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第41話 次参りましょう

「やあ、久し振り――と言う程長く会ってなかった訳じゃないが、色々楽しい事になっているようだね、有名人」

「あははは……こっちも昨日ログイン出来なかったんで面食らってる最中でね。

 一応、お久し振りです」


 あれから俺は洞窟の中――実はザザンの家だった――に招待されていた。入り口こそ狭いものの、洞窟の中は結構広く深く住み心地が良さそうである。


「街で補給かいものをしてたら、知り合いの名前がトップニュースで連呼されてたからね。こっちも吃驚さ」

「まあ、自分でも良く理解出来て(わから)ない内に話が大きくなり過ぎちゃって、一体、何をどうすりゃ良いのか途方に暮れてるところでして」


 派手な色のステンレスっぽいマグカップに注がれたココアの様な飲料と茶菓子代わりの乾パンを頂きながら、和やかに互いの――と言っても殆んどが俺の話題だったが――近況を話し合っていると、ヤーウィからボイスチャットの要請が入ったので、ザザンに断りを入れてから受信する。


『サーウさん、例の森に到着したみたいですけど、今どちらッスか?』

『見てたのかよ?』

『いや、丁度、上陸してるのが橋の上から見えたもんで』

『なるほど。今は上陸したところでザザンさんと会ってな。互いの近況を報告し合ってるところだ』

『あー……だったら彼女もクエストに誘ってみて貰えないッスか?』

「誰からだい?」

「ああ、ヤーウィ――知り合いのPCからです。ちょっとアイテムの受け渡しと、クエストを一緒にやろうって話になってて、この森で待ち合わせてたんですよ。

 それで、そちらも一緒にクエストに参加して貰えないかって話が」


 聞かれたついでにヤーウィからの頼みを伝えると、微かに眉を振るわせたザザンは、頬に手を添えて考える素振りを見せてから口を開いた。


「せっかくだけど、そちらはパスの方向で。そういうイベントとは関係無しに大物狩りをしてるのが性に合ってるし」

「なるほど」

「誘ってくれたの嬉しいんだけど、ゴメンねぇ」

「仕方ないですね。予定が合わないのに無理しても楽しくないですし」

『どうッスか?』


 交渉の余地は無かった様だな、と思いながら話をしていると、ヤーウィがせっついてきた。ザザンとの会話はボイスチャットには流れていないらしい。どうやって切り分けているのか知らないが、便利なシステムである。


『残念ながら不参加だそうだ』

『そりゃ残念ッス。それじゃ、こっち――前回戦車を停めた方へ来て貰えるッスか?

 今のところ他のPC(にんげん)は見当たらないんで』

『了解』


 さして残念そうでもない口調でザザンの参加を諦めたヤーウィとの会話を打ち切り、俺は腰を上げる事にした。


「それじゃ、そろそろおいとまさせていただきます」

「おや、もうかい――って連絡が来たって事は、向こうはもう到着したのかな?」

「森の入り口に居るそうで」

「そうか……残念だな。また会う事があったら、その時は一緒に狩りでもしよう」

「是非とも」


 和やかに挨拶を交わしてザザンと別れ、俺は再びピンクトゥに乗り込んだ。

 ザザンに教えて貰った方角に向かって、一昨日の山中とは比べ物にならない大樹の間を徐々にペースを上げながら縫って行くと、30分程走った辺りでレーダーに戦車と思われる反応が表れた。多分、あれがダイザ達の車両だろう。

 周囲に追っ手が居ない事をレーダーとモニターで手早く確認してから、俺は機体を更に加速させた。


 森から出て、ヤーウィ達三人が戦車の周囲に立っているのを見付けて、機体のスピードを徐々に落としていく。戦車の手前5メートルで停止すると、三人はこちらへと歩いて来た。


「サーウさん、ご無事で何よりッス」

「ほう……これが新型の多脚装甲車か」

「お久し振り~!

 何か、色々大変な事になっちゃったわねえ!」


 ピンクトゥの脚を揃えて格納モード――最初にナグール軍司令部で見た姿――へ移行させ、ハッチを開けて地面に飛び降りた俺に対して三人が声を掛けてきた。


「そちらも皆元気そうで何より。

 とは言え、こんな状況でどんな表情かおをすれば良いのか見当も付かんがな」

「笑えば良いんじゃないかな?」

「乾ききった笑いしか出てこんぞ」

「ま、そんなもんだ。

 因みに、コイツはどれ位まで出せる?」

「大体、時速で100キロくらいは行けるな」

「結構早かったッスからねぇ、山登るのも」


 挨拶を交しながら機体後部へと回り、格納されているタラップを引っ張り出す。その横にあるボタンを押すと、後部コンテナの扉が観音開きになり、中に放り込まれていたインゴットが乱雑に転がっているのが目に入った。

