第34話 偵察任務
ナグール市には8個の軍事基地が市街地を囲む様に配置されている。その中の一つ、街から一番近い基地に向かった俺達は、そこで戦車組と徒歩組で分かれる事になった。
戦車組であるグレンとダイザ、ドーラとカールはドラック軍の戦車部隊を迎え撃つべく、想定される戦場へと出発して行った。
そして俺とヤーウィ、ゼファ、ペトーの四人は、隣の基地からやって来た輸送ヘリに便乗して、ナグール軍の司令部へ向かう予定である。
「態々、俺達を拾いに寄ってくれるなんて、こっちは楽だが、良いのか?」
「ヘリ部隊の駐屯する基地よりも、こっちの方が鉱床に近いんスよ。行き掛けの駄賃って事みたいッス」
そんなもんかと空を眺めていたら、黒ゴマが一粒、ヘリコプターの形に巨大化するのが見えた。どうやら、あれで移動する様だ。
着陸したヘリに駆け寄り、開いた後部のスロープから乗り込むと、20名ばかりの先客の視線が俺達を出迎えた。着用している装備から推測してPCとNPCは半々だろうか。
左右の壁に沿って向かい合わせに取り付けられた座席の、最後部に空いていた4席に並んで座る。
中央には野砲だの弾薬だのといった物資がハーネスで固定されているので、向かいの人間の様子はその隙間からちょろちょろと見える程度だ。現在の俺の座高が、その理由の大半ではあるが。
「おいおい、家族旅行のつもりなら乗り間違いだぜ?」
四人の中で一番前寄りの席に座ったヤーウィに、その隣に座っているNPCがローターの騒音を物ともしない声で話し掛けてきた。
言われてみれば、20台半ばのヤーウィとそれよりは若そうなゼファ、どう見ても児童な外見の俺とペトーの組み合わせは両親と兄妹の四人家族でピクニックへ来た様にも見える。
「そうなんですぅ。お父さん久し振りに休みが取れたからって、急に言い出しちゃってぇ。弟達も、はしゃぐよりびっくりする方が先になっちゃってるんですぅ」
「おいおい、奥さん若作りし過ぎじゃねえ――!?」
どうやら3人兄弟に見せたかったゼファのボケに大声でツッコミを入れた向かいの席のお調子者が、中央の荷物越しに突き付けられた大太刀の切っ先に冷や汗を流す。
食い付きっぷりから察するに、現実では結構微妙なお年ご――
「ま、ピクニック気分なのは確かッスけど、ご覧の通りなんでご心配無く」
お向かいさんには大太刀を、俺には短機関銃の銃口を突き付けて微笑むゼファを横目で見ながら、ヤーウィが溜め息と愛想笑いを交じえて返答する。これには最初に声を掛けてきたNPCも苦笑するしかない様だった。
「ねえママぁ、ピリピリし過ぎだよぉ?」
「煽るな馬鹿」
「いったぁ~い、お兄ちゃんのばかぁ」
俺が外見相応の口振りで話をややこしくしようとするペトーの旋毛にチョップを落とすと、奴はこれ以上無いくらいにあざとい仕草で頭を抑えて泣き真似を始めた。
その様子を見ていた同乗者の大半が、生暖か~い眼差しを向けてくる。
「ったく、いい加減にしろよ……」
それから司令部に到着するまで、ペトーが妹役でボケて俺がツッコむ「幼い兄妹漫才」が間欠的に催され、その度にヘリの中の温度が生温くなっていった。ペトーの絶妙に「年相応」なボケも然る事ながら、それに対して律儀にツッコンでしまうあたり、我ながら溜め息しか出てこない。
「お兄ちゃん、さすがだね!」
「五月蝿ぇよ! ツッコむの、結構疲れるんだぞ!」
「……懲りないわねぇ」
緊張感が壊滅してしまった輸送ヘリは、恙なく大空を遊覧していた。
――――――――――――――――――――
