第44話 勝利の代償
兎との戦いが齎した惨状に思考が置いてけぼりになってしまった俺の背後から、複数人の足音が聞こえてきた。
「あらら……また派手にやっちゃったわねぇ」
「ふむ。村一つが綺麗に無くなるとは尋常ではないな」
「サーウさん、今度は何やらかしたんスか?」
振り向くと、ヤーウィ達が周囲を眺め回していた。
「不幸な事故の結果、巨大兎が現われてな。気が付いたら、この有り様だよ」
肩を竦めながら事実を簡潔に伝えると、「なるほど、羅武威兎か」とダイザが頷いた。あれだけの言葉でこの状況に納得するとは流石、解説担当である。
「ほんと、サーウさんと一緒に居ると飽きないッスねぇ」
「本当にそう思ってるんだったら、その呆れた様な口調をどうにかしろ」
「まあ、それはそれとして――」
「やっぱり呆れてるだけだろ」
「――これからどうするんスか?」
ヤーウィに問われて、先程まで村があった土地を改めて眺める。そこには「爆弾テロ」なんて甘いものではなく、「絨毯爆撃」とか「総攻撃」とか、そっち系の被災地が広がっていた。
「……ドロップアイテムを出来るだけ掻き集めてからトンズラ、だな」
「その辺が現実的ッスかねぇ。
そこで、ちょっとお願いがあるんスけど」
「何だ? 可能な範囲でなら協力するぞ?」
ヤーウィを見上げると、奴の視線は廃墟にばら撒かれているドロップアイテムに向いていた。
「この、羅武威兎の骨なんスけど、貰えないッスか?」
「骨を? どうせ俺には使い道も無いからな。好きなだけ持って行け」
ピンクトゥを使っても全部運ぶのは無理だし、運んでも売り捌く先が無い。ヤーウィ達の懐が潤うのならば、棄てるよりもマシである。
「助かるッス。
実は、今受けて来たクエストで使うんスよ、この骨」
「骨を?
ここのクエストって、確か超々々々ジュラルミンを何トンだか集めるって奴じゃなかったのか?」
「いや、自分達もそうだとばっかり思ってたんスけど、聞いてみたら、RBSが混ざっていてもOKって事になったんス」
「あーるびーえす?」
「兎骨鋼の略ッス。コイツと超々々々ジュラルミンで合金を作れば、それでも受け付けてくれるそうッス」
何かまた怪しげな金属が出てきたな……。
「そんな事言っても、サーウさんの装甲車だって、RBSか他のモンスターのドロップアイテムが材料になってる筈ッスよ?」
「え? そうなのか?」
「伊達に地下資源が枯渇してないッスから。宇宙から降りてくる分だって、惑星全部の需要を満たしている訳じゃないッスし」
「うぅむ、流石――」
――ん? 骨からインゴット精製って、SFになるのか?
「ま、細かい事は気にしないのが一番ッス。
因みに、あっちの束ねてあるワイヤーが兎の筋繊維で、あれで発条を作って戦車とかを動かしてるッス」
「発条仕掛けの戦車に飛行機かよ!?