 あれだけ飛んだり跳ねたり転がったりしても、大きな傷は無いんだから大したもんである。


「ふむ……思ったよりも若干狭いな」

「壁や扉が結構ぶ厚いからな。でも無けりゃ何処ぞの配管工や青ネズミみたいに、|飛んだり跳ねたり転がったり《ピンボールのまねごと》は出来んよ」

「サーウさん……」

「かなり酷使したみたいだが、修理は大丈夫なのか?」

「今のところ問題は無い。

 少なくとも操縦席のモニターを見る限りでは」

「……これが例のインゴット?」


 俺達がコンテナの入り口付近で歓談している間に、グレンは奥に転がっていたインゴットを手に取って指の先でつついていた。仕種だけを見てりゃ確かに女の子だなぁとは思うが……外見は男なんだよなぁ。


「あら?

 これ、ただの鉄みたいよ?」

「「「え?」」」


 期せずして、野郎共おれたちの声が揃ってしまった。

 ヤーウィとダイザが慌ててグレンの傍へ駆け寄り、彼女と同じく手近なインゴットを突き始める。


「ふむ……こっちは銅で、これはニッケルか……どうやら、サーウッドが倒したマイン・ワームは雑食だった様だな」

「雑食って、好き嫌いがあるのかよ!?」

「……アルミとか青銅もあるわね。金属なら見境無しに食べてたみたい」

「あちゃ~……サーウさん、マイン・ワームのドロップはこれで全部ッスか?」

「あ、ああ。拾えた物はこれで全部だ」

「他に、何て言うか特別っぽいインゴットは落ちてなかったッスか?」

「いや……無かったな」


 ヤーウィの質問に、当時の状況を思い出しながら答える。確かに拾い残しは多々あったが、そんな特別っぽいアイテムは見当たらなかった。


「いや……全部ハズレ、と言う訳でも無さそうだぞ?」


 そう言いながら、ダイザがインゴットを投げてきた。それを受け取って、三人の真似をして突いてみると、小さなウィンドウが浮き上がってきた。


「何々……『超々々々ジュラルミンインゴット』?

 おお、数字の意味は解からんが、色んなパラメータが見える!」

「サーウさん、アイテム情報(プロパティ)の見方、知らなかったんスか……?」

「ん?

 ああ、装備すれば使い方とかは確認出来たし、装備出来ない物で調べなきゃならん物は無かったしな」

「確かに、余程特殊なアイテムでもない限り、詳しい説明が無くても何とかなるからな」

「気にしない人は気にしないしねぇ……」

「知らなくて悪かったな」


 わざとらしく大きな溜め息を吐くヤーウィと、何やら二人して頷きあっているグレンとダイザを見ていたら拗ねたくなってきたぜ……。


 結局、超々々々ジュラルミンのインゴットは15本ほど見付かった。残りは鉄だの鉛だの、今回のクエストには関係の無い金属である。


「ともあれクエストを始めるのに必要な分は確保出来たし、そろそろ行くか」


 ダイザの言葉で移動を開始する事になった。

 向こうの戦車には二人だけが戻り、ヤーウィはピンクトゥ(こちら)に残った。多分、一昨日の一件からのドタバタを心配してくれているのだろう。

 動き出した戦車の後ろを追って、こちらも移動を開始する。12輪戦車の後をシャカシャカと追い掛ける多脚装甲車と言うのは傍から見ているとシュールな光景なんだろうな。


「そう言えば今更なんだが、クエストのスタート地点って何処なんだ?」

「あれ、言ってなかったッスか?

 ここから千キロメートル程南西にある海岸の村にクエストの重要NPC(キーキャラ)が住みついてるんスよ。先ずは彼を訪ねる予定ッス」

「……『先ずは』?」


 前を走るダイザ達に置いて行かれない様、もしくは急停車に間に合わずオカマを掘らない様、車間距離を十分に取ってピンクトゥを走らせながら、ヤーウィの口振りに疑問をぶつけてみる。

 どうやって見付けたのか、壁に収納されていたらしい座席を引っ張り出して勝手に座っているヤーウィは、モニターや計器を興味深そうに眺めながら俺の質問に口を開いた。


「ッス。そこでクエストを受けて、それから更に南へ千5百キロメートル行った所にカッパーって街へ向かうッス」

「て事は、その河童市でもクエストが受けられるんだな?」

「カッパー市、ッス。

 サーウさんの予想通り、この街にもクエストのスタート地点があるんスよ」

「……なあ、クエストのスタート地点って事は、結構な人数が集まるんだよな?