俺達が輸送ヘリから降ろされたのは、山脈と呼ぶには物足りない嶮しさの山々に囲まれた湖の畔に構築された――と言っても地面に誘導用のライトと電波発信機を置いただけらしいが――ヘリポートだった。ピクニック気分の兵隊24名と補給物資を手早く降ろしたヘリコプターがとんぼ返りして行く。
周囲には先発部隊によって設営されたテントや早くに持ち込まれたジープ等が並び、その間を武装した兵隊が忙しそうに行き交っていた。
街を出た時には昼下がりだった空は、衝立の様な山々を見上げる湖に到着した時には黄昏を過ぎて夜へと移り変わっている。
司令部になっているテントへ着任の報告に行くと、現時点で判明している状況を掻い摘んで説明され、そのまま偵察へ出る事になった。
「何とも慌しい事だな」
「仕方ないッスね。ナグール軍は後手を踏んでるッスから」
「忙しいけれど、これ戦争なのよね」
今回の戦いで、ナグール側は未だに鉱床の場所を把握出来ていなかった。現在は地質調査による鉱床の発見を優先しつつ、既に鉱床を押さえている筈のドラック軍の捜索を行っている。
説明の時点で判明していたのは、ここから北北東へ山二つ程離れた場所でドラック軍と見られるヘリコプターが探知され、それ以後ナグール軍のレーダーには何も引っ掛かっていない事くらいだ。
「つまり、手探り状態で敵とお宝を探さにゃならん、って事か」
「ッスね」
「おまたせにゃん」
司令部で命令を受けた後、武器や弾薬の補給を受け取りに行った俺達とは別に、そのままテントに残って詳しい偵察ルートについて打ち合わせていたペトーが戻って来た。今更だが、どう見てもお子様なあいつに対して何の疑問も抱かずに説明したらしい司令部の人間には尊敬の念を禁じ得ない。
「どうだった?」
「『家族連れのピクニックならこっちの方が楽しいよ』って言われて、一番敵が居なさそうなルートになっちゃったにゃ。
これじゃ活躍出来ないにゃ」
「だったら、あんな漫才やらせるんじゃねぇよ」
「自業自得ね」
「……その内、自分ら、慰問部隊に転属するんじゃないんスか?」
「コント集団としてか……勘弁してくれ」
ペトーが指示された偵察ルートは、司令部のある湖の南から南東へと流れ出ている川沿いに移動するものだった。
ドラック軍と思われる反応があった――と言う事は鉱床もそちらにある可能性が高い――方向とは正反対である。確かに敵と出くわす可能性は低いだろう。
「後、ついでに地質調査もやってくれって話にゃ」
「そんな簡単に出来るのかよ」
「一応、簡易調査キットがあるそうにゃ」
ペトーが指差したのは、先程受け取って来た補給物資の一つである謎の金属杭だった。直径20センチメートル、長さ1メートルの金属柱の一端に長さ50センチメートル程のドリルがくっ付いている。
「これを地面に建てたら、自動で鉱床の有無をチェックしてくれるって言ってたにゃ」
「おお。何か、SFって感じだな」
「そう言えば、今回発見された鉱床って、何の金属だったの?」
「掲示板に上がってた情報どおりなら、発見されたのは超々々々ジュラルミン鉱山ッスね」
「……それで良いのか、さいえんすふぃくしょん」
言い様の無い疲れに苛まれながら、まずは補給物資を分配する。
因みにリニア・カノンは、現在ログインした俺と入れ替わりに棺桶の中にて修理中である。設計図無しでも修理出来ているのは、小型アイテム程度なら設計図が要らないシステムなのだろうか。是非ともそうであって欲しい。
そんな俺に、ナグール軍は代わりの武器としてレーザー機関銃を支給してくれていた。戦争映画なんかで時々見掛ける重機関銃に似た外見を持つ、本来は地面に据え付けて撃ちまくる類の兵器である。
