第35話 居た見た殺った
「それはさて置き、そろそろ出発するにゃん」と言うペトーの言葉で、俺達はチーム登録を済ませてから偵察任務に出発した。因みにチーム名は「第14偵察分隊」。ペトーが決めたとは思えない真面目過ぎる名前である。
てっきり、「ぺトーにゃんと愉快な仲間たちにゃん」とか、「偵察戦隊 タルライン4」とか、ウケ狙いの色物系でくると思っていたので、とんだ肩透かしだった。
湖から唯一流れ出ている川に沿って周囲を警戒しながら進み、時々ペトーの指示で立ち止まっては地下資源簡易調査キットを地面に打ち込むお仕事を繰り返す。
俺とヤーウィが周囲を警戒している間にゼファが調査キットを地面に設置し、地図に表示された結果をペトーが暗号化して司令部へ転送するまでで、大体5分前後。偵察と言うよりも鉱床調査の方がメインの気がするのは間違いだろうか。
「調査終了よ。結果の方はどう?」
「にゅう……やっぱり、この辺りには鉱床は無いみたいにゃ」
今回のデータを司令部へ転送し終わったペトーが、ゼファに肩を竦めてみせた。当初の予測通り、こちらは「ハズレ」なのだろう。
それを聞いたゼファは大きく息を吐き出して、地面から50センチメートルだけ飛び出ている調査キットの取っ手を掴み、よっこらしょとばかりに引っこ抜いた。サイボーグボディの膂力あればこその力技である。サイボーグ自体はそれ程広まっていないと思っているのだが、他の偵察チームはどうやって調査キットを使っているのだろうか。
「一応、ドリルの逆回転で自動的に抜ける様になってるッス。ゼファの方が手っ取り早いのは確かッスけどね」
「折角便利な能力があるんだから、使わなきゃね」
ゼファが引っこ抜いた調査キットを方に担ぎ、ペトーが調査データの転送を終えたのを見て、俺とヤーウィも二人の傍に集まった。
この近辺では、怪しい動きをする物体――少なくとも人間よりも大きな移動物――の姿も確認出来ていない。
「敵も居なけりゃお宝も見付からない、か。
平和で良いじゃないか」
「それじゃ、わざわざ参戦した旨味が無いにゃ」
「……『傭兵は阿漕な稼業ときたもんだ』、かよ」
どうでも良い会話を繰り広げながら、偵察部隊は川に沿って進むのだった。
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出発して2時間程進んだ地点で、俺達は予定通り司令部へ戻るルートへと向きを変更した。とは言っても行きと同じコースを辿るのではなく、川から離れて西へと進み、その後北上する事になっている。ペトーが聞いて来た説明では往路に2時間、帰路に3時間との事だった。
「ふわぁ……。やれやれ、このまま何事も無く帰り着いちまうのかねぇ」
「サーウさん、流石に気を抜き過ぎッス」
相変わらず敵も鉱床も見つからない平穏無事過ぎる行程に欠伸を漏らしていると、ペトーの猫耳がピクピクと動いた。ほぼ同時に、俺のボディに搭載されている通常仕様のレーダーにも、ここから1キロメートルばかり離れた地点に所属不明の移動物――反応からして装甲車と思われる――が引っ掛かった。
何か、こう、急に湧いてきた様な現れ方だった。これがMMORPG名物の「MOB湧き」と言うやつだろうか。
「うにゅう。流石レアタイプのサイボーグにゃ。ノーマル装備でもボク達のよりも広い範囲が見えてるにゃ」
「言う割には、お前も気付くのが早かったじゃないか」
「耳が大きい分、良く聞こえるからにゃ」
「そういうものなの?」
「そーいうものなのにゃ。
今、司令部から詳細を報告する様、命令が来たにゃ。分隊、匍匐前進にゃ」
「下り斜面の雑木林の中でやるのは辛そうなんスけどねぇ」
またもやペトーの戯言に促されて、俺達は出来るだけ背を低くして移動を開始した。道中は流石のペトーも口を開かず、時折足を止めては対象の動きを確認しながら近寄って行く。
