう」
「そうだにゃ」
小声で自分達を褒めてから道を渡り、高くはないコンクリートの斜面を一気に登る。そのまま申し訳程度の落成防止柵を乗り越えた俺達は、山の斜面に沿って広がる森の中に潜り込んだ。