 そんな所に指名手配犯おれが行ったら、色々拙いんじゃないか?」

「おお」

「『おお』じゃねぇって」


 主に、俺の身柄とか首とか賞金とか。

 そっちからは見物みものなんだろうが、こっちは命が懸かってるんだ。もう少し真面目に考えて貰いたいところである。


「まあ、それは冗談として。

 流石にカッパー市内に入るとやばいッスけど、サーウさんみたいに犯罪者プレイを楽しむ人用のスタート地点があるそうなんで大丈夫ッス。

 これから行く村には犯罪者用スタート地点(そういうの)は無いッスけど、変装なり暗闇に紛れるなりすれば大丈夫だそうッス」

「犯罪者プレイなんぞ、少なくとも俺は楽しんでねぇからな。

 後、例え街に入らなくても、そんな場所ならPCが集まってるんじゃないか?

 そんな所に俺みたいなのが顔を出したら、『クエスト前の景気付けに』とか言われて狙われそうなんだが」

「……幾らなんでも自意識過剰じゃないッスか?」

「なら良いんだがな。

 面は割れてるんだろ?」

「ええ。ナグール軍で登録した時の顔写真がニュースで流れてたッス」

「間違いなく来るだろ、特にPCが」

「ああ、確かに来るッスねぇ、何人かは」


 何と言うか、えらく楽しそうな口調に聞こえる……ひがみが入っているかもしれんが。


「まあ、サーウさんの足取りはばれてないみたいッスし、何とかなるッスよ。対策もグレンが考えてるッス」

「……」


 何処まで信用出来る対策だろうか。

 思わず出てしまった溜め息にも、ヤーウィから出て来たのはお気楽な気休めだけだった。


「今から考えても仕方ないッスよ。最初のクエストのスタート地点に到着するのは早くても明日か明後日になるでしょうから」

「そんなに掛かるのか?」

「なんだかんだ言って千キロメートルあるッスからね。車で移動する場合は何日か掛けるのが基本ッス」

「他のPC達はどうしてるんだ?」

「一部は空を飛んでるッスけど、基本は自分達と一緒ッスね。

 戦闘車両を使うなら頑張って4百キロメートル、装甲長距離バスを使っても5百から6百キロメートルが1日の限界ッス」

「何て言うか……ワープとかテレポートとか、そっち系の移動手段は無いのか?」

「今のところ見付かってないッス。

 で、サーウさんに相談があるんスけど」

「何だよ?」


 外部の様子はダイザ達の後部を映しているメインモニターにも、横や後ろを映すサブモニターにも変化は無い。

 退屈になってきていたので、ついヤーウィの方を振り返ると、何かを期待したお子様の目が輝いていた。


ピンクトゥ(こいつ)を貸して欲しいんス」

「そりゃ良いが……貸せるのか?」

「勿論ッス。

 まずメニューウィンドウを開いて貰うんスけど……」


 と、ヤーウィの説明どおりに操作してピンクトゥのレンタルを承認する。周囲にぶつかる様な障害物が何も無いとは言え、余所見運転はスリルとサスペンスに満ち溢れており、急な蛇行運転を心配したダイザから通信が入る程だった。


「すいませんね、サーウさん。

 でも、これで時間が稼げるッス」

「確かに、俺のペースで動いてたんじゃ更に時間が掛かりそうだもんな」


 何故ヤーウィがピンクトゥを借りたいと言い出したかと言うと、ゲーム時間の短い――翌日仕事があるなら日付が変わる1時間前にはログアウトしたい――俺が居ない間にも目的地へ向かう為である。


「じゃ、後はよろしく」


 ヤーウィに操縦席を譲り、暫らく運転する様子を見てから背後のスペースに毎度お馴染み修理ポッドを設置する。流石廃ゲーマー、俺と会話する間に操縦方法もバッチリ覚えたらしい。


「事故るなよ?」

「大丈夫ッス。多脚装甲車このタイプは初めてッスけど、飛行機やヘリ、宇宙船の操縦も一通りやってるッスから、マイン・ワームが突然湧いてくるとかでもない限り事故る事は無いッス」

「止めろ。本当に出てきたらどうするんだ」

「心配性ッスねぇ」

「一昨日、豪い目に遭ったばかりだぞ? っと」


 軽口を交わしながら設定を終えて、俺は微妙にダメージの残っているリニア・カノンとレーザー機関銃をポッドの中に放り込んだ。何も無い暇な時に直せる物は直しておいた方が良いだろう。

 他にもポッド内に収まるサイズまでならば何でも製作可能――ただし金属加工物に限る――らしいので、次はAPFSDFを補充してみる予定である。


 ポッドの蓋を閉めて修理モードが作動したのを確認した俺は、ヤーウィが座っていた席に腰を掛けた。尻を背凭れの根元に付けると膝裏が席の端にギリギリ足りず、結構座り辛い。

 仕方が無いので胡坐をかいて、操縦するヤーウィの後姿に目を移した。


「俺が寝てる間に悪戯するなよ?」

「……寝てるおっさんを襲う趣味は無いッス」

「襲うのか!?」

「頼まれたって嫌ッス」

「ならば良し。

 じゃ、また明日」

「お疲れッス~」


 ヤーウィのお気楽な挨拶に送られて、俺はログアウトした。

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