対象を見下ろす斜面の上に陣取った時、眼下では1台の装甲車の周囲を10人の歩兵が守っていた。全員ナグール軍の制服を着ている。
装甲車の左右は登れない事はない、と言う程度の急斜面になっており、それぞれ道――均されているが舗装はされていない――から10メートルが崩落防止のコンクリートで固められていた。前後に延びている道路は同じタイプの装甲車が何とか擦れ違える幅を保っている。この道をずっと行けば司令部のある湖に出る、とは地図を独り占めしているペトーの弁である。
警備のナグール兵は装甲車の前後に二人ずつ、左右に三人ずつが配備され、斜面の上――俺達が居るのはコンクリートの向こうに広がる雑木林の中だ――や道の先に鋭い視線を向けていた。
彼我の距離は直線で50メートルと言ったところだろうか。今のところ、見つかった様子はない。
「……味方じゃねぇか」
「司令部からは、『その場所に友軍が配置されたと言う情報は無い』って言ってきてるにゃ」
「て事は……敵の偵察部隊ッスか?」
「だとすりゃ、あの軍服はどう言う意味だ?」
「スパイの可能性かにゃ?」
「その割には仰々し過ぎるッスね。隠す気が見れないッス」
「スパイだとしたら、どっち向きのスパイかしらね……?」
「どっち向き、って?」
「つまり、ナグール軍内の誰かがドラック側に情報を流しているのか、ドラックにいる協力者から情報を得ているところなのか、って事ッス」
「なるほど」
装甲車から目を離さずにボソボソと話し込んでいると、一人地図を睨んでいたぺトーが顔を上げた。
「司令部から対象を攻撃する命令が来たにゃ。総員、配置に就くにゃ」
「配置って、まだ何も決めてねぇじゃねぇか」
「……細かい事を気にし過ぎると禿げるにゃ」
格好良く決めたつもりのところを邪魔され、ペトーの頬が膨らむ。が、それすらもあざと過ぎる可愛さに満ちていた。何時までこのあざとさを維持するつもりなんだろうか?
ともあれ、3分で話を纏めた結果、俺とゼファが装甲車の前後から強襲を掛け、ペトーとヤーウィが隙を突いて車内の人間を制圧する事になった。実質俺達二人で斬り込むだけの簡単なお仕事である――傍から見れば。
「面倒臭ぇ。装甲車ごと吹き飛ばせば良いじゃねえか」
「それは最後の手段にゃ。出来れば相手の持っている情報を抑えておきたいにゃ」
「突っ込むのは構わないけど、多少の弾丸なら弾くからって、そればかりを当てにされても困るわね」
「何時も済まないッスねぇ」
「それは言わない約束だろ?」
「漫才はやらなくても良いにゃ」
「……二人とも、あなたにだけは言われたくないと思ってるわよ」
静かに親指を立てた俺とヤーウィに手を振りながら、ゼファは装甲車の前へ回り込みに行った。続いて、俺も後ろへ回り込むべく雑木林の中を静かに移動する。
『こちらサーウッド。装甲車の後方50メートルの斜面上に到着した』
『こちらゼファ。既に到着済みよ』
『了解にゃ』
『自分達も何時でもいけるッス』
頭の中で三人の声が響いている。チーム用のボイスチャット――「チームチャット」と言うらしい――は本来のボイスチャットが個人と個人の間だけで使うのに対して、チームに参加している全員の声が同時に聞こえ、こちらの発言も全員に届くらしい。こんな便利なものがあるなら無線機なんぞ必要無いと思うのだが、それだとNPCとの連絡が取れなくなってしまうのだそうだ。
ボイスチャット、チームチャットは、あくまでもPC同士の連絡手段であり、ゲーム世界の外にある手段と言う事らしい。
今回、無線ではなくチームチャットを使っているのは、「万が一無線を傍受されて襲撃に失敗したら、帰ってからお仕置きになっちゃうにゃ」と言うペトーの意見が採用されたからだ。
無線を傍受したり割り込んだりが出来ると、確かに便利だったからなぁ。て言うか、「お仕置き」って何する気なんだよ未来の軍隊。
『全員準備完了したにゃ?