そこまでいったら流石にファンタジーだろ!」
「ヤーウィ、流石にからかい過ぎだぞ?」
「ッスかね?」
「嘘かよ! 10円玉でウィリーさせッぞ!?」
その後の話し合いで、骨と筋繊維――主な用途は発条ではなく、軌道エレベーターのケーブルだそうだ――に生鮮食料品と毛皮等々、ドロップアイテムの殆んどをヤーウィ達に託す事が出来た。ついでに売り捌けた分の三分の一を俺が受け取る事にもなったのだが、美味しいところだけ貰う形になってしまい、申し訳ない限りである。
「その割には顔がにやけてるッスよ、サーウさん」
「おっと、こいつはいけねぇ」
にやけてしまっていた表情筋をマッサージして解、す……
「……なあ、サイボーグとかアンドロイドとかの顔の駆動系ってどうなってるんだろうな?」
「今更気にするのもどうかと思うッスけど、SFな未来技術って事で良いんじゃないんスか?」
現実の顔面と遜色ない手触りに疑問を浮かべたところ、雑なのか的確なのか微妙な答えが返ってきた。まあ、その辺が落とし所か。
「早くしないとドロップアイテム拾いそびれちゃうわよー?」
グレンの声に追い立てられて、俺とヤーウィは廃墟の中を漁り始めた。
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「……これは何だ?」
「あー……レーザー共振器ッスね」
地面のあちらこちらに落ちているアイテムを拾い回っていて見つけた、子供の手には余るサイズの碧いガラス――もしかすると希少鉱物なのかもしれないが――の塊を見たヤーウィは、掌から摘み上げてそう言った。
「通常のレーザー銃の共振器をこれに取り替えるだけで、威力が1.2倍になるレアアイテムッス。
このサイズじゃレーザー砲には小さ過ぎるッスけど、この前ナグール軍で貰ったレーザー機関銃になら丁度良いんじゃないんスか?」
「残念ながら、そのレーザー機関銃なら兎退治の犠牲になった」
「あらら」
またか、と言わんばかりの表情を浮かべながら、ヤーウィが碧色レーザー共振器を返してきた。仕方ないだろう、殺るか殺られるかの非常事態だったんだし。
それはそれとして、レーザーってそういう仕組みだったか? 何か違う様な気もするが……まあ細かい事は置いておこう。どうせ素人には解からん。
漁れるだけのドロップアイテムを回収してから、俺達はイン・アバ村を離れた。
幸か不幸か他のPCとは出会わなかったが、俺を襲ってきた連中以外にも被害にあった奴等がここを目指しているかもしれない。現場からは早々に立ち去るのが基本である。後は、戻らないで済む様に忘れ物をしない事だな。
ダイザの戦車とピンクトゥの後ろに兎の骨を筋繊維で結んで、ガラガラと引き摺りながら走り出す。目的地はここから百キロメートル行った所にある村だそうだ。
「RBSの精製・加工なら地元のあの村が一番だったんスけどね」
「悪かったな、絶滅させちまって」
「まあ、今更仕方がないッス。
今から向かう隣村でも精製出来るッスから」
「隣村まで百キロメートル単位かよ。田舎にも程があるな。
とりあえず村まで運ぶのまでは手伝うが、そこから先は手を出さんぞ?」
「仕方ないッスね。下手に動いて見付かるのは避けたいッスし」
ついさっきやらかした事の、二の舞を踏むつもりは無い。
筈、だったのだが……
「こっちも似合うわねぇ」
「いや、似合うとか似合わないとかの問題じゃないだろ。
俺は着せ替え人形か」
「残念ッスけど、もう手遅れッスね。諦めて一緒に行きましょう。
ほら、サーウさんも、こういう中継点に行ってみたいって言ってたじゃないッスか」
「ここは交易路から外れてるから中継点じゃないだろ……」
目的地の手前1キロメートルでピンクトゥが引き摺って来た荷物を渡そうと思い、ダイザ達に話をしたところ、グレンが「予備の変装道具ならあるわよ?」と言い出しやがった。
結果、子供の頃にやっていた魔法少女物のアニメに出て来そうなミニスカートの衣装を着せられた俺は、苦虫を20匹ほど噛み潰しながら仁王立ちで腕を組む破目になっている。
また村一つ滅ぼす可能性に賭けろと言うのか、お前等……?
「今でもその手のアニメはやってるッス。
それと、その言い方じゃまるで村を滅ぼしたがってるみたいッス」
「無理に突っ込まなくても良いんだぞ?」
それとダイザ、後ろで合掌してるのは詫びのつもりか黙祷なのか、後で小一時間聴取するから、そのつもりで。
――――――――――――――――――――
そんな訳で、ヤーウィとダイザは村の鍛冶屋へ仕事の依頼に、俺とグレンは村の雑貨屋で細かい物を買い込みに行く事とあいなった。その後、酒場で情報収集をしながら待ち合わせる予定である。
雑貨屋ではグレンの買い物を傍から眺めるだけのつもりだったのだが、イン・アバ村で貰ったレーザー銃――「パピヨン」と言う名前らしい――を仕舞うのに丁度良いホルスターを見付けてしまったので即決で購入してしまった。護身用で隠し持つ為の物らしく、腕に嵌めるベルトに掌へ飛び出させるスライド機構も付いてる逸品である。
「これください」
「あ、ああ……」
「? どうかしましたか?」
「い、いいや、何でもない。はい、確かに丁度。毎度あり」
どうも対応した店員の様子がおかしい。子供がこんな物を買うのが不審だったのか……ううむ。「お父さんへのプレゼントなので、つつんでリボンをしてください」とか、誤魔化しておいた方が良かったかな?