こいつの場合はレーザー兵器なので射撃時の反動は同じサイズの銃機関銃以下なのだが、代わりにエネルギーパックが重過ぎる為に携行しての射撃は不可能――だったのは一般人の場合までで、俺の様なサイボーグにとっては「ちょっと嵩張る突撃銃」程度の重さでしかない。そもそも、重量の大半を占めるエネルギーパックが、サイボーグボディからの供給で間に合い過ぎるので不要だったりする。
「でもレーザーよりも実弾の方が良いんだっけ?」
「レーザーハンドガンくらいなら防具に対光学処理を施せば無力化出来るけど……重機関銃もしくは機関砲クラスのレーザーなら戦車くらいの装甲が無いと熱で穴開いちゃうわよ」
「ふぅむ。思っていたよりは使えるんだな」
「サーウさん達の場合はエネルギーほぼ無制限ッスから、今後はレーザーでいった方が良いかもしれないッスね」
「偏ると碌な事にならん様な気がするが……」
「大丈夫。気にしたら負けにゃ」
「……それは流石に何かが違うと思う」
それでも弾切れの心配をする必要が無いのは便利だな。まあ、その時の気分で使い分ければ良いか。
俺は抱えたまま撃ち易い様に肩当てを追加したレーザー機関銃を担ぎ上げた。本来なら専用エネルギーパック――トラック用の大型バッテリーよりも大きなサイズらしい――へ繋ぐケーブルを自分の腕のコネクタに差し込む。サイボーグ用に作られていないせいか、リニア・ガンと違って引き金を引かないと撃てない仕様になっていた。
他の皆に目をやると、ヤーウィはいつもの突撃銃を装備していた。
ゼファはレーザー短機関銃を片手に、例の地下資源簡易調査キットを担いでいる。流石に林の中で大太刀を振り回すのは面倒なのだろう。
ペトーもゼファと同じくレーザー短機関銃と、偵察ルートが記された地図を持っていた。てっきりタブレットでも使うのかと思っていたら、想像以上にアナログだった。
「いや、あの地図、一応タブレットッスから」
「え?」
「あれ、紙に見えるッスけど、折ったり丸めたり出来る液晶に、同じく紙みたいに折り曲げられる薄い基盤やバッテリーを貼り付けたタブレットッス」
「……マジ?」
「マジッス。通信機能も搭載されてるッス」
現実には折り曲げられる液晶ディスプレイまでしか無いのに、ゲームでは更に進んでいるようだ。まあ、それを言い出したら起動エレベーターだって、このレーザー銃だって現実には未だ存在してないけどな。
電磁投射砲はアメリカが戦艦に積んだと言うニュースを見た記憶はあるが、戦車に積むところにまでは至ってない筈だ。
「……だったら、10インチかそこらの現実と同じサイズにした方が良いんじゃないか?」
「サーウさん、それは言わないお約束ッス」
「左様で」
ともあれ、ペトーを先頭に、ゼファ、俺と並び、殿をヤーウィが勤める事で偵察の準備が完了した。
「そう言えば、サーウさんの特殊能力って超高性能レーダーなんスよね?
この偵察では使えないんスか?」
「あー……昼に大盤振る舞いし過ぎてしまってな。拡張能力を使える時間は、現在、数秒程度なんだ」
「そりゃ残念ッスね」
「しかも、ログイン中でないと使用時間の回復はしないみたいなんだよなぁ」
確かに高性能過ぎる能力ではあるが、ログイン1時間で5秒しか使用時間が回復しないのでは余りに使い辛い。もう少し何とかならないのだろうか。
「それはサーウにゃんの能力が強力過ぎるからにゃん。ボクのはそこまで厳しくないにゃん」
「……ほ~、どれくらいなんだ?」
「ヒ・ミ・ツ、にゃん」
自分の発した言葉のスタッカートに合わせて、またもやあざと過ぎるポーズを決めるペトー。
しかもヤーウィの真似をして、何時の間にか俺の事を「サーウにゃん」呼ばわりしてやがる。
他人の注意を惹きつける事に関しては、まるで寝ようとすると飛んで来る蚊の様だった。




