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第4話 射撃訓練

「あ、ヤーウィ、良いところに来たね」


 これは、昨日のヒョロ男の声、か。


「どうしたんスか、グレンもダイザも。えらいハイテンションッスけど」

「昨日よぉ、お前と別れた後に広場行ったら、変なオヤジがベンチで頭抱えててよ!」

「それで、あたしとダイザで話聞いてあげたら、メニューの開き方も知らないド素人なの」


 どうやらヒョロ男の名前がグレンで、筋肉姉ちゃんがダイザらしい。


「それで俺らがメニューの開き方とか教えてやって、ついでにパラメータの設定も修正させてやってさ」

「でもダイザ、流石にINT全振りは可哀そうだったよぉ」

「何言ってんだよ。お前も笑ってたじゃん」

「えーと、あの、そのプレイヤーの名前って……」


 ヤーウィが何とか話に割り込もうとしているみたいだが、テンションの上がり過ぎた二人には通用していないな。


「知らねーよ。こっちも名乗らなかったし」

「でも、あのジョボクレっぷりって癖になるよねー」


 ああ、そうかい。そりゃ良かったねぇ。


「あ、そうだ! あのオヤジ、探し出してスネークしてみない? 色々面白そうかも」

「良いな。で、危なくなった所で偶然を装って助けてやって!」

「……あー、流石にそれは……ヤバくないッスか?」

「大丈夫、大丈夫。あんなトロイオヤジなんかにばれる訳無いって」


 ……ふう。ヤーウィに一言挨拶してから行くか。

 店の中に入って見渡すと、グレン、ダイザ、ヤーウィの他に、店番と思われるNPCノンプレイヤーキャラクターが一人と、多分三人の知り合いと思われるプレイヤー二人が苦笑しながら話を聞いていた。

 いきなり入って来た俺に、入り口の方を向いていたグレンとダイザの表情が固まり、振り返ったヤーウィが申し訳なさげな視線を向けてくる。


「そのトロイオヤジって、こんな顔かい?」


 とりあえず二人に声を掛けてやると、店内の温度が先程までの陽気から一転、寒気団のど真ん中にダイブしてしまった。


「悪いな、ヤーウィ。俺はチュートリアルでもやってるわ」


 それだけ告げて、店から出る。今更追って来てもらっても面倒くさいのでドアもキチンと閉めてやる。後は適当に歩いて店から離れるだけだ。

 適当に角を曲がって自分でもよく判らない路地に入り込んだ頃、ヤーウィからボイスチャットの申し込みが来た。拒否しても明日が気まずいだけなので【通話】と書かれたボタンを押す。


『済みません、サーウさん』

『良いよ、お前が謝る事じゃない。せっかく時間を割いてもらったのに申し訳ないが、今日は一人でチュートリアルってのをやってみるわ』

『ホント済みません。あいつ等には良く言っときますんで』

『気にすんな。あの二人の言ってる事も解らんでももない。

 ――とは言え、悪いが今日は一人でやらせてくれ』

『判りました。本当に済みません』

『本当に気にすんな。俺も頭を冷やしたいだけだから。こっちこそ我侭言って済まんな』


 その言葉を最後にボイスチャットを打ち切る。年食って、多少の事ならスルー出来る様になったつもりだったが、流石に面と向かって言われると、つい頭にカッときてしまう。ヤーウィにクールダウンしたいと言ったのは嘘ではない。

 とりあえず、所持しているアイテムを確認してみる。


 まず、装備アイテムは、無し。当たり前だな。まだ何も装備してないんだから。

 所持アイテムは全部で5個か。

 1個目はLG-223「モスキート」。レーザーハンドガンとあるから、これが最初の武器なんだろう。しかし、何故、モスキートなんだ?

 2個目はLBP-V35M……防弾チョッキか。これが初期防具になるわけだ。

 3個目は同じ物5個を一纏めにしてあるようだな。エネルギーパック×5。ちなみにエネルギーパックと言うのはレーザー銃用の弾倉の事で、ハンドガン、ライフル、機関砲等でも共通して使えるらしい。

 4個目はハンドガン用ホルスター。

 そして、最後のアイテムが――


「何なんだ、この『ラッキーコイン・バッヂ』って?」


 呟きながらアイテムボックスから取り出してみる。5百円玉よりも二回りは大きなコインの裏にクリップと安全ピンが付いている、アクセサリー? の様だ。説明には「装備すればアイテムドロップの確立が少しだけ上がる便利アイテム。一応防御力もある。ドロップ不可・譲渡不可」と書いてある。装備する必要はないが、他人に渡したり捨てたりは出来ないって事か?……表面の、親指を立ててニヤリと笑う2頭身のメイドさんの浮き彫りが微妙に羞恥心を煽るので装備は却下だな。

 こういうアイテムを見ると、本当にアイツがこのゲームのマスコットなんだと実感出来るな。


 ともあれ、折角ヤーウィに教えて貰ってたんだし、アイテムの装備をしてからチュートリアルを始めるか。

 メニューからアイテムボックスを呼び出し、防弾チョッキを取り出す。それをアーマースロットと書いてある防具の装備状況ウィンドウに押し込むと、今着ているシャツの上に防弾チョッキが現れた。

 続いてアイテムボックスから、まずホルスターを出して脇の下の防弾チョッキに取り付け、次に銃を取り出してホルスターに差し込む。

 装備が丸見えで格好悪いが、それは仕方ない。これから少しずつ改善していこう。


 アイテムの装備が終わったので、メニューを開いて「チュートリアル開始」ボタンを押す。

 視界の右上に2頭身にデフォルメされたメイドさん――さっきのラッキーコイン・バッヂに描かれていたキャラクターだ――が挨拶をしてきた。


『スペース・オペラ・オンライン チュートリアルへようこそ! 私はチュートリアル・プログラムを担当します、スプーンと申します!』

「……何で食器なんだ?」

『それはですね御主人様、『SPace Opera ONline』の頭文字をとって、『SPOON』。これが私の名前の由来なのです! このゲームのイメージキャラクターに相応しい名前ですね!』

「自分で言うなよ」


 何処からともなく黒板まで取り出して自己紹介を始めるスプーン。しかもテンションがド高めである。


『あ、そうそう。私との会話では声を出す必要はありませんよ。ボイスチャットする感じで、お返事して頂ければ大丈夫です!