では作戦を開始するにゃん!』
気の抜けそうな指令と同時に、俺は雑木林から出来るだけ静かに、かつ素早く飛び出した。腰を低くしたままコンクリートの斜面を駆け下りる。途中からは、気付いた見張りの撃ってくる銃弾が足元で跳ねだした。
勢いに任せて走りながら、腋に抱えたレーザー機関銃を撃ち返す。ピンク色の銃弾が見張りのいる辺りに殺到し、背後の装甲車に当たった分が不恰好な花火みたいに乱反射した。銃弾のピンク色に浮き上がった黒い人影が、ワンテンポおいてガラスの破片へと変わる。幾ら無限給弾出来るとは言え、少々ばら撒き過ぎたかもしれない。
それでも装甲車後方寄りに陣取っていた四人を、さほど時間も掛けずにガラス片へ変える事に成功する。
だが、そんな俺の頑張りを嘲笑う様な状況が眼前に広がっていた。
「……お前は何処ぞの15代目か」
思わず愚痴らずにはいられないその状況とは、装甲車の上部三分の一程がスッパリと斬られてオープンカー状態になっている事だった。犯人は言わずもがな、のゼファである。
「つまらない物までは斬ってないわよ?」
言われてオープンカーの中を覗き込むと、ナグール軍の軍服を着た偉そうな兄ちゃん――多分、士官――が二人にラフなビジネススーツっぽい物を身に着けた偉そうなおっさんが一人、周囲を見回していた。自分達に何が起きたのか、理解が追い着いてない様だ。
「えーと、二人の容疑者はともかく……この人、どちら様?」
「さあ……?」
どうやらゼファにも見当が付かないらしい。
さて、どうしたものか……と頭を捻り掛けた時、黒い影がオープンカーに飛び込んだ。流石に気付いたナグール軍の兄ちゃんズが、おっさんを背後に庇いながら影に向けて拳銃を撃つものの、影に命中した様子は無い。
影はそのまま兄ちゃんズにぶち当たり、二人プラス庇われていたおっさんまでが纏めてガラス片になって消えた。
後に残ったのは、彼等の遺品と仁王立ちしている猫耳女児だけである。
「ペトー……なのか?」
「にゃ。美味しいところ総取りにゃ」
今までと同じ軽い口調で得物のコンバットナイフを鞘に収める奴を見ながら、俺は言い様の無い違和感に襲われていた。
あの瞬間、ペトーのコンバットナイフが切り裂いたのは一番手前に居たナグール軍士官の一人だけで、残りの二人には奴の猫耳が伸びて突き立った様に見えたのだ。
ペトーの余りの素早さに、俺にはそう見えただけなのかもしれないが。
だが、それだけとは思えない不安感を、俺は奴の軽薄な行動に感じ始めていた。
「にゅうぅ。
これはこれは……」
当のペトーは、俺の視線に気付いているのかいないのか、仕留めた連中のドロップアイテムを無邪気に漁り始めている。
「何て言うか、してやられたわね」
「……、ああ」
横に移動して来てぼやくゼファに、俺は生返事を返した。「あざとい仕種で愛想を振り撒く、ちょっと抜けた女の子」である今のペトーと、「狙った獲物を確実に仕留める非情な狩人」を髣髴させた先程のペトー。そのギャップの、理屈が思い付かない。
何とも言えない違和感に、脳の奥底で警報が鳴り響いていた。
「ところでサーウにゃん、拡張能力はどれくらい使える様になったかにゃ?」
「? ……大して増えてないぞ? 精々、20秒ってところだな」
急に真面目そうな声で聞いてきたペトーに、拡張能力の回復状態を確認して答える。こちらを向いた奴の顔には、今までには無いくらい真剣そうな表情を浮かんでいた。
「一体、何があったのよ?」
「そろそろ後続のスパイがやって来るらしいにゃ。
こいつ等は露払いの先遣部隊だったにゃ」
「……無意味なくらいに慎重な奴等だな。
で、その後続部隊とやらが到着するのに後どれくらいだ?」
「予定時間までには5分を切ってるにゃ。サーウにゃんの通常のレーダーは何か見つけたかにゃ?」
「今のところ――何か来る! 直線距離で3キロメートルの地点に、この装甲車と同じ大きさの物体が二つ!」
ナイスタイミングで標準装備の方のレーダーに引っ掛かった。
それを聞いて、ペトー考える素振りを見せてから口を開く。
「出来ればそいつ等を生け捕りにしたいにゃ。先遣部隊が襲われた事に気付く前に――」
「それは無理ッスね、残念ながら」
割り込んできた声の方を見ると、ヤーウィが先程よりも薄汚れた装備で立っていた。
2015.06.12 タイトルを修正