だが、店員の妙な態度の原因は、グレンの買い物が終わり、二人して酒場へ入ろうとした時に判明してしまった。
『――エレベーターそのものに被害は出ていませんが、エレベーターを囲んでいる防護ケーブルの内、3番、4番、5番ケーブルが、ミドル・エリアとアッパー・エリアのほぼ中間点で切断されています。
犯人は先日、フォーチュン議会対ナグール市主席交渉官であるジュリアス・カイザ氏を暗殺したサーウッドとみられ、今回の軌道エレベーター破壊未遂の為にイン・アバ村を襲い全滅させたとの情報も……』
酒場へ入る扉――西部劇でお馴染みのスイングドアと言う奴だった――の前で中から漏れてくるテレビの音声を聞いてしまった俺達は、そのまま扉には手を触れず抜き足差し足で後退した。扉から5メートル離れた所で向きを変え、やはり足音を立てない様に気を付けながら村から出て、ピンクトゥへと帰り着いた。
万が一に備えて鍛冶屋に資材を運び込むのはダイザの戦車だけでやって貰ったのだが、ナイス判断だったな。
「一体、何やったのよ、サーウッド……?」
「それは俺が聞きたい……」
何とか無事にピンクトゥに乗り込み、操縦室の床で大の字になった俺と操縦席に座り込んだグレンは、緊張の塊を安堵の溜め息と一緒に吐き出していた。
確かに、兎は空へ向けてレーザーを撃ち出していたが……
「……まさか命中するとは、思いもしなかったぜ……」
「まあね……
5万キロメートル離れたケーブルなんて普通当たらないわよね……」
「何で当たるかなぁ……」
「本当、何でかしらねぇ……」
二人同時に、今度は途方に暮れた溜め息を吐き出す。
と、モニターの一つにダイザの戦車が近付いて来る様子が映し出された。同時に、ピンクトゥの無線機にヤーウィから通信が入る。
『お待たせしたッス』
「お疲れ様……どうだった?」
『インゴットの精製は無事に受けて貰えた。
ただ、色々詮索はされたがな』
『本当に何やってんスか、サーウさん』
「……俺に言うな、俺に」
レーザーを撃ったのは兎であって俺ではない。俺は何にもやってない。……どうせ通じないんだろうがな。
俺が操縦室の天井のハッチに向けて肺の中の空気を全部吐き出している間に、戦車がピンクトゥの隣に停まった。一応周囲をレーダーでこちらへ向かって来る存在が居ない事を確認してから側面のハッチを開け、二人を操縦室に迎え入れる。
「お邪魔するッス~……ってサーウさん、何て格好しているんスか。パンツ見えてるッスよ?」
「野郎のパンツ見て喜ぶ奴が居るんなら教えて貰いたいもんだ。
そいつの頭をカチ割ってシナプスの配線をチェックしてやる」
半音低い声で返事をしながら、俺は体を起こして胡坐を掻いた。スカートの丈が丈なのでパンツが隠れているかは判らないが、まあ俺の知った事ではない。
その様子を見たヤーウィが溜め息を吐きながら壁の簡易シートを引っ張り出し、ダイザと並んで座った。
「外面だけはそこそこ可愛いんスから、気を付けた方が良いッスよ?」
「以前程じゃないけど、男の娘は一部の人達には人気あるんだから」
「……勘弁してくれ。
で、これからどうするんだ?」
グレンの言葉に寒気を感じながら、今後の予定について聞いてみる。多分、ヤーウィ達はインゴットの精製を待たなければならないだろうから、ここからは別行動になるだろう。
「インゴットに精製出来たら、そのまま村の倉庫に預けて貰う様に話を付けてきたッス。なので、このままカッパー市へ向かう事になるッス」
「引き取って、NPCの所へ持って行くんじゃないのか?」
「合金化するのに必要な超々々々ジュラルミンが、ここでは手に入らなくてな。
他を回って手に入れなけりゃならん」
そう言えば、合金がどうのとかってあったな。すっかり頭から抜け落ちてたぜ。