 それでは早速、装備の設定から――と思いましたが、既に初期装備の設定を終えてらっしゃいますね』

『ああ。知り合いに教えてもらってたんでな』

『なるほど。では、射撃の訓練を行いましょう! 男なら、やっぱり銃撃戦ですよね!』

『そんなもんかねぇ……』

『勿論ですとも!

 それでは、まずは射撃場へ移動しましょう。左上にマップを表示しましたので、ここの赤いマーカーの付いている地点まで移動して下さい。因みにこのマップの表示方法は――』


 スプーンの指示に従って、視界の左上に現れた半透明のマップを見ながら歩き出した。マップは俺の歩みに合わせて回転し、スクロールしていく。暫く歩くとマーカーのある地点――スベンサー射撃場に到着した。

 エントランスにある受付で訓練用のエネルギーパックを5本購入し、指定された射撃レーンに向かう。装備しているモスキートのエネルギーパックを訓練用の物と交換して、的に向けて銃を構える。すると、的に重なるように半透明の丸が表示された。


『今表示されたのが照準です。この照準の中心を、的の狙いたいポイントに合わせて、引き金を引いて下さい』


 スプーンの指示に従って、照準を的の中心に合わせ、引き金を引く。大した反動もなくピンク色の光が銃身から迸り、的の端っこに穴が空いた。


「うーむ、結構ずれるな……」

『それは仕方ありません。AGIと銃の熟練度がどちらも低いので、照準したポイントからランダムにずれてしまいますから。ただ、今の場合はそれに加えて引き金を引いた時に銃身がぶれていましたので、その分、更に大きく外れていますね』


 そういう事ならば、システム上のレベルアップとプレイヤースキルのランクアップを兼ねて撃ちまくりますか。

 スプーンの講義を聞きながら、俺はモスキートの引き金を引き続けた。


――――――――――――――――――――


 結局、訓練用エネルギーパックを更に5本追加して撃ちまくる事で、何とかそこそこの命中率に到達出来た。経験レベルが3になり、PP(パラメータ・ポイント)も3ポイント貯まった。モスキートの習熟度も5になっている。

 このPPをSTRに1ポイント、AGIに2ポイント振り分けて射撃したところ、命中率が更に上がった。なるほど。これがパラメータによる補正か。


『命中率については、この銃を使っている内は問題ないレベルになりましたね。お疲れ様でした! さて、この次は操縦訓練です! シミュレーターではありますが、宇宙船も操縦出来ますよ!』

『あー、すまんが、もうそろそろログアウトしなけりゃいかん時間だ』

『そうですか……残念です。では、本日のチュートリアルはここまでにしますか?』

『そうだな』

『それでは、私はこれで失礼します。なお、ログアウトされる時は宿泊施設を利用される事をお勧めします』

『宿泊施設? 何でだ?』


 俺の質問に、スプーンはいつの間にか着替えていたパジャマ姿で説明を始めた。


『スペース・オペラ・オンラインでは、原則として何処ででもログアウトする事が可能です。

 ただし、不特定のキャラクター――これはPC、NPCの両方を含みますが――と接する事の出来る場所でログアウトしますと、その後5分間はキャラクターがその場に残ってしまいます』

『それは何か不味いのか?』

『はい。この残っているキャラクターはプレイヤーがログアウトしている為、行動出来ませんが、攻撃を受けますと負傷しますし、ヒットポイントが0になりますとログイン時と同じ死亡扱いになります。つまり、死亡ペナルティおよびアイテムのランダムドロップが発生します』

『おいおい……』

『死亡ペナルティについては、パラメータの低下時間がリアル時間で1時間ですので、この場合は問題にはならないと思いますが、ランダムドロップについてはログアウトしている為にそれを回収する事が出来ませんので他のプレイヤーに拾われるかロストしてしまう事になります』


 何か詐欺みたいな話だな。


『それを回避する為には、宿泊施設でログアウトするか、搭乗出来る機体がある場合は、その機体を格納する施設に駐機した上で機体に搭乗した状態でログアウトする必要があります』

『ううむ。じゃあ、昨日みたいに広場のベンチでログアウトした場合は……』

『最悪、他のプレイヤーに攻撃されて死亡する可能性がありましたね。なお、他のキャラクターに見つからない場所でログアウトすると言う方法もありますが、見つかってしまうと意味がありませんので、余程の事がない限りお勧めできません!』


 それで、今日ログインした時にヤーウィが呆れてたのか。


『どうもありがとう。今日はどこかの宿屋にでも泊まる事にするよ』

『その方が良いと思います。近辺の宿泊施設を、マップに表示しましたので参考にして下さい』

『何から何まで済まないねぇ』

『いえ、それは言わない御約束でございます!

 それでは今度こそ失礼します!』


 ノリの良い返事を返し、スプーンは深々と礼をしてからフェードアウトしていった。

 それを見送ってから、俺はスプーンがマップにマークしてくれた宿屋の内の一つを目指して歩き始めた。

